同じ轍を踏まないためには,人間の欲求を「達成欲求」「有能欲求」「自律欲求」「求知欲求」「感性欲求」「関係欲求」「獲得欲求」「保存欲求」「回避欲求」と定義し,これを刺激する101個の手法を参考にして,より良いエンゲージを考えていくことが重要であるという。 そのうえで,顧客から得られたデータは体験を生み出すヒントとし,従来型の広告に使われていたクリエイティビティのリソースで,顧客とのエンゲージをどうするかを考えていく。そして,体験を受け取った顧客が他者に拡散したくなる「One to One to Many」の考え方が重要になっていくという。
これは「One to One to Manyの元祖的な施策である」と潮田氏は語る。ポイントは,ユーザー全体の総計ではなく,個人個人の記録であることだ。ある意味で自分だけに向けられた施策であり,人によって異なる結果となるため共有したくなる。事実,ある年ではSNSにおけるシェア率が50%を越えたという。
なお,ゲームでは2020年に「My Nintendo Switch History(現,今年の振り返り)」,2021年に「Steamリプレイ」,2024年に「あなたのPlayStation」といった施策が行われている。大手各社がSpotifyまとめからヒントを得たわけで,One to One to Manyの考え方がいかに大事であるかがうかがえる。
この事態に対し,ワセリンを「ヴァセリン」ブランドで販売するヴァセリンが行ったのが「Vaseline Verified(ヴァセリン認証済)」施策だ。 同社はユーザーから送られたさまざまなハックを検証,安全であると確認できたものにはVaseline Verifiedのお墨付きと記念品を贈っている。ヴァセリンはハックの発見者個人とやりとりしているが,発見者はVaseline Verified という名誉をSNSで拡散するOne to One to Manyだ。 総インタラクション数6330万,1か月の小売売り上げ13.9%増加と,明確に数字としての影響も現れている。個人的には,ファンが安全なハックを見つけやすくなる共存共栄の側面も強い,優れた施策であると感じられる。
ここで同社が打ち出したのは,まずいフライドポテトを提供し続けたことへの「お詫び」と「補償」のキャンペーンだ。 これまでの購買データを使い,過去に買ったまずいフライドポテトと同じだけリニューアル品を無償提供したのである。無料のフライドポテトを貰ったユーザーはレビューを書くし,ついでにほかの商品も買うというわけだ。謝罪によってファンと共存し,ここからOne to One to Manyにつなげていく。まずいフライドポテトというマイナスをプラスに変えていく,逆転の発想が光った施策といえる。