名古屋市美術館で開催中の藤田嗣治 絵画と写真を鑑賞した。

ファインダー越しに見る文化人たちの絵になる男たちは数多く存在します。
例えば夏目漱石、太宰治、三島由紀夫などが印象に残ります。
振り返って日本の芸術家ではどうか。藤田嗣治以外、絵になる男は思い浮かびません。
戦前は戦争画家として一切の責任を負った藤田ですが、僕はその作品を観るにつけ戦争の悲惨さを描き切った唯一の画家ではないかと思います。
結局当時からエコールドパリの画家として日本の洋画界のトップにいた彼がその後再びフランスにわたり帰化しレオナール・フジタとして故郷日本に帰ることなく一生を終えた数奇な人生を送ったフジタに昨今注目を浴びているのも、その作品と共に彼自身の魅力があってこそです。
さて、今回の絵画と写真は、画家としての藤田のみならず様々な顔を持つ彼の魅力を数千点の写真の中からピックアップした展覧会です。
若い頃からカメラを所有しセルフポートレートのみならず旅先での記憶やパリでの日常をおさめた写真は木村伊兵衛や土門拳などの日本を代表する写真家も認めるほどのものです。
愛猫を抱えながら一点を見つめる自画像の写真や絵画の数々はSNSで氾濫する自撮りとは違い、どんなポーズを取っても絵になり戦略的な自己演出でありながら嫌みなく愛されるナルシストが存在します。
絵画と写真で綴るナルシストの魅力がここにありました。
神戸市立博物館で開催中の大ゴッホ展が連日大盛況だ。先日土日を避けて訪れたが当日券を求める鑑賞者で賑わってました。事前にインターネットで入場券を入手していたのでスムーズの入ることが出来ました。
現在、7月に大阪市立美術館で現在、東京都美術館での開催中のもうひとつのゴッホ展「家族がつないだ画家の夢」も注目をされてますが、来年1月に愛知県美術館で開催されるので少し待ちたいと思ってます。
さて神戸の大ゴッホ展は代表作「夜のカフェテラス」が出品されたことが盛況の要因ではあるが、ゴッホの画業の変遷史を辿るうえで貴重な展覧会と言える。27年から28年には第2期として「アルルの跳ね橋」が出品されゴッホブームは当分続きそうだ。
本展は阪神淡路大震災から30年、東日本大震災から15年の節目で開催され苦難の人生を送りながら絵画への情熱を注ぎ続けたゴッホの生涯と照らし合わせた意義ある展覧会で、明年2月から福島で開催され東京へと巡回される。

ゴッホと言えばひまわりに代表される黄色や青の緑のなど鮮やかな色彩が特徴のためにその人生とは逆に明るさが一般的なイメージだろう。
しかしながら、ゴッホが世界中で注目される前にコレクションされたヘレン・クレラー=ミュラー夫人によるところが大きい。
そして、その美術館の作品で構成されていることで、ゴッホの画風の変遷がつぶさにわかる。
ゴッホの画風のルーツであるミレーに代表されるバルビゾン派からモネやルノワールの印象派、そして画風が確立されたゴーギャン、セザンヌのポスト印象派への変遷史が、この大ゴッホ展見どころだ。
新しい時代の潮流を感じながら模倣を繰り返すゴッホ。バルビゾン派の土着性の強い暗い画風によりゴッホ基礎は磨かれ、印象派の画家たちにより徐々に光を増していき、精神的な病を抱えながら明るさを増す画風はゴッホの精神性が伝わってくる。

そして、人々がゴッホに魅了されるのは彼の人生とは真逆の明るさを増す光にあふれる作風にあるのではと思う。だからこそ画家としての原点とも言うべき一見暗く思う作品もゴッホの内なる輝きに違いない。

