町歩きをする時、あてもなくぶらぶらと歩くのも楽しいけれど、何かテーマをもって歩くのも面白い。江戸に関する本を読んでいて、たまたま目に留まったのが、江戸時代のアイドル「笠森お仙」。谷中の茶店の看板娘で、現代のアイドルに通じるような人気者になった実在の女性である。今回はこの「笠森お仙」をめぐる町歩き。 お仙は宝暦元(1751)年の生まれ。谷中の感応寺(いまの天王寺)の子院・福泉院の境内にあった笠森稲荷門前で水茶屋「鍵屋」を営む五兵衛の娘で、店先に立つようになると、その美少女ぶりが大変な評判となった。その人気に火をつけたのが浮世絵師の鈴木春信(1725?-70)である。木版多色摺りの新技法を用いた錦…