ナカミチが1983年に発売した録再オートリバースデッキ。アジマスずれの影響を受けやすい3ヘッド機でオートリバースは
難しいといわれ,これまで(1983年当時)各社とも3ヘッド機でオートリバースを実現したカセットデッキはほとんど見られま
せんでした。デュアルキャプスタンメカニズムでオートリバースというのも走行系の関係で困難が多く実現されていませんで
した。その困難を,カセットハーフを反転させるという逆転の発想で実現したのがこのRX-505でした。ワンウェイ機のヘッド
構成と走行メカニズムでオートリバースを実現するという点では,一見奇抜ですが,実は正攻法だったと思います。RX-505を特徴づけているのは,独自のリバースメカニズム「ユニ・ディレクショナル・オートリバースメカニズム」でした。ナカ
ミチ自慢の完全独立3ヘッド/ダブルキャプスタンのコンストラクションを一切崩さずに録再リバースを実現するために,走行
系・ヘッド系などは一切変えずに,ハーフの側を反転させるというユニークなものでした。リバースデッキで問題になるリバー
ス方向での音質劣化は,テープ走行の反転による走行条件の変化が生じアジマスずれなどが原因で起こります。このハー
フそのものを反転させる方式により,テープは,フォワード時もリバース時も同じテープパスを通り,高度な3ヘッド/ダブルキ
ャプスタンの走行系をそのまま使うことができました。DRAGONのNAACほどコストもかからず,録再リバースを実現した点
で,画期的だったと思います。リバースに少し時間がかかるのとハーフを上下逆に入れるのが何となく変な感じだったという
感じは残りましたが・・。同じ頃,3ヘッド/ダブルキャプスタンで録再リバースを実現していたアカイのGX-R99,4モーター
DD+3ヘッドという重装備のティアックのR-999Xとともに,リバースデッキの頂点の一つだったと思っています。なお,ハー
フそのものを反転させる方式は,アカイが1970年にCS-50Dというデッキで実現していましたが,トラブルが多かったようで
す。このRX-505では,ハーフがすっと前に出てきて透明なホルダーの中でくるりと回転し元のように装填されるさまは流れ
るようにスムーズで,思わず何回もやって見とれてしまったことを記憶しています。このリバースメカニズムはトラブルも少なか
ったようです。ナカミチ自身も「アジマスずれを解決する方法として,NAACに匹敵するもう一つの究極」と称していました。
ヘッド系は,ワンウェイ機で実績を積んだ,ナカミチ自慢の録音,再生,消去のヘッドを完全に独立させた,ディスクリート3ヘ
ッドシステムで,20Hz〜20kHzの録再を完璧に保証していました。録音ヘッドは,クリスタロイ・ラミネートコアの3.5ミクロ
ンのワイドギャップヘッド,再生ヘッドは同じくクリスタロイ・ラミネートコアの0.6ミクロンナローギャップヘッドを搭載し,低域
から高域までワイドでフラットな録音再生を実現していました。消去ヘッドは,フェライトコアとセンダストコアを採用したダブル
ギャップ型ヘッドを搭載していました。走行系は,再生ヘッドにパッドリフターを備え,2本のキャプスタンだけでテープ走行を
コントロールし,キャプスタンの間にはヘッド意外何も置かないナカミチ独自のクローズドループ・ダブルキャプスタンメカニズ
ムを搭載していました。2本のキャプスタンは直径を変えて共振を排除する周波数分散型ダブルキャプスタンになっていまし
た。このように,ヘッド,走行系は,ワンウェイ3ヘッド機のものを上下逆にしてそのまま使うことで,優れた音質と信頼性を確
保していました。録再アンプ系は,全高調波歪率0.005%以下という高級プリアンプ並の性能を誇る,ナカミチ自慢の全段±2電源方式DC
アンプを搭載し,優れた録再性能を支えていました。機能的にも,リバースの前後で自動的にフェードアウト/フェードインを行
い音をスムーズにつなげるオートフェード機構をはじめ,前後1曲の頭出しを行うプログラムシーク,オートレックスタンバイ,オ
ートレックポーズ,マスターフェーダーなど実用的な機能を搭載していました。また,マニュアルで録音バイアスの微調整がで
きるようになっていて,リバース機ながら,音質重視型デッキとして完成されていました。このように,RX-505は,ハーフを回転させることで,従来のナカミチのワンウェイ機の優れた3ヘッド・ダブルキャプスタンメカ
ニズムをそのまま生かし,優れた音質と録再リバースの利便性を両立した名機だったと思います。この「ユニ・ディレクショナル
オートリバースメカニズム」を搭載したRXシリーズは,2ヘッド・ダブルキャプスタンのRX-303(¥158,000),2ヘッド・シン
グルキャプスタンのRX-202(109,800)の計3機種が発売されていました。しかし,これ以降これほどの音質重視のリバー
ス機は各社とも後継機が出ず,ナカミチもリバース機はこれが最後となりました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
周波数特性 | 20Hz〜20kHz±3dB EX(TYPE�T),SX(TYPE�U),ZX(TYPE�W)共通 |
ワウ・フラッター(WTD RMS) | 0.04%以下 |
SN比(IHF A−WTD RMS) | BタイプNR ON 64dB以上 CタイプNR ON 70dB以上 |
歪率(400Hz,0dB,ZXテープ) | 0.9%以下 |
寸法 | 450(巾)×144(高さ)×300(奥行)mm |
重量 | 10kg |
ヘッド数 | 3/録再リバース |
モーター数 | 2 |
キャプスタンモーター方式 | PLLサーボ 周波数分散型ダブルキャプスタン |
ピークレベルメーター | LED(−40〜+10dB) |
マニュアルキャリブレーション機能 | バイアス(微調整) |
自動選曲機能 | プログラムシーク(1曲選曲) |
フィルター | MPX サブソニック |
テープカウンター | LED 4桁 |
その他の付属機能 | 録音再生同時モニター,DC録音アンプ,ダブルNF回路,ドルビーNR B,Cタイプ オートプレイバック機能(テープカウンター”0000”より再生),後追い録音, レックミュート,オートレックポーズ,マスタ−フェーダー,オートフェード(リバースの 前後で自動的にフェードアウト/フェードイン),タイマー録再機能, イージーキューイング,出力レベルボリューム,メモリーストップ |