今回の映画レビューは熊澤尚人監督作品で坂口健太郎と渡辺兼共演の「盤上の向日葵」です。
今回の孤狼の血の原作で知られる柚月裕子の同名小説の映画化で、将棋界を舞台に昭和から平成へと続く時代を一人の天才棋士を主人公に描かれています。
山中で謎の白骨遺体が発見。遺体と共に発見されたのは7組しか存在しない将棋の駒。この将棋の駒を手掛かりに捜査。捜査線上に浮かびあがったのは、アウトローの天才棋士、上條桂介と賭け将棋の世界で伝説となった真剣師、東明重慶。二人を結ぶ人生がミステリアスに進行していきます。
僕は将棋自体には、小学生のころ男子が好きだった詰将棋で挫折。将棋自体には興味がないのですが、その後に将棋界を描いた作品は数多く制作され将棋界には興味が注がれます。そんなタイミングでアベバとネトフリで公開中のドラマ「ミス・キング」を視聴してることもあり俄然、映画に興味がでました。
先ず今回の作品は将棋の世界の表と裏を描いているところがミソで、坂口健太郎演じる上條の幼少期から棋士を目指した人生と裏社会に生きる真剣師、渡辺兼演じる東明との関係をドラマチックに描いているところと佐々木蔵之介と高杉真宙演じる二人の刑事が容疑者逮捕に奔走を同時進行で描いているところが難解な事件を解くカギとなっていて面白さが倍増しました。
本当の容疑者は誰か、なぜ容疑者は犯行にいたったのか、その真相はラストに託されますが、そこには想像できないほどの深い闇が隠されていました。
令和の「砂の器」とのふれこみの話題作ですが勝負の世界に命を賭けるとはなにか。自らの運命を背負いながら勝負師としての生き様を激烈に描いた最上のミステリー映画だと思います。

僕の住んでいる近くにある一宮市三岸節子記念美術館で開催中の岡田三郎助展を鑑賞して来ましたのでレビューを。
岡田三郎助は近代洋画の父である黒田清輝に学び、白馬会の創立に参加、女子美術学校の嘱託教授や自宅アトリエに女子洋画研究所を併設するなど、女性洋画家の育成に努められた日本近代洋画の巨匠のひとりです。
その画風は優美な色彩と気品ある女性像が有名でポーラ美術館が所蔵する「あやめの衣」は美術ファンなら一度は目にしたことがあると思います。

今回の展覧会は岡田の弟子の一人でもあった三岸節子生誕120年記念特別展として開催され、岡田の故郷の佐賀県立美術館の所蔵作品を中心に岡田三郎助の代表作が並び岡田の人物像を知る上で貴重な展覧会となっています。
最初に登場する「矢調べ」は、薄明かりの部屋で矢を中心を見つめる老父の姿を描いた24歳の作品。緊張感ある姿とひざ頭を照らす天井の灯が印象的で若くして身についた写実力が見事です。
他にも晩年の作として長年の間行方不明となっていた佐賀県重要文化財の幻の名画「裸婦」も出品されています。

今回の展覧会は26日に佐賀県立美術館学芸課長の野中耕介氏の講演会が行われ、聴講しましたが現在美術館横に移築されたアトリエと女子洋画研究所にまつわる様々なお話が聴けました。
女子洋画研究所出身の三岸節子や森田元子、いわさきちひろ、など女性洋画家とのエピソードやモデルを務めた夫人とのユーモラスなエピソードなど興味深い話がたくさんありました。
一部ご紹介すると岡田の代表作「あやめの衣」はポーラ美術館が昭和のキャバレー王で美人画のコレクターとして知られる福富太郎氏から買い上げたもので、ポーラ美術館の目玉作品であり、めったに貸し出されることのないとのお話がありました。学芸員の展覧会開催への尽力のたまものだと感じました。

