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東京法律事務所blog

2017年05月

弁護士の平井哲史です。

昨年11月30日に東京地裁で勝訴判決を受けた尚美学園大学の教員の雇止め事件について、本日、東京高裁でも地裁判決を支持し、原告勝訴となる判決をもらいました。
 裁判所が認めた「20年前の口約束」 大学教員の雇い止め「無効」判決

 この事案は、雇止め事案における使用者側のなすべきことについて警鐘を鳴らしたものと思いますので、長くなりますが紹介をしたいと思います。なお、同大学では、原告とは別の学部の教授2名が定年後の再雇用をされなかったことについてそれぞれ裁判を提起しています。

 

1 事案の概要

  相手は音楽専門学校として開設され、その後、短大、そして大学となった学校法人で、原告は、この大学で教授として65歳で定年を迎えた後、特別専任教員として1年単位の雇用契約となり、1回契約更新をしていた方です。

  平成25年11月に、次年度以降の特別専任教員としての契約を更新しないと通知され、平成26年4月以降は客員教授兼非常勤講師として扱われるようになったため、日本音楽家ユニオンに加入して交渉をしていましたが、らちが明かなかったため平成27年6月に特別専任教員としての地位の確認とバックペイ、そして慰謝料を請求して提訴したものです。

 

2 裁判における争点

(1)契約変更についての合意はあったか

   労働契約の内容は労使の合意で変更するものです(労働契約法8条)。なので、特別専任教員ではなく非常勤講師にするならばその旨の合意が必要です。そこで大学のほうは、①非常勤講師となることについては原告の同意があったと主張して争いました。

(2)契約更新についての合理的期待があり、雇止めについて合理的な理由があったか

   また、同意がなければ特別専任教員としては雇止めをしたことになるので、労働契約法19条により、原告において特別専任教員としての契約更新がされるであろうと期待することに合理的な理由がある場合には、雇止めが客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、雇止めは権利濫用として無効となります。

   そこで、大学のほうは、②原告には特別専任教員としての契約が更新されるであろうと期待することについて合理的な理由はない、③たとえ契約更新について合理的な期待があったと言える場合でも、今回の契約更新をしないと決めたことには合理的な理由があったから、特別専任教員としての契約不更新は適法である旨主張して争いました。

 

3 地裁の判断

(1)非常勤講師になることについての合意はない

   そもそも非常勤講師になることに同意していれば裁判までやるはずはありませんし、合意していれば非常勤講師としての契約書ができているでしょうが、それはありませんでした。さらに原告は、非常勤講師扱いをされる前から特別専任教員のままでいさせてもらいたい旨の手紙を本人が学長に出し、平成26年4月以降も交渉が継続していましたから、合意があったとはとても言えない状況でした。このため、判決でもあっさりと合意ができていないことは明らかとして大学側の主張を退けました。

(2)特別専任教員としての契約更新を期待することについて合理的な理由がある

   次に、契約更新への期待に合理的な理由があるかについては、一般に大学の非常勤講師の場合は、長く勤めていても契約更新について合理的な理由があるとは言えないとされることが多いため、それと同視されないよう、原告が常勤の特別専任教員で、教授会参加資格もあり、70歳までは契約更新の可能性があることが就業規則上明示されていたことを強調しました。

   そして期待については、原告は採用にあたり希望すれば70歳まではできる旨説明を受けていて、実際に原告よりも先に特別専任教員となった方で意に反して70歳手前で契約不更新となった方はいませんでした。もちろん、この運用が時代の趨勢により変化することはありえるわけですが、大学は平成26年2月になって急に65歳定年制を厳格に運用すると言い出したもので、それまでは70歳が事実上の定年となるような運用がされていました。また、原告については、大学が発行している次年度の新入生募集のパンフレットに原告を教授として紹介していましたし、次年度の大学院生の修士論文の考査担当にも予定していました。

   こうした事情をこれでもかと主張をしましたが、判決ではその全部をとりあげることはせず、元学長がもともと特別専任教員は特別な事情でもない限り70歳までやっていただくことを予定したものであったとする陳述書を出しており、かつ、実際にも辞職するか更新を希望しないとした人以外は70歳まで務めていたことなどをとりあげて、契約更新への期待は合理的と判断しました。

