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東京法律事務所blog

カテゴリ:検察庁改正案

弁護士の井上幸夫です。

検察庁法改正案に関連する出来事を時系列で見てみました。

【検察庁法改正案の根本問題】
検察庁法改正案の規定のうち、内閣が検事総長や検事長の定年任期延長を決定できるとする規定は、「(検察の)民主的統制と検察の独立性・政治的中立性確保のバランスを大きく変動させかねないものであり、検察権行使に政治的な影響が及ぶことが強く懸念され」ること(元・東京地検特捜部検事有志38名の5月18日付意見書)。

【法務省と検察庁の幹部の地位】
法務省の事務方トップである法務事務次官ら幹部には検察官がなる。検事総長や検事長(全国8つの高等検察庁のトップ)は、法務事務次官より格上の地位にあり、俸給も高額である。
検事総長や検事長は、内閣が任命し、検事正(地方検察庁のトップ)等の他の検事は、法務大臣が任命する。検事総長や検事長の懲戒処分は内閣が行い、検事の懲戒処分は法務大臣が行う。
検察庁法は、検察官は63歳、検事総長は65歳で定年退官すると定め、任期延長の規定はなかった。

問題の発端は、元を辿れば内閣人事局の設置から始まる。

2014年5月30日
内閣法改正により、内閣官房の部局として、内閣人事局を設置(人事局長は官房副長官の中から総理大臣が指名)。国家公務員の「幹部職員人事の一元管理」等を推進するとされた。

2016年9月
法務省(当時の事務次官は稲田伸夫)は、当時法務省刑事局長だった林真琴を事務次官とし、当時法務省官房長だった黒川弘務を地方の高検検事長とする人事案を内閣官房に打診。
しかし、内閣官房は、これに同意せず、黒川弘務を事務次官にすることを求め、黒川が事務次官に就任。
内閣は、稲田伸夫を仙台高検検事長に任命。

2017年9月
内閣は、稲田伸夫を東京高検検事長に任命。

2018年1月
内閣は、林真琴を名古屋高検検事長に任命。

2018年7月
内閣は、稲田伸夫を検事総長に任命。

2019年1月
内閣は、黒川弘務を東京高検検事長に任命。

2019年9月
河井克行衆議院議員が法務大臣に就任。

2019年10月
河井案里の 2019年7月参議院議員選挙の公職選挙法違反疑惑が報じられ、河井法務大臣は辞任。森まさこ参議院議員が法務大臣に就任。

2019年11 月
法務省は、黒川弘務東京高検検事長が2020年2月で63歳定年退官するため、次期検事総長予定含みで林真琴名古屋高検検事長を東京高検検事長とすることを内閣官房に打診。
しかし、黒川弘務を次期検事総長にしたい内閣官房は、これに同意せず。
このため、法務省は、慣例(検事総長は2年で辞職)により2020年7月に辞職予定の稲田伸夫検事総長に対し、黒川が2020年2月に定年退官になる前に稲田が辞職すること(これによって内閣は黒川を検事総長に任命できる)を打診。
しかし、稲田伸夫検事総長はこれに応じなかった。

2020年1月
森法務大臣は、黒川弘務東京高検検事長の任期延長の閣議決定を内閣に求め、1月31日、内閣は、黒川の2020年8月までの任期延長を決定(これによって稲田検事総長が慣例により2020年7月に退任すれば内閣は黒川を検事総長に任命できる)。

2020年3月
内閣は、検察庁法改正案を閣議決定。検察官は65歳で定年退官とすること、検事長は63歳で検事になること、内閣は検事総長、検事長の任期延長を決定できること等の内容。元の改正案には、任期延長の規定はなかった。

2020年5月
黒川弘務東京高検検事長の賭け麻雀問題の報道。
内閣官房と法務省は、協議し、黒川は「戒告」(内閣が行う懲戒処分)とはせず、「訓戒」(懲戒処分ではない)とすることとした。
内閣は、黒川の辞職を承認。
内閣は、林真琴を東京高検検事長に任命。

以上の時系列を見ると、検察庁法改正案の問題点が浮き彫りになる。
内閣が検事総長や検事長を任命することは、検察の民主的規制のために必要である。しかし、内閣が検事総長や検事長の個別の定年任期延長まで決定することは、検察庁人事へのバランスを欠いた介入となり、検察の独立性・政治的中立性を脅かして検察権行使に政治的な影響を及ぼす危険がある。

