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なんと儚きラ・フランス

数週間ほど前、ラ・フランスがうちに届いた。

ギフトカタログでもらったもので、数か月前に注文しておいたものだった。
山形県産 追熟ラ・フランス。六個入りのそれはズシリと重かった。

 

来日したラ・フランスら。フランス人だよね! と思ったが山形県人だった

 

ぜんぜん知らなかったが、ラ・フランスというのは収穫してすぐに食べるモノではないらしい。その時点ではまだ硬くて甘くもないとのこと。
それを2~3週間ほど置いておくと、ほどよく熟して柔らかく甘く芳醇な香りを放つようになるそうである。

家にやって来たラ・フランスらは、すでにそれなりの追熟がかけられており、「残り数日で最高に食べごろの状態になるから待ってろよ」と書かれていた。
期待を胸にラ・フランスらを玄関のあたりに放置する。フルーツの女王に失礼かもしれないが、家のなかで最も気温が安定しているのは玄関なので仕方ない。ちなみに冷蔵庫に入れておくと寒すぎで、追熟が遅くなってしまうという。

かくしてその日がやって来た。
箱を開けると上品な香りが。軸の周りにしわが寄り、押すとなんとなく柔らかい。
同封のパンフレットによればこれが食べごろのサインらしい。

皮をむくために包丁を入れてみて、すごいな と思った。
柔らかくもっちりした果実に、薄くて繊細な皮がまとわりついているといった感じ。皮をむくそばからとろりとした果汁が溢れ出して、手がべたべたになる。手首にまで伝った果汁を思わずぺろと舐めとると、びっくりするほど甘かった。
何よりもその芳醇な香り。台所から部屋中に広がって、息をするだけでラ・フランスになる。しかもむいた皮や取り除いた種にも、ぜんぜん青臭さがない。捨てるのがもったいないくらいに、いいにおいがする。

ここまで書けば言うまでもなく、果実はとろけるようにウマい。
噛むとむちりと繊細な果肉が、豊かな果汁とともに口の中に広がって、甘い香りが鼻腔を抜けていく。
そのあまりのウマさに、家族でビビる。
「正直いままでラ・フランスなめてたな…」
11月18日はラ・フランス記念日になった。


ところが翌日からはバタバタと用事が入り、さらに週末は文学フリマなどで東京に行かねばならず、夜にゆっくりとラ・フランスを食べる時間がとれなかった。
残り三つになったラ・フランスは再び箱にしまわれて、人知れず玄関で追熟していったのである。

そして一週間が経った。
さあ食べるかと思ってふたを開けると、何かが違う。
香りがない。
軸の周りには相変わらずシワが寄っており、指で押すとほどよく柔らかくはあるのだが、あの高貴で芳醇な香りがない。

むいてみるともう違いは明らかで、果肉は硬く締まって果汁は溢れない。取り除いた皮や芯は、なんとなく青臭い。
食べてみると、それでもやっぱりおいしい。でも11月18日のおいしさには程遠い。
「まあ、おいしいけど、まあ」
そんな具合で、想定を超えて来ないおいしさのラ・フランスになっていた。

食べごろはほんの数日だけだったのだろう。
あの夢みたいにおいしかったラ・フランス、なんと儚きことか。

いやそんなもんか。なまものだからしょうがない。

 

調べてみると今年もまだラ・フランスは販売中で、ネットで頼めば同じようなモノが買えるという。


でももうちょっとだけあのおいしくも残念だったラ・フランスらの余韻に浸りたいので、来年またあらためて注文しようと思います。

 

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