(3)契約不更新には合理的な理由はない
 契約不更新については、大学側は、入学者が減ってきていて、それに合わせて教員数も減らす必要があるとか、個人の業績として契約更新にふさわしくないことがあったかのような主張をしていました。

   ですが、原告の所属する学部はもちろん大学全体として定員割れを起こしていなかったし、原告の代わりに新たに後任の教員を採用していましたので、判決では合理的な理由はないとされました。また、大学側の個人的な業績をとりあげての主張については、判決は、その内容が具体性を欠くし、雇用を継続することでどのような支障が生じるのか、前回更新したときと異なる取扱をする必要性、理由はあるのかといったことについて検討した形跡もないと厳しく指摘して退けました。
 全体として、判決は、大学が十分な検討も説明もしないまま単純に大学運営上の都合で年齢の比較的高い教員を辞めさせようとしたことに対して痛烈な批判をしたものと言えます。

 

3 高裁の判断

  これに不服だとして大学側は控訴し、先に控訴審にかかっていた総合政策学部の教授の裁判で、65歳未満で採用されて定年後再雇用になった方は例外なく希望すれば70歳まで契約が更新されていたにもかかわらず、その数が6名であるとして前例とするには数が少ないから定年後再雇用されると期待することに合理的な理由があるとは言えないとした高裁判決を証拠で出してきました。

  ですが、100%の方が定年後、70歳まで、希望すれば契約更新となっていたのですから、その数が多いか少ないかは問題ではありません。この高裁判決は非常識なものです。

  この先行訴訟の高裁判決に対し、本件では、①元学長が70歳までは特別専任教員として雇用を継続するという大学の方針を応募者に説明していたことを、雇用継続を期待する重要な事実と位置づけ、②この運用を変更するというのであれば、その具体的内容、実施時期、周知方法等について議論・検討をした上、運用・方針の変更について、事前に教員らに開示して理解を得るなどの手順を踏むことが必要であったとし、③大学側においてそうした説明をしたという的確な証拠はなく、65歳定年制を厳守することとしたという記録は平成26年2月のことであることを指摘し、さらに、④原告の所属する学部において65歳前に採用され、定年時に特別専任教員となり、その後、70歳まで労働契約が更新された人は3名だけれども、他方で、70歳に達する前に契約を更新しなかった例がないのだから、これは70歳になるまで特別専任教員としての労度契約が更新されるとの期待をもたらす事情の一つとなる、と判断しました。ごくまっとうな判断をしたと思います。

 

4 雑感

  縁あって大学の先生の労働事件をいくつも担当するようになっていますが、大学は常勤の教授の地位はトラブルが起きない限り保護しようとするけど、有期契約の教員、特に非常勤講師の方々については冷たいなと感じます。今回、原告は縁あって日本音楽家ユニオンと出会い、その支援を受けて当事務所に相談に見えました。また、自身が熱心に教えていた学生や一緒にレッスンを担当していた同僚の先生の支援も受けることができました。情けは人のためならずと言いますが、人のために一生懸命努力してきたことが自身に返ってきたと言えると思います。そして、労働組合を頼れば、困難も克服できるのだと改めて思った事件でした。最後まで気は抜けませんがしっかり、勝ち切りたいと思います。最後に、私事ではありますが、この事件を一緒に担当し、地裁判決を聞いてこの世を去った先輩の永盛敦郎弁護士にこの勝訴を報告しようと思います。

弁護士の今泉義竜です。

著名ジャーナリスト・山口敬之氏の不起訴に対し、被害者である女性が検察審査会に不服申立をしたという記事がありました。
「私はレイプされた」。著名ジャーナリストからの被害を、女性が実名で告白
被害者が実名で声をあげるというのは大変勇気のいる、貴重なことだと思います。
検察審査会は真摯に受け止めて公正な判断を下してほしいと思います。

ところで、週刊新潮などの報道によると、
この準強姦罪もみ消しの疑惑がもたれているのが中村格氏という方で、
共謀罪摘発を統括する予定の警察庁組織犯罪対策部長とのことです。
(高山佳奈子先生のフェイスブックからの情報)
警察庁人事

実は、「共謀罪」と「もみ消し」というのは親和性があります。

というのも、共謀罪(テロ等準備罪)法案には、「偽証の共謀罪」も含まれています。
捜査機関の見立てと異なる証言をしようとする者とその支援者(弁護士含む)を
「偽証の共謀容疑」で逮捕することも不可能ではありません。
冤罪を晴らすための第三者の証言についても、証言する前に偽証の共謀で摘発される危険が指摘されています。実際、真実を述べようとする第三者に対する捜査機関による圧力はこれまでにも多く報告されています。

