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始まらなかった恋/サイゴンの夕暮れ(私的エッセイBGM付vol.2)後編 | ドングリクンパパのブログ

彼女は雑談が恋愛トークに及んだ際、こんな話をしていた。何人かの男子からアプローチされている。気になる人もいるけど保留にしていると。パパは「もしかして、、、俺のこと待っててくれてる?」とも感じていたのだ。

 

デートすらしたこともない関係だったけど、お互い「気になる存在だよね」というのは伝わっているような気はしていた。今度2人でどこかに出かけようか、ぼんやりとそんな話もしていた。もし仮に彼女が待っていてくれているなら?パパはママに出会ってしまったことを伝えるべきじゃないだろうか?

 

まったくうぬぼれもいいところ、お恥ずかしい勘違い、恥ずかしすぎる自意識過剰君だよな。彼女の気持ちを確かめたわけでもなかった。パパがショップオーナーと仲が良くて大口のお客さんであるというのは彼女も良く知っていた。元々優しい彼女が営業面もきちんと考えて、用もないのに頻繁に来るパパに付き合ってくれていた、ただそれだけかもしれない。

 

でももし、、、もし本当に彼女が待ってくれているなら、、、パパは既に他に好きな子がいるのに、彼女はパパをしばらく待ち続けることになるかもしれない。それを分かっていてこのまま彼女に何も話さず2度と会いに行かないなんて、なんだか卑怯なことに感じたんだよな。

 

例えばの話、、、今度一緒にここに畑を作ろうか?なんとなく半分冗談でそんな話になって、一緒に枝や小石を取り除いたり、一緒にちょっぴり雑草を抜いてみたりして、それがやっぱり楽しかった、ぼんやりと一緒に畑を育てるイメージが膨らんできて、次に会った時は今度こそちゃんと「一緒に野菜の種を買いに行ってみる?」そう言ってみようか、、、?

 

そんなタイミングで突然パパはママと出会って、2度とその畑には行かない。約束したわけでもない。彼女との間には何も起きていない。それでいいのかもしれない。でも彼女が他の男子の誘いを断って、時折畑に行ってぼんやりパパを待っていることを想像したら、、、いや、待ってない待ってない、なんていう思い上がりだ?

 

それが正しい考え方だったかどうかなんて今でもまったく分からない。思いやりでも何でもない、ただひたすら死ぬほど彼女に失礼だったのかもしれない。それでもその時悩んだパパは結局意を決してその子に伝えることにしたのだ。

 

もしパパの勘違いだったらとんでもなく恥ずかしいことだ。ただの店員さんとお客さんの関係に過ぎないのに、いきなり「実は彼女が出来たんです」とか言われたら「はあ?なにそれ?」だよな。でもその時パパは「卑怯なことになるより、恥ずかしいことになる方がマシ」そう考えた。

 

逆にもしその子がパパを好きなら、もちろんその子を傷つけることにもなる。でも女子は総じて切り替えが早い。美人だしきっとすぐに次の出会いがあるだろう。既に何人かからアプローチされてもいるのだ。けじめをつけるべき、年齢のこともあるし待たせてはいけない、、、待ってないのかもだけど、、、

 

そうして日本に帰国する前日の午後、パパはいつも通りその子が店番をしていて、お客さんが少ない時間帯を狙ってお店に行った。店にはちょうどパパしかいなかった。その子としばらくおしゃべりした後、勇気を出してママのことを伝えた。すると彼女は「うわ~、そうなの!良かったじゃない!」とニコニコして喜んでくれた。

 

本当にいい子だな。パパはとてもほっとした。そして恥ずかしかった。やっぱり俺のことなんてなんとも思ってなかったんだな、でもいいや、伝えなかったら後悔するから。それからパパは「いつもここへ来て君とおしゃべりするのがとても好きだったんだ。元気でね」と言って最後の挨拶をした。もう2度とこの店に来るつもりはなかった。

 

