「おい。あんた、どういうつもりだ」
女に見覚えは全くなかった。タンクトップにミニスカートで、ミュールを履いた端正な顔立ちの女性だった。髪を金に染め上げ、薄めの化粧をしている。
「私に言ってるの? 何のことか全然分からないんですけど」
僕の瞳を**込むようにして女はそう応える。その口元には冷たい笑みがこぼれていた。
「とぼけるなよ。その表情が何よりの証拠だ。言え! どうして僕にあんなこ…」
…突然言葉が吐き出す息によって途切れた。掴みかかろうとする僕を制するように女の拳が鳩尾に捻じ込まれている。僕はたまらずその場に蹲った。
「うっ…ぐ…」
「落ち着いてくださいね。ちゃんと聞いてください。私は何も知りませんから」
そう言うと女はまたも口の端を弓なりに曲げて笑みを零す。しかし僕もここで引き下がれるわけがなかった。この女が嘘をついていることは明白なんだから。
「あ、あんたこそ真剣に聞けよ。僕は理由を知りたいだけなんだよ。どうしてこんなことを」
女はなおも笑みを絶やさないまま、大きく息をついた。
「どうして知りたいんですか? そんなこと知ったって何も変わらないのに」
言っている意味が僕にはよく分からなかった。ただ、その言葉は遠まわしではあるが、確かに女の行為を肯定するものだと感じた。
僕は少し気持ちを落ち着けてから、ゆっくりと女に話した。
「当たり前だろ。僕はもう少しで死ぬところだったんだ。僕に殺されるような理由など思い当たらないし、仮に何か理由があるのなら教えてくれ。どうして僕を…殺そうとしたんだ?」
僕の必死な思いが彼女に通じたのだろうか。彼女は再び大きく息を吐くと、諦めたような表情を見せてゆっくりと項垂れた。そして顔を上げ、僕の瞳をさらに深く**込んだ。その鋭い眼光に僕は少したじろぐ。しかしここで怯んでは相手の思うつぼだと、僕は虚勢を張って凄んだ。
「はぁ。仕方がありませんね。実はある人に頼まれたんですよ」
その言葉に嘘はなさそうだった。しかし頼まれたからと言ってそんなに簡単に人を殺すなんてことがあってはたまらない。その気持ちは彼女にもよく伝わっているようだった。
「殺すつもりはありませんでした。ただ股間を蹴るように頼まれただけです」
――…一体誰が?
やはり自分には心当たりがなかった。まして殺すつもりではなく股間を蹴るようになんて…
異常な彼女の発言に僕はしばし開いた口が塞がらなかった。
「報酬もはずむって言うんで、それくらいだったらって。それが偶然今この時間、この場所だっただけで」
「でも…現に僕はただ蹴られるだけじゃ済まなかったかもしれない。下手したら死んでいたかもしれないんだぞ? その責任はどう取ってくれるんだよ」
女は**込んでいるその瞳を大きく見開き、今度は大きな声をあげて笑った。その笑いの意味が分からず僕は困惑する。
「それで? 私はどうすればいいの?」
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