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今週のこの人【この人】
八代亜紀さん
――今年はデビュー35周年。最近は故郷熊本での活躍が目立ちます。
02年に商工会議所などを中心に「八代亜紀と共に明日の八代をつくる会」ができたのがきっかけ。年に2度、ウオーキング大会に参加したり、子どもと絵画展を開いたりと、皆さんと一緒に過ごす機会をつくっています。ハード面での応援は難しいので、心の楽しみをつくるのが自分にできることかなと思います。
――昨年、初のご当地ソング「不知火酒」をリリースしたのに続き、今年3月に「不知火情話」が出ました。
「つくる会」の方たちから、地元の歌も歌ってほしいという要望があったので。「不知火情話」は私が曲想やタイトルを決めて、この人にと思った作詞家、作曲家にお願いしました。CDのジャケット写真も含めて、私の総合プロデュース。八代海沖に1年に1回ともる「不知火」を、耐える女性からにじむ恋慕の情になぞらえました。
「逢(あ)いたか〜」「淋(さみ)しか〜」とか、熊本弁は語尾を上げながら伸ばす。「いかにも」という情感がこもるすてきな言い回しなので、セリフで歌の中に入れてもらいましたね。
――熊本の歌は今後も続きますか?
「ふるさと3部作」にしようと次作の構想を練っています。若者が歌えるようなかっこいい曲。ほかにも私が歌う盆踊り歌がほしいという声もあって。ロック調の「八代ハイヤ節」を吹き込んで、真夏に踊ってもらうと楽しそう。
――県産品や観光をPRする県の「誘友大使」の活動は。
阿蘇山やデコポンの写真が入った名刺を会う人ごとに配っています。テレビ番組で包丁を用意してもらい、いきなり晩白柚(ばん・ぺい・ゆ)のむき方を講釈して、初めての人に食べさせたこともあります。「皮は帽子みたいにかぶること」とか冗談言ってね。
――デビュー前の「初舞台」の場所が八代市にあるそうですね。
16歳のときに3日間歌った「白馬」というキャバレーで、オーナーもご健在でうれしい。1人で歌の練習をしていて、録音した自分の声を聞くとハスキーで嫌だった。でも、ふあっとエコーに乗った私の声は、すごく良くてしびれましたね。歌手としての自信を持った大事な場所です。
――昨年、肥薩おれんじ鉄道のキャンペーンやテレビ番組で沿線を回りましたが、印象に残ったことは。
水俣は今も水俣病で苦しんでいる方がたくさんいらっしゃって、町自体も相当な痛手だったと思いますが、町おこしの努力ですごく活気があった。町もきれいだったし、皆さんが闘っているという感じがありましたよ。
――デビューから35年の節目に思うことは。
歌謡曲の良い時代にめぐり合って、ヒット曲にも恵まれた。幸せな歌手だと思います。これからも「亜紀ちゃん」と呼ばれる、癒やしを感じてもらえる存在でいたい。歌うとすごいけど、舞台を降りると気さく。そんなナチュラルな生き方が理想です。
厳しい時代の中、それぞれに幸せを見いだして一日を楽しく終えるのが大事だと思います。八代亜紀は、皆さんのそんな毎日を応援していきたいですね。
天草で入ったスナックの女主人が「これ、亜紀ちゃんの最近の歌」と「不知火酒」をカラオケで歌った。店内に、熊本弁の「(歌記号(いおり点))酔いなっせ 飲まんね…」のフレーズが響いて、耳に心地良く残った。
昨年9月、八代さんは県の「くまもと誘友大使」名誉大使の第1号に就任した。委嘱式など大使としての行事で、八代さんは県庁を2度訪問したが、とてもリラックスした様子の振る舞いが印象的だった。地元との関係の良さを感じた。
「八代亜紀」の名字は「やつしろ」ではなく「やしろ」と読ませる。彼女の故郷への微妙な思いをそこに感じる、と話した人がいたので、インタビューの終わりにさりげなく尋ねた。八代さんは「語呂が良かったから。そんなの気にして変ね」とおかしそうに笑った。
帰り際に、エレベーターに乗った私を「ボク、階段で行くよ」と言って見送ってくれた。間近に接した演歌の女王はナチュラルそのものだった。(奥村智司)
やしろ・あき 八代市出身。プロ歌手を目指して上京し、71年デビュー。3年目の「なみだ恋」が120万枚を売り上げる出世作に。「おんな港町」「舟唄」などヒットを続け、80年の「雨の慕情」でレコード大賞を受賞。「演歌の女王」と呼ばれる。絵筆も握り、仏の国際公募展「ル・サロン」に98年から5年連続で入賞し、永久会員になった。
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