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本の話「ゆうじょこう」 著・村田喜代子 新潮社 ¥1,600円+税
作品の舞台は明治30年代。熊本にあった遊郭「東雲楼」は数千坪の敷地に二階建ての本屋、豪華な庭園を配置、二十五の別棟を有する大店だった。主人公は15歳で薩摩硫黄島から家の借金の方に売られてきたイチ。
イチが禿として仕えるのが遊女の長として君臨する東雲花魁。島の世界しか知らず、訛りも酷いイチは東雲花魁を通じて郭のしきたりを知り、そこに生きる人間模様や女の性を鍛えていく。もう一人、イチを導くのが郭内の学校「女紅場」の師匠の鐵子。士族出身の元遊女で、遊女を卑下する福沢諭吉の偽善を批判する先進的な視点を持っていた。
イチの書く島言葉のひらがなだけの日記、その素朴さに女として、人間として目覚めていく少女の姿が巧みに描かれる。借金の方に身売りされた同じ境遇の女や、許されぬ子を身ごもり母親として生きる決意をした紫花魁との交流もイチに影響を与える。
東雲楼は当時の郭としては遊女を大切に扱う店だった。だが、西欧を意識した明治政府の方針で表面上ながら、遊女と店の契約関係が見直される中、遊女たちは自ら道を切り開き始める。そして、物語は郭では考えられなかったストライキで、自由廃業の道を歩み終わる。
史実とフィクションを綯い交ぜに描かれる郭の哀切と、苦海の女が暗闇に一番星を求める姿が感動的だ。
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