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ピンガ帝国のブログ(仮)

パピヨンのピンガ率いるピンガ帝国(犬3猫4人間2)の日々。

April 2011

April 03, 2011

再会

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チィはニー君の何よりも大切な弟で、ユウの唯一無二の大親友で、ピンガの一番の強力な親衛隊で、アタシが最も愛し、そしてこんなアタシを全身全霊で愛してくれた素敵な子だった。

体が小さく運動神経に少し障害があり、健康な猫が普通に行う動作もチィには出来ない事が少々あった。

だからユウが来るまでチィは猫族のミソッカス的な存在で、ニー君はもちろんナツからも凄く大事にはされていたが遊び相手にはしてもらえなかった。

でも、そんなの全然問題の内には入らずチィは誰よりも勇敢で、そして誰よりも優しい子だった。

怒られて落ち込むピンガの隣りにそっと寄り添うのはいつもチィだった。

マーキングが原因でロミが躾と称した虐待をピンガにふるおうとした時、飛び出したアタシより先にロミとピンガの間に割って入り、不自由な四肢をしっかり踏ん張って真っ直ぐロミを見据えて大きな声で『ニャーーッ!!(やめろーーっ!!)』と叫んだ勇姿を今でも鮮明に覚えている。

どこまでもピンガに従い、守り、癒やし、そして徹底的にロミを嫌い、触られる事すら拒絶したチィ。

そんなチィの姿が《ピンガ帝国》を築き上げる基礎となった。

ロミが心を入れ替えてピンガに謝罪し、ピンガがロミの顔色を伺わなくなった頃、チィは初めて自らロミに抱きついた。

ロミは震える声で『いいの?チィタン…』と、改めて自分の愚かさを反省した。

1人の人間の心を入れ替えさせる。人間が成し得ない事をやってのけたチィはそういう凄い子だった。

そんなチィに愛された事がアタシの自慢だった。


チィは抱っこが大好きだった。
何をしていても抱っこをせがんだ。

アタシは小さなチィタンを左脇に抱えながら掃除機をかけたり、フライパンの中のハンバーグをひっくり返したり、鍋のスープをかき混ぜたり、洗濯機の渦巻きを眺めたり、何をするにもアタシ達はいつも一緒だった。

チィを抱っこすると必ず言っていたセリフがある。

『こんな可愛い子いない。』

そう言ってはお互い何度も頬ずりしあった。

アタシがぎっくり腰になって屈んでチィを抱き上げる事が出来なかった時期があった。

足元をウロウロして抱っこをせがむチィに『ごめんチィタン。できないの。』と何度も謝った。

謝っても謝ってもチィは諦めない。

『じゃあ…』と、足元でアタシを見上げるチィに両手を広げて『ジャンプ!』と言ってみた。

そんなアクションもそんな単語も初めてだ。ましてやまともなジャンプなど出来ないチィに難題を提示したようなものだった。

ところが、抱っこをせがまれる度にそれをやっていたらチィがアタシの左肩を目指してピョーンと飛んで抱きついてきたのだ。

『え?ウソッ』

残念ながら格好良くジャンプ!とはいかず、最初の飛行距離は頑張っても腰あたりだったのでガッシリとキャッチしてやると、後は自力で肩までよじ登ってきた。

ビックリした。嬉しかった。凄く誇らしかった。

『チィタン凄いじゃん!!ジャンプできたじゃん!!』

アタシは腰が痛い事も忘れてチィをギュッとした。
『こんな可愛い子いない。』
チィは瞳を細めて甘えた全開でアタシの肩にグリングリンと頬ずりするのだった。






ねぇ?
幸せってどうして続いてくれないんだろう。


アタシのチィはたった3歳でこの世から消えた。






2月28日 月曜日。
アタシとピンガはずっと一緒にいた。

横たわるピンガの隣りで惰性でテレビを観たり、携帯いじってゲームしたり、時々ピンガの体の向きを変えてあげたり、マッサージしたり、トイレに付き合ったりして静かな休日を過ごしていた。