今回、内閣は、検察幹部として不適格な行為を以前から行っていた黒川弘務について、法務省の人事案に同意せず、2016年9月には黒川を法務事務次官にさせ、2020年1月には黒川を検事総長にしようとして検察庁法に規定のない任期延長を決定し、従来の法解釈を内閣が変更したと説明した。
このような不適切な人事決定を法解釈を変更してまで行ってきた内閣には重大な責任がある。
その責任は、まず内閣総理大臣に、次に内閣官房長官に、そして法務大臣に問われる必要がある。

検察庁法改正案の中の、内閣が検事総長や検事長の定年任期延長を決定できるとする規定が内閣の不適切な決定を認めてしまうものであることは、今回の黒川問題でも明らかになった。
検察庁法改正案のうち、内閣が検事総長や検事長の定年任期延長を決定できるとする部分は、削除しなければならない。

弁護士の加藤健次です。

 今回の検察庁法改正について、「検察が暴走しないよう民主的プロセスを経た内閣に監督させる必要がある」、「内閣は、法律上、検事総長、次長検事、各検事長の人事権をもっているのだから、定年延長だけ問題にするのはおかしいのではないか」として、法案に反対することに疑問を呈する意見があります。
 検察が「暴走」して様々な権利侵害を引き起こしてきたことは紛れもない事実です。それを防がなければならないことはそのとおりです。でも、今回の改正案は、検察の「暴走」を止めるのに役立つどころか、かえってその危険を大きくするものではないでしょうか。
 私は、検察の「暴走」を懸念される方こそ、今回の法案に一緒に反対していただきたいと思います。

改正案は内閣の恣意的な人事権行使を許してしまう

 私は、内閣の人事権を否定しているものではありません。内閣に人事権があるからこそ、その人事権は公正に行使されなければならないといいたいのです。

 公正な人事権の行使を担保するためには、人事権行使の要件はできるだけ恣意の入る余地のない客観的なものでなければいけません。

 改正案の本質的かつ致命的な問題は、特定の検察官について、年齢という客観的基準を曲げて、「内閣の裁量」によって定年を延長して役職に就くことを法制度化する点にあります。

 しかも、延長の要件を客観的に定めることができないことは、武田大臣がいとも簡単に認めてしまいました。

 これでは、「裁量」の適正な行使が保障されないことは明らかです。

 
 
時の政権と検察には緊張関係が必要

 

 検察は、時の政権との関係でも、また捜査対象となる国民との関係でも大きな緊張関係にあります。前者は、政治腐敗に対して本来行使すべき権限を行使するかどうか、後者は、捜査によって人権侵害を引き起こさないかどうか、という形で現れます。

 この緊張関係を正しく自覚してこそ、検察全体の権限行使が適正化されるのではないでしょうか。

現行法では、法務大臣の検事総長に対する指揮権(検察庁法14条)の制度がありますが、この制度は、政権と検察の緊張関係を反映したものといってよいでしょう。

 しかし、今回の改正案は、検察に求められる時の政権との緊張関係を、圧倒的に政権寄りに緩めてしまいます。

 時の政権との緊張関係を欠いた検察は、政権に都合の悪い捜査を控えるだけでなく、政権の意図を受けた権限濫用(国策捜査)を行う危険性がより高まるのではないでしょうか。

 さらにいえば、そもそも検察は、役職定年を厳格に遵守しても、その職務が適正に行使できるような組織であるべきです。それは十分可能でしょう。

 だから、今回の改正案は、やはり「不要不急」、さらにいえば、「百害あって一利なし」といわざるを得ません。

 

検察による人権侵害のチェックは大切だけど、法案とは別個の問題

 

 検察による国民の人権侵害を防止することは大変重要な問題ですが、今回の法案とは別個の問題として考えるべきです。

 裁判所による厳格なチェックや刑事司法制度の改革が必要です。私たち弁護士は、どのような事件でも、検察の権限濫用を抑止する立場で活動しなければなりませんし、そのような立場で活動しているつもりです。なにより、多くの方々が検察のあり方に関心をもち、必要な場合はきちんと批判していくことが重要です。

 