他にも岡田の師である黒田清輝やフランス留学時代の師であり岡田の気品ある作品に影響を与えたラファエル・コランの作品など周辺の画家たちの作品も展示されています。



三岸節子も岡田三郎助から気品を学んだと言われる優美さと気品を兼ね備えた岡田三郎助の美しい女性像を鑑賞してみてください。

今回の映画レビューは、スピルバーグも大絶賛!ポール・トーマスアンダーソン監督の「ワンバトル・アフター・アナザー」です。
今回の作品はレオナルド・ディカプリオを主演に敵役にはショーン・ペンを迎えて、テロリストと凶悪な軍人により誘拐された娘を救出しようと奮闘するバイオレンスアクション作品で、今までの監督作品とは一味も二味も違う仕上がりとなっています。
物語の前段ではテロリストの一員のディカプリオ演じるボブと最強のテロリストの妻タヤナと軍人ロックジョーとの三角関係からスタート。テロリストと軍隊の壮絶な戦いが展開され、タヤナは行方不明に。ボブは、身を隠しながら愛娘との生活を送る中で、再びロックジョーが現れ娘を誘拐され救出のために再び銃を持ち戦います。
と、あらすじを聞く限りではカッコイイ父親だと思いますが、どっこい冷静沈着とは真逆の父親と変態軍人とのアナーキーかつコミカルな活劇が展開されます。また、妻との三角関係とアメリカ的な秘密結社の存在がさらに拍車をかけて怒涛のチェイスアクションが実に痛快です。
脚本・監督のポール・トーマス・アンダーソン監督のキャラクター設定が時代にピタリとはまっていて長編作品でも飽きさせない内容でした。
過去作を観てる僕にとっては、度肝を抜かれながら爆笑の作品でした。
ここ三ヶ月近く咳が長引き、映画館での音には僕もそうなんですが敏感な映画ファンも多いと思うので映画鑑賞をひかえてました。
ようやく咳もおさまってきたので、作品チェックしてたら大好きなウェス・アンダーソン監督の新作「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」を早朝に鑑賞してきましたのでレビューを。

1950年代の架空の独立国「フェニキア」を舞台に6度の暗殺未遂を乗り越えた大富豪ザ・ザ・コルダが後継者で修道女見習いの娘と共にフェニキアのインフラ計画で一儲けしようと暗躍するコメディーです。
主人公を演じるデルトロの暗躍ぶりが、おもしろ、おかしく描かれアンダーソンの描く脱個性ぶりがデルピロの隠れた個性を引き出してました。
また、娘役を演じたミアの配役が母親の死がザ・ザの仕業ではないかと疑念を抱きつつ、清廉な修道女の一面とザ・ザのDNAの一面を軽快に演出されミアにピタリと合っていました。
また、ザ・ザの富豪ぶりを表すために、マグリットやルノワールの名画を美術館から借り入れ、他にも名画のレプリカを邸宅の場面に取り入れるなど、アートファンにも楽しめる演出となっています。監督の作品をアートと感じている僕にとっても映像と共にリアルな演出でした。
ウェス・アンダーソン作品の魅力は、チャップリン作品のようなテンポと笑い。アップの少ない独特なアングル。そしてソフティケートされた映像美だと思っています。今回の作品も、その魅力が十分感じました。ただ内容としては、かなり尖った内容で主演のデルトロ・デ・ベルキヨとケイト・ウインスレットの実娘のミア・スレアプレトンが物語の親子役で共演し、二人の掛け合いがユーモラスで魅力的でした。
ただ、僕の中ではグランド・ブタペスト・ホテルやムーンライズ・キングダムと比べるとのめり込み度が低かったかなと思ってます。
現在、川端龍子展が碧南市藤井達吉現代美術館で開催されてます。

川端龍子といえば院展同人を辞し当時の床の間芸術に抗い会場芸術を主張して青龍社を結成したことで福田豊四郎、岡信孝、そして異色の日本画家、横山操など画壇を代表する日本画家を輩出しました。
今回の展覧会は大田区にある龍子記念館の所蔵作品を中心に龍子の生涯をたどる構成となってます。
当初は白馬会に所属し洋画を描いていた龍子が日本画に転向し才能を開花した経緯や会場芸術をうたう大作が展示されてます。
なかでも注目するのは、太平洋戦争時代の戦争画の大作。展覧会のポスターにもなった竜巻はサメやエイなどの海洋生物が竜巻によって降り落ちる様を描き太平洋戦争に向かう世情を例えており、井伏鱒二が子供が観て泣いてしまうと語っているほど緊張感にあふれています。

戦争画については賛否があると思いますが、一方で龍子は、爆弾散華や香炉峰など、戦争で弟、妻子を亡くしたことで、その悲哀と悲惨を表現しています。


また、会場芸術を標榜した様々な大作も多数展示され、擬人化による作品や奥入瀬の荒々しい流れを描いた作品など龍子の多彩でダイナミックな作品を楽しめる展覧会となっています。



会期は11月3日まで日本画壇に果敢に挑んだ龍子のエネルギーを感じとってみてください。
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