「少年マガジンのトラウマ広告」が思いの外好評でしたので、調子に乗って「マガジン・トラウマシリーズ第二弾」をお送りします。今回は広告ではなく、あの「大図解」をとりあげたい。
マガジンの巻頭カラー大図解といえば、「ウルトラ怪獣大図解」に始まる大伴昌司企画・編集による一連のシリーズが有名です。架空の存在である怪獣の身体の中を「図解」するという、アタナシウス・キルヒャーもビックリのアイデアは、「おたくの父」大伴昌司の傑作でありますけれども、大伴は別に怪獣だけをやっていたわけではありません。
「大特撮」「CM幻想の世界」みたいな特撮メイキングものから、「大空襲」のような戦時ドキュメントもの、1968年の「情報社会」ではファクシミリや小型コンピュータ、人体情報であるDNA改造による人造人間の予言など、あまりにも早すぎた啓蒙図解グラビアを次々に企画構成し、オタク第一世代の基礎教養を築き上げてくれたのです。
大伴さんは70年頃からイラストではなく写真を使った図解を多く企画するようになり、72年にマガジンから手を引くわけですけど、マガジンとの関係が徐々にクールダウンしていった71年くらいから、何がなんだかわからない図解をするようになりました。本日はその中でも特にトラウマチックな大傑作をご紹介します。
問題のグラビアは1971年8月29日号に掲載されました。「あしたのジョー」の表紙をめくると、いきなり即身仏の写真がキリヌキ大アップでレイアウトされ、トラウマムード満点です。
普通に考えれば当時よくあった、巻頭カラーのミイラ特集なのですけれども、そこは大伴の企画ですから、ただですむはずがありません。その次のページを開きますと、読者はさらに度肝を抜かれることになりますでしょう。
さあ、でました「サイクリング怪奇旅行」! なぜだか神社の境内に最新型の自転車が止まってまして、ご丁寧に各部の名称が詳細な解説とともに図解されております。
そして、日本各地に存在するミイラ寺の紹介マップが……。おわかりでしょうか? つまりこの企画、「夏休みにサイクリングでミイラを見に行こう!」という特集なのです。全部で15ページもあるんですけど、ページをめくるたびに驚くべきショッキング画像が満載! その一部をご覧いただきますと……。
サイクリングに行くときの服装の心得や、正しい自転車の乗り方の解説とともに、ものすごく
大胆なキリヌキによるミイラの図版が、これでもか! 思い知ったか!
とばかりにレイアウトされ、心が洗われます。手術台の上でミシンとモコウモリ傘が出会ったような美しさとはこのことだと申せましょう。
最終ページの、抜けるような青空をバックにした大伴昌司によるポエムも、いい塩梅ですし、その右下にさりげなくレイアウトされたホラ貝を吹く山伏もまた、楽しげな青春の伴奏曲みたいでいい感じの効果をあげております。
俺がこの特集を読んだのは、ちょうど小学校5年生の夏でしたが、そのまま網膜に焼き付いてしまいまして、人生で忘れることは一度もありませんでした。俺の美意識には、7割3分くらいはこの「サイクリング怪奇旅行」が占めていると申しても過言ではありません。
それからだいぶ経って、古本屋でこの号を手に入れたときは嬉しかったですね~。その後、80年代の終わりから大伴昌司の再評価が高まってきましたが、この「サイクリング特集」はただの一度も復刻されてないんですよ。
当時のマガジンで大伴担当だった編集さんにお聞きしたんですが、あのころはミイラブームで、雑誌でミイラ特集やると売れたんだそうですよ。
それとは別に、71年にはサイクリング・ブームがあり、自転車メーカーとタイアップでサイクリング特集をやりましょうということになった。そしたら大伴さんが、サイクリング特集とミイラ特集を合体させようと言い始めて、このページになったものだそうです。
編集さんは、それだけ言うと口をつぐんでしまいました。表情からすると、あまり聞いてほしい想い出ではないみたいで、こちらも追求するのはやめました。マガジンのグラビアにも、さまざまな黒歴史が存在していたのです。
2006/05/20アニメ・コミック,書籍・雑誌,おたく|固定リンク
当時のマガジンの巻頭企画、
大伴昌司さんの担当かわかりませんが
のちに「アダムス・ファミリー」で有名になった
チャールズ・アダムスの一齣漫画を取り上げていたことがありました
http://www.charlesaddams.com/
たしか「ブラック・ユーモア大特集」だったと思いますが、いたいけな子供達による残虐描写はまさにトラウマ その晩は眠れなかったことを思い出します
公害問題→終末ブームに揺れていた時期
横尾忠則の表紙起用といい、「少年マガジン」はやりたい放題、最先端の雑誌でしたね
投稿:ヒサミチ | 2006/05/20 17:06
>手術台の上でミシンとコ(モ×)ウモリ傘が出会ったような美しさ
わっ、ロートレアモンだ。シュールだなぁ。
しっ、シズカに。葬式の行列が君の側を通りすぎていく...
投稿: | 2006/05/20 18:05
>手術台の上でミシンとコ(モ×)ウモリ傘が出会ったような美しさ
わっ、ロートレアモンだ。シュールだなぁ。
しっ、シズカに。葬式の行列が君の側を通りすぎていく...
投稿:あおきひとし | 2006/05/20 18:06
ああ!うれしい!