 最後に、繰り返しになりますが、検察の「暴走」を心配される方にこそ、今回の法案に対し、一緒に反対していくことを呼びかけます。
加藤弁護士



 

 

弁護士の江夏大樹です。

#検察庁法改正案に抗議しますは大きな広がりを見せています。他方でこれに対する反論も多くみかけますので簡単なQ &Aを作成しました。随時、加筆・修正・更新していきます。
目次
Q1 改正法は国家公務員全体の定年を65歳に引き上げるものです。法案に反対する理由がわかりません。

Q2 改正法はコロナが発生するずっと以前から法案として準備されてきました。安倍政権や黒川検事長の定年延長問題とは関係がないのではないですか。

Q3 検察庁法改正案の施行日は2022年4月1日です。黒川検事長の定年延長や検事総長就任(予定)とは関係がないのではないですか。

Q4 改正法が三権分立(立法、行政、司法の分立)に反するとの意見がありますが、内閣と検察は共に行政に属するので三権分立に反することにはならないのではないですか。

Q5 もともと検事総長の任命権は内閣にあります。検察の暴走を止めるためにも、内閣が検察の人事に口を挟むのは当然ではないでしょうか。

Q6 ホリエモン(堀江貴文さん)が法改正に反対している人は動画見ろと言って、反対するのはおかしいと言っていると聞いています。それでも法改正はおかしいのでしょうか。

Q7 芸能人を含め、法案の内容を詳しくわかっていない人が「反対」と言っているのはおかしいのではないでしょうか。

Q8 今回の件は野党が結託してTwitter工作するなどの陰謀ではないでしょうか。

Q9 検察官は自らの信念に基づき公正に職務を遂行します。定年延長という些細なことに介入しても検察官への影響はないのではないですか?

Q1 改正法は国家公務員全体の定年を65歳に引き上げるものです。法案に反対する理由がわかりません。

(回答)改正法の内容をわけて考えましょう。
 改正法は検察官を含む国家公務員の定年を63歳から65歳に段階的に引き上げます。これは問題ありません。ここから問題ですが、改正法は63歳の段階で役職定年制(例えば検事長や検事正という役職は終わり)を採用し、内閣が認めれば、63歳を超えてその役職を継続できるという制度を創設します。検察官の定年も65歳以降、内閣の判断で定年延長できるという制度になっています。この②③のように内閣の判断で検事総長、検事長、検事正といった役職を定年後引き続き行えることが問題なのです。
 図解すると以下のとおりになります(日本弁護士連合会作成 ①②③は筆者)。 
スクリーンショット 2020-05-13 13.06.25


Q2 改正法はコロナが発生するずっと以前から法案として準備されてきました。安倍政権や黒川検事長の定年延長問題とは関係がないのではないですか。


(回答)従前から用意されてきた制度は、①検察官を含む国会公務員の定年を65歳に引き上げ、63歳で検事長や検事正といった役職の定年を設けるものでした。
 しかし、黒川検事長の定年延長(これは違法)問題と時期を同じくして、内閣が認めた場合に限り、②役職定年延長、③検察官定年延長という、今回の問題となっている部分が法案として追加されるに至りました。突然追加された時期と量の比較は以下の写真がわかりやすいですね(Twitter 山添拓 より)。従前のシンプルなものから、問題部分がドサっと追加されたのです。

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Q3 検察庁法改正案の施行日は2022年4月1日です。黒川検事長の定年延長や検事総長就任(予定)とは関係がないのではないですか?

(回答)確かに検察庁法改正に関わらず、黒川検事長の定年は延長され(2020年2月)、その後に検事総長に就任すると思われます(2020年7月)。しかし、黒川検事長の定年延長はその根拠がないため「違法」です。この「違法性」を事後的に正当化するために改正法が成立するのです。
 加えて、改正法は黒川検事長の定年延長問題と時期を同じくして用意されました(Q2の回答参照)。このように見ると改正法と黒川検事長は密接な関係があります。
 加えて改正法は黒川氏を68歳まで検事総長に据えることも可能な内容となっています。すなわち、黒川氏は7月に検事総長となり、定年が65歳にまで延び、2022(令和4)年2月7日に定年を迎えますが、以下の2つの抜け道があります。
(その1)最初の抜け道は、解釈変更された現行法に基づく勤務延長で検事総長を続投させれば、2022年4月1日を検事総長として迎えることができ、その後は改正検察庁法で続投できます。
(その2)次の抜け道は、法施行日が政令で定めることができるので、前倒しをして、2月7日より前に改正検察庁法を施行し、さらに定年を3年間延長することができます。法成立後もこのような動きに注意しなければなりません。