夕方、台所で何をしていたのか覚えてないけど、流し台からクルリと向きを変えてテーブルの上に置いてあるタオルを取ろうとした時だった。

突然チィが飛び込んできた。

あの懐かしい不格好なジャンプスタイルでピョーンと抱きついてくる可愛いチィの映像がいきなり見えたのだ。

『え?』

アタシは思わず受け止める格好をした。

『…チィタン?』

声に出してその名を呼んだ。

我に返ったその時、数秒間止まっていた世界がゆっくり動き出し、音や匂いが遠くから戻ってきたような、そんな感覚の中にいた。

アタシはその場を動けなかった。

映像は一瞬で消えてしまったが、チィが来たと思った。


チィが死んで10年。

この10年、一度として気配を感じた事もなければ、どんなに願っても夢ですら逢えなかったチィがアタシの胸に飛び込んできた。

本当に不意の出来事だった。



目を閉じて、誰もいないはずの左肩を抱きしめながら幸せだった過去の感触を思い出してアタシは自然と笑みがこぼれた。

そして頬ずりして、、、愛して止まない小さな勇者に久しぶりにあの魔法の言葉を囁いた。

『こんな可愛い子いない。』


心がふんわりした。
今でも愛してる。
これからも愛してる。

優しくて切ない、切ないけど温かい不思議な不思議な再会だった。






チィはなぜ逢いに来たのだろう?

その時はそんな事全く考えもせずにアタシは愛し子との再会の余韻に浸っていた。


wing18 at 20:58|PermalinkComments(0)TrackBack(0)帝国 

April 01, 2011

天秤




今になって思い返すと気づく事がたくさんある。


アタシが後1分でも遅く帰ったのなら、もしかしたらピンガはこの時に死んでいたかもしれない、、そんな日の夜があった。



ピンガが久しぶりに食べ物を口にした土曜日は夕方には家に帰った。

本来なら夜までの勤務だったが、ぴーちゃんやぴーちゃんの弟で専務のS平君がここ数週間、全面協力の上でアタシに勤務時間の自由選択をさせてくれていたのだ。

アタシは本当に恵まれた職場にいるのだと彼らに感謝した。

みんなに負担を掛ける事は分かっていたが、アタシは家に帰る事を選択した。



介助がなければ起き上がれないピンガは案の定寝たまま布団の上にオシッコしていた。

『ピン!!ただいま!!』と声を掛けると手足を弱々しく動かした。

すぐに抱き上げ『ごめんね。』と謝った。

ピンガは少し不機嫌だったが軽くマッサージすると体をプルプルッと揺すってからトイレコーナーへ歩いて行った。

朝ちゃんと食事したせいか?後ろから見ていて歩く足腰に僅かながら力があった。

例え薬の力を借りたとは言ってもピンガの食欲は本物で、あれだけ拒否した療養食を出したら出した分ペロリと平らげた。

但し、いきなり大量に与えるのは胃捻転を起こしかねないので時間を置いて少量づつ小分けにして2回与えた。


ロミは相変わらずアホだったが、離婚を言い渡して1人で出ていけと通告してからは少しはアタシをイライラさせる事がなくなった。

帰宅後、ピンガがごはんを食べた事を教えてやると『食べた!?食べたの!?本当に!?え!?本当に食べたの!?』と、何度も同じ説明をさせてイラッとしたが。


その日の夜中に出したウンチはとてもいいウンチだった。

アタシ達はド素人。
ごはんを食べた。
いいウンチをした。
たったこれだけで改善に向かっていると判断してしまうものだ。




次の日アタシは仕事を選んだ。

自力では起き上がれないピンガが長時間同じ姿勢で寝続ける事がどんなに危険か分かっていたが、今やアタシの稼ぎなくしては暮らしていかれない程家計は苦しかった。

『なるべく早く帰る。』

ムシャムシャとごはんを食べるピンガにそう言ってアタシは出勤した。


車の運転中も仕事中もアタシはずっと心に天秤をかけていた。

…お金かピンガか?

冷静になれば比べようのない重りだ。
本当にバカバカしい。

しかし、自由勤務で家計に数万円の損害があった。そして、職場にはずっと迷惑を掛け続けてきた。
なにしろ当日になってからピンガの体調に合わせて勝手を言わせてもらってきたのだ。

このご時世じゃなくても普通なら許されない勤務態度をずっと許してもらってきた後ろめたさが秤を狂わせた。

結局グラグラ迷っている内に帰宅を言いそびれ、ラストまで勤務してしまった。




もう23時を過ぎていた。

真っ暗な階段を駆け上がり大声でピンガの名前を呼びながら急いで部屋の明かりをつけると、ピンガは布団の縁から頭だけを落とした状態で オシッコの輪の上にダラリと横たわっていた。