タマビで3年前にやった伝説の講義を思い出します!
椹木先生の格式高い現代美術の講義のゲストでたけくま先生がしてくれたあの講義、あれこそ私にとっては忘れられません。
講義であそこまで笑わせてもらったのは、これまでの人生、あの講義以外のものはまだありません。
ゲストに相原コージさん、吉田戦車さんも来てて…ああ、サイン貰っとくんだった…!!
投稿: ゲッツ | 2006/05/20 19:56
>「おたくの父」大伴昌司
>オタク第一世代の基礎教養
竹熊さんたちの世代は
ウルトラマンにせよ仮面ライダーにせよ
こういう少年マガジンにせよ
メジャーだった少年文化を
なんでもかんでもおたくのものにしようとしているような
印象があります。
投稿: | 2006/05/21 01:11
この企画、旧来の同誌がそうしてきたように“ライブラリー写真とイラストの構成”だったら簡単なところを、わざわざ少年少女モデル6〜7人と彼らの乗る最新サイクリング車を人数分揃えて(スタイリスト同伴かどうかはわからないが、衣装も用意して)ちゃんと山形までロケを敢行しているんですよね。
なのにミイラと少年モデルの入れ込みショットは1カットしかない! 贅沢だな〜!
投稿: ほうとうひろし | 2006/05/21 04:01
「らくちん走行」って文字の下にドーンと即身仏!
現在では考えられないですね。
それに現在同じ事やっても、わざとらしくてここまで面白くないかも。
いかにも「ネタでござい」って感じがしてしまう。
あくまで当時のものだから、威力を発揮するんでしょうね。
いやあ、スゴいエントリでした。サイコー。
投稿: ニク | 2006/05/21 11:42
まあ、今こんな企画やってもネタにしか見えんでしょうねえ。天然物だからこそ面白いわけで。
こういうキッチュなモノを「面白がる」感性ってのは、路上観察学あたりが走りなんでしょうか。もっと古いですか?
ふつうの人には宝島のVOWとかが有名だと思いますが。
今の萌え文化も30年後とかには面白がられてるのかなあ。
投稿: nu | 2006/05/21 11:59
>キッチュ
古いといえば、やはりお祭りのバケモノ小屋や、宝物館などになるのかな。
路上観察学(赤瀬川流)は、ずっと後になる。
「面白がる」という感性の時代変化。
どなたか、解説してください。
投稿:長谷邦夫 | 2006/05/21 12:49
うーん、死体は見慣れてるんで、
ごく普通の健全な少年誌の特集に見えますが。
男性にしか見えない女性のファッションと自転車の立派さの方が気になりますね。
あのあたりに即身仏が多いのは、
出羽三山の湯殿山と羽黒山の宗教戦争があったみたいです。
もともと出羽三山は全て空海の真言宗だったんですが、奥の院としての湯殿山が一番高い地位を占めてて
観光客を独占した。
空海自身が即身成仏したという伝説はもともと真言宗にあった。
それを羽黒山の僧侶が面白く思わず、当時の将軍家の菩提寺であった上野の天海僧正を頼って、天台宗に
改宗、自分とこが本山で湯殿山が支社だと
徳川幕府に向かって訴訟まで起こした。
当然、天台宗の方が徳川幕府に政治的に結びついてるので強いわけで、出羽三山を天台宗が乗っ取ろうとしたんですね。
それに対抗するために、開祖空海により開山されたという由緒正しさを出すためと観光客と信者を獲得するための「見世物」として多くの湯殿山に関係する寺の多数の僧侶が「人柱」として即身成仏を江戸時代にわたってした。即身仏の上人に「海」の字が多いのは伝説の即身仏開祖「空海」を意識したもの。
政治的なコネクションが無いので、
鉄門海上人のように生きながら目をくりぬいたりして狂信的な民間信仰を集めて金と人を草の根から集めて宗派防衛したんですね。
幕府としても著名な生き仏の上人が居る間は手出しでしにくい。飢饉が起こった時の即身仏は幕府への強烈な批判にもなる。
ある意味、17,18,19世紀の徳川300年を通しての、出はじめのダチョウクラブのような命がけのどさまわりの「集客事業」だったわけです。
うれしくてやがて悲しき道化かな
フランチェスカンじゃありませんが、
これらの密教家達は「仏の道化師」を地で行ったわけですね。
投稿: ぼぼ | 2006/05/21 18:50
> 黄色い人が若い頃の小橋健太に似ている。
「小橋健太」でググりました。
http://www.motoji.co.jp/knowledge/Taidan200405a.htm
なるほど、こうやってみると真如海上人に似てるような気がしてきて、ありがたい気持ちがわいてきました。
投稿:nomad | 2006/05/22 20:17
少年スピリッツ創刊号の巻頭特集「たまごやきのすべて」を思い出しました。
70'年代のマガジンって、ほんとうにこういう企画やってたんですね…。
投稿: John_Kawanishi | 2006/05/22 23:32
>ポン一さん
黄色い人いうな。ww
似てますな。
http://photozou.jp/photo/show/302/410
何と言うか、ミシンとコウモリ傘というより、
かぼちゃの籠に当然のような顔でパイナップルが1個紛れ込んだような違和感。
格闘家に秘された過去・・
投稿: ぼぼ | 2006/05/23 06:53
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