Q4 改正法が三権分立(立法、行政、司法の分立)に反するとの意見がありますが、内閣と検察は共に行政に属するので三権分立に反することにはならないのではないですか

(回答)検察は行政に属していますが、その役割は犯罪を刑事裁判にかける権限(公訴権)を独占しており(換言すると検察官なくして刑事裁判はできません)、刑事裁判の執行を指揮監督します。このように検察官は刑事司法運営の中核的機能を担っており、司法権に準じた役割・権限があります。したがって、司法の一翼を担っていると言えるのです。
 憲法を勉強した人なら知らない人はいない憲法学の第一人者である芦部信喜は「検察作用は裁判と密接にかかわる準司法的作用であるから、司法権に類似する独立性が認められなければならない」と述べているとおりです。したがって、内閣が司法の一翼を担う検察官の人事に介入することは厳に慎まなければなりません。

Q5 もともと検事総長の任命権は内閣にあります。検察の暴走を止めるためにも、内閣が検察の人事に口を挟むのは当然ではないでしょうか。

(回答)とても重要な質問ですので(1)〜(3)にわけて回答します。

(1)入口と出口を混同しない

 検事総長の任命を「入口」とするなら、定年退職時は「出口」です。

 改正法の問題は、この「出口」に内閣が介入することができる点です。

 換言すると、改正案の本質的かつ致命的な問題は、特定の検察官について、年齢という客観的基準を曲げて「内閣の裁量」によって定年を延長して役職に就くことを法制度化する点にあります(なお5月13日の内閣委員会では定年延長の基準すらないことが武田大臣の答弁から明らかになりました)。
 なお、役職を継続することによってその者の収入にも大きな影響があることをQ9で説明しています。 

 

(2)検察の暴走を止めるのは内閣?

検察の暴走とは、つまり検察官が行う捜査や訴追によって人権侵害を引き起こす恐れがあるということです(人質司法や冤罪問題)。これは「捜査による真実発見」と「国民の人権侵害」は対立し緊張関係にあることを意味し、検察の暴走を止める役割が行政府には求められます。  

そのため現行法では、法務大臣の検事総長に対する指揮権(検察庁法14条)の制度があり、この制度は、政権と検察の緊張関係を一定反映したものといってよいでしょう。

 しかし、今回の改正案は、検察に求められる時の政権との緊張関係を、圧倒的に政権寄りに緩めてしまう点が問題なのです。

 時の政権との緊張関係を欠いた検察は、政権に都合の悪い捜査を控えるだけでなく、政権の意図を受けた権限濫用国策捜査、対立者への弾圧を行う危険性がより高まるのではないでしょうか。
 この緊張関係の中では、定年退職においては「年齢」という客観的な指標を基準とすべきなのです。 
 
 内閣は検察人事に介入してよいか否か(0か100か)という単純な問題ではなく、上記の「緊張関係」の度合いが大事なのです。

 そのため、「内閣が人事に介入して何が悪い」という意見は上記のような程度問題を理解しておらず、反対意見(法案反対意見も行政府の適正な人事権行使を否定していない)と議論が噛み合っていないと言えるでしょう。

  

 

(3)任命時に介入してよいわけではない

ちなみに「じゃあ、入口は内閣が介入してもよいのか?」と言われるとそうではないことも確認しましょう。

 検事総長の任命権者は内閣ですが、歴代の自民党政権は、検察庁とりわけ前任の検事総長の意見を尊重し、これに介入しないという慣例がありました。しかし、黒川検事長の定年延長問題はこのような慣例を破ったことを押さえてください。
 これまでも安倍政権は、2013年にも内閣法制局次長を昇格させるのが慣例であった内閣法制局長官に外務省出身の小松一郎氏を任命し、集団的自衛権の行使容認という解釈改憲を行うなど、慣例に違反する人事を行ってきました。

