重たいザックを担ぎ、いささかフラフラしながら降りていった。踏んだ山頂から赤や橙の斜面が広がり、その奥にきれいな三角形の山が毅然として独り立っていた。あ、富士。それだけだ。むしろ周りの色合いが目を浮き足立てる。反対側には遠く日本海に流れ出る川が作った谷が深い。紅葉に彩られた谷には「水源の地」と書かれた木柱が建っていた。日本一長い川の一滴を、僕は掬い、飲んだ。 少しの間、道は不安定だった。下手にガレに乗ってしまうと、足元は揺れて重心を失い、転倒するだろう。目線の高さから岩の安定度を想定して足を下ろす。ある意味、それは一歩に命をかけているような道だ。 ガレ場が終わると、だから心から安堵する。するとそ…