Movatterモバイル変換


[0]ホーム

URL:


東京法律事務所blog

2024年12月

 弁護士の中川勝之です。
 3日前に桐蔭学園賃金減額無効訴訟の不当判決を紹介したところ、問い合わせがあったので、下記争点(1)乃至(4)のうち、争点(2)(労使慣行の変更の可否)に対する裁判所の判断を紹介します(証拠の摘示等は割愛、誤字・脱字等はママ)。引き続き、ご支援、ご協力お願いします。
争点(1):労使慣行としての法的効力の有無
争点(2):労使慣行の変更の可否
争点(3):原告組合に対する債務不履行責任及び不法行為の成否
争点(4):原告組合に係る損害の有無・損害額

 3 争点(2)(労使慣行の変更の可否)について
(1)規範等について
 前記2で説示したとおり、本件賞与算出方法に基づく賞与及び11万6000円の入試手当(監督)の支給については、第1・第2事件原告個人らを含む中学校、高校及び中等教育学校の専任教員と被告との間の労働契約の内容の一部を構成することになるから、かかる労使慣行を使用者側の一方的意思表示で労働者に不利益に変更することは原則として許されず、その変更には、労使間の合意(労契法8条)が必要となる。しかし、継続的な契約である労働契約では、労使慣行により補完ないし修正された契約内容を変更する必要性も生じるから、その変更を常に労使間の合意がない限り行うことができないとすることは不合理であって、労契法10条による就業規則の変更のほか、就業規則自体を変更しない場合であっても、同条に準じ、労使慣行の変更を内容とする使用者側の措置による変更後の労働条件を労働者に周知させ(以下「周知性」という。)、かつ、当該労働条件の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の労働条件の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の当該労働条件の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、使用者側による労使慣行の不利益変更は許されると解するのが相当である。これに反する原告らの主張は採用することができない。
(2)本件措置の合理性について
 そして、前記1(6)シで認定したとおり、本件措置は、全専任教員に対し、本件書面によって告知されており、周知性の要件は満たしていると認めるのが相当であるから、以下、本件措置による労使慣行の変更の可否が、上記(1)で挙げた各事情に照らし、合理的なものであるかについて検討する。
 ア 本件各シミュレーションの信用性について
(ア)前記1(6)シ及びスで認定したとおり、被告は、本件各シミュレーションを踏まえ、令和2年3月30日付け財政再建取組が必要であるとして同取組に基づき本件措置を行っており、本件措置による労使慣行の変更の可否を検討する前提として、まず、本件各シミュレーションの信用性を検討する。
 この点、学校法人における学生生徒の募集定員や入学者数の決定については、生徒の質や安定的継続的な教育水準の確保等という教育的な観点や学生生徒等からの納付金の確保等という経営的な観点等からの検討を要する学校運営の根幹にかかわる基本的な事項であり、その決定については学校運営に責任を負うべき学校法人にその管理権(学校教育法5条、私立学校法36条)に基づく広範な裁量があると解すべきところ、前記1(6)シ(ウ)で認定したとおり、被告は、過去の入学者数や内進者数等の実績等を踏まえ、募集定員を基本として学生生徒数を想定して「学生生徒等納付金」を算出した上で、本件各シミュレーションを実施しているものと認められ、その判断過程や判断手法に特に不合理な点は認められず、後記(イ)で説示するとおり、そのほか本件各シミュレーションの信用性を疑わせる事情も認められないから、その信用性を肯定することできる。
(イ)原告らは、前記第3の2「原告らの主張」欄(2)イ記載のとおり、本件各シミュレーションにおいて、被告が①募集定員の増員等を想定していないこと、②高校及び中等教育学校の部次長課長並びに大学、小学校及び幼稚園の教職員の人件費のみを削減していないこと、③経営陣の経営責任による措置をとっていないこと、④経費削減措置を考慮していないことのほか、被告による⑤施設関係費の計上が不合理であること、⑥減価償却費の計上が相当でないことからすれば、本件各シミュレーションの内容は不合理であり、信用性を欠いている旨主張する。
 a 上記①の点につき、原告らは、令和3年度以降、高校の外進の入学者数が募集定員(720名)を上回っているのであるから、令和2年3月時点の本件各シミュレーションにおいても、高校の生徒数につき1学年の募集定員である720名ではなく、850名から900名程度の体制を前提に財務シミュレーションをすべきであった旨主張する。しかし、そもそも原告らが指摘する高校の入学者数が募集定員を継続的に上回っている状況については、あくまで令和3年度以降のことであって、令和2年3月の本件各シミュレーションの時点でこれを考慮することはできない。また、前記第2の2(10)アで認定したとおり、学校再編初年度の平成30年度については高校の外進の入学者数が1223名と募集定員(720名)を大幅に上回っているものの(なお、学校再編による男女共学化の初年度は、その恩恵で入学者数が増える可能性が高いことは原告組合も自認している。)、平成31年度(令和元年度)については774名と大きく減少している上、令和2年度については605名と募集定員を下回っている状況にあり、学校再編前ではあるものの、平成28年度及び平成29年度については大幅に募集定員を下回っている状況にあったことも考慮すれば、平成30年度及び平成31年度(令和元年度)に外進の入学者数が募集定員を上回っている状況にあることを本件各シミュレーションの時点で重視して生徒数の想定をすることは相当ではないというべきである(なお、原告らは、平成31年度[令和元年度]及び令和2年度の高校の外進の入学者数の減少につき、被告が入学者の大半を占める一般入試[B方式]の合格の基準となる評定を引き上げることであえて生徒数の減少を図った旨主張し、原告○○は、本人尋問において、団体交渉において平岩前理事長が生徒を来させない工夫をすると述べていたなどとしてこれに沿う供述をしているが、かかる団体交渉におけるやりとりを裏付ける的確な証拠はなく、採用することができない。)。かえって、前記(ア)で説示したとおり、学生生徒の募集定員や入学者数の決定については学校法人である被告に管理権に基づく広範な裁量があると解すべきところ、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告は、過去の入学者数の実績のほか、高校の募集定員(720名)が全国でも有数の人数である上、同じ敷地にある中高一貫校である中等教育学校の募集定員(320名)を加えると募集定員の合計は、1学年100名にも及んでおり、極めて多数の定員を設定していること、少子化傾向が今後も継続することが明らかな状況下において、募集定員以上の生徒数を将来的に確保することができるかは不確実であり、募集定員の増員をした場合には、過去に「マンモス校」とのマイナスイメージから多くの受験生が受験を回避して入学者数を大きく減らしたように、かえって、受験者数の減少を招き、将来的に更に厳しい経営状態に追い込まれる可能性も否定できないこと等から、高校の募集定員を720名と決定し、本件各シミュレーションにおいてもかかる募集定員を前提に高校の外進の生徒数を1学年720名と想定して財務シミュレーションを行ったものと認められ、学校再編による入学者数の増加を考慮しても、その判断に不合理な点は認められず、相当であるから、原告らの主張は採用することができない。なお、原告らが主張するように、入学者の大半を占める一般入試(B方式)の合格の基準となる評定を引き下げれば多くの入学者を確保することができるが、その場合には、入学する生徒の学力水準の低下も避けられず、大学の進学実績の低下を含め、対外的な学校としての魅力が損なわれることも想定され、長期的な生徒募集の観点からみても合理的な経営判断とは言い難く、かかる原告らの主張は上記結論を左右するものではない。
 また、原告らは、小学校の入学者数が令和2年度は107名(外進87名、内進20名)であり、合格倍率も4倍程度になっているのであるから、同年3月時点の本件各シミュレーションにおいても、小学校の生徒数につき1学年107名を前提に財務シミュレーションをすべきであった旨主張するが、平成28年度以降をみても、前記第2の2(10)アで認定したとおり、平成29年度の小学校の外進の入学者数は63名であり、当時の募集定員(110名)を大きく割り込み現在の募集定員である70名すら下回っているように、入学者数については年度ごとに変動が認められるから、本件各シミュレーションの時点で令和2年度の実績のみを重視して生徒数の想定をすることは相当ではないというべきである。かえって、弁論の全趣旨によれば、被告は、前記説示した学生生徒の募集定員や入学者数の決定に関する広範な裁量の下、小学校と中等教育学校の接続を強化するという観点から、小学校の入学の時点で生徒を選抜してそのレベルを維持すること等を考慮して小学校の募集定員を70名と決定し、本件各シミュレーションにおいて、かかる募集定員を前提に幼稚園からの内進生の過去の実績等を踏まえて小学校の生徒数を1学年101名(外進70名、内進30名)として財務シミュレーションを行ったものと認められ、その判断に不合理な点は認められず、相当である。したがって、原告らの主張は採用することができない。
 なお、原告らは、本件労働協約において、教員の負担と被告の財務の調和を図って1クラスの生徒数を50名としているのであるから、教職員の給与を削減しなければならないほど生徒数を減少させることは、本件労働協約にも違反している旨主張する。前記第2の2(6)アで認定したとおり、本件労働協約には「1クラス50名を標準・目標」とするとの記載があるものの、あくまで目標にすぎず、1クラス50名を遵守することが原告組合と被告との間で合意されているとまでは認められないから、原告らの主張は、その前提を欠いており、採用することができない。
 b 上記②の点につき、原告らは、大学、小学校及び幼稚園の教職員は、賞与及び入試手当(監督)の支給に関し、高校及び中等教育学校の教職員のような労働組合との団体交渉の経緯がなく、人件費の削減に反対していないこと、被告が支配介入の意思により高校・中等教育学校の教職員の賞与の水準を大学、小学校及び幼稚園の教職員と同じ水準に引き下げていること、大学の累積赤字が大きく、大学の学生数が減少傾向にあり、被告の財務状況を悪化させている旨主張する。しかし、前記1(6)ウ(イ)及びセで認定したとおり、被告の事業活動収支及び資金収支の赤字の常態化の主要な要因は、文科省が本件通知において指摘するように、長期的な学生生徒数の減少のほか、被告の中学校、高校及び中等教育学校の人件費比率の高さにあると認められる(文科省は、本件通知において、高校及び中等教育学校の教員給与額が神奈川県の平均よりも著しく高い旨指摘する一方で、大学、小学校及び幼稚園の教員の給与額に関しては特に指摘をしていない。)以上、原告らが主張する各事情を考慮しても、高校及び中等教育学校の教職員(部次長課長を除く。)を人件費削減の対象から除外し、高校及び中等教育学校の部次長課長並びに大学、小学校及び幼稚園の教職員の人件費のみを削減すべき合理的理由はなく、被告が、支配加入の意思により高校中等教育学校の教職員の賞与の支給水準を大学、小学校及び幼稚園の教職員と同じ水準に引き下げたと認めることもできない。また、原告らは、大学、小学校及び幼稚園の教職員が本件措置による人件費削減に反対していないと主張するが、大学、小学校及び幼稚園の教職員にのみ本件措置による人件費削減をした際には、同人らも反対する可能性が高いと考えられる。したがって、原告らの主張は採用することができない。