 黒川検事長の定年延長問題は、上記のような慣例違反を超えて、法律の規定さえも無視(定年延長規定の根拠はなく違法)している点で常軌を逸しているのです。

〜回答の補足〜
 慣例違反がなんだ、法律では任命できるんだから、全く問題がないじゃないかという反論もいただきました。
 ただ法律に規定されていなければ、何をしてもよいのでしょうか(そうではないですよね)。検事総長は検察内部で決定する、政権はこれに介入しないという不文律は、検察の不偏不党を支える重要なルールとなっていました。
 この重要なルールを一切破ってはならないとまでは言いませんが、少なくともこのルールを破るに足る相応の理由が必要です。
 加えて上記に述べたとおり、
黒川検事長の定年延長問題は法律の規定されも無視してしまった点で「常軌を逸している」のです。 

Q6 ホリエモン(堀江貴文さん)が法改正に反対している人は動画見ろと言って、反対するのはおかしいと言っていると聞いています。それでも法改正はおかしいのでしょうか。

(回答)堀江貴文さんのTwitterの発言は以下のとおりです。
 「#検察庁法改正案に抗議します とか言ってる奴ら、むしろ問題なのは検察官起訴独占主義と独自捜査権限と人質司法のコンボなのであって、そこが三権分立を脅かしてること知ってるんかいな。定年延長なんぞ些末な事項にすぎぬ。」
 この堀江貴文さんの意見は、改正案に賛成する意見には読めません。
 ご指摘された「検察官起訴独占主義(犯罪は検察官しか訴追・裁判提起できない)」、「独自捜査権限(検察官には捜索や差し押さえ等の独自の捜査権限がある)」、「人質司法(被疑者を長期間拘束して自白等を強要し、移動の自由を侵害する捜査手法)」は改正法案の問題点と関連がありません。
 堀江貴文さんは「改正法案は些細な問題でもっと重要な問題がある」と言っているようなので、むしろ法改正に賛成していないとも読めます。仮にこれで法改正に反対する意見に反対している(つまり改正賛成)ならば、説明不足・不明瞭な意見です。
 なお、私はよく堀江貴文さんの動画等を拝聴し勉強させて頂いております。

Q7 芸能人を含め、法案の内容を詳しくわかっていない人が「反対」と言っているのはおかしいのではないでしょうか。

(回答)全くの誤りです。
 芸能人も国民の一人として表現の自由があります。法案の批判は一部の専門家の特権ではありません。自由な発言を行い議論を交わすべきです。
 そもそも完全に正しい意見などありません。仮に一部誤りがある投稿をしたからといって、訂正すればよいのです(芸能人も一個人です)。むしろ言論を萎縮することが問題です。
 加えて、改正案はいくつもの内容が盛り込まれた一括法案ですので、これを詳しく把握することは不可能です。弁護士らもその読解に大変苦労していました。なので批判する方に聞きたい、「批判するあなたは法案の内容を一つ一つ詳しく読んだのか?」と(無理ですよね)。でもご安心ください。法案の内容の概要さえわかればいいのです。
 

Q8 今回の件は野党が結託してTwitter工作するなどの陰謀ではないでしょうか。

(回答)Twitter工作、陰謀とする根拠が見当たりません。

Q9 検察官は自らの信念に基づき公正に職務を遂行します。定年延長という些細なことに介入しても検察官に対する影響はないのではないですか?

(回答)検察官の職務の公正な遂行に影響がないと期待したいのですが、やはり検察官も一個人です。平の検事になるか、役職者として勤務延長ができるかで権限も変わってきますし、以下のとおり収入も全くことなります。これを見れば少なくとも心を揺さぶられるというのは人の常ではないでしょうか。
(1)検事総長の定年延長がなされると(推定)約8670万円違う
 検事総長の年収は約2890万円と言われています(検察官の棒給等に関する法律を参照し、これに各手当、ボーナス等を含めた推定)。 改正案では内閣が認めれば引退せずに3年延長できるのですから、約8670万円の収入を新たに得られることになります。
(2)最高検察庁次長検事は(推定)約3863万円違う
 最高検察庁次長検事、東京高検検事長、検事正等も本来63歳定年ですが、内閣が認めれば役職を3年延長できます。
 最高検の次長検事というと年収が約2361万円と言われており(検察官の棒給等に関する法律を参照し、これに各手当、ボーナス等を含めた推定)、63歳で平の検事(65歳定年)に降格せず、66歳まで職務を執行できます。
 平の検事に降格した場合の給料を多めに見積もって約1610万円(検事4号、役職なしでの最高額)とすると、最高検の次長検事は3年延長した場合の差額は約3863万円となるわけです(差額751万円✖︎2年分〈65歳まで〉+2361万円〈66歳の1年分〉)。
 もちろん、平の検事と役職者では権限も全く違います。役職者は世間の注目を浴びる重大事件、汚職事件の捜査と訴追の指揮命令を行うことできます。

