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Music For Quiet Rooms

Beer On The Rug

Bandcamp

デンシノオト  Mar 17,2016 UP

 ロケーション・サービスは、〈1080P〉からのリリースでも知られるポートランドのR&Bユニット、マジックフェードのマイク・ガルバレクと、ジョシュア・ウォードによるアンビエント・ユニットである。マイク・ガルバレクがギターやシンセ、フットレスベースなどを、ジョシュア・ウォードがハープを担当している。リリースは〈ビール・オン・ザ・ラグ〉。同レーベルの新ラインナップともいえるCDシリーズの一作である。

 本作は「OPN以降」の状況を考えるための重要なキーになるように思える。なぜか。それはOPN的な人間以降の世界観を、極めて優雅な音楽性で表現しているからである。このアルバムの楽曲を簡単に表現すれば、「人間絶滅以降の世界で鳴り響くようなアンビエント・フュージョン」ということになるだろうか。透明なシンセサイザー、やわらかく澄んだギター、ハープ。そこから生成する2016年的な無菌/清潔な音楽。

 完璧に管理されたオフィスで、それとも病院の無菌ロビーで、もしくはヒトが消滅した世界で稼動しつづけている「施設」で、静かに、環境に溶け込むように、ヒトの感情をいたずらに刺激しないように、もしくは、そんなものなど最初から存在しないように、つまりは美しいヴォイドなBGMのように、ただ、ただ流れているような音楽がここにある。一聴、単にBGM的な作品に聴こえるかもしれないが、そんなことはまったくない。この音楽は美しく、そして異様だ。聴き進むにつれ、誰しもが、どこか人間消滅以降のニヒリティックな感性/コンセプト/美学/思想を感じとってしまうだろう。

 本作のアートワークは、そんな「アフター・ヒューマン」なイメージ/コンセプトを象徴している見事なものである(メンバー自身が手がけている)。青い手袋をした「医師」たちが奏でるムード音楽? だが顔のみえない彼らは、本当に人間なのだろうか。それともゾンビや幽霊なのだろうか。人間消滅以降の世界で、人工知能的アンビエント・フュージョンを奏でる「医師」たちとは……?

 ともあれアルバム冒頭の“アバイア・トランスファー”の音使いは鮮烈であった。大病院のロビーや、会社のオフィス内で鳴っているような音たち。電話の音、キーボードをタイプする音、何かの通信音、ヒトの声やコップを置く音、ペンを走らせる音などが、美しいシンセサイザーやギターの音などにレイヤーされていく。それらの環境音は、ありがちな「ドローン+フィールド・レコーディング的」な使われ方をしていない。いわば楽曲における重要なサウンドエレメントとして導入されているのである。事実、これらのオフィス的音響は、コンポジションされ、ループし、ヒトの気配、ヒトが動き、働いていた気配を生んでいる。だが、その音響は、いわば天国的なアンビエントのむこうで鳴っているのである。まるで消滅した人間世界の記憶=結晶ように……。

 2曲め“ノー・プロジェクションズ”以降は、人間社会の終局以降のような天国的ともいえるアンビエンス/アンビエントな楽曲が、軽やかに、かつ濃密に展開されていくだろう。3曲め“バリーズ”など、サイケデリックな音像に、微かに不穏な空気感も生まれており、フェネスの音楽を思わせもする。ラストの曲“エクセプション・エグザイル”では、再びオフィス音が聴こえてくるのだが、それは即座に消え去り、緊迫感のあるシーケンス・フレーズの反復が楽曲を覆うのだ。

 終末以前の人間社会の記憶→人間消滅以降の無人で平穏な世界→人間世界終末のカタストロフィと時間を入れ子構造にしながら展開している構成とでもいうべきか。私は本作を聴きながら、テレンス・マリックの映画『ツリー・オブ・ライフ』を思いだしてしまったほどである。

 ヒトが消滅した清潔な世界で鳴り響くアンビエンス/アンビエント。そのような音楽が、「いま=2016年」という時代においては、とても心地よく感じられる。人がいない世界=空虚への憧憬か。これこそニューエイジ・リバイバル以降、人間絶滅以降の世界を射程(=イメージ)に入れたような新しいアンビエント・シーンの動向/鼓動に思えてならない(2本のMVは彼らのアフター・ヒューマンな世界観を見事に表現している。アルバム・ティザー映像は20年前のCGのような建築プレゼンテーション・ビデオのようであり、“バリーズ”のMVは、たぶん、廃墟となった原子力発電所らしき場所を撮影した映像であった)。

 本作とともに、カラ・リズ・カバーデール(Kara-Lis Coverdale)の神話的なアンビエントを聴いてみてもよいだろう。人間絶滅以降の新しい世界観のアンビエント・ミュージックの現在が、いっそう浮き彫りになるはずだ。

デンシノオト

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