 c 上記③の点につき、原告らは、平成24年以降増加した管理職の削減による人件費の削減のほか、部次長・主任らの手当の削減と担当授業数を週16時間とすることによる人件費の削減を実施すべきである旨主張する。しかし、学校法人の適切な運営のためには組織運営を担う管理職を適宜配置する必要がある上、管理職については、管理職として担うべき職務に応じて担当する授業時間数を調整する必要があるところ、原告らの主張を精査しても、被告による管理職の配置や授業時間数の調整等につき不合理な点があるとはうかがわれないし(なお、被告において週16時間の授業を担当している教員は管理職以外にも存在しておらず、原告組合の執行委員長である原告○○も、同人が担当する授業時間は週13時間にとどまっており、原告ら主張の管理職が担当すべきとする週16時間という授業時間数があくまで計算上の数値にすぎない旨自認している。)、前記1(6)ス(ア)で認定したとおり、管理職手当については、令和2年4月から30%減額されている上、当初の令和3年度までの2年間の予定を超えて、その後も現在まで同措置が実施されている以上、更なる手当の削減等は管理職の確保という観点からみても現実的ではなく、相当ではないから、原告らの主張は採用することができない。
 また、原告らは、部次長学部長課長らの手当無給、内部理事の賞与無給、50周年記念事業を行うことを決定した平成27年度当時の理事長(学長)及び副学長の無給及び平岩前理事長による毎年1500万円の支出といった経営陣による財政負担を実施すべきである旨主張する。しかし、上記の管理職手当の減額のほか、前記1(6)ス(ア)で認定したとおり、役員報酬についても令和元年12月から賞与の20%が減額されている上、当初の令和3年度までの2年間の予定を超えて、その後も現在まで同措置が実施されており、更なる給与・報酬の減額等は管理職や役員の確保という観点からみても現実的ではなく(本件に現れた全ての証拠によっても、平岩前理事長が50周年記念事業につき、道義的責任はともかく、個人としての法的責任を負う必要があるのかは明らかでない。)相当ではないから、原告らの主張は採用することができない。
 d 上記④の点につき、原告らは、令和3年度には夏季休暇期間でも終始冷房を付けているなど必要な経費削減措置を実施していない旨主張する。しかし、原告らが指摘することは、本件各シミューションが作成された後の事情である上、前記1(6)ス(ア)で認定したとおり、被告は、令和2年3月30日付け財政再建取組に基づき、役職手当の縮減その他の経費の節減のための措置を実施しており、その内容に特に不合理な点は認められず、相当であるから、原告らの主張は採用することができない。
 e 上記⑤の点につき、原告らは、令和元年10月31日付け財政再建案及び令和2年3月30日付け財政再建取組にはいずれも「令和6年度まで5年間施設及び大規模な設備の整備は凍結する」と記載しているにもかかわらず、本件事業収支シミュレーションでは、令和元年10月31日付け資金収支シミュレーション及び令和2年2月29日付け資金収支シミュレーションとは異なり、施設関係支出を計上している旨主張する。しかし前記1(6)クで認定したとおり、これは、令和2年1月24日及び同月27日の私学事業団のヒアリングの際の担当者の指摘を受けて、被告において改修工事が必要不可欠な施設を調査したところ、本件各施設につき耐用年数を超過しているなど改修が必要であることが判明したため、調査後の令和2年3月に作成された財務シミュレーションである本件資金収支シミュレーションにこれらの改修に要する費用を施設関係支出として計上したものであり、合理的な理由があるから、原告らの主張は採用することができない。
 また、原告らは、本件各施設の改修の要否や改修時期を遅らせることができない理由等が不明であるなどと主張するが、本件各施設の改修の必要性等は前記1(6)クで認定したとおりであり、いずれの施設についても改修が必要であるということができ、改修の内容や時期等についても不合理な点があるとはうかがわれないから、原告らの主張は採用することができない。
 f 上記⑥の点につき、原告らは、減価償却費につき、本件各シミュレーションにおいて本来であれば年度ごとに変動があるにもかかわらず一定の概算値を採用している旨主張する。しかし、本件各シミュレーションに減価償却費が定額で計上された理由は前記1(6)シ(エ)で認定したとおりであり、かかる判断に特に不合理な点は認められず、相当であるから、原告らの主張は採用することができない。
 g そのほか本件各証拠を精査しても本件各シミュレーションの信用性を否定すべき事情は認められず、原告らの主張は採用することができない。
 イ 変更の可否について
 そこで、本件各シミュレーションを前提に本件措置による労使慣行の変更の可否を検討する。
(ア)学校法人は、一般企業と同様に経済活動を営んでいるものの、利益の追求を目的とする一般企業とは異なり、教育・研究活動を目的としている上、財政的にも、その収入の大半が納付金、国や地方公共団体からの補助金で構成されており、安易に学生生徒の増員や給付金の増額を行うことは困難である上、税金を原資とする補助金その性質上、学校法人においてこれを自由に増額することは困難であることから、経営の永続性を担保するため、私立学校振興助成法により文科省が定めた学校法人会計基準に従った会計処理を行い、諸活動の計画に基づき必要な資産を学校法人会計基準30条1項所定の基本金として継続的に保持するとともに、収支の均衡を図ることが求められている。前記1(3)で認定したとおり、被告においては、少なくとも平成20年度以降、一般企業会計における損益計算に当たる事業活動収支における赤字及びキャッシュフローに当たる資金収支におけるマイナスが常態化しており、翌年度繰越支払資金を大きく減らしている状況にあったのであり、本件措置による人件費削減を実施しなければ、翌年度繰越支払資金が令和5年度には20億円を、令和9年度には2億円を下回り(前記1(6)ウ(イ)参照)恒常的に保持することが義務付けられている4号基本金である約8億円を確保することができないのみならず、運営資金が枯渇する可能性すらあったものと認められ、被告につき収支の均衡を著しく失している状況にあったことは明らかである。そして、前記ア(イ)bで説示したとおり、かかる事業活動収支及び資金収支の赤字の常態化の主要な要因は、文科省が本件通知において指摘するように、長期的な学生生徒数の減少のほか、被告の中学校、高等教育学校及び中等教育学校の人件費比率の高さにあると認められ、被告は令和元年11月に所管官庁である文科省から直ちに適切な経営改善が必要とされる集中経営指導法人に指定された上で人件費削減計画の実行を含めて人件費比率の正常化に取り組むことを強く求められているところ、かかる文科省等の指導にもかかわらず、経営改善の実績が上がらなかった場合等には部局の募集停止、設置校の廃止及び学校法人解散等を含む経営上の判断を促す通知がされる可能性もあること(前記1(6)も考慮すれば、翌年度繰越支払資金として被告の運営のために最低限必要とされる20億円程度を維持し、収支の均衡を図ることができるよう(被告が確保しておくべき4号基本金は約8億円であるところ、証拠によれば、被告は、顧問の公認会計士とも協議の上で、4号基本金とキャッシュフロー[例えば、被告は、令和4年度において期首から11月末までに資金を約11億円減少させている上、12月には賞与の支払として約7億円が必要となる。]を踏まえ、翌年度繰越支払資金として約20億円が必要である旨判断しており、その判断に不合理な点は認められず、被告の顧問会計士が翌年度繰越支払資金として約23億円が必要である旨指摘していることも踏まえれば、翌年度繰越支払資金として少なくとも約20億円が必要であると認められる。)、本件措置による人件費の削減を実施すべき高度の必要性があったものということができる。
 そして、前記1(6)ス(イ)で認定したとおり、本件措置による給与の減額額は、教職員一人当たり年間で数十万円程度に及んでおり、かつ、単年度ではなく将来にわたって継続的に減額されることになる以上、労働者である専任教員の被る不利益の程度は小さくはないが、本給及び退職金は減額されず、年収と比較した減額割合も5%から6%程度にとどまっているともいえる上、本件措置による減額後も賞与乗率としては給与の5.0か月分が確保されており、企業等の一般的な水準としても高いこと(なお、例えば、東京都職員の賞与乗率は、令和2年度は給与の4.55か月分、令和3年度は給与の4.45か月分、令和4年度は給与の4.55か月分、令和5年度は給与の4.65か月分である)、入試手当についてもその廃止は入学試験の試験監督業務に従事した場合に支給される手当分(入試手当[監督])にとどまり、入試問題の作成に当たった場合に支給される手当分(入試手当[作問])は従前どおり支給されること、文科省が本件通知において被告の高校及び中等教育学校の教員の給与額が神奈川県内の教員の給与平均額よりも著しく高い状況にあることを指摘しており(前記1(6)セ)現に被告の高校の教員の年収の平均額は本件措置による減額後においても神奈川県内の公立校を除く高校の教員の平均額と比較しても平均年齢の差はあるものの高額であること(前記1(6)ス(ウ))に照らせば、労働者の被る不利益の程度がこれを受忍させることが法的に許容できないほど大きいとまではいえず、変更後の労働条件についても相応の合理性が認められる。
 また、前記1(6)ス(ア)及びタで認定したとおり、被告は、かかる教職員の人件費の削減のみならず、授業料その他の学生生徒等からの納付金の改定といった増収対策のほか、役員報酬や管理職手当の縮減といった経営陣の人件費の削減その他の経費削減措置、週休2日制の導入といった代償措置も講じている上、人件費の削減につき、同じく削減対象となる幼稚園小学校及び大学の教職員や大学の教職員が組織する労働組合から反対の意思表示が明確に述べられた形跡はないところ、これらは本件措置による人件費の削減の合理性を間接的に補強するものである。
 加えて、前記1(6)で認定したとおり、被告は、溝上理事長が令和元年9月30日の本件全体会において被告の全職員に対して被告の財務状況が厳しく、人件費の見直しを行うことが避けられないとの趣旨の発言をしてから、令和2年度以降に順次本件措置を行うまで、全職員に対して令和元年10月31日付け書面及び本件書面を交付するなどして、被告の財務の具体的な状況や人件費削減を含む財政再建のための各種取組を行うべき必要性等につき、財務状況のシミュレーション等を踏まえ具体的に説明をするとともに、本件措置を含む令和2年3月31日付け財政再建取組の具体的内容を周知しているほか、原告組合に対しても令和元年10月31日に全職員に対して同日付け書面を交付するのと同時に団体交渉を実施するための連絡をし、令和2年3月の理事会までに6回の団体交渉を行い、最終的な理解は得られていないものの被告の主張の根拠を示すなどして原告組合の理解を得るための相応の努力を重ねてきたものと認められる。
(イ)これらの事情に照らせば、本件措置による、専任教員らに対する本件賞与算出方法に基づく賞与乗率の引下げ及び入試手当(監督)の廃止に係る労使慣行の変更は、労働者の被る不利益を鑑みてもなお高度の必要性に基づく合理的な内容のものであるということができ、かかる労使慣行の変更は有効である。
 また、非常勤講師についての非常勤講師賞与乗率は、前記2で説示したとおり、そもそも労使慣行の成立は認められないが、被告において、本件措置をとる必要性が高いこと、非常勤講師については本件措置についての代替措置が設けられているのかは明らかではないものの、それ以外の点については、専任教員らと同様に合理性も認められることからすれば、非常勤講師の賞与削減の被告の財務状況への影響はそれほど大きくないものであることや、もともと非常勤講師の収入が低額となっているとの原告らの指摘を考慮しても、本件措置による賞与の減額は有効である。
(3)原告らの主張
