2025年 3月 14日(金)
貧乏神と二郎
あらすじ
イザバイトを始めるも上手くいかず………
だんだん声が小さくなっていく。無駄に気を使いすぎた気もするけれど、でも、こんな仕事、
みんな、どうしてやってるんだろう。これがオレの唯一の仕事だったりしてさ、そのうち笑ってみろ、なんて脅されるのかな。
誰かが笑ってくれたら、ホントにちょっとは楽になる? だけど、そういうのって、本当にないよな。だって、オレはただの引きこもりの六浪だし。
「…水道どうでしょう?」
その時、目の前に通りかかったのは、高齢齢の女性だった。少し疲れたような顔をして、スマホを見ながら歩いていたけれど、二郎が声をかけた刹那、ふっと顔を上げた。
「え?」
その声に反応したのは、一瞬のことだった。 「水道どうでしょう?」二郎がもう一度言うと、女性は思わずクスッと笑った。
「なんだいそれ、面白い!なんか、変な言い回しだね。」
その瞬間、二郎の胸に少し温かいものが広がった。笑ってくれたんだ。ほんの少しのことだけど、確かに反応はあった。
二郎ははにかみながら、「嗚呼、スイマセン!変なこと言ってみただけなんです。」
女性は少し笑いながら、「でも、ちょっと面白かったよ。元気出して、頑張って!」と言って、通り過ぎていった。
二郎はしばらくその場に立ち尽くした。ふかふか湯気のたっているアンマンを渡されたような気分になった。
あったけえー、心の中で何かが少し軽くなった。無視されることが多かったけれど、あの一瞬で、少しだけ自分を取り戻せたような気がした。
「…水道、どうでしょう。」
ちょっとだけ、笑えた自分がいた。