人権・校閲
こちら人権情報局
(2011/07/29)
(特に注記のない場合、新聞記事の日付などは東京本社最終版です〉
〈asahi.com内の記事へのリンクについて=日付の古いものは表示されないことがあります〉
■なでしこのイメージは?
サッカー女子日本代表がワールドカップ優勝の快挙を成し遂げ、「なでしこジャパン」の文字が各紙を席巻しました。「なでしこ」は「大和撫子(やまとなでしこ)」に由来するものと思われますが、「日本女性の清楚な美しさをほめていう語」(大辞林)のイメージと、時には激しくぶつかりあうサッカーという競技との落差に少し違和感を抱いた人もいたようです。
いかに優美と賞されるプレーであっても、そもそも足を使ってボールを蹴るスポーツというのは、古来の「大和なでしこ」とはかけ離れているようにも思えます。
「なでしこジャパン」は2004年アテネ五輪のときに一般公募で選ばれた愛称。「女子代表の持つひたむきさ、芯の強さにぴったり」という理由だそうです。
花の「ナデシコ」の語源はいくつか説がありますが、「花が小さく、色も愛すべきものであるところから、愛児に擬してナデシコ(撫子)といったもの」(日本国語大辞典)というのが代表的です。これだと、試合での「強さ」には結びつきそうもありません。
「はいからさんが通る」(大和和紀、1975~77)で、主人公・紅緒は、自転車を乗り回し、剣術の腕は並みの男を上回る、さらに酒乱というおよそ伝統的日本女性像とはかけ離れた大正時代の「女学生」です。もし女学校にサッカー部があれば入部していたかもしれません。そんな彼女が戦地に行った婚約者を待ちながら思うのは、「花嫁修業」をして「女らしくなるのだわ・・・・・・最高のやまとなでしこに」。ここでは、型破りな女性像の対極のものとして「やまとなでしこ」が使われています。
田中真紀子さんが外相になったときには、「根強い男性社会にあって、堂々と自分の信念を口にし、海外に対しても、日本女性イコール大和なでしこのイメージを打ち破ったところが、スカッと心地よく感じられる」という投書がありました(朝日新聞2001年5月27日大阪本社版声欄「真紀子さんはわれらの代表」)。
「サザエさんが受けている一番のポイントは、『男勝り』なところ。世間で求められる『大和なでしこ風』な女性像に反する部分に、読者や視聴者がこっけいさを感じる」(栗田真司・山梨大助教授〈肩書きは当時〉=朝日新聞2005年1月24日山梨版「『サザエさん』で男の生き方考える」)といったところが、一般的な「大和なでしこ」像だったのではないでしょうか。
「女子代表の躍進ぶりからして、『なでしこ』の呼び名も卒業の時かもしれない」という意見もあります(愛媛新聞7月11日「地軸 なでしこジャパン」)。
一方、「大和撫子という語には、単なる美しさだけでなく、凜とした強さが内包されていると理解していた」(やくみつるさん=毎日新聞7月16日夕刊「楚々と凜・・・よくぞ名付けた『なでしこジャパン』」という見方もあります。やくさんの引用する「新明解国語辞典」(三省堂)は「〔か弱いながらも、りりしい所が有るという意味で〕日本女性の美称」としています。
「可憐な花を咲かせるだけでなく、生命力が非常に強い」(産経新聞7月16日「男まさりの『なでしこ』たち」)、「花言葉には『純愛』のほかに『大胆』があるという」(東京新聞7月20日「『大胆』が呼んだ進化」)も、「なでしこ」には、強くて勇敢というもう一つのイメージがあるという説です。
なでしこジャパンの活躍によって、これまで隠れていた「強さ」のイメージが現れてきた、あるいは新しいイメージが付け加えられたのでしょうか。
「女性は成功により『女らしさ』を失うと恐れ、能力をセーブする傾向にあったが、最近は活躍することでこそりりしく、美しくなれるという考えから力を発揮しているのでは」(碓井真史・新潟青陵大大学院教授=産経新聞7月20日「希望を与えた日本の女子力」)という分析もあります。
監督像も昔とは変わっています。佐々木則夫監督は、おやじギャグで緊張を和ませるムードメーカーとされています。 「鬼の大松」こと大松博文監督率いる1964年東京五輪優勝の女子バレーチームや、マンガでは「エースをねらえ!」(山本鈴美香、73~80)のように、男性の監督・コーチに絶対の信頼をおいて従っていく姿とはずいぶん違います。