 このように見てくると、検察官が内閣の顔色を伺い定年延長を認めてもらおうと考えても不自然ではないと思いませんか。実際にそのようなことはないと信じていますが。

※ 各弁護士会の反対声明の状況
 全国では以下の緑色の各弁護士会から反対声明が出ています(残るは長崎)。
 全国の弁護士会からこんなにも声明が出ることは異例中の異例です。というかおそらく前例がない。
スクリーンショット 2020-05-18 10.28.55


詳しくは下記HPにまとめられています。
https://ministryofnojustice.myportfolio.com/15e9865f5bd466


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弁護士の江夏大樹です。

コロナで大変な情勢の中、すごく危険な法案が来週の4月16日にも衆院で審議入りしようとしています。
まさに「火事場泥棒」です!
(続報)4月16日に審議入りしました。なお、この危険な法案は他の法案との一括法案として内閣委員会に付託されるため、法務大臣が答弁に立たずに審議を終え、5月13日採決の見込みとなっています。 


 
1 検察官人事に内閣府が介入
 ついこの間、黒川検事長の定年延長が違法であると散々叩かれていましたが、これに端を発して、法案を改正して検察官人事に内閣が介入できるという法案です。
 法案は①検察官の定年を63歳から65歳に段階的に引き上げ(これはOK)、②63歳の段階で役職定年制(例えば検事長や検事正という役職は終わり)を採用し、内閣府が認めれば、63歳を超えてその役職を継続できるという制度です。小学校で例えると、校長を定年後も引き続きやりたいなら、内閣の承認が必要という仕組みです(例えられてないか…笑)。
 内閣が役職人事に介入しちゃったら、検察官は腐敗政治に切り込めないですよね。(法案の詳しい中身は本記事の末尾「4 法案の仕組み」をご参照ください)

2 なぜこの法案をこのタイミングで通そうとするのか

 安倍内閣は現在、自民党の河井克行前法相、河井案里参院議員に対する公職選挙法違反事件や元自民党の秋元司衆院議員に対するカジノを含む統合型リゾート(IR)事業の汚職事件が直撃している上に、自身も森友問題や桜を見る会に関連する支出を政治資金収支報告書に記載していない等の様々な疑惑が浮上しており、捜査の対象となる立場です。
 内閣が検察官の人事に介入しようとする動機は十分ですね。
 
