出演予定の首席指揮者アンドレア・バッティストーニは、
今年1月のケガ(右肩前方脱臼)の回復の遅れのため、医師の診断により出演できなくなり、2019年にも東京フィル定期に登場したケンショウ・ワタナベが代役として指揮を執った。
6年前のマーラー「交響曲第1番《巨人》」は若々しく溌剌とした表情があり、終楽章最後の勝利の頂点はカタルシスをもたらし、場内からブラヴォが多数飛んでいた。
その時のブログ(プロフィールも紹介)↓
ケンショウ・ワタナベ 東京フィルハーモニー交響楽団 舘野 泉(ピアノ) | ベイのコンサート日記
前回はどう登場したのか覚えていないが、今日のワタナベの小走りで指揮台へと向かう姿は、軽やかで颯爽としており、その動きには、若々しさがあふれていた。
ストラヴィンスキー/バレエ音楽『ペトルーシュカ』(1947年版)
はリズムに切れがあり、色彩感もある。身体の動き同様、軽やかな響きで、ガツンと来るような重心の低さはない。
ストラヴィンスキーは当初ピアノとオーケストラのための協奏曲風の作品として1910年に構想したので、ピアノが大活躍するが、グリーグ国際ピアノコンクール優勝の髙木竜馬のピアノはさすがにうまい。第1場「ロシアの踊り」の並行和音の旋律、第2場のペトルーシュカの呪詛の踊りのオーケストラとのかけあいは、髙木のピアノが際立った。
コンサートマスターの近藤薫以下、東京フィルは各奏者が集中力のある演奏。フルート、トランペット、ファゴット、クラリネット、バスクラリネット、バステューバなどみな素晴らしい。特にトランペットのソロは聴かせどころが多く難しい。第3場で踊り子が踊る場面の長いソロは少し不安定だったが、その前の第2場最後のペトルーシュカが踊り子に振られる場面でのトランペットのファンファーレはきれいに決まった。
第4場の謝肉祭の市場の夕方と「乳母の踊り」は華やかで色彩感もあるが、なぜかもうひとつインパクトがない。「御者の踊り」も華やか。
ペトルーシュカの亡霊を表すトランペットが鋭く吹かれる。最後は静かな幕切れ。
ウェーバー/歌劇『オベロン』序曲
冒頭のホルンのソロ(首席高橋臣宜)が見事。弾けるように始まる主部は、騎士ヒュオンの主題。軽やかに進める。再びホルンの動機が出たあと、ヒュオンのアリアをクラリネットと弦で優しく歌わせる。コーダは華やか。
ワタナベはメトロポリタン歌劇場で「ラ・ボエーム」を11月に5回、来年1月に3回、計8公演指揮する予定でもあり、オペラも得意とする。彼の指揮するオペラを日本でも聴く機会があるといいのだが。
ヒンデミット/ウェーバーの主題による交響的変容
これはなかなか素晴らしかった。ヒンデミットの緻密なオーケストレーションを混濁することなく、細部まで明晰に聴かせた。
第3楽章を振り終えタクトを挙げたまま少し間をとり、アタッカで入った第4楽章マーチも切れ味良く色彩感が豊かであり、エンタテインメント性にも富む。
バッティストーニが降板となり、客席は空席が目立ったが、代役としてきちんとした指揮を聴かせたケンショウ・ワタナベには拍手を送りたい。
この後12日(水)東京オペラシティ、14日(金)サントリーホール、各々19時開演で同じプログラムの公演がある。
また22日(土)15時から文京シビックホールで、辻彩奈(ヴァイオリン)とのグラズノフ「ヴァイオリン協奏曲」、ベートーヴェン「交響曲第6番《田園》」他も指揮する。これもバッティストーニの代役である。
東京フィルハーモニー交響楽団第1012回オーチャード定期演奏会
2025年3月9日(日)15:00開演(14:15開場)
Bunkamuraオーチャードホール
指揮:ケンショウ・ワタナベ
ピアノ:髙木竜馬*
コンサートマスター:近藤薫
ストラヴィンスキー/バレエ音楽『ペトルーシュカ』(1947年版)*
ウェーバー/歌劇『オベロン』序曲
ヒンデミット/ウェーバーの主題による交響的変容
〈ヒンデミット生誕130年〉
写真:ケンショウ・ワタナベfacebookより転載