 ア 原告らは、被告の運営のためには翌年度繰越支払資金として15億円程度を確保することができれば、年度途中に被告の運営資金が不足するような事態が生じることはなく、繰越支払資金として20億円程度は必要ない旨主張する。しかし、証拠によれば、現に令和4年11月末の時点での被告の資金収支差額は、期首と比較してマイナス11億円程度となっているところ、原告らが主張するように、前年度繰越支払資金が15億円程度にとどまる場合には、12月初めの時点での資金は計算上残り4億円程度しかなく、12月に支払うべき教職員の冬季賞与(約6.7億円)及び給与(約3億円)の合計額にも満たず、12月の納付金等による収入を考慮しても、これらの支払ができない可能性が否定できないほか、恒常的に保持することが義務付けられている4号基本金である約8億円を確保することもできていないのであるから、学校法人の財務状況として相当ではなく、原告らの主張は採用することができない。
 なお、原告らは、令和4年度については水道光熱費の急騰があったことに加え、資金収支計算書においてグラウンドの修繕のために施設関係支出として1億円を計上しており、そのような年度の収支を前年度繰越支払資金の検討に用いるべきではないとも主張する。しかし、証拠及び弁論の全趣旨によれば、令和4年度の支出が、平成30年度から令和5年度までと比較して、特段多額であったと認めることはできないから、令和4年度の実績を基に、前年度繰越支払資金の必要額を検討することは相当である。これに反する原告らの主張は採用することができない。
 イ 原告らは、仮に年度途中に被告の運営資金が不足する事態が生じたとしても、金融機関からの短期借入金で対応することができる以上、本件措置による人件費の削減を行う必要はない旨主張する。被告は、令和4年度に金融機関からの借入れを受けている(前記1(6)ソ)ものの、前記1(6)ソで認定したとおり、かかる金融機関からの借入れは、水道光熱費の高騰という予測できない事態が生じたことを受けて文科省に事前に相談の上で金融機関からの運営資金の借換えの限度で融資が認められたにすぎず、被告の運営資金の新規借入れが認められたわけではない。そして、被告が文科省による集中経営指導法人の指定を外れるためには、経営指導強化指標に該当しなくなるなど一定の経営改善を図る必要があり、同指標の一つである外部負債が運用資産を上回らないようにするため、安易に外部負債に当たる金融機関からの借入れを増やせるような状況にはないことは明らかであるから、運営資金の不足を金融機関からの借入れで対応することは現実的ではなく、原告らの主張は採用することができない。
 ウ 原告らは、被告が文科省により集中経営指導法人に指定されているものの、文科省が高校及び中等教育学校を主体とする被告の法人解散を判断する可能性はほとんど考えられないと主張する。しかし、集中経営指導法人に指定され、文科省等による集中的な指導を受けたにも関わらず、経営改善の実績等が上がらなかった場合に部局の募集停止、設置校の廃止及び学校法人解散等を含む経営上の判断を促す通知がされる可能性があることは文科省の通知文書にも明記されており、かかる措置につき、学校法人の内容や規模による限定は何ら付されていない上、原告らの主張は、所管官庁である文科省による収支の改善に向けた指導を軽視するものであって、採用することができない。なお、原告らは、被告が令和5年度から大学に新たな学部を設置予定であることからしても、これを認可した文科省が被告を解散させることはない旨主張するが、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告は、文科省に届出をした上で令和5年に、大学において従前の「スポーツ健康政策学部」を「スポーツ科学部」とし、新たな学環として「現代教養学環」を設置したが、定員数には変更がなかったことが認められ、新学部設置等に関し、文科省の認可が必要であることを前提とする原告らの主張は、上記認定を左右するものではない。
 エ 原告らは、平成21年以降の被告の資金収支が赤字である原因は、高校及び中等教育学校の人件費比率の高さにあるわけではなく、平成27年度の被告の創立50周年記念事業のための借入れによる借入金等返済支出が多額であったことによるものであり、教職員がかかる被告の経営の失敗による多額の借財の責任を負わされる理由はない旨主張する。しかし、そもそも、このような借入金等返済支出が記載されない事業活動収支が赤字となっており、これを改善する必要がある。そして、本件で議論されるべきは、被告が平成27年度に行った50周年記念事業その他の過去の経営判断の当否ではなく、あくまで令和2年3月の本件措置による労使慣行の変更の可否であり、本件措置による賞与及び入試手当の削減は、原告個人らに不利益を被らせるものではあるが、前記のとおり、令和2年3月時点での本件措置による労使慣行の変更の必要性や合理性が認められる以上、原告らの主張は採用することができない。
 オ 原告らは、原告組合との団体交渉における前記第3の2「原告らの主張」欄(3)記載の被告の各行為がいずれも原告組合に対する誠実交渉義務に違反しており、本件措置の不合理性を基礎付ける事情である旨主張する。
(ア)原告は、令和元年10月31日付け財政再建案につき、原告組合に事前に開示することなく、全教職員に対してこれを交付したことを問題にしている。しかし、同案による労働条件の変更については、原告組合に所属する中学校高校中等教育学校の教職員のみに関係するものではなく、大学、小学校及び幼稚園を含む被告の全教職員に関係するものである以上、必ず教職員への開示に先立って原告組合に同案を開示しなければならないまでの合理的理由は見出し難い。また、その経緯をみても、前記1(6)イ(ウ)及びウ(ア)で認定したとおり、被告は、令和元年10月4日から同月16日にかけて原告組合から団体交渉に応じるよう求められた際にも、その都度、労使協議の対象となる具体的な財政再建案を策定中であり、策定後に団体交渉が必要な事項については労使協議をする用意がある旨を伝えており、直ちに団体交渉に応じることができない理由を繰り返し説明している上、現に、同月30日に理事会の承認を得て令和元年10月31日付け財政再建案が確定した後は、速やかに全教職員に対して同案を送付するとともに、原告組合に対しては、執行委員長である原告○○に書面を直接交付しつつ説明及び協議の場を設けることを依頼し、約2週間後の同年11月15日には団体交渉が開始され、同日から令和2年3月11日までの間、人件費削減を議題とする合計6回の団体交渉が行われていることも考慮すれば、被告の交渉態度は誠実交渉義務に違反するものではなく、同案の交付の経緯については、本件措置による労使慣行の変更の必要性や合理性を失わせるものではない。したがって、原告らの主張は採用することができない。
(イ)原告らは、被告が令和2年2月14日の第198回団体交渉において平成29年シミュレーションを開示しなかったことを問題にしている。当時、原告組合と被告との団体交渉において協議されていたのは、令和元年10月31日付け各シミュレーションに基づく同日付け財政再建案であるところ、被告は、要旨、平成29年シミュレーションは令和元年10月31日付け各シミュレーションに影響せず、平成29年シミュレーションを開示しなくても令和元年10月31日付け各シミュレーションの合理性及び正当性の判断は可能であるとしてその開示を拒否しており(前記1(6)カ(オ)、キ(イ)及びケ(イ)参照)、現に令和元年10月31日付け各シミュレーションは、大学基準協会からの指摘を受け、平成29年シミュレーションに依拠せずーから新しく作成されたものであって(前記1(6)ア、ウ(ア))、令和元年10月31日付け各シミュレーションに関する労使協議に当たり平成29年シミュレーションの検討が必須であったとはいえない上、前記1(6)で認定した労使交渉における原告組合の対応等からみて、被告の経営陣の経営責任を追及することが原告組合として平成29年シミュレーションの開示を求める理由の一つであったことは明らかであり、平成29年シミュレーションを開示した場合には、過去の被告の経営判断の当否に議論が及ぶことは避けられず、労使協議がより一層錯綜したものになった可能性が高かったことも踏まえれば、平成29年シミュレーションを開示しなかったことが直ちに誠実交渉義務に違反するとまではいえず、本件措置による労使慣行の変更の必要性や合理性を失わせるものではない。したがって、原告らの主張は採用することができない。
 なお、前記1(5)で認定したとおり、平岩前理事長が、平成29年5月26日の団体交渉において、高校の入学者が720名を下回らない場合には教職員の賞与の維持が可能であるかのような発言をしているものと認められ、平成29年当時の被告の将来の財務状況に関する見通しが甘かったこと自体は否定できないが、過去の経営判断の誤りにすぎず、そのことから本件措置による労使慣行の変更の必要性や合理性が直ちに失われることにならない。
(ウ)原告らは、前記第3の2「原告らの主張」欄(3)イ(イ)記載のとおり、被告が原告組合から団体交渉において示された提案の検討を拒絶した旨主張する。しかし、前記1(6)で認定したとおり、いずれの提案についても、被告として検討自体を拒絶したわけではなく、検討の上で採用する合理的理由がないとしてこれを受け入れなかったにすぎず、原告らの主張は、その前提を欠いており、採用することができない。
(エ)原告らは、被告が令和元年11月に将来の資金収支のシミュレーションをするに当たって支出が多額であった平成30年度の資金収支を用いていることを問題にしているが、令和元年11月の時点で将来の財務シミュレーションをするに当たり前年度の資金収支を用いることに特に不合理な点はなく、相当であって、本件措置による人件費削減の必要性や合理性を失わせるものではないから、原告らの主張は採用することができない。
(オ)原告らは、本件資金収支シミュレーションで初めて施設関係支出を計上したことを問題にしているが、これに合理的理由があることは前記(2)ア(イ)で示したとおりであり、原告らの主張は採用することができない。
(カ)原告らは、減価償却費として一定の概算値を採用したことを問題にしているが、これに合理的理由があることは前記(2)ア(イ)fで説示したとおりであり、原告らの主張は採用することができない。
(キ)原告らは、被告が原告組合と十分な協議をしないまま人件費の削減を決定した旨主張する。しかし、前記(2)イ(ア)で説示したとおり、被告は、令和元年10月31日に全職員に対して同日付け書面を交付するのと同時に原告組合に対して団体交渉を実施するための連絡をし、令和2年3月28日の理事会までに6回の団体交渉を行い、最終的な理解は得られていないものの被告の主張の根拠を示すなどして原告組合の理解を得るための相応の努力を重ねてきたものと認められ、原告組合との交渉における被告の対応は、誠実交渉義務に違反するものではなく、本件措置による人件費削減の必要性や合理性を失わせるものではない。したがって、原告らの主張は採用することができない。
 カ なお、前記1(6)アで認定したとおり、被告が平成30年に大学基準協会に対して提出した報告書には、要旨、減価償却費を除くと被告の事業活動収支の均衡がとれているとの記載があるものの、大学基準協会による認証評価を無事に通過するための便宜的な説明にすぎない面も否定できない上、大学基準協会からは財務評価につき最低のC評価がされるとともに、財務状況の改善に向けての是正勧告がされていること、前記(2)イで説示した各事情に照らし、同報告書の記載から本件措置当時の被告の財務状況に問題がないとはいえないことは明らかであり、上記結論を左右するものではない。
(4)小括
 以上によれば、本件賞与算出方法に基づく賞与及び11万6000円の入試手当(監督)の支給を本件措置により変更・廃止したこと、本件措置による非常勤講師に対する賞与の減額はいずれも有効であり、原告個人らの請求はいずれも理由がない。