これは「女の子が人類のために戦うアニメ」(それ自体、きわめて現代的なものですが)の変容にも通じるものがあるかもしれません。「(90年代のヒット作)セーラームーンは男性に魅力を振りまいていたが、プリキュアは違う。女の子が主体となって戦い、問題解決していく姿が受けたのでは」(フェリス女学院大の高田明典さん=毎日新聞2010年5月25日「プリキュア人気の秘密」)と言われるように、子供たちの世界でも自立した女性の存在があたりまえになっている時代です。
1984年、小泉今日子が「ヤマトナデシコ七変化」と歌ったのは、変わりつつあったイメージを象徴しているのかもしれません。「大和撫子」は「ヤマトナデシコ」になり、「しとやかなふり」をしていても「ひと筋縄じゃいかない」女性として描かれています。
25年前の幼稚園時代、クラブの監督に「『サッカーは女のやるスポーツではない』と吐き捨てるように」言われて傷ついたと体験を語る女性がいます(朝日新聞7月18日声欄「『女がサッカー!?』と言われて」)。この時代とはもはや隔世の感があります。
しかし、まだ古来の「大和なでしこ」のイメージをどこかにひきずっていると思われる発言もあります。「勝利の笑顔がはじける彼女たちの素顔を見ると、古来の優美な花になぞらえたネーミングの素晴らしさをあらためて思う」(東京新聞7月19日「筆洗」)。NHKの解説者(男性)も、試合後のインタビューを見ながら「(表情が和らいで)なでしこらしい顔になった」という意味のことを言っていました。
果たして、人々の抱く「なでしこ」イメージはどうなっていくのでしょうか。もし、今後の試合で、勝利のために、ラフと思われるプレーをすることがあったら、「なでしこらしくない」と非難されたりするのでしょうか。ピッチの外で奔放な言動をする選手が現れたらどう言われるのでしょうか。
米国の女子サッカー事情を見てみると、人気自体はあまり高くありませんが、「米国が重んじる『男女平等』や『勤勉』を象徴するスポーツとして位置づけられた」(読売新聞7月19日「なでしこ 世界が称賛」)という文化的背景があるようです。1972年の教育修正法が「大学部活動などでの性差別を禁じ、女子サッカー部誕生のきっかけとなった」(同)、「男子だけを優遇することは認められないので、予算も同じようにつく」(朝日新聞7月18日「女子サッカー 米出身指導者に聞く違い」)というように、きちんと制度が整っています。「女性のスポーツ参加者は30年後、高校で40倍、大学で20倍に増えた」(毎日新聞7月25日「余録」)とのことです。
また、北欧のチームが強いことについては、「女性の社会参画度と比例している」との指摘もあります(ノンフィクションライターの木村元彦さん=東京新聞7月27日夕刊「環境と闘った『なでしこ』」)。ノルウェーのサッカー協会は、理事の8人中3人が女性で「常時女子サッカーのことを考えている」そうです。
「強いなでしこ」のイメージが日本で受け入れられたとしても、それを支えるシステムが整っていかなければ、さらなる発展への道はけわしくなります。
そんな一抹の不安を抱きつつ、選手たちが今後、ピッチの中でも外でも素晴らしい活躍することを祈っています。
■映画
◎「人生、ここにあり!」=7/22夕刊
精神科病院を閉鎖し、患者たちが地域で暮らすイタリアでの実話を基にしたコメディー。
■本
◎「性犯罪被害にあうということ」(小林美佳著、朝日文庫)=7/24読書面
著者は、24歳の夏、2人組の男にレイプされる。今もよみがえる恐怖に襲われる心と体。被害者なのに周囲の目に脅かされる矛盾。その歯がゆさと苦しさは、身近にいる家族、友人、恋人に怒りとして向けられる。性犯罪被害の心の内を赤裸々に描く。
■アラカルト
◎地デジ化「テレビ聴けなくなる」 視覚障害者に不安の声(7/17)
地上波テレビのデジタル放送完全移行(被災地3県を除く)まで1週間。地デジ化されるとテレビの音声がFMラジオで聴けなくなるため、音が頼りの視覚障害者から「テレビから遠ざけられてしまう」と不安の声が出ている。FM放送とテレビのアナログ放送はともにVHF帯の電波を使うため、多くの視覚障害者が、値段が安く1台で両方聴けるFMラジオでテレビも楽しんできた。だが、地デジはUHF帯なので、ラジオでは受信できなくなる。