 なお、今回の法案は国家公務員の定年延長を行う法改正案に含まれています(紛れている)。
 いわば「毒饅頭」のように人事介入の仕組みが仕込まれているのです。

3 参考までに

 日弁連を始め、35の各弁護士会・1弁護士会連合会も反対の声明を出しています。これからも増える予定ですが、ここまで各会の反対声明が出てくるのも珍しいです。
日弁連
検事長の勤務延長に関する閣議決定の撤回を求め、国家公務員法等の一部を改正する法律案に反対する会長声明
https://www.nichibenren.or.jp/…/state…/year/2020/200406.html
仙台
東京高検黒川弘務検事長の定年延長を行った閣議決定を直ちに撤回することを求める会長声明
https://senben.org/archives/8346
山形
東京高等検察庁黒川弘務検事長の定年延長を行った閣議決定の撤回を求める会長声明
http://www.yamaben.or.jp/html/semei_ketsugi/s050.html
東京
検察庁法に反する閣議決定及び国家公務員法等の一部を改正する法律案に反対し、検察制度の独立性維持を求める会長声明
https://www.toben.or.jp/message/seimei/post-573.html
千葉
東京高等検察庁検事長の勤務延長に対する会長声明
https://www.chiba-ben.or.jp/…/c3e6c8f9fff7b2267fd7c02ea59ec…
神奈川
検事長の定年延長をした閣議決定に強く抗議し撤回を求め、 国家公務員法等の一部を改正する法律案中の検察庁法改正案に反対する会長声明
http://www.kanaben.or.jp/…/gai…/statement/2019/post-329.html
栃木
東京高検検事長の勤務延長をした閣議決定に強く抗議し、速やかな撤回を求める会長声明
http://www.tochiben.com/topics/topics.php?id=1358
山梨
検察庁法に反する閣議決定の撤回を求めるとともに、国家公務員法等の一部を改正する法律案に反対する会長声明
http://www.yama-ben.jp/statement/1294/
静岡
黒川弘務東京高検検事長の定年延長に強い懸念を表明する会長声明
https://www.s-bengoshikai.com/…/seimei…/s20-3teinennenntyou/
岐阜
検事長の定年延長に関する閣議決定の撤回を求める会長声明
https://www.gifuben.org/info/statement/p2210/
三重
東京高等検察庁検事長の定年延長閣議決定の撤回を求める会長声明
http://mieben.info/archives/topics/706/
富山
検察庁法に違反する検事長の定年延長をした閣議決定に抗議し、撤回を求める会長声明
http://tomiben.jp/archives/statement/2003251
福井
検察官について違法に勤務延長した閣議決定に抗議し撤回を求める会長声明
http://fukuben.or.jp/statement/chairman-statement/292.html
京都
検察庁法に違反する定年延長をした閣議決定に抗議し、撤回を求める会長声明
https://www.kyotoben.or.jp/pages_kobetu.cfm…
検察庁法改正案に反対する会長声明
https://www.kyotoben.or.jp/pages_kobetu.cfm…
滋賀
検察官に関する不当な人事権の行使に抗議する会長声明
https://shigaben.or.jp/about/chairman_statement/detail.php…
大阪
検事長の定年延長に関する閣議決定の撤回を求める会長声明
http://www.osakaben.or.jp/speak/view.php?id=223
奈良
東京高等検察庁検事長の勤務(定年)延長に強く抗議し検察庁法改正案に反対する会長声明
http://www.naben.or.jp/news/seimei/6174/
兵庫
東京高等検察庁検事長の定年延長の閣議決定の撤回を求める会長声明
http://www.hyogoben.or.jp/topics/iken/pdf/200325iken.pdf
岡山
東京高等検察庁検事長の勤務延長に関する閣議決定に強く抗議すると共に 国公法及び検察庁法改正案に反対する会長声明
https://www.okaben.or.jp/news/2209/
広島
検察庁法に違反する定年延長をした閣議決定に抗議し、撤回を求める会長声明
https://www.hiroben.or.jp/iken_post/1377/
福岡
検察官の定年後に勤務を延長する旨の閣議決定の撤回を求める会長声明
https://www.fben.jp/statement/dl_data/2019/0327.pdf
宮崎
東京高検検事長の勤務延長に関する閣議決定に抗議し撤回を求める会長声明
http://miyaben.jp/summary/statement/
鹿児島
検察官の定年延長に関する閣議決定の撤回を求め、国家公務員法等の一部を改正する法律案に反対する会長声明
https://www.kben.jp/2970/
沖縄
検事長の定年延長をした閣議決定の撤回を求める会長声明
http://www.okiben.org/modules/contribution/index.php…
東北弁連
東京高検黒川弘務検事長の定年延長を行った閣議決定を直ちに撤回することを求める会長声明
https://www.t-benren.org/statement/298
茨城
東京高検黒川弘務検事長の定年延長を行った閣議決定を直ちに撤回することを求め、国家公務員法等の一部を改正する法律案に反対する会長声明
https://www.ibaben.or.jp/?p=2422

4 法案の仕組みは以下のとおりです。
① 検事総長は検察庁の頂点
 改正法案は65歳で定年退職する検事総長を「内閣が定める場合」(改正22条2項、国公法81条の7)にはその任期を延長できることとしています。
② 検事総長を補佐する「最高検次長検事」、全国に8人いる高等検察庁の「検事長」
 改正法案は63歳で役職終了となる最高検次長検事、高検検事長を「内閣の定める場合」にはさらに役職の延長を可能とする(改正22条5項、22条6項)。

③  検事正は各地方検察庁のトップ、上席検事は各区検察庁のトップ
 改正法案は63歳で役職終了となる検事正、上席検事を「法務大臣の定める準則」により役職の延長を可能とする(改正9条5項、22条3項)。

 さらに気になる方は検察庁法の改正法案をご参照ください。 
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