2021年 4月 6日 桐蔭学園の教員43名と労働組合が提訴!~神奈川県労委も結審、命令へ!~
2021年 4月24日 「週刊現代」巨額赤字を抱えた名門・桐蔭学園、「教員の給与カット」で内紛が起こっていた…!
2021年 5月15日 桐蔭学園事件、第1回口頭弁論期日で前野委員長が意見陳述♪
2021年 5月26日 「ダイヤモンド・オンライン」スポーツ名門の桐蔭学園で「エリート教師」43人が大反乱!ボーナス減額に提訴
2021年 7月 9日 桐蔭学園未払賃金等請求事件で桐蔭学園が反論~大幅な赤字は生徒数の減少が原因?~
2021年 8月 7日 桐蔭学園の誠実交渉義務違反(労組法7条2号)と支配介入(労組法7条3号)を認定!~神奈川県労委が救済命令~
2021年 8月10日 「ダイヤモンド・オンライン」名門・桐蔭学園に労働委が「不当労働」判断、賞与減額巡り教師とバトル
2021年 9月18日 桐蔭学園事件、弁論更新の意見陳述!中労委の期日も決まる♪
2022年 1月15日 原告46人目は非常勤講師!文書提出命令を申立て!中労委も調査始まる♪~桐蔭学園事件~
2022年 3月31日 桐蔭学園事件、賞与の決定はいつ?&請求の追加はいつまで?
2022年 8月27日 桐蔭学園事件、裁判中も賞与の減額が継続。。。
2022年12月28日 桐蔭学園事件、審理が進む~神奈川県労委命令もようやく公開される♪
2024年 4月13日 桐蔭学園事件、中労委&裁判、ともに証人尋問へ♪ ~事件は大詰めに~
2024年 8月22日 桐蔭学園事件、中労委&裁判ともに結審、判決言渡し期日は12月26日

