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2025-02-19

鼻毛

風を起こすのは、他ならぬ自分だ。鼻の穴近辺を、鼻毛がちょろつく時期となった。

布団から起き出し、毛抜きを手に洗面所に向かう。鼻腔の平穏を乱すものはどれか、どれかと目を剥き鏡を凝視しあたりを付ける。

キングクリムゾンアルバムジャケットのような表情。ほどなくして、首謀者と思しき獲物をキャッチする。

コツは、無理に引き抜かない事だ。掴んでテンションを掛け続けると、向こうが根負けしてくれる。

召し取った獲物をティッシュの上に置き、定規と合わせて撮影する。


今日はまずまず。長さはめぼしくないけど、先端が白くなってハーフアンドハーフなのはレアかな」


コメントをつけてSNSにアップする。フォロワー投資成功し南国で暮らしているらしいブロガーただ一人の、

定期的に出来の良い鼻毛をアップするだけの泡沫アカウントだ。

今日調子なら、来週ぐらいに大物が捕れるかもしれない…。鼻毛は群生する。そして白髪になると自律を失い

入口近辺にアプローチやすくなる。狩人の知恵だ。

出勤時間確認するためスマホを見ると、SNSの通知が来ていた。


「この程度でレアとかwww義務教育からやり直しレベルじゃんwwwwww」


引用リツイート。誰だ?発信元を見に行く。フォロワー10万の鼻毛アカウントだった。製図用の定規を隣に、毎日のように

アップされる鼻毛。太い。これはひじきではないのか?驚愕で汗の滲んだ手の中で、スマホが震える。


「ごめんねえ。急で。」

父親心不全で倒れた。ICUの前で母と落ち合う。一命は取り留めたが、しばらく一般病棟での入院必要との事だ。

入院準備の為、実家に赴く。

携帯の充電の線とか分かるかしら?あと枕元にあるラジオも持ってって」母に促され、十数年ぶりに父の部屋へ入る。

煙草と、名状しがたい臭い…。父の余命がいくばくもないように感じる。ふと目が留まる。机の上にSNSで見た製図用の定規があった。

まさかな。病院に戻ると、父は寝入っていた。実家から持ち出した父の一式を置き、踵を返すと、懐かしく厳しい声がした。


「太さは…」


「え?」

父は目を閉じて続ける。


「太さは、葉巻タバコを吸う事で養われる。安い…安いものでいい。たくさん吸い込み、鼻から出す」


3日後、父は容態が急変し死んだ。鼻毛アカウント更新は倒れた日を最後に途絶えた。

父の鼻の穴には今、ひじきと見紛うような業の塊ではなく、白い綿がしおらしく詰まっている。

いまわの際のクソリプ。父は、狩人のその先を伝えたかったのだろうか。

霊柩車クラクションが響く。風を起こすのは、他ならぬ自分だ。

Permalink |記事への反応(0) | 12:18

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