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2025-02-07

お好み焼き1kgをタッパーに詰めてディズニーランドに行った時の話

「これ、持っていこうと思うんだけど」

そう言って、彼女冷蔵庫から取り出したのは、透明なタッパーにぎっしり詰まったお好み焼きだった。明らかに重い。見た目でわかる。1kgはある。いや、1.2kgくらいあるかもしれない。

「え、なんで?」

「いや、だってディズニーご飯って高いじゃん。節約だよ、節約

そう言って彼女は胸を張る。確かにディズニーレストランはどこも高い。ハンバーガーひとつで千円超えなんてザラだ。それはわかる。でも、だからといって、お好み焼きを1kgタッパーに詰めて持って行くという発想にはならない。普通はならない。

「せめてサンドイッチかにしない?」

ダメお好み焼きが一番コスパがいいの。小麦粉キャベツ、卵、豚肉、全部バランスよく摂れるし、冷めても美味しいし、タレがしっかりしてるから味も飽きない。ほら、もう切り分けてあるから、食べやすいよ?」

かに、タッパーの中には一口大に切り分けられたお好み焼きがぎっしり詰まっている。隙間を埋めるように重ねられ、まるでパズルのように整然と配置されているのが逆に怖い。彼女は本気だ。

「でも、さすがに1kgは多くない?」

「パーク内で食べればちょうどいいよ。ほら、アトラクションの待ち時間って長いじゃん。その間に食べれば時間無駄にならないし、食事代も浮く。一石二鳥でしょ?」

理屈としては間違ってない。間違ってないけど、なんか違う。

ディズニー到着、お好み焼きとの戦い開始

そんなわけで、僕たちはディズニーランドにお好み焼き1kgを持ち込むことになった。

手荷物検査の列に並びながら、若干の不安を覚える。タッパーを見たキャストが「お客様、これは……?」と困惑し、持ち込みNGになる可能性はある。でも、意外なことに、バッグの奥に忍ばせたお好み焼き問題なく通過した。なんとなく拍子抜けする。

最初アトラクションは「プーさんのハニーハント」だ。50分待ち。彼女は満面の笑みでタッパーを取り出し、「はい、食べよっか」と言った。

「……ここで?」

「そうだよ。並んでる間に食べれば効率的でしょ?」

かに待ち時間有効に使いたい。でも、周りはカチューシャをつけたカップルや、ディズニーポップコーンバケットを抱えた子供たちばかりだ。そんな中で、俺たちだけがタッパーからお好み焼きをつまんでいる。

思った以上に恥ずかしい。

彼女は平然としている。タッパーからお好み焼きを取り出し、つまようじで器用に食べている。その横顔は、まるで高級フレンチを堪能する美食家のようだ。

仕方なく、俺も食べることにした。ひと口食べると、普通に美味しい。冷めてもソースの味がしっかりしているし、確かにお腹にもたまる。でも、やっぱり違和感は拭えない。

周囲の視線を感じる。特に、前の親子連れの子供がじっとこちらを見ている。ポップコーンを手に持ちながら、お好み焼きを食べる俺たちを見ている。何かを言いたげだ。でも、言わない。

俺たちは黙々とお好み焼きを食べ続けた。

意外なメリットと、意外なデメリット

お好み焼きの持ち込みには意外なメリットがあった。

まず、節約効果は抜群だった。ランチタイムになっても、レストランに入る必要がない。ポップコーンチュロスを買う列を横目に、俺たちはひたすらお好み焼きを食べる。結果、財布はまったく軽くならない。

そして、思いのほか腹持ちがいい。テーマパークでは食事タイミングが難しいことが多いが、お好み焼きなら適宜つまめる。エネルギー補給もばっちりだ。

しかし、デメリットもあった。

まず、荷物が重い。1kgのお好み焼きを持ち歩くのは地味にしんどい。リュックに入れているとはいえ、ずっしりとした重みを感じる。

そして、匂いディズニーのパーク内はポップコーンキャラメルの甘い香りで包まれている。そこに、ソース香ばしい匂いが紛れ込むのは、どう考えても異質だ。

さらに、徐々に味に飽きてくる。最初は美味しかったお好み焼きも、3時間後には「もういいかな」と思い始める。でも、タッパーにはまだ大量に残っている。捨てるわけにはいかない。食べるしかない。

「ねえ、次のアトラクションまでに食べきろうよ」

「無理だって……」

大丈夫! 夕飯代わりにすればいいから!」

もう、お好み焼きは見たくなかった。

そして、ラストスパート

夜になり、エレクトリカルパレードが始まった。幻想的な光の洪水の中、俺はお好み焼きを食べ続けていた。

「もう無理……」

「あと少し! ほら、ミッキー応援してるよ!」

いや、してない。ミッキー関係ない。

なんとか最後のひと切れを飲み込んだ時、俺は確信した。ディズニーランドにお好み焼き1kgを持ち込むのは、やめたほうがいい。

でも、彼女は満足そうだった。

「ね、やっぱり正解だったでしょ?」

俺は力なく頷いた。

二度とやらないと誓いながら。

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