2024年12月26日 桐蔭学園賃金減額無効訴訟は不当判決=賞与及び入試手当の支給について民法92条により労使慣行としての法的効力を認めながら、不利益変更を認めた不当判決

 弁護士の中川勝之です。
 渋谷共同法律事務所萩尾健太弁護士(主任)、横浜合同法律事務所田井勝弁護士と共に学校法人桐蔭学園を相手方とする裁判と不当労働行為救済命令申立事件を受任しています。
 裁判については、本日2024年12月26日(木)午後1時10分から判決言渡しがありました。大変残念ですが、不当判決でした。たたかいの場は控訴審(東京高等裁判所)に移ります。引き続き、ご支援、ご協力お願いします。
 判決にあたり、桐蔭学園教職員労働組合、桐蔭学園賃金減額無効訴訟原告団及び桐蔭学園賃金減額無効訴訟弁護団として声明を発表したので、全文を紹介します。

声明

1 本日、横浜地方裁判所第7民事部(眞鍋美穂子裁判長)は、学校法人桐蔭学園による教職員の賃金減額措置の無効を求める訴訟(令和3年(ワ)第657号等)において、原告らの訴えを棄却する不当な判断を示した。

2 本裁判について

 本裁判は、被告・学校法人桐蔭学園が、法人(学園)の財政再建取組として、令和2年度以降、教職員に関する人件費削減とし、賃金カット措置(賞与支給乗率の引き下げ、年齢別加算等の廃止、入試手当の廃止)を実行したことについて、教員46名と桐蔭学園労働組合が、その措置の無効と未払い賃金の支払いを求める訴訟である。

 学園における教職員の賞与の算出方法は、1996(平成8)年から2020(令和2)年まで25年間、変更されたことがなかった。また入試手当についても、教員に一貫して同一の額11万6000円が支給され続けてきたのであり、ゆえに、これら支給に関しては、労働者と法人との間に法的効力のある労使慣行が成立していた。にもかかわらず、学園は、同賃金カット措置を実行するに際し、労働組合と十分な協議をしようとせず、また教職員から個別の同意を取ろうともせず、一方的に実行したものである。

 また、学園は同措置を実行する理由として財政難を上げるものの、その根拠である財務シミュレーションにおいて、高校の入学者数が実態と大きくかけ離れて減らされているから、学園の主張について信用性が乏しいといえる事情が存した。そのほかにもこれまでの学園経営において、経営陣の放漫経営について責任を取ろうとしなかった。

 いうまでもなく、賃金は労働者の生活を支えるものであり、その減額は労働条件の不利益変更そのものである。ゆえに、その減額について労働者と徹底協議の上、個別に同意を取るべきであるところ、本件で学園はそのような措置を取らなかったのであるから、その姿勢は許されるものではない。

 本件については、神奈川県労働委員会は、学園が本件の賃金カット措置を決定する過程において労働組合との間で不当労働行為を行ったとして救済命令を下している(令和3年7月27日)。学園は労働組合との交渉においても不当な対応を行ったものであり、その不当性が厳しく判断されるべきである。

3 判決の内容

 本判決において、裁判所は、賞与算出方法や入試手当の支給について民法92条により、法的効力ある労使慣行が成立していたとした。この点は、当然ではあるが重要な判断である。一方で非常勤講師の賞与算出についてはかかる法的効力を否定した。

 しかし、その労使慣行としての法的効力が生じる以上、原則的に労使間の合意(労契法8条)が必要となると述べる一方で、継続的な契約である労働契約故、その変更の必要性があるから、労使の合意なくとも労契法10条による就業規則の変更乃至就業規則変更に準じ、変更することも可能とした(判決58頁)。そのうえで、学園の述べる経営不調の理由をすべて受け入れ、原告らの主張するシミュレーションの不当性、旧経営陣による経営判断の誤りの実態などをすべて無視し、今回のカット措置を有効とした。

 また、学園の労働組合との交渉においても不当性はないなどとする判断を下した。

 賃金が重要な労働条件であり、その変更について合意のみならず、変更の必要性において高度の変更の必要性が要求されることは当然である。本判決は労働者の権利を侵害する極めて不当な判決である。