加害者が政権と関係する重要人物である場合にも、
事件をもみ消す目的でこの偽証の共謀罪が濫用される危険は非常に高いと思われます。

共謀罪というのは捜査機関による事件もみ消し、権力の不正隠蔽にも好都合なツールなのです。

弁護士の平井哲史です。

 森友問題や加計学園問題、そして共謀罪と、メディアを騒がす大きな問題の影で、個人情報が気づかない間にダダ漏れにされるおそれのある法案が4月28日に成立しました。
 「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律案」がこれです。問題の本質を隠そうとしたのか、報道では、「次世代医療基盤法案」などとネーミングされていました。

1、同法律のごくおおざっぱな内容

  内容がわかりづらい法律になっていますが、かいつまんで紹介すると次のようになっています。

(1)個人の医療情報を匿名加工して第三者に提供する

 ① まず、国が、国民各人の医療情報を匿名加工する事業者を認定します。
 ② この事業者が全国の医療情報取扱事業者(要は医療機関と薬局など)から医療情報の提供を受けて、この情報について個人の特定ができないように加工します。
 ③ そのうえで、匿名加工事業者から第三者に提供します。
   第三者への提供は、一応次の3つの場合に限られるようです。(同法25条、26条)
   a)他の認定匿名加工医療情報作成事業者から提供を求められた場合
   b)法令に基づく場合
   c)非常事態への対応のため緊急の必要がある場合

 従前、個人の医療情報は、秘匿性の高い情報として、個人の承諾なく勝手に第三者に情報が提供されることはありませんでした。そのもとで、医療機関は、患者個々人に協力をお願いしてデータをとらせてもらい、それを臨床研究に活用することをやってきました。それだと大量の情報から傾向や共通性を見出し、統計データに基づく効率的な対応がしづらい、と考えたのでしょうか、もっと大規模に、本人の明示的な承諾をいちいちとるようなプロセス抜きに個人情報を利用できるようにしようとしたものと言えます。

 第三者に提供できる場合として「法令に基づく場合」というのがあげられていますが、これには研究機関における研究に利用する場合だけでなく、病院・クリニックや製薬企業において研究開発に利用する場合も含まれることになるようです。もし民間企業にも提供できるようになれば、民間企業としては、従前、かなり費用と労力をかけて集めていた情報を、国の力を背景に簡単に入手して儲けに利用できるようになりますね。(ここの部分は主観的評価になります。)

(2)医療機関等からの情報提供はどうやるのか?

  医療機関等では、一応、予め患者に対して、医療情報を匿名加工をする事業者に提供する旨を通知することになっています。(同法30条1項)
  これに対し、患者のほうで、提供してほしくない場合はその旨を医療機関等に伝えなくてはなりません(同法31条1項)。患者のほうが提供の停止を求めない限りは、医療機関等は匿名加工事業者に提供をすることになります。
  医療情報という秘密性の高い情報について、本人が嫌だと言わない限りは提供されてしまうというのは非常に違和感があります。

(3)匿名加工事業者はどういうところが認定されるのか?

  これは現時点では「不明」です。条文を読むと複数が予定されており、しかも認定を受けた匿名加工事業者間での情報のやりとりも認められていますので、それなりの数の事業者になるのではないかと思われます。
  また、利用できないといけませんから、提供を受けた相手からの問い合わせに答えられるよう、治療や投薬の効果や副作用の情報を分析する技術も必要で、そのような技術を有するところ(おそらくは製薬企業と研究機関)だろうと思われます。
  いま、ビッグデータの活用に政府をあげて取り組もうとしていますから、当然、そこにビジネスチャンスを見出して加工事業者になりたいと手をあげる会社はたくさん出てくるでしょう。ただ、それ、情報の管理は大丈夫なんでしょうか?

2、国民のプライバシー権保護等の観点からの懸念

 上でも少し書きましたが、今回の法律にはいくつも疑問があります。

 ① 本人の明示的な了解なしに医療情報を収集してよいのか?

