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サーカス小人と恐竜うんち化石

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「ソフトウェア業界ってどうなっちゃってんの?」

フリーソフト開発のおはなし。

エリック・レイモンドさん、ゆるしてね。


By Martin Hock (oxymoron@bigsky.net)、訳:山形浩生(hiyori13@alum.mit.edu)

Copyright 1998. これは冗談なのよ。まーったくのつくりばなし。何の責任も負わないよ。いぢめないでね。

うん、これでもちゃんと言いたいことってのはあるんだぜ。



 きょう、住んでるモンタナン「市」の有色人種街にでかけて、そこはふつうは黒人が3人ほどいるだけなんだ。でもきょうはちょいとちがってた。いつもの黒人三人だけじゃなくて、変なヨーロッパ人が二人いて、どうも迷子になってたみたい。安売り合法ドラッグストアに入るときにその二人の会話がきこえてきて、それはだいたいこんな感じだった。

「あんたぁ、いまのソフトウェア業界っつーもん見っちゃらせーよ旦さん、なにが見えますかいな。でっけークソの山。見えんのはそればっかでさぁ」

 もう一人の男はなにも言わなかった。たぶん、道の向こうのねーちゃんをながめるのに忙しかったからだろうけど。でも、それでおれは考えちゃったよ。そういやそうだ、ソフトウェア業界ってどうなっちゃってんの?

 その晩、家に帰る道すがら、あのまともに口のきけねー男の姿がどうしても頭から離れなかった。もうウン十回となく見た、画面の半分を毎秒60回リフレッシュする電子ビームによって構成される、ジュースマン・ジュース絞り器のインフォマーシャルをまたもや見つつ、これで金儲けができるってのにはたと思い当たったのよ。全国回って、ソフト産業がどうなってるのか講演してまわればいいじゃん。おれは部屋をみまわした。空っぽのビール瓶や、1970年代後半にまでさかのぼるしわくちゃのポルノ雑誌まみれのその部屋をみて、ああ、そういえば人生の手軽な楽しみに金を全部つぎこんでるだけで、十分に満足してられたんだなーってのが思い当たったもんよ。

 ああ、そうそう、ソフトウェアの話ね。そう、それでとにかく、おれはまだガキだった頃のことを思い出して、サーカスが大好きだったな、と思ったわけ。ライオンだの、くだんねー曲芸師も、意地悪くてくっせーピエロも好きじゃなかった。好きだったのは、見せ物連中ね。連中のおかげで、ああ、おれより惨めな人間がこの世にはいるんだってのが思い出せたもんね。特に好きだったのが小人。ちっちゃな目ん玉が飛び出しててそれが部屋中こっちを追っかけまわすし、レオタードはシミだらけで、見る方としては、下の始末がちゃんとできないと、社会のまともな一員にはなれないのが毎度わかるわけ。

 あの小さな男がどのくらい給料もらってるのかな、と思った。最低賃金以下だろうね。おれの親どもは、小人の横を歩くときに後ろめたかった。小人の横にはちっちゃなぼろぼろの帽子があって、その前にちっちゃなカードがセロテープでとめてあって、あっさり「寄付」とだけ書いてあった。いつもほとんど空で、一円玉がちょっと入ってるくらい。おふくろはいつもこう言った。「サーカスのあの人への仕打ちときたら、ひどいものだわ」。するとオヤジがむっつり答える。「気に入らなきゃほかで働くだろうさ」そして横一線の焼き海苔眉が、真ん中だけ下がんだ。二人とも、帽子に何かいれたことは一度もない。

 ほかの日には、博物館にもいった。いくと見るものはいろいろあったんだけど、おれが見て一番好きだったのは恐竜だね。でっかくて、おっかなくてさ。親どもをさえ上回るほど強い力ってのがこの世にはあるんだってのを思い出させてくれた。でも、でっかい骨の組み立て模型ではあんまりわかんなかった。ほんとに見たかったのはうんちだ。でっかい、円錐型のかたまり。ほとんどさわれそうだったけど、でもうすいガラスが前にはまってやんの。ちいさな金属表示には「排泄物」だの「糞便」だの書いてあったけど、おれはだまされなかった。ありゃうんちだ。文句なしに。夜中にそこに忍び込んで、ガラスを割り、かたまりを家に持って変えろうと夢みたもんだ。べつにスカトロ趣味とかそういうんじゃなくて。なにしたかったかというと、歩道橋の上から車に落としたかったの。建築用ブロック材だと、ハードトップの車にはほとんどダメージがなかったし、真上からだと角度的にフロントガラスにあてるのは絶対無理だったもんな。