4 本判決については早期に正しく見直されるべきである。われわれは本判決の不当性に異議を訴え、控訴するとともに、本件最終解決まで断固としてたたかいぬくことを決意する。また学園に対し、今回の賃金カット措置が問題であることを認め、これまでの姿勢を改め、本件の解決に向けてわれわれと早期に協議すべきことを強く訴える所存である。

令和6年12月26日

桐蔭学園教職員労働組合 

桐蔭学園賃金減額無効訴訟原告団 

桐蔭学園賃金減額無効訴訟弁護団

2021年 4月 6日 桐蔭学園の教員43名と労働組合が提訴!~神奈川県労委も結審、命令へ!~
2021年 4月24日 「週刊現代」巨額赤字を抱えた名門・桐蔭学園、「教員の給与カット」で内紛が起こっていた…!
2021年 5月15日 桐蔭学園事件、第1回口頭弁論期日で前野委員長が意見陳述♪
2021年 5月26日 「ダイヤモンド・オンライン」スポーツ名門の桐蔭学園で「エリート教師」43人が大反乱!ボーナス減額に提訴
2021年 7月 9日 桐蔭学園未払賃金等請求事件で桐蔭学園が反論~大幅な赤字は生徒数の減少が原因?~
2021年 8月 7日 桐蔭学園の誠実交渉義務違反(労組法7条2号)と支配介入(労組法7条3号)を認定!~神奈川県労委が救済命令~
2021年 8月10日 「ダイヤモンド・オンライン」名門・桐蔭学園に労働委が「不当労働」判断、賞与減額巡り教師とバトル
2021年 9月18日 桐蔭学園事件、弁論更新の意見陳述!中労委の期日も決まる♪
2022年 1月15日 原告46人目は非常勤講師!文書提出命令を申立て!中労委も調査始まる♪~桐蔭学園事件~
2022年 3月31日 桐蔭学園事件、賞与の決定はいつ?&請求の追加はいつまで?
2022年 8月27日 桐蔭学園事件、裁判中も賞与の減額が継続。。。
2022年12月28日 桐蔭学園事件、審理が進む~神奈川県労委命令もようやく公開される♪
2024年 4月13日 桐蔭学園事件、中労委&裁判、ともに証人尋問へ♪ ~事件は大詰めに~
2024年 8月22日 桐蔭学園事件、中労委&裁判ともに結審、判決言渡し期日は12月26日
1735214508684

 こんにちは、弁護士の伊久間勇星です。
 本日、経歴詐称系SES企業株式会社フロンティア(現代表取締役:佐藤晃司氏、前代表取締役:内海章紀氏)が元従業員のSEに対して1億2500万円を損害賠償請求した訴訟において、株式会社フロンティアの請求を全部棄却する全面勝訴判決(東京地方裁判所民事第37部、裁判長:味元厚二郎)を獲得いたしました。
 本件の担当弁護士は中川勝之弁護士、今泉義竜弁護士、江夏大樹弁護士と私の4人です。
 
1 本件の概要
 もともとこの事件というのは、元SE の3名がかつて所属していた経歴詐称系SES企業の代表取締役らの宮田亜美氏及び内海章紀氏に対して経歴詐称等の強要・プログラミングスクール詐欺・賃金の天引きについて損害賠償請求した事件(本年7月22日のブログ記事に詳述)の報復・嫌がらせとして提起されたスラップ訴訟です。
 この別件訴訟において、株式会社フロンティアの行っていた①未経験の新入社員に「スクール」と称して経歴詐称の方法を指導するプログラミングスクール詐欺②取引先に経験者を派遣するように装って実際には経歴詐称させた未経験の従業員を派遣して経験者を派遣した場合に得られる額の報酬を得ることにより利益を得ていた行為の双方が明確に「詐欺行為」であることが認定され、代表取締役らに計約516万円の賠償が命じられました。
 この判決が出る直前の和解協議期日において内海氏・宮田氏には既に裁判所から明確に敗訴心証が示されており、これに対して強い不満をぶつけていました。
 そこで、内海氏及び宮田氏は、敗訴心証の報復・嫌がらせとして、この別件訴訟で原告となっていた元従業員の一人をターゲットにして、「この元従業員に風評被害をばら撒かれて会社の採用が妨害されたせいで人を雇えなくなって3億5640万円もの損害が出た。だからその一部である1億2500万円を賠償しろ」という内容の裁判を提起したのが今回の事件です。
 株式会社フロンティアが取引先を失い、従業員を雇えなくなったのは経歴詐称により利益を得る詐欺行為や従業員らに対するプログラミングスクール詐欺が原因であることは明白であり、元従業員に責任転嫁するなど論外です。
 
2 原告側が裁判から逃げ出す異様な展開
 さて、この裁判ですが、別件訴訟判決を第1回期日から裁判所が本訴訟の問題点(被告の行為が全く特定されていない、被告の行為によって求職者が辞退したのか、辞退した求職者の氏名・人数、辞退した求職者が入社していれば取引先に派遣されたのかが一切不明である等)について原告代理人弁護士に厳しく追及し、訴訟の取下げを勧告する異様な展開から始まりました。
 また第1回期日上において、こちらから原告側代理人弁護士に対して、このような訴訟の提起は経歴詐称詐欺を助長するものであり極めて問題があることを追及しました。
 すると、第1回期日後間もなく代理人弁護士が辞任しました。
 第2回期日では、新しい代理人弁護士が出席したものの、その弁護士も第3回期日前に辞任しました。
 結局、第3回期日には原告側は弁護士はおろか原告本人すら出席せず、そのまま弁論終結となりました。
 1億2500万円請求する訴訟でこれほど粗末・稚拙な訴訟追行は通常あり得ず、いかにこのスラップ訴訟が荒唐無稽なものであったかお分かりいただけるかと思います。

3 判決内容
 本件では裁判所の判断が極めて簡潔に1頁にまとめられていたので、それをそのままこちらに添付したいと思います。
スラップ訴訟 判決画像

 以上の通り、本判決はSES企業の請求をたった1頁で一刀両断し、さらにはSES企業の経歴詐称詐欺行為の実態を求職者に伝えることに何らの違法性も無いことを示しました。
 この判決内容は、今後経歴詐称系SES企業の実態を告発・発信するうえで今後のスラップ訴訟に対する大きな抑止力になると確信しています。
 なお、この経歴詐称SES詐欺グループは、これ以外にも元従業員に対して約2600万円を請求する別件スラップ訴訟を起こしており、本来司法で裁かれるべき詐欺グループが訴権を嫌がらせ目的で濫用するというモラルハザードの様相を呈しています(ちなみに、こちらの別件スラップ訴訟は詐欺行為を厳しく糾弾する答弁書を提出した後間もなく原告代理人弁護士が辞任して第1回期日に原告側が誰も出席せず逃げ出すというこれまた異様な展開となっています。)。
 この詐欺グループは未だに新しい会社を設立し続けて同様の詐欺行為を継続しています、詐欺グループらはその収益を下らないスラップ訴訟などではなく被害者らへの弁済に充てるべきです(この経歴詐称系SES詐欺グループについては、首都圏青年ユニオンがこちらのHPに注意喚起しております。)。
 なお、今回の悪質極まりないスラップ訴訟の提起は当然に不法行為を構成するので、当事者となっている株式会社フロンティアに加えて、Tech Love株式会社・内海章紀氏・宮田亜美氏及び佐藤晃司氏を被告として損害賠償請求訴訟を提起しております。
 こちらの訴訟についても判決を獲得後ご報告させていただきたいと思います。
 最近では、このSES詐欺グループ企業だけでなく、ブラック会社が(元)従業員に対して高額の金員を請求するスラップ訴訟が増えているという実感があります。しかも、そのようなスラップ訴訟を起こす企業というのはえてして労働法を遵守する意識が乏しいため反訴で未払賃金等出来るケースが度々あります。
 是非、労働者・元従業員の方で会社から賠償請求されてしまったケースなどでお困りの際は、お気軽に弊所HPからご相談いただければと思います。