   匿名加工するんだからまぁいいんじゃない?という声もありましょう。ですが、それはあくまで匿名加工事業者から、その情報を利用したい業者に提供される段階の話です。医療機関等から匿名加工事業者に提供される時点では匿名加工はされていません。なので、秘密にしたい個人情報はダダ漏れになると言えます。そういうことをするのに、従来のように、個人の同意書をとりつけて、はっきりと権利侵害になりうる事実を認識してもらい、それについて承諾してもらってから提供するというプロセスを経るならばまだしも、本人が嫌だと言わない限り匿名加工事業者に提供されてしまうというのは、意に反した情報提供となることが懸念されます。場合によっては、「そんな話聞いてない!」と怒った方が医療機関を訴えるなんてことも予想されます。

  個人情報の保護が強調されるようになっている今日、こんなことをやってしまっていいんでしょうか?

 ② 情報の管理はどうするの?

  収集された個人情報は匿名加工事業者において管理をすることになりますが、この事業者は民間業者になるでしょう。当然、情報管理には万全を期すというのでしょうが、近年、多くの企業で顧客情報が漏えいし大騒ぎになる事態が報道されています。そこで漏れる顧客情報には様々なものがありますが、住所・氏名・生年月日ならまだしも、医療情報が漏えいするとなれば、漏らされた側の精神的苦痛はいや増すことでしょう。人によっては他人に秘匿している美容整形手術歴や治療歴などもあり、そうした情報が漏らされないとは限りません。厳格な管理が必要となると思いますが、その点の保障はあるでしょうか? 「認定」業者の選定に当たっては、この点の厳格な基準を設けて厳密に審査をすることが求められるでしょう。

 ③ 営利目的の利用を許していいの?

 集められる医療情報は、法律で匿名加工事業者に情報を収集する権限を付与して集められるものです。その目的は「医療分野の研究開発に資するため」です。そうであれば、収集まではしょうがないと我慢しても、医療全体の向上に貢献するのではなく、特定の企業の営利のために利用されるのはおかしい!と思われる方も多いかと思います。私も、国の研究機関における研究に付されるのであればまだしも、匿名加工情報の提供を受けられる「第三者」に営利企業が入ってくるのであれば、おかしいと思います。
 

3 1年以内に施行。懸念は解消されるか?

  同法は成立しましたが、施行は1年以内に行うとのことで、これから政令に委任された部分が整備され、内容が固まるようです。
  この政令を定める段階で、上述した懸念が解消されるよう祈らずにはいられません。
  






弁護士の江夏大樹です。(※以下は私の個人的感想です)
昨日(5月19日)に強行採決されたテロ等準備罪(以下、「共謀罪」といいます)ですが、
これに先立ち(5月16日)行われた法務委員会に参考人随行員として参加してきました。
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参考人として
木村圭二郎弁護士、椎橋隆幸教授、海渡雄一弁護士、加藤健次弁護士、指宿信教授がそれぞれ意見陳述を行いました。

(加藤健次参考人は、意気揚々と法務委員会に姿を現しました。)
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加藤健次参考人の意見は、今も行われている警察による市民監視の実態から、共謀罪法案の問題に切り込みました。
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(加藤)「まじめな警察官ほど、あるもの・道具を使って、全力で捜査する」
加藤健次参考人は、決して警察という組織自体を問題にしているわけではありません。
共謀罪法案という無制限の道具を警察に与えることによって生じる人権侵害に目を向けなければならないという加藤健次氏の言葉には、これまで堀越事件等数多くの無罪判決を勝ち取られ、警察の不当捜査の事実をその目で見てきたからこそ言える重みがありました。

他方で、木村参考人・椎橋参考人は、それぞれTOC条約の批准及びテロ対策等から国民の安全を守るために必要なものである旨の意見を陳述されました。
しかし、誠に残念ながら、その意見の中身は、抽象的に犯罪の抑止を訴えるにとどまり、「犯罪主体の定義が曖昧なこと」・「対象犯罪数があまりに多くテロ対策に直結しないこと」という大きな問題に答える内容とはなっていませんでした。
テロ対策に賛成するが、今回の法案には反対の人が多数います(僕もその一人です)。
木村参考人・椎橋参考人のご意見は、今回の法案に反対する人達の疑問に答える内容ではありませんでした。