◎beランキング 読んで面白かった新書 「満足度」なら硬派の教養本(7/16週末be)
2006年度以降の新書の満足度を朝日新聞の会員サービス「アスパラクラブ」のサイトでアンケートしたところ、3位に「発達障害に気づかない大人たち」(星野仁彦著)、5位に「差別と日本人」(野中広務・辛淑玉著)が入った。
◎聴覚障害者の運転基準緩和へ バイクもトラックもOK(7/14)
重度の聴覚障害者に、新たな免許取得の道が開けそうだ。警察庁は14日、運転免許取得の基準緩和を盛り込んだ道路交通法施行規則改正案を発表した。対象となるのはオートバイや4トントラック、耕運機など。意見公募を経て、順調にいけば来年4月に施行される見通しだ。
【北海道】増える障害者の就職 法改正 追い風(7/20)
景気低迷のなかで、障害者の就職件数が道内で伸びている。2010年度は前年度より1割以上増え、過去最高となった。法律改正で企業の雇用義務が拡大したことが追い風になっている。ただ、法律で定められた雇用率に届かない企業も約半数に上り、障害者雇用への理解が不十分な面も残る。
【北海道】オホーツク発 福祉の継続助ける(7/18)
もし、障害のある子どもが親の亡き後、独りぼっちになったら――。こうした不安を少しでも解消させたいという試みが昨年2月、オホーツク地方で始まり、全道に広がりを見せている。自閉症の子を育てる母親らが、子どもの成長記録、相続の考え方、人脈マップなどを記入する冊子「親心の記録」を作成し、普及に取り組んでいる。将来に「希望」を託す命の伝言。各地で影響を受けたご当地版も誕生している。
【三重】がん闘病14年 松阪の元教諭・田中さん(7/21)
松阪市虹が丘町の元高校教諭田中敏江さん(57)は、14年前に「余命1年」を宣告された乳がんの末期患者だ。発症後に合唱活動を始め、入退院を重ねながら「人の役に立ちたい」と始めた点訳奉仕活動は、すでに2万ページに及ぶ。「失うものばかりではなかった」と充実した時を過ごす。
【大阪】食肉処理場「命」見つめて 浪速区で写真展(7/21)
松原市の食肉処理場を四半世紀にわたって撮影してきた写真家の本橋成一さん(71)が大阪市浪速区で写真展「屠場(とば)」を開いている。手作業の解体現場や、職人たちの誇らしげな顔を撮った約80枚。松原市営の食肉処理場にカメラをすえて撮影を始めたのは1980年代半ば。写真の一部は86年に東京で開かれた人権展で展示したが、地元・大阪では「写真の公開は差別を助長する可能性がある」と指摘され、長い間封印してきた。原発事故などで家畜の被害が相次ぐ中、マスコミで報じられる豚や牛の死骸の写真に「かわいそう」と眉をひそめる人もいる。本橋さんはそんな風潮にも一石を投じたいという。「命を食べて生きているという実感が希薄になっていないか。目を背けず、死と向き合うことが大切だ」。写真展は大阪市浪速区浪速西3丁目の大阪人権博物館で8月28日まで。
【和歌山】地検、議決受け起訴(7/23)
和歌山地検は22日、2007年に準強姦(ごうかん)容疑で岩出署に逮捕され、不起訴処分(嫌疑不十分)とした受刑者(58)=窃盗罪で服役中=を準強姦罪で起訴し、発表した。和歌山検察審査会が1月、起訴相当と議決をしたことを受け、地検が再捜査していた。起訴状などによると、受刑者は07年春ごろ、顔見知りの女性(当時29)が知的障害のため抵抗できないことを知りながらみだらな行為をしたとされる。審査会は今年1月、被害女性側からの申し立てを受けて審査し、起訴相当と議決をした。議決書は「知的障害者に対する強姦事件が後を絶たないのは検察官の処罰意識が不十分であることも一因」と指摘した。地検の原島肇・次席検事は「再捜査した結果、知的障害に関する医師の所見など有罪につながる新たな証拠が出てきた」と説明した。
朝日新聞のデジタル版に掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
Copyright © The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.