 弁護士の笹山尚人です。

 経済産業省が、「第7次エネルギー計画」というものの原案を発表しました。
 我が国のエネルギーは今後どのようにあるべきかについての中期的な計画書で、現在実行中の「第6次」を改訂して新たな方針にバージョンアップしようとするものです。
 エネルギーを考えるときは、地球環境問題と切り離すことができず、また、私の事件活動との関係では、そこに原子力の活用の是非、割合が関わってきます。
 そこで、今回のこの原案を拝見して、考えた個人的見解を、投稿して、この問題の議論に供したいと考えました
 以下、少し長いですが、お付き合いいただければと存じます。
 なお、以下では、「第7次エネルギー基本計画の原案」を単に「原案」と呼びます。

1,原案の概要
 経済産業省は2024年12月17日、3年ぶりに改定する原案を公表しました。

 報道では次のように紹介されています。

「経産省は第7次となる基本計画の策定を進めており、同日開いた有識者会議「総合資源エネルギー調査会」の分科会に原案を示した。政府は25年3月までに基本計画の閣議決定を目指す。」
「原案では2040年度の電源構成について、電力の安定供給と脱炭素化を両立させるため再生可能エネルギーと原子力を「最大限活用する」との方針を明記。原子力に関しては現行の基本計画の「可能な限り依存度を低減する」との表現を削除し、東日本大震災以降のエネルギー政策からの転換を打ち出した。」(同日付読売オンラインより)

2,結論の感想
 我が国エネルギー構成において、原発依存度を低減させる方向と決別し、原発を「最大限活用する」とした方針には、、福島第一原発事故の甚大な被害と向き合い、この甚大な被害をもたらした国と東電の無責任な行動を目の当たりにし、被害者の苦難とその権利救済のための活動に邁進してきた弁護団の一員として、慨嘆するほかありませんでした。
 以下その理由を3点にわたって述べます。

3,なにが「安全性の確保」なのか判然とせず、事故のリスクと壊滅的被害が想定されること
 福島第一原発はいまだ先の見えない廃炉の途上であり、その内部の詳しい状況や事故によってどこにどのような異変が起きたのかをつかめたわけではありません。それゆえ、事故がどのように起こったのか、何をすれば事故を防げたのかも、100%解明できたわけではありません。

 原案は、原発の運用にあたって、「安全性の確保が大前提」とは言います。しかし、なにをもって「安全性が確保される」といえるのかは、いまだわかっていないのです。

 国の言う安全性の確保とは、現在の規制基準を達成することに過ぎません。この規制基準で安全であるという保障はどこにもなく、東海第二原発や女川原発、島根原発などでは、規制基準に盛り込まれていないいざというときの避難計画の不備も指摘されています。

 このような「安全性の確保」では、福島第一原発事故のような甚大な事故が発生しない保障などどこにもないのです。

 福島第一原発事故は甚大な被害をもたらしましたが、首都圏が避難を求められるほどの被害を発生させることはありませんでした。ですが、この規模の事故にとどまったことは、複数の偶然による幸運の産物であることがわかっています。この次の事故で、福島第一原発事故のような幸運に恵まれなかったら、現在構想しているエネルギー計画など根底から吹っ飛んでしまいます。この原案を構想した人々、機関が、そのことに想像を巡らすことはしないのだろうかと考えます。

4,「トイレのないマンション」問題
 今ひとつ原発の問題で考えなければならないことは、「トイレのないマンション」問題です。

 原発の利用によって生み出される高濃度の放射性廃棄物について、これをどのように最終処分するかが決まっていない問題です。この点については、原案も、地積処分をすることを方針として、「わが国の地質環境において地層処分は技術的な成立性及び信頼性があるという前提に地層処分事業を進め、これに全力で取り組む」としています。原案が根拠とする論文も拝読しましたが、まあ正直に言って難しすぎて良く分かりませんでした。このあたりは、ぜひ地質学者や地震学者といった専門家の皆様に検証して欲しいところですが、素人的には懸念が残ります。
 論文が最初に発表されたのが1999年ですが、原発の運用は1970年代から始まっています。最終処分をどうするかも考え、決まらないうちから運用されるものの胡散臭さを感じてしまいます。

5,脱炭素社会にとって高コストで不合理な選択
 エネルギー資源に乏しい我が国において、安定的なエネルギーを得るためには、これまで述べたような懸念はあっても、ある意味「必要悪」として使うのだという意見もあるでしょう。この原案を構想した人々、機関は、脱炭素社会を目指すためのクリーンエネルギーであることも理由として付加して、そう言いそうです。しかし、この意見は正しいのでしょうか。

 脱炭素社会を目指すというなら、地球環境における脱炭素化を目指す運動の中でいわば「常識」となりつつあるのは、今必要なことは「エネルギー利用見直しの努力」と「再生可能エネルギーの抜本的拡充」ではないでしょうか。

 まずはエネルギーの使い方そのものを見直さなければならない。例えば、住宅で断熱性を確保することや通気性の良さを確保することなどの努力が進められています。わが国でも、建築物省エネ法で、断熱材を挿入すること、窓を二重サッシにすること、LED照明を導入すること、高効率給湯器を設置することなどを「住宅エコ改修工事」として補助金を支出する制度が整備されるなどしています。こうしたエネルギーを効率よく活用し、エネルギー消費量を全体に減少させる。

 その上で、エネルギー源は、近年技術革新の著しい再生可能エネルギーに最大限依拠することする。そして、そのことをリアルにしているのは、「再生可能エネルギーにかかるコストが急速に低コスト化していること」です。

 近時開かれた、青法協の会員を中心に開かれた第18回人権研究交流集会(2024年11月23日、24日)の「原発と地球」分科会で発表された東北大の明日香壽川教授の報告によれば、再生可能エネルギーの開発にかけるコストと、原発の利用にかけるコストを比較した場合、前者が後者より低価格で済むとのことです。

 太陽光や風力、水力といった再生可能エネルギーを追求することは、技術的、環境的など複数の問題をもたらし発展途上の部分があるとはいえ、上記1,2で述べたような壊滅的、根本的な問題を抱えず、かつ、低コストで済むので、原発に比べれば選択として合理性があるといえます。

6,まとめ
 以上からすれば、わが国のエネルギー政策としては、「エネルギー利用見直しの努力」と「再生可能エネルギーの抜本的拡充」を中心に進めるべきであり、そのために原案の掲げている「40年度の電源構成目標で、再生可能エネルギーを4~5割、原子力を2割、火力を3~4割」という目標はまだまだ不十分と思われます。

 例えば、自然エネルギー財団は2024年6月に「脱炭素へのエネルギー転換シナリオ」を発表していますが、その中では、2035年の電力供給の80%を再生可能エネルギーで賄うことが可能であるとしています。このくらいの勢いで再エネ推進を検討する大胆な方針を打ち出し、原子力に依存せず、火力依存を低減させる尽力が必要でしょう。

 また原案の目標を前提としても、現在のエネルギー基本計画では30年度目標として再生エネを36~38%、原子力を20~22%、火力を41%としているところ、実際には、22年度実績で火力依存が7割を超えていて、再エネは22%。抜本的な尽力抜きに、30年度も40年度も目標達成などおぼつきません。

 結論として、原発依存のエネルギー政策は推進すべきではありません。従来の「可能な限り依存度を低減する」から、「原発はエネルギーとして活用しない」に改めるべきです。

                                    以 上

20241218日、信州大学雇止め事件@長野地裁松本支部で復職和解が成立しました。

原告のブライアリー先生は、従前とほぼ同一の労働条件で来年20254月から信州大学の教壇に復帰します。

2024430日に提訴し、5月、7月、10月の期日を経て第4回目の期日での和解成立と訴訟としては早期の勝利解決となりました。

 

