多くの名物道具を収集し、分類したことで知られる大名茶人、松江藩藩主・松平不昧は、「客の心になりて亭主せよ。亭主の心になりて客いたせ」と語っています。 相手の立場に立って接しなさい、という処世訓として理解されがちな言葉ですが、もう少し掘り下げて味わってみたいと思います。お茶の世界では、亭主を務め、正客を務め、また水屋にまわるなど、すべての役割を経験する必要があります。七事式と呼ばれる稽古に、五人一組で行う「花月」があります。引いた札によって一挙に役割が入れ替わるこの稽古では、整然と役を交代し、状況の変化に対応することが求められます。ここで重要なのは、役割を「演じる」と意識しながら、なおその役に深…