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第66期名人戦・順位戦

棋士の格かけた戦い

 森内俊之名人が郷田真隆九段を下して「十八世名人」の資格を手にした第65期将棋名人戦七番勝負が終わったが、次の挑戦者を決める第66期順位戦(朝日新聞社、毎日新聞社主催)がすでに始まっている。来年3月までプライドと格をかけてぶつかる長く厳しい戦い。開幕にあたり、名人戦・順位戦特有の魅力を棋士代表の谷川浩司九段、ファン代表の梅田望夫氏に聞いた。挑戦権を争うA級のメンバー10人には、名人への思いを語ってもらった。

写真たにがわ・こうじ 62年生まれ。76年、14歳で四段になり、82年八段。83年に21歳の史上最年少で名人位を獲得。97年に名人通算5期で「十七世名人」の資格を得る。名人・A級は連続26年。タイトル合計27期、ほか棋戦優勝は21回。

■激戦の深夜、ふと充実感

 ――名人位に特別な思いをお持ちですか。

 「初代大橋宗桂以来の400年の歴史を思うと身が引き締まる思いがします。21歳で名人になった時は実力があるとは思っていなかったが、だからこそ取れた面もある。逆に20代後半から30代は、力がついてきたという気持ちになるほど挑戦から遠ざかった」

 「他のタイトルは実力と勢いで取れる可能性があるが、名人位はC級2組から最低5年間、A級でも1年間を通した安定感と総合力が問われる。その意味で名人と順位戦は、棋士の格を決める棋戦といえますね」

 ――スピード化の時代にあって、順位戦は1日制持ち時間6時間です。

 「私が棋士になったころは6時間が多かったのですが、短縮化が進んで順位戦だけが残った。対局時間が長いので結果を急がないことが大切。形勢が良い時はあせらない、悪い時はあきらめないと、とりわけ強く自分に言い聞かせます。日付がかわったころの最後のミスで12時間半ぐらいの努力が無になることもありますから」

 「未明に形勢不明で、持ち時間もほとんど残っていないような時に、ふと、『自分は将棋の棋士なんだな』と充実した気持ちになる。厳しいですが、なくなると気持ちの張りがなくなる気もする」

 ――思い出に残る対局を挙げると。

 「初の名人獲得、永世名人になった将棋はもちろんですが、99年に佐藤康光名人に挑戦した第6局が忘れられない。勝てば名人の一局で、深夜に必勝になって気のゆるみがでて逆転負けした。順位戦ではA級を落ちそうになった00年2月の8回戦の島朗八段戦。2勝5敗で『負けたら落ちる』と思って挑み、優勢の将棋を決めきれず、午前1時42分に何とか勝った。人間はプレッシャーがかかるとこんなにひどくなると思い知った」

 ――苦しかった対局が記憶に残るんですね。

 「今後も苦しい成績になることもあると思うので、こうした経験をプラスにしていきたい」

 ――いよいよ今期のリーグも始まりました。

 「2年前からA級最年長で40代は1人だけ。でもそこはプラスに考え、30代の素晴らしいメンバーと戦えることを幸せに感じている。個性派が多く、バラエティーにとんだ将棋をみせられると思うので、ファンの方にも楽しんでほしい」


◇        ◇


写真うめだ・もちお 60年生まれ。東大院情報科学科修士課程修了。94年に米シリコンバレーにわたり、97年にコンサルティング会社「ミューズ・アソシエイツ」を創業。IT分野の論客。著書にベストセラー「ウェブ進化論」(ちくま新書)など。

■人間の一局、均衡の美

 ――自身のブログで将棋の話題をよく書いていますね。

 「小学校2〜3年で父に教わってからずっと親しんでいます。棋力は初段ぐらいですが、私は『指す』より『観賞する』ファン。観戦記や棋書を読んだり、(友人の)羽生さん(善治三冠)の対局のインターネット中継を米国でみたり。将棋で日本とつながっている」

 ――観賞の楽しみとは何でしょう。

 「人間同士が作り出す一局の将棋にはそれぞれストーリーがあり、均衡の美がある。1手指すごとに均衡が崩れそうになりながら、美しい可能性空間が最後まで続くのが素晴らしい」

 ――強さだけなら、コンピューターが人間を上回る日が来そうです。

 「コンピューターはある局面での最善手をその場その場で探すが、一貫したストーリーは感じられない。人間同士の戦いの魅力は色あせない」

 ――特に名人戦、順位戦の思い出は。

 「11歳の時の大山康晴名人と升田幸三九段の名人戦七番勝負(71年)は強く記憶に残っている。升田九段が升田式石田流をひっさげて挑んだ最後の名人戦。ものすごく斬新で、一局一局大興奮しました」

 「大山十五世名人の晩年のA級順位戦の戦いも忘れられない。大名人がA級から落ちそうになった90年の最終局は、仕事の合間をぬって将棋会館に見にいきました」

 ――いずれも人生がかかった対局ですね。

 「お金ではなく、棋士のプライドと序列をかけた順位戦に最も魅力を感じる。1人6時間の持ち時間で朝10時から日付がかわるまで、体力と知力をふりしぼる苦しさにしびれる。野球でも頂点を決めるワールドシリーズより、『負けられない』一つ前のチャンピオンシップが一番面白い」

 ――将棋の魅力を伝えるのにインターネットの活用を訴えています。

 「新聞のようにスペースが限られたメディアと違い、インターネットはだれにでも開かれ、字数などの制約もない。新聞の観戦記で最高峰の戦いを紹介する一方で、どこにも掲載される見通しがない若手の人生をかけた一局をネット上で紹介するなど、それぞれの特色をいかした見せ方を望みたい。難解なプロの将棋をみせるには書き手の責任も重要です」

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