※去年投稿しないままずっとメールボックスに保存していた記事です。
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子供の頃、雨上がりの放課後に学校の校庭から大きな大きな虹が見えた。
虹は地面からニョッキリ生えていると思っていたアタシとキョーコちゃんは虹の始まりを見たくてたもとを目指して校庭を飛び出した。
歩けども歩けども虹は遠く、いつしかアタシ達は手を繋いで走り出していた。
行く手を阻む背の高い家々やアパート、お店やビルや大人達に遮られて虹のたもとは見えなかった。
どこまで走ったんだろう?
小さな足ではたかが知れてる程度だとは思うのだけど、空ばかりを見ていたものだから気づいたら知らない町にまで入り込んでいた。
アタシ達は虹を追いかけるのを諦めた。目的は果たせなかった。それでもガッカリはしなかった。なんだか凄く楽しかったのを覚えている。
帰り道、もしもの時の電話代としてお母さんから渡されていた10円でフィリックスのガムを買ってキョーコちゃんと半分こした。くじはハズレだったに違いない。もう1つゲットした記憶がないから。
アタシ達は歩きながら当時流行った二重膨らましやどっちが大きく膨らませるか?という風船ガム遊びに夢中になっていた。また今度探しに行こうと、消えかかった虹を背にバイバイと手を振って別れた。
夏休みになり、玄関掃除を言いつけられてジョウロで水まきをしていたアタシは目の前の光景にハッとして釘付けになっていた。
小さな虹が出来ていた。
いつも見上げるばかりだった大きな虹が自分のおへそと変わらぬ位置にフワリと姿を現したのだ。
キラキラと降り注ぐ水玉の中に虹はポッカリと浮かんでいた。冒険は終わった。
ペットブログというカテゴリーの中で必ずと言っていいほど目にする『虹の橋』という言葉。
天国の一歩手前に、『虹の橋』と呼ばれる場所がある…で始まる有名なアレだ。
亡くなったペットがこの虹の橋のたもとで飼い主(あなた)を待っているという作者不明の詩文。
アタシはこの『虹の橋』という表現が大嫌いだった。
嫌いで嫌いで仕方なかった。
正直、ただの慰めにしか過ぎない不確かな幻想に本気で癒されるというのだろうか?と、嫌悪感すら抱いていた。
アタシはいわゆる霊的な事や不思議な現象に対しては肯定的だし、プロテスタントではないので輪廻はある、あって欲しいとは思っているが、『虹の橋』は存在しないと思っていた。
ただの詩文なのに完全否定していた。
と言うより完全拒否していた。
天国へ行ったら縁という繋がりだけはそのままに、魂の記憶はまっさらにリセットされて新しく生まれ変わる順番を待っているのが霊界だと、子供の頃に読んだ黒田みのるの漫画やお寺の坊さんの話を頭に刷り込んできたアタシには『虹の橋』など彼方のそのまた彼方の余所の世界の薄ら寒い話だった。
でもチィが来た。
そう、死んで間もないなら分かるけど、チィがアタシに会いに来たんだ。
10年近くの間、一度として気配を感じた事はない。夢にも現れてくれなかったチィがあまりにも出来過ぎなタイミングで、言うなればアポなし訪問でアタシに抱きついてきた。
正確に言うと、ピョーンとジャンピング抱っこしてくるチィの映像がいきなり見えたワケなのだけど、、、
そのたった1秒にも満たないわずかな一瞬は驚くほどアタシを幸せにした。
まさか次の日にはピンガとの別れが待っていようなどとは露ほども知らずにアタシはチィとの再会を心から喜んでいた。
ピンガが逝ってしまった少し後、アタシはチィの訪問の意味を考え続けていた。
もしもピンガの死にアタシの怠慢が関わっていたのだとしたら…
チィは『気をつけろ!』と、忠告しに来たのではないか?
ピンガを守って!と、言いに来たのではないか?と…。
もしそうだとしたら、それに気づかなかったアタシは本当に取り返しのつかない罪を犯してしまったと一生自分を責め続けるのだけれど、、
そう考えながらチィとのあの一瞬を振り返ると、なぜだか不思議と『そうじゃない。違うよ。』と、後ろ向きではない答えに行き当たる。
さながら責任逃れとも御都合主義とも取れる答えに自分の本質を見たようで、アタシはアタシを軽蔑した。
アタシがピンガを殺した。せっかくチィが注意しに来てくれたのにアタシがピンガを殺した。いつも守る!だなんて偉そうに言っちゃって…アタシは本当に弱くてだらしなく恥ずかしい人間だ、と自分に言い続けた。
ある日のこと、仕事の休憩中に社屋のベランダで空を眺めながら1人で煙草を吸っていた。
ポロリと涙がこぼれて慌てて指で拭った。
仕事は仕事と割り切って、ピンガの事は完全に切り離していたから例え不意に思い出しても職場で涙なんか滲みもしない筈だった。
思い出そうとして思い出したのではなく、自然とチィとの再会が頭をよぎった。そして、答えが見つかった。やっぱり違ったのだと。
チィはアタシに注意を促しに来たのではなかった。決してそんな感じではなかった。だからあの日あの時アタシはあんなに幸せな気持ちになれたのだ。
チィは大好きなピンガを迎えに来たのだ。
そして、ついでに昔のようにアタシに抱きついて甘えに来た‥のではなく、、むしろこれから訪れる避けられない絶望の前にアタシを優しく抱きしめ、心にそっと寄り添いに来てくれたのだとやっと分かった。
ありがとう。と呟いた。
そして、もうひとつ気づいた。
アタシはピンガにまだ『ありがとう。』と言ってなかった。
毎日『ごめんね。』ばかりを繰り返した。
『ごめんね。』と『愛してる。』は言ったけど、『ありがとう。』は一言も言ってなかった。
アタシは大きく深呼吸した。それから、ずいぶん遅くなってしまったけど…
ピンガ、ピンガさん、ピンちゃん、ピンガ兄さん、ピン之介、ピン、、
あ り が と う 。
と言った。
いつもそう言うと照れて顔を隠した後、上目遣いでチラッとアタシを見上げる可愛いピンガを思い出した。鼻の奥がツーンとした。アタシはこの日、煙草を止める決心をした。
数々の別れがあった。
きっともうチェロはお父さんと一緒に橋を渡ったのだろう。
マルはお母さんを、ユキとヴィヴィは兄貴を待っているのだろう。
そしてアタシには…。
つい最近、以前一度だけ読んでフンッと拒否した『虹の橋』を読み返してみた。
『虹の橋』は慰めでも幻想でもなく本当にあるのかもしれない、あって欲しいと、恥ずかしながらも素直にそう思えるようになった今日この頃なのだった。
冒険は終わっていなかった。
これからもたくさんの別れが待っている。覚悟なんてあってないようなもので、その都度アタシは泣きわめくだろう。
帝国を置いてアタシが先に逝くワケにはいかないのだからズドンと落ち込むのはオプションではなく標準装備なのだ。
アタシが冒険を終えて虹の橋を渡る時…
そりゃあ神様も真っ青な賑やかで毛深いピンガ帝国大移動になるだろうね(笑)。
と、そんな事を妄想しながらニヤニヤするアタシがいる。

ここまでが去年書きためた日記です。どうして公開しなかったのかは自分でもよく分からない。なにしろ1年のほとんどをぶっ壊れたまま過ごしていたのだから。でも、今は大丈夫。立ち上がった。激やせした体もいとも簡単に戻った。…ちょっぴり戻るだけで良かったんだけど。禁煙も続いている。
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