Movatterモバイル変換


[0]ホーム

URL:


始まらなかった恋/サイゴンの夕暮れ(私的エッセイBGM付vol.2)前編 | ドングリクンパパのブログ

今から26年前、ママと出会う少し前のことだ。パパはサイゴンに住むあるベトナム人の女性を好きになりかけていた。

 

当時パパはタイ、インドネシア、ネパール、ベトナムなどで買い付けた雑貨やエスニック衣料をショップに卸す仕事を個人でやっていた。そうしたものをフリマで売るところから始めて、アルバイトをしながら徐々に卸先を増やし、なんとかこの仕事で食べていけるかも、、、そんな頃のことだ。

 

日本では風呂なしアパートで商品に埋もれて暮らしていた。ただ年に7~8回はアジアに買い付け旅行に出ていて、その間は毎晩屋台でエスニック料理とビールだったし、今思えば独り身でとても気楽な日々だったのかもしれない。

 

その子はサイゴン(ホーチミン)のとあるショップでスタッフとして働いていた。パパはサイゴンに行くと必ずそのショップに立ち寄っていた。パパは良い商材を求めてひたすらいろんな店や市場を見て回るわけだけど、もちろんお決まりで通う店も当然あった。

 

ただその店はオーナーが他にも2店舗持っていて、オーナー夫婦とパパはとても親しかったので商談は直接彼らとしていた。だから正直に言ってその店に行く意味は商売的にはまったくなかった。つまりパパはその子に会いに行っていたのだ。あまりに買わないと申し訳ないから時々そこでも買い付けをしたけどね。

 

店には大概その子しかいなかった。そしてお客さんも少なかった。だからパパ達は気兼ねなくゆっくりいろんな話をした。ベトナムの女子は良くしゃべりにぎやかな子が多かったが、その子は少し違った。

 

どことなく控えめで穏やかな雰囲気、でも話してみると面白くて、実はよく笑う。細身の身体に良く似合う服を着ていた。サイゴンに滞在する時はちょくちょくその店に行って、ただ彼女といろんな話をしたのだ。

 

彼女と、彼女の同僚の子と一緒に飲みに行ったこともある。仕入れの際にお世話になっていたその同僚の子から「彼女がフランス人の男性にしつこく食事に誘われてどうしても断れず困っている、何人かと一緒ならいいと言ってあたしが一緒に行くことになったんだけど、2人じゃ心細いから一緒に来てもらえませんか?」

 

そんなことを頼まれて4人で飲んだことがあった。実はそのナンパなフランス人既婚者(笑)が案外面白くてパパは後日また2人で飲みに行ったんだけどね。ともかくフランス人がフランスに去ってからも、パパはちょくちょくサイゴンに来てたから、また3人で出かけたりもしていた。ただ彼女と2人きりでは出かけたことはまだなかった。

 

パパは正直に言って気になる女の子がいたら迷わずすぐにデートに誘う、そういうタイプだった。最初の彼女の時はやたら時間かかったけどね。初々しかったから(笑)でもその後は気になればとりあえずすぐどこかお出かけに誘う。女子と2人でどこかに出かけるのはデートとすら思っていなかった。

 

一緒に出かけて気が合えば、その先に進むのも早かった。だからと言ってとっかえひっかえそんなことしてたわけじゃないよ(笑)、あまり時間をかけないってだけ。ところがパパはベトナムでその子のことがとても気になるのに、なぜか誘えないでいた。迷っていたのだ。

 

その子がベトナム人だったからというわけではなかった。当時パパはむしろベトナム人の子と付き合ってみたいと思っていたのだ。ただ、なぜかこの時に限って一歩踏み出せなかった。

 

パパは当時既に30代を迎えていたにもかかわらず、生涯結婚しない、そう考えていた。まったくそのつもりがなかった。今では考えられないけど、子供を育てる自分がまったく想像できない、というか子供が欲しくなかったのだ。そしてこの時、そんな自分が彼女を口説いていいのだろうか?そう思ってしまった。

 

そんなことを考えたのは初めてだった。恐らく自分が歳をとったと感じ始めていたこと、2年付き合った彼女と別れて間もなかったこと、そして彼女が25才で結婚も視野に入れる年齢にあったことが多少関係はしていたと思う。

 

自分は生涯結婚なんてする気が全くないのに、しかも日本とベトナムを数か月おきに行き来するだけなのに、そんな形で適齢期の彼女にアプローチして良いのだろうか?今まで考えたこともなかったのに、急にそんなことを考えて迷いが生じていた。

 

店に行って彼女と話をする度に惹かれていく自分が確かにあった。でも躊躇する自分から一歩踏み出せなかった。本当にいい子だったんだよな。カジュアルな関係を持って傷つけたくなかった。一歩踏み出せば長く深い関係になるかもしれない。でもその勇気がなかった。それでもやっぱり会いたくなるから頻繁に店に行って、長話をしたのだ。

 

もちろん彼女の気持ちがどうなのかもまったく分からなかった。ただショップの店員として、たまに商品を買ってくれるお客さんにそれなりに仲良くしてくれていただけなのかもしれない。ただ通じ合う何かがあるのは間違いないような気もしていた。

 

そうして日本に戻って、またベトナムに行くとまた会いに行って。好きな気持ちはあったけど、でももう一歩が踏み出せない。後先考えず何がなんでもその子と付き合いたい、という気持ちまでは至らず、宙ぶらりんな状態が続いていた頃に、、、なんとパパはそのサイゴンでママと出会ってしまったのだ。

 

運命だった。一目見た瞬間から25年経った今までずっと変わらない。出会ってしまったんだよな。パパとママはあっという間に恋人同士になった。だからパパはあっという間にそのベトナム人の彼女のことを忘れてしまった、、、わけではなかった。

 

実はパパは彼女のことをとても気にしていた。彼女とは結局なんにもなくて、ただの店員とお客さんの関係に過ぎなかった。でもパパはママと出会ってしまったことに対して、彼女に奇妙な申し訳なさを感じていたのだ。

 

後編に続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


[8]ページ先頭

©2009-2025 Movatter.jp