次に、海渡雄一弁護士(右から2番目)の意見陳述です。
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「刑法は、犯罪の要件を定めているが、これは裏を返せば、人の行動の自由の範囲を定めている」との一言から始まりました。
共謀罪は、犯罪処罰の範囲を大きく変える制度改革ですが、
これは、裏を返せば、社会自由の基礎的制度のあり方を変える非常に重要な問題です。
海渡参考人が提起されたように、共謀罪創設は、極めて重要な問題です。
しかし、これを軽視し、強行採決を行うことなど言語道断のはずですが・・・。

維新の推薦参考人である指宿信教授の意見陳述は、捜査手法に関するもので、
最新の捜査手法を示す他に、
「共謀を認定するには、自白の獲得しかなくそれ自体問題である上に、取調の可視化すらされていない。」
旨の意見が述べられ、共謀罪法案の問題点を捜査手法の観点から浮き彫りにするものでした。
(共謀罪に反対する刑事法学者の意見書にも名を連ねています。)
昨日の強行採決を主導した維新さんは、自ら参考人として呼んだ指宿教授の意見に耳を傾けようとは思わなかったのだろうか。

かくして、法務委員会の参考人意見陳述では、共謀罪法案に問題があることが5人中3人の参考人から指摘される事態になりました。
しかしながら、昨日の強行採決・・・

(ぼやき)せめてさ、議論だけでも尽くそうよ。






弁護士の今泉義竜です。
5月19日に衆議院法務委員会で採決が強行された共謀罪(テロ等準備罪)について、国連から日本政府に対して懸念を示す書簡が届いています。

「恣意的運用」国際視点から警告 国連報告者、首相に書簡 「共謀罪」採決強行/東京新聞
プライバシー制約の恐れ 国連報告者、政府に書簡/毎日新聞

政府は、TOC条約締結のために共謀罪(テロ等準備罪)が必要だという国内向けの嘘を押し通してきましたが、
国連報告者は、「新法案は、国内法を『国境を越えた組織犯罪に関する国連条約』に適合させ、テロとの戦いに取り組む国際社会を支援することを目的として提出されたとされます。しかし、この追加立法の適切性と必要性については疑問があります。」
と述べています。

日本政府は国連からの懸念と質問にどう答えるのでしょうか。

東京共同法律事務所の海渡雄一弁護士の解説及び海渡雄一・木下徹郎・小川隆太郎各弁護士による書簡の翻訳を転記します。


 

 

2017.5.20

国連プライバシー権に関する特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏による

日本政府に対する質問状について(解説)

           海渡 雄一(共謀罪NO!実行委員会)

 

国連プライバシー権に関する特別報告者であるジョセフ・ケナタッチ氏が、518日、共謀罪(テロ等準備罪)に関する法案はプライバシー権と表現の自由を制約するおそれがあるとして深刻な懸念を表明する書簡を安倍首相宛てに送付し、国連のウェブページで公表した。

書簡の全文は次のところで閲覧できる。

 http://www.ohchr.org/Documents/Issues/Privacy/OL_JPN.pdf

書簡では、法案の「計画」や「準備行為」、「組織的犯罪集団」の文言があいまいで、恣意的な適用のおそれがあること、対象となる277の犯罪が広範で、テロリズムや組織犯罪と無関係の犯罪を多く含んでいることを指摘し、いかなる行為が処罰の対象となるかが不明確であり刑罰法規の明確性の原則に照らして問題があるとしている。

 さらに、共謀罪の制定が監視を強めることになることを指摘し、日本の法制度において、プライバシーを守るための法的な仕組み、監視捜査に対する令状主義の強化や、ナショナル・セキュリティのために行われる監視活動を事前に許可するための独立した機関の設置など想定されていないことを指摘している。また、我が国の裁判所が、警察の捜査に対する監督として十分機能していないとの事実認識を示している。

 そのうえで、政府に対して、法案とその審議に関する情報の提供を求め、さらに要望があれば、国連から法案の改善のために専門家を派遣する用意があることまで表明している。

 日本政府は、この書簡に答えなければならない。

 また、日本政府は、これまで共謀罪法案を制定する根拠として国連越境組織犯罪防止条約の批准のためとしてきた。同じ国連の人権理事会が選任した専門家から、人権高等弁務官事務所を介して、国会審議中の法案について、疑問が提起され、見直しが促されたことは極めて重要である。