『ピンガただいま!』

反応がなかった。

ゾクッとした。
そこで初めて自分の馬鹿さ加減に気づいた。

駆け寄り抱き起こすとかろうじて息をしている状態で、ピンガの意識は朦朧としており顔の皮が硬直していた。

名前を叫んでは抱きしめ、抱きしめてはマッサージし、なんとかピンガの意識を 呼び戻した。

ピンガがアタシを見た。何がどうなっているのか分からないような、そんなビックリした目でアタシを見ていた。

『ピンガァァ!!あんた死んじゃったかと思ったよぉ!!』

ピンガは真っ直ぐアタシを見ていた。

騒ぎを聞きつけて野次馬のように群がってきた帝国が代わる代わるアタシに抱かれたピンガに近寄った。

ピンガは事の全てを理解し整理したのだろう。そして、長い時間放置されてきた不満が爆発して近寄る帝国に怒りをぶつけ始めた。

チョコタンは頬を、マーヤは足を、O次郎は頭を、ハイジは鼻先を咬まれた。

まだ体の感覚が戻らず、手を離せばたちまち倒れ込んでしまうピンガを支えながらアタシは自分の心臓の爆音を聞いた。


ぴーちゃんやS平君やみんなの好意に図々しく甘えればいいものを、、それが出来ない自分の性格がピンガを苦しめた。

何をやってしまったんだアタシは?
なんて馬鹿な事を…!


ワ゛ンワ゛ンワ゛ンと、しゃがれた声でアタシにではなく帝国に怒りをぶつけまくるピンガを抱いたまま揺りかごのように前後に体を揺らして、ありったけの謝罪の言葉をかき集めた。


くだらない天秤の片一方、お金のない怒りはロミにぶつけた。

帰宅後、事の詳細を報告されながらも呑気に発泡酒のプルトップを上げてプシュッと開けられるこの男の想像力の無さや無神経さに腹が立った。

お前が飲んでるその発泡酒、いったい誰の金で飲んでると思ってるんだ?

お前さえしっかりしていたら…

お前さえしっかり稼いでくれていたらアタシは仕事なんか休んでずっとピンガのそばにいられるのに!!!

明日転職しろ!!!
いいか!?明日だ!
分かったな!?


ロミはムスッとしてモゴモゴと口ごもっていたが反論はしなかった。当たり前だ。反論する資格などない。

明日に転職なんて出来ない事も、ロミだけが悪いワケじゃない事も分かってはいても言わずにはいられないくらいメチャメチャ腹が立っていた。

せっかく回復の兆しが見えてきたのに上手く回らない歯車。


当のピンガはあんな事態にまで陥ったのにごはんを食べて、いいウンチをして、そして肉球マッサージでトロンとしていた。

アタシはまた『ごめん。』と謝った。

アタシはピンガを、帝国を守りたいだけなのに。。。


留守中ピンガをどこかに預ける事も考えた。

病院?妹の家?

言うまでもなく却下だ。大嫌いな病院や知らない人の家なんか無理だ。

ぴーちゃんが同伴出勤を提案してくれた事もあったが、ピンガの神経質な性格上慣れない場所で知らない人に囲まれたらどうなるかは分かっているので残念ながら却下だった。

ピンガを預ける、もしくは同伴出勤はアタシにとっては魅力的でもピンガにとってはどれもこれも余計に悪化させる心配があったので、やっぱりピンガがこの世で一番安心できる我が家でアタシがそばにいなきゃいけない必要があった。


しかし、困ったなぁ…。

一番良い案は忙しい週末が来る前にピンガが自力で立ち上がれるくらい回復してくれる事が何よりなんだけどなぁ…。

『それが一番いいな。』と、ロミが言った。

ピンガが回復する事がもちろん一番良いに決まってるが、ロミが言うとムカついた。


アタシは一縷の望みをかけて、眠るピンガに『明日からずっとアタシがそばにいるから。…木曜日は夕方から仕事行っちゃうけどロミが休みで家にいるから。ね?』と、言った。


ずっとピンガから離れない。
もしこのままの状態だったら…週末………仕方ない。休むしかない。

こんな事になってもまだ安心した途端にチラチラ見え隠れする天秤をぶっ壊し、、

もう苦しめない。

そう決めて腹をくくった。








今だから思う。


本当はこの時逝くはずだったのに、泣いて謝るアタシを見て戻ってきてくれたのではないか?

また苦しい思いをするのを承知で、ピンガはアタシの為に戻ってきた。

もしこの時逝ってしまったらアタシがこの先ずっと後悔して自分を責め続けるだろうからと。


そんな気がする。


wing18 at 01:36|PermalinkComments(0)TrackBack(0)帝国 
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