 小人はいろんな点でフリーソフトみたいだ。確かに、カーニバルに入るのは無料じゃないけど、だからそれはハードウェアみたいなもんか。でも、小人はいくらでも見ていい。小人の写真を撮って家に持って帰ってもいい。そいつは自分をたまには改変した。カーニバルが町にくるたびにシミが増えてた。ちょっと老いぼれて、ちょっと醜くなって。昔のガキの頃はすっげークールだと思ったけど、でもきょう小人を見にでかけても、ホントどうでもいいだろうな。午後にでかけてすることって、小人見物よりましなことはいくらもあらぁね。

 恐竜うんち化石は、いろいろ商用ソフトに似てる。でかくて堅牢だ。ビロードのクッションでしっかり支えられてる。ガラスで、まともなセキュリティ層まで入ってる。盗むことはできたけど、それなりの罰の可能性がある。小人だってもって帰れたけど、もって帰ってどうすんだよ? それと、うんちにはいろいろ使いでがあった。車とか、バスとか、いや歩行者の上にだって落とせた。適応性があるってのはそーゆーことよ。小人の方は、数週間かけて鉛玉をくらわせてやれば改変はできただろうけど、そんなの手間暇ばっかだ。うんちがそこにもうあって、すぐに使えるのに、時間を無駄にしてもしょうがないじゃん。

 てなわけで、おれがソフト開発について言いたいのはそういうことよ。さ、金払って。ああ、一万両も払うんならこれだけじゃだめかよ。しゃあねーな。続けよう。

 小人を見てごらんよ。恐竜うんちに比べりゃ、もろくて弱い。発見されず、失われてるものだな。小人が町にきたことを派手に告げる旗もラッパもありゃしない。でも、生きてる。恐竜うんちは、有名で強いけど、死んでる。改善の余地はぜんぜんない。だってそのうんちたれた恐竜は、ずっと昔に死んじゃってるもん。うんちの原野に若き恐竜たちが栄えたかもしれないけど、そいつらも厚いチリの層のおかげで生存の見込みはすべてなくなった。チリの層ってのは、見ればわかるけど、ちっちゃな粒子がたくさん集まってできてて、それがみんな共同で働いてる。小人は一人で立っててサポートを待ってるけど、チリの粒子はみんなジュラ紀のそよ風に動かされて、最大の恐竜でさえ倒しちまったわけよ。小さくて保護の厚い生き物だけが生き残ったってわけ。

 じゃあそのチリって何だって? うん、そりゃもうきたるべきプロレタリアの蜂起よ。ぶるぢょわぢぃの獣を打倒すんだぜ! こりゃ歴史的必然なんだけど、でもがんばればそれを自分の手で実現できる。この時代にふさわしい巨大な扇風機をつくるには、均等賃金の労働者数千人を雇う必要があるであらふ。そしたら太陽電池発電器をつくって、それで国家の打倒をするときも自分で発電器のクランクをまわさなくていいってわけ。そしたらあとはゆったりすわって、風がチリを運んで至福のアナーキーが実現するのを待つって寸法。

 じゃあ小さな生き物ってのはなんだって? うん、そりゃ新世代の萌芽よ! そいつらがいつの日か成長して派閥をつくり、そいつが政府を乗っ取るのを防ぐには、山ほどチェック機構やバランスとりが必要になって……

 え、これでお役ご免なの? こんなんで払ってくれるわけ? でもあと九時間半ばかりしゃべれるんだけど……



訳注:いや、なにも申し上げませんが、一応「伽藍とバザール」のパロディだったりはすんの。わはは。小人にされちまったFSFに合掌。だから冗談だっていってんだろが、わかんねーやつだなクソくらって死ねば? いぢめんじゃねーぞ、バカやろが。原文はhttp://missoula.bigsky.net/oxymoron/midgetturd.html

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