リエゾンでは、時々うつ状態のパーキンソン病の患者さんを紹介される。パーキンソン症候群はさまざまな神経疾患に伴う症状だが、パーキンソン病でうつ状態が必ずしも生じないことは、ずっと不思議に思っていた。
パーキンソン病で、うつ状態が改善せず精神科医に紹介せざるを得ない人がいる一方、うつ状態がない患者さんも少なからずいるのである。実際、マドパーなどを服用しながらうつ状態もなく、仕事をしている人もかなりいるはずである。
パーキンソン病はドパミン神経系に座があるのは間違いが、うつ病の病態にそこまで近縁に位置しないことは重要だと思う。
なお余談だが、僕のリエゾン先の総合病院で、新型コロナ以前は神経内科からのコンサルトが最も多かった。
僕が研修医の頃、教授から神経内科医からリスペクトされる精神科医になれ!と言われていたが、当時はあまり意味が分からなかった。今から見ると、延べの紹介数を見ても、かなり期待に応えられていると思う。
なぜなら病棟に行くと、神経内科医の医師(複数)が、僕がどのような処方をしたのか電子カルテを見に来られます、と病棟薬剤師が言っていたからである。それくらい病状が激変し、僕の処方を参考にするために見に来ているのである。(薬剤師の話し方はそんな風)
経験的にパーキンソン病にうつが生じている人が、パーキンソン病そのものに由来するのか、あるいは今風に、うつ病が併存しているのかはかなり重要である。
現在の精神科の診断学は、一元的に1つの精神疾患にまとめず、いくつかの精神疾患が併存していると言う考え方が主流である。
それは良いこともあるし、実態に即していないことはあるよね、といった僕のスタンスであるが、僕の場合、古典的な考え方もする方なので、一元的に考える思考パターンになりやすい。
僕はパーキンソン病に関しては、2つの事実?が大きく関係していると思う。
1、パーキンソン病の治療薬は、ほとんどうつ病の適応を持たない。ただし、補助的にエビデンスレベルが低いが併用で改善することがあるという評価の薬がある。例えば、ビシフロール(プラミペキソール)。つまり、パーキンソン病の治療薬はドパミン神経を活性化させるが、うつ病にはほぼ効かないと言って良い。
2、パーキンソン病のうつ状態は、経験的にはSSRI、SNRIよりルジオミールの方が遥かに奏功する。
つまり、パーキンソン病のうつ状態は、ノルアドレナリンを積極的に上げるだけで改善する傾向があるのである。つまりSSRIのようにセロトニンを上げる薬はおそらく成功率が低い。そう思う理由は紹介される前に、シタロプラムやセルトラリンくらいは処方されたことがある人が多いからである。
ただし、神経内科医はルジオミールなどのマイナーな抗うつ剤は処方しないので、例えばSSRI、SNRI、ミルタザピンで簡単に改善した人は紹介されないというバイアスはあると思う。
なお、モーズレイのマニュアル的にはパーキンソン病のうつにはSSRIが推奨されている。これはそれ以外の抗うつ剤の副作用も勘案されている。
SSRIは副作用は古典的抗うつ剤に比べ少ないものの、パーキンソン症状を悪化させるメカニズムを持つ。しかし、一般のうつ状態の人にSSRIを処方して、パーキンソン症候群の副作用で困るようなことはまずないので、そのメカニズムは微々たるものなのであろう。
SSRIでどのくらいうつ状態を改善する期待値があるのか、正直、僕にはわからない。なぜなら、そういう治療、つまりSSRI、SNRI、ミルタザピンなどの抗うつ剤でどうにも改善しなかった人ばかり紹介されるからである。
ルジオミールで改善する期待値が高いように見えることは、ルジオミールはノルアドレナリンしか作用が及ばないことから、非常に興味深い。
これは、パーキンソン病という病態のバリエーションとして、ノルアドレナリンがあまり上がらず、うつ状態を呈する人がいると言った見方もできる。
これは、パーキンソン病に並行してうつ病が発生したとも見ることもできる。個人的には必ずしも歓迎しないが、伝達物質が足りないという共通点があるので、まだ考慮できる。
うつ病に対しドパミンを上げる治療が奏功しやすいことと、常にドパミンを上げる治療をしているパーキンソン病に、なおうつ状態が生じることは、うつ病という疾患の謎を表しているように見えて、とても興味深いと思うのであった。