日本政府は、23日にも衆議院で法案を採決する予定と伝えられるが、まず国連からの質問に答え、協議を開始し、そのため衆議院における法案の採決を棚上げにするべきである。そして、国連との対話を通じて、法案の策定作業を一からやり直すべきである。

 

プライバシーに関する権利の国連特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏

共謀罪法案について安倍内閣総理大臣宛の書簡全体の翻訳

 

翻訳担当 弁護士 海渡雄一・木下徹郎・小川隆太郎

(質問部分の翻訳で藤本美枝弁護士の要約翻訳を参照した)

 

 

国連人権高等弁務官事務所

パレスデナシオンズ・1211ジェネバ10、スイス

TEL+ 41229179359 / +41229179543FAX+4122 917 9008E-Mailsrprivacy@ohchr.org

 

 

プライバシーに関する権利に関する特別報告者のマンデート

 

参照番号JPN 3/2017

2017518

 

内閣総理大臣 閣下

 

私は、人権理事会の決議28/16に基づき、プライバシーに関する権利の特別報告者としての私の権限の範囲において、このお手紙を送ります。

 

 これに関連して、組織犯罪処罰法の一部を改正するために提案された法案、いわゆる「共謀罪」法案に関し入手した情報について、閣下の政府にお伝え申し上げたいと思います。もし法案が法律として採択された場合、法律の広範な適用範囲によって、プライバシーに関する権利と表現の自由への過度の制限につながる可能性があります。

 

 入手した情報によりますと次の事実が認められます:

 

 組織的犯罪処罰法の一部を改正する法案、いわゆる共謀罪法案が2017321日に日本政府によって国会に提出されました。

 

改正案は、組織的犯罪処罰法第6条(組織的な殺人等の予備)の範囲を大幅に拡大することを提案したとされています。

手持ちの改正案の翻訳によると、新しい条文は次のようになります:

 

6

(テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画)

次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。

 

 

安倍晋三首相 閣下

内閣官房、日本政府

 

 さらにこの改正案によって、「別表4」で新たに277種類の犯罪の共謀罪が処罰の対象に加わることになりました。これほどに法律の重要な部分が別表に委ねられているために、市民や専門家にとって法の適用の実際の範囲を理解することが一層困難であることが懸念がされています。

 

 加えて、別表4は、森林保護区域内の林業製品の盗難を処罰する森林法第198条や、許可を受けないで重要な文化財を輸出したり破壊したりすることを禁ずる文化財保護法第193条、195条、第196条、著作権侵害を禁ずる著作権法119条など、組織犯罪やテロリズムとは全く関連性のないように見える犯罪に対しても新法が適用されることを認めています。

 

新法案は、国内法を「国境を越えた組織犯罪に関する国連条約」に適合させ、テロとの戦いに取り組む国際社会を支援することを目的として提出されたとされます。しかし、この追加立法の適切性と必要性については疑問があります。

 

政府は、新法案に基づき捜査される対象は、「テロ集団を含む組織的犯罪集団」が現実的に関与すると予想される犯罪に限定されると主張しています。

 しかし、「組織的犯罪集団」の定義は漠然としており、テロ組織に明らかに限定されているとはいえません。

新たな法案の適用範囲が広い点に疑問が呈されていることに対して、政府当局は、新たな法案では捜査を開始するための要件として、対象とされた活動の実行が「計画」されるだけでなく、「準備行為」が行われることを要求していると強調しています。

しかしながら、「計画」の具体的な定義について十分な説明がなく、「準備行為」は法案で禁止される行為の範囲を明確にするにはあまりにも曖昧な概念です。

 

これに追加すべき懸念としては、そのような「計画」と「準備行動」の存在と範囲を立証するためには、論理的には、起訴された者に対して、起訴に先立ち相当程度の監視が行われることになると想定されます。

このような監視の強化が予測されることから、プライバシーと監視に関する日本の法律に定められている保護及び救済の在り方が問題になります。

 

 NGO、特に国家安全保障に関する機密性の高い分野で活動するNGOの業務に及ぼす法律の潜在的影響についても懸念されています。政府は、法律の適用がこの分野に影響を及ぼすことがないと繰り返しているようです。

しかし、「組織的犯罪集団」の定義の曖昧さが、例えば国益に反する活動を行っていると考えられるNGOに対する監視などを正当化する口実を作り出す可能性があるとも言われています。

