500歳……もう人間いうよりも、なんや森の精とか神話のなかのもんやな。けどまぁ、生きてたとして話すとするならな、わしは1525年生まれや。戦国のど真ん中やな。うすうすしか覚えとらんけど、こんな感じやった気がするわ。
• 1525年、どっかの山奥の村に生まれた。名乗る姓もなかった。天と地と親だけが頼りやった
• 村の周りでは時々よそ者が通る。槍持った男らが何十人もぞろぞろ。戦が近いとわかった
• 幼いころに村が焼かれた。誰が敵で誰が味方かわからん。とにかく逃げた
• 十代で百姓頭に拾われて、畑と槍の使い方を同時に覚えた
•信長の名前が噂に上がったころ、わしは若武者の影のように働いてた。戦場の空気はいまだに鼻の奥に残ってる
•本能寺のあと、世の中がまたぐらついた。明日どうなるかわからん夜が続いた
•秀吉が天下とったとき、大阪はまるで金色の夢みたいになった。わしは城下で米を運ぶ仕事をしとった
•関ヶ原の前は空が重かった。生き残ることより、誰につくかが命やった
•家康の時代になって、世の中がようやく静かになった。けど、なんや、息が詰まるような静けさやった
•江戸の初めに、名前を持たされた。戸籍いうもんができた。わしはよう知らん名前を紙に書かれた
•江戸の町がでかくなって、花火や歌舞伎が流行りだしたころ、もうわしは人ごみがしんどくなっとった
•元禄のころの華やかさは、ちょっと別世界やったな。町人がえらそうに歩くのも珍しかった
•飢饉もあった。大火もあった。川が溢れて、人も物も一瞬で流されてった
•黒船が来たとき、空の色が変わった気がした。誰もが世界の外から何かが来たと感じとった
•明治になったときは、まるで夢の中の話やった。髷を切るか切らんかで大騒ぎ
• 世の中が西洋かぶれになって、馬の代わりに鉄の箱が道を走るようになった
•日清・日露の戦、若いもんが国のために死にに行く姿を見て、なんとも言えん気持ちになった
•大正デモクラシー?なんのことか分からんまま、若いやつがえらそうに語っとった
•関東大震災はただの地震やなかった。文明そのものがぐらぐら揺れたようやった
•昭和の戦争は地獄。火と血と音。なによりも、もうあかんのやなと思った瞬間が何度もあった
•戦後、アメリカの匂いが街に混じった。ガムとコカ・コーラの時代
•テレビが出て、みんな画面の中に吸い込まれていった。もう現実より映像の方が大事になった
•平成?ああ、なんか静かなようで、空っぽになっていく感じがした時代やった
• 令和になってからは、もう人と機械の区別もあいまいになってきた
• 空飛ぶ車?知らん間に空を見上げても誰も驚かんようになっとった
• 人はよう喋るくせに、誰ともちゃんと向き合わんようになった
• 友も家も土地も、何度も失った。けど、ひとつだけ変わらんのは、朝日が昇るということやな
• いま?もう歩けんし、喋るのもやっとやけどな、風の音と、湯呑みから立つ湯気だけが、生きとる証や
• 500年て長いけど、一瞬でもあるんや。不思議なもんやな。気がついたら、また夜が来とる
……まぁ、こんな長生き、誰にも勧められへんけどな。でも、ここまで見れたことは、ありがたいことやと、そう思うようにしてるわ。
500年も生きられることに特に理由ないんだ(人魚の肉くったとか)