各紙・各局が報じてくれています。
長野:雇い止め信大側と和解 元准教授:地域ニュース : 読売新聞

4月から復職へ イギリス人元准教授が「雇い止めの無効」求めた訴訟 信州大学側と和解成立 | SBC NEWS |長野のニュース | SBC信越放送

雇い止め地位確認求めた裁判 元准教授が信州大学に復職で和解「4月から大学で教えることを楽しみに」(2024年12月18日掲載)|テレビ信州NEWS NNN

abn長野朝日放送 »県内ニュース|イギリス国籍の信大元准教授の雇止め裁判は和解へ

イギリス国籍の元教員、信州大に復職へ 地位確認訴訟で和解成立|信濃毎日新聞デジタル 信州・長野県のニュースサイト
 
信州大学から「不当な雇い止め」を受けたとしてイギリス人の元准教授が起こした裁判 和解が成立し復職へ「日本の充実した労働者を守る法律によって復職できた」 | 長野県内のニュース | NBS 長野放送


信州大学もウェブサイトでコメントを発表しました。

本法人を被告とした地位確認等請求事件の和解について |お知らせ |信州大学

 

 

裁判には、毎回傍聴席に入りきれないほどの多くの支援者が駆けつけてくれました。

また、提訴時より地元の記者のみなさんに大きく報じていただき、毎回の期日後の記者会見でも熱心に取材をしていただきました。

法廷内での論争においては、羽衣学園事件弁護団の中西先生に提供いただいた各種の文献・資料、信州大学教職員組合から提供された様々な情報が大いに役立ちました。
法廷での論争の中で、本件では任期法の適用の余地がないこと、無期転換を阻止するためだけになされた本件雇止めに合理性がないことを明らかにすることができたと自負しています。

法廷内での論争と法廷外の世論による圧力、そして最後は信州大学教職員組合の粘り強い交渉力により、本件の早期和解を実現することができました。

みなで力を合わせて勝ち取ったこの復職和解を誇りに思います。


なお、和解条項には、復職後の労働条件や解決金とともに、

「被告は、今後本件のような紛争が生じないよう、有期契約労働者の雇用の安定を図ることを目的とした労働契約法の趣旨を十分に踏まえた対応をすることを真摯に検討する。」
との条項も入りました。
信州大学には、他の有期契約労働者の雇用の安定・待遇改善についても取り組んでいただきたいと思います。

 

解決にあたっての声明を以下に貼り付けます。

信州大学雇止め事件の復職和解解決にあたっての声明

 

20241218

 

信州大学教職員組合

全国大学高専教職員組合(全大教)弁護団

原告弁護団

弁護士 今泉義竜

同   今村幸次郎

同   早田由布子

同   笹山尚人

同   小部正治

 

第1 事件の概要

原告(ブライアリー マーク アラン氏)は、19年にわたり信州大学の「外国語・外国事情担当教員」(准教授)として12年生の英語教育に携わってきた。しかし信州大学は、2015年の就業規則改定で定めた10年の上限を迎えること、「外国語・外国事情担当教員」制度の廃止をすることを理由に20243月末日をもって原告を雇止めした。当時外国語・外国事情担当教員は原告含め5名いたが(英語3名、ドイツ語1名、韓国語1名)、そのうち4名が同時に雇止めされた。2024430日、原告は長野地裁松本支部に地位確認を求め提訴した。

 

第2 本件の争点

本件の争点は、①無期契約への転換が認められるか(労働契約法18条)、②雇止めが許されるか(労働契約法19条)の二点であった。

争点①について、信州大学は、原告に労働契約法18条の特例である大学教員任期法(任期法)71項が適用される結果、無期転換申込権の発生までの通算契約期間は10年であり、労働契約法18条施行(2013年)後最初の契約更新時である2015年から未だ10年を経過していないため無期転換権は発生していない旨主張した。これに対し原告は、原告の職は任期法の「先端的、学際的又は総合的な教育研究であることその他の当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性に鑑み、多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職」に該当しないとして、労働契約法18条の原則どおり5年の経過により無期転換権が発生している旨主張した。

 また、争点②について、原告は長期間の更新、更新手続の形骸化、必修科目である英語の授業の恒常性などから、本件雇止めは認められない旨主張した。この点について信州大学は、更新上限を説明していたことや「外国語・外国事情担当教員」の廃止が中期計画に基づくものであることなどを理由に雇止めを正当化した。

第3 本件和解の成立

 訴訟上の主張の応酬と並行して、信州大学教職員組合による復職交渉が信州大学との間で行われていたが、このたび信州大学は原告を復職させることを受け入れ、和解に至った。

 和解の内容は、大学側が解決金を支払うとともに、准教授として、従前とほぼ同一の労働条件で20254月から原告を復職させるというものである。無期契約ではないものの、本件のような紛争が再び起きることはないと言える内容となっており、実質的には全面的勝利解決と評価できる。労働組合と多数の支援者、弁護団が力を合わせて勝ち取ることができたこの解決を喜ぶとともに、原告と組合の要求を受け入れて復職による解決を選択した信州大学の決断を高く評価する。

 本件和解において信州大学は、「今後本件のような紛争が生じないよう、有期契約労働者の雇用の安定を図ることを目的とした労働契約法の趣旨を十分に踏まえた対応をすることを真摯に検討する。」と約束した。信州大学には、原告のみならず、他の有期契約労働者についても雇用の安定と待遇の改善を実現することを強く求めたい。

 

第4 任期法についての課題

任期法の解釈を巡っては、2023118日、学校法人羽衣学園(羽衣国際大学)事件大阪高裁判決が任期法の適用を限定解釈する判断基準を立てて専任講師の無期転換を認める判決を出したものの、20241031日、最高裁は「各大学等の実情を踏まえた判断を尊重」すべきとして大阪高裁判決を破棄・差戻をする判断をした。

労働契約法18条の趣旨をないがしろにする最高裁の不当判決は、いかなる場合に任期法の適用があるのか明確な判断基準を立てておらず、ほぼ結論だけの事例判断のため先例的価値はほとんどないに等しい。もっとも、最高裁判決の考え方を踏まえても、もっぱら語学教育を担当していた本件の原告に任期法が適用される余地はないと考えられる。

大学はじめ教育機関における有期契約労働者の雇用の不安定は大きな問題であり、今回のような任期法の解釈・適用をめぐっても多くの紛争が起きている。

有期契約労働者の雇用の安定を図ることを目的とした労働契約法18条の趣旨を貫徹した法解釈が司法には求められるし、そもそも国会において必要な議論がなされないまま拙速に制定され現在の混乱を招いている任期法の10年特例については廃止する方向での法改正が必要である。

信州大学教職員組合及び弁護団は、今後も労働者の権利擁護のため力を尽くす決意である。

以上

20241218_152843 (1)
松本城をバックに、ブライアリー先生と信州大学教職員組合の成澤先生と。

提訴時の記事はこちら👇
信州大学英語教員雇止め事件、長野地裁松本支部に提訴。 : 東京法律事務所blog

東京法律事務所労働相談は東京法律事務所へ東京法律事務所四谷姉妹への依頼はこちら
ギャラリー
  • 桐蔭学園事件、高裁第1回期日は6月12日~ご支援、ご協力お願いします~
  • 東京音楽大学事件・全面勝利命令獲得!!!~全類型の不当労働行為を認定~
  • SES詐欺企業miifuzとH&Future等のスラップ訴訟で逆にmiifuzに未払賃金支払を命じる全面勝訴判決を獲得しました!
  • 「八紘一宇」の塔(「平和の塔」)を見学
  • 「八紘一宇」の塔(「平和の塔」)を見学
  • 「八紘一宇」の塔(「平和の塔」)を見学
  • 「八紘一宇」の塔(「平和の塔」)を見学
  • 「八紘一宇」の塔(「平和の塔」)を見学
  • 「八紘一宇」の塔(「平和の塔」)を見学
最新記事
アーカイブ
カテゴリー

↑このページのトップヘ


[8]ページ先頭

©2009-2025 Movatter.jp