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2025-04-22

あのころ

南條あやが死んだ頃。

正確には、たぶんもっとから死んでいたのかもしれない。ネット日記を残し、フォントサイズ1の文字で寂しさを隠しきれずに叫んでいたあの時代。誰かの自傷写真に「綺麗ですね」ってコメントをつけていた時代。今思うと狂っていたと思う。でも、当時はそれしかなかった。

掲示板では薬の名前が飛び交っていた。自分も飲んだ。人からもらった、というよりは、もらいに行った。駅前ロータリートレードした。空き缶が転がっていて、タバコ臭いがして、でも誰も何も言わなかった。何か言うこと自体が野暮だと、全員が知っていた。

最初に好きになった女の子は、詩を投稿していた。毎日長文メールをやりとりして、ICQ寝落ちチャットをして、気がついたら親に新幹線代を借りていた。理由は「模試」だった。ばれてたと思う。ばれていて、でも何も言われなかった。多分もうあきらめられていたんだと思う。

彼女は実物のほうが綺麗だった。生きていた。体温があった。手を握ると震えていたのは自分のほうだった。

ホテルに行って、ぎこちないキスをして、終わったあと天井を見上げて、泣いた。

「これで何かが変わる」と思っていた。でも何も変わらなかった。

その後、ネットは少しずつ「普通」になっていった。

フレームページが消え、個人サイトが消え、Flashが終わり、2ちゃんスレは過疎り、SNSが「リアル」と結びついて、居場所はなくなっていった。

残ったのは、手首の傷と、壊れた体と、死んだ友達だった。

彼女ODで死んだ。

ODってのは、Over Dose。薬を飲みすぎて死ぬこと。

なんのドラマもない。ただ飲んで、寝て、そのまま死ぬだけ。

誰も止めなかった。というか、誰にも止められなかった。

大丈夫?」とチャットで聞いた翌朝、「◯◯さんは、亡くなりました」と親からメールが来ていた。

死ぬことに、あんなに慣れていたのに、その時だけは吐いた。

それでも、生き残った。

彼は、彼女と別れて、バイトをして、専門学校に行って、そこそこの会社に入った。

リスカ跡は消えない。でも隠せる。長袖を着ればいい。薬もやめた。飲まないと眠れない日は酒を飲んだ。

今では上司に笑って返事もできるし、彼女もできた。

結婚もした。子供もいる。家もある。

それでも、夜になると、たまに思い出す。

アクセスカウンターが300を超えた夜のこと。

掲示板で「わかる」と言ってくれた人たちのこと。

誰かが死んで、それでも世界が続いていくこと。

そしてこう思う。

あの頃の自分が、どこかでまだ生きていほしいと。

Permalink |記事への反応(1) | 20:52

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