坂元裕二脚本の中でも、『最高の離婚』や『大豆田とわ子と三人の元夫』が特に好きな自分にとっては、その両者が合わさったような会話劇を聞いているだけで幸せな2時間だった。
帰り道にアイスを買って一緒に食べながら帰る、一緒に朝ごはんを食べる、「行ってきます」「行ってらっしゃい」をいう、など、日常の些細な出来事の愛おしさを感じた。
一方で、これを言うのは野暮だと思うが、過去に戻って、現代の不幸な出来事を回避するという『バタフライエフェクト』のようなSFパートは粗さが気になった。
現代では、松村北斗が線路に落ちたベビーカーを救って電車に轢かれるのだが、それを回避するために、過去に戻った松たか子は色々試してみるが結果は変わらない。
であれば、ベビーカーが落ちた原因は母親が持ち手から手を離していたことと、人がぶつかってきたことなので、過去の母親に「絶対にベビーカーの持ち手を離すな」と注意するか、ぶつかってきた人に「人にぶつかるな」と注意する方が早いのではないか。
また、最終的には松村北斗は自分の運命を知りながら、松たか子と一緒に生きる人生を選ぶのだが、その日ベビーカーが落ちると分かっているのだから、落ちる前になんとかすることができたのではないか。
上記2つはすぐ思いつきそうなことなのに、なぜそれをしないのかの説明が作中でなく、すごくモヤモヤしてしまった。
でも、SFパートの粗さに目を瞑れば、2時間ずっと小気味のいい会話が続き、くすっと笑えるものもあれば、じーんと心に沁みるものもあり、観てよかったと思える映画だった。