そうして店の外に出て、通りを歩き出そうとした瞬間だった。突然店の奥から彼女が走って飛び出してきた。そしてそのまま驚いているパパの肩に手を回すと、頬にそっとキスをしてくれた。次の瞬間2人でしばらく見つめ合った。そして彼女は言った。

 

「さようなら」

 

彼女を見たのはそれが最後だ。デートすらしたことがない、手を繋いだことすらない関係だった。でもだから逆に鮮烈に残っているんだよな。店から通りに出てのあの行動は、歩く人に見られたと思う。後でとても恥ずかしかったはずだ。でもパパはその時彼女が勇気を振り絞って行動してくれたことを、今では心から感謝している。

 

人と人との出会いと別れにはいろんな形がある。パパだってもっとずっとひどい振られ方をしたこともあるさ。でも長い目で見ればそれも人生の深い味わいのひとつだ。始まらなかった恋が人生においてまったく意味がないとは限らない。

 

あの瞬間2人で見つめ合ったことを、パパは死ぬまで忘れないのだ。

 

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そうして直前にそんなことがありつつ、パパはママと出会ったわけだけど、実はママはそれどころではなかった。パパの比ではないのだ。ママは仕事でベトナムに1年ほど暮らしたのだが、その1年間でなんと9人から口説かれたらしい。日本人、ベトナム人、アメリカ人などなど。そしてパパは9人中8番目だったのだ。

 

でもパパはそんなこと知らなかった。知ったのはもうボウズが中学生の頃だよ。なんか子供達から聞かれてパパとママが出会った頃の話になってな。ママが珍しく調子に乗って、こんなことあった、あんなことがあったって、それを数えていったら総勢9名様で唖然としたわ(笑)。

 

しかも9番目は当時ママが日本にいる時通っていた下北沢の美容室のカリスマイケメン美容師だったらしい。わざわざベトナムまでママを訪ねてきて、一緒にご飯食べて、そして「彼氏とかいるの?」と聞かれて、ママはつい「うん」って言っちゃったらしい。そしたら諦めて帰っちゃったんだって。

 

「え!彼氏って、、、俺のこと?」

「え?そりゃそうでしょ」

「マジ、、、え、その人のこと、どう思ってたの?」

「いいなあ、カッコいいなあって」

「と、と、とりあえず、彼氏いないことにしたりとかしなかったの!?」

「あたしそういうの出来ないから。マジメだから」

「うわ~、マジかよ、あぶねえ~、実はめっちゃピンチだったんじゃん、俺。え、、、ちょっと待って。じゃ、じゃあもし順番が逆だったら?イケメン美容師君が8番目で、俺が9番目だったら?もしかして、、、俺の出番なかった?」

「うん、そだね。ごめん、うふふ」

 

そう言ってママは楽しそうに笑った。「あ~あ、9人も選べたのによりによってコイツ選んじゃったよ。あっという間にハゲたし貧乏だし最悪じゃん。どんだけ男見る目ないんだろ、あたし」ママは今、日々そんなふうに思ってい、、、

 

ないといいな(笑)。

 

まあでもこんなに大変な人生になるとは思ってなかっただろうな。俺も思ってなかったけど(笑)。こんな極貧生活がこんなに長く続くとは思ってなかったよな。でもパパは常にこう考えてるのさ。ママが死ぬ時には、心の底から「この人で良かった」そう思わせるのだ(笑)

 

だって俺は毎日毎日、この人はなんでいつまでもこんなにカワイイんだろうな?そう思ってるから(笑)なんでこんな日々でけらけら楽しそうに笑っていられるんだろうって。パパがママから受け取ってるものが多すぎて、その割にママになんにも返してあげられてない気がするから、これからも毎日毎日できるだけ頑張って、お互い土に帰るまでにはイーブンに持っていく。

 

それがパパの人生最大の目標なのだ(笑)。

 

(同時にベトナムの彼女が、パパよりずっとマシな旦那さん(笑)や子供たちに囲まれて、日々素敵な時を過ごしていることを心より願っている)

 

♪Caminar bonito /Natalia Lafourcade

(メキシコの歌姫ナタリアの名曲です)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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