 

 最後に、法律原案の起草に関する透明性の欠如と、今月中に法案を採択さえようとする政府の圧力によって、十分な国民的議論の促進が損なわれているということが報告で強調されています。

 

 提案された法案は、広範な適用がされる可能性があることから、現状で、また他の法律と組み合わせてプライバシーに関する権利およびその他の基本的な国民の自由の行使に影響を及ぼすという深刻な懸念が示されています。

とりわけ私は、何が「計画」や「準備行為」を構成するのかという点について曖昧な定義になっていること、および法案別表は明らかにテロリズムや組織犯罪とは無関係な過度に広範な犯罪を含んでいるために法が恣意的に適用される危険を懸念します。

 

法的明確性の原則は、刑事的責任が法律の明確かつ正確な規定により限定されなければならないことを求め、もって何が法律で禁止される行為なのかについて合理的に認識できるようにし、不必要に禁止される行為の範囲が広がらないようにしています。現在の「共謀罪法案」は、抽象的かつ主観的な概念が極めて広く解釈され、法的な不透明性をもたらすことから、この原則に適合しているようには見えません。

 

プライバシーに関する権利は、この法律の幅広い適用の可能性によって特に影響を受けるように見えます。更なる懸念は、法案を押し通すために早められているとされる立法過程が、人権に悪影響を及ぼす可能性がある点です。立法が急がれることで、この重要な問題についての広範な国民的議論を不当に制限することになります。

 マンデートは、特にプライバシー関連の保護と救済につき、以下の5点に着目します。

 

1 現時点の法案の分析によれば、新法に抵触する行為の存在を明らかにするためには監視を増強することになる中にあって、適切なプライバシー保護策を新たに導入する具体的条文や規定が新法やこれに付随する措置にはないと考えられます。

 

2 公開されている情報の範囲では、監視に対する事前の令状主義を強化することも何ら予定されていないようです。

 

3 国家安全保障を目的として行われる監視活動の実施を事前に許可するための独立した第三者機関を法令に基づき設置することも想定されていないようです。このような重要なチェック機関を設立するかどうかは、監視活動を実施する個別の機関の裁量に委ねられることになると思われます。

 

4 更に、捜査当局や安全保障機関、諜報機関の活動の監督について懸念があります。すなわちこれらの機関の活動が適法であるか、または必要でも相当でもない手段によりプライバシーに関する権利を侵害する程度についての監督です。この懸念の中には、警察がGPS捜査や電子機器の使用の監視などの捜査のために監視の許可を求めてきた際の裁判所による監督と検証の質という問題が含まれます。

 

5 嫌疑のかかっている個人の情報を捜索するための令状を警察が求める広範な機会を与えることになることから、新法の適用はプライバシーに関する権利に悪影響を及ぼすことが特に懸念されます。入手した情報によると、日本の裁判所はこれまで極めて容易に令状を発付するようです。2015年に行われた通信傍受令状請求のほとんどが認められたようです(数字によれば、却下された令状請求はわずか3%以下に留まります。)

 

私は、提案されている法改正及びその潜在的な日本におけるプライバシーに関する権利への影響に関する情報の正確性について早まった判断をするつもりはありません。ただ、閣下の政府に対しては、日本が1978年に批准した自由権規約(ICCPR171項によって保障されているプライバシーに関する権利に関して国家が負っている義務を指摘させてください。

自由権規約第17条第1項は、とりわけ個人のプライバシーと通信に関する恣意的または違法な干渉から保護される権利を認め、誰もがそのような干渉から保護される権利を有することを規定しています。

さらに、国連総会決議A/RES/71/199も指摘いたします。そこでは「公共の安全に関する懸念は、機密情報の収集と保護を正当化するかもしれないが、国家は、国際人権法に基づいて負う義務の完全な履行を確保しなければならない」とされています。

 

人権理事会から与えられた権限のもと、私は担当事件の全てについて事実を解明する職責を有しております。つきましては、以下の諸点につき回答いただけますと幸いです。

 

1.上記の各主張の正確性に関して、追加情報および/または見解をお聞かせください。

 

2.「組織犯罪の処罰及び犯罪収入の管理に関する法律」の改正法案の審議状況について情報を提供して下さい。

 

3.国際人権法の規範および基準と法案との整合性に関して情報を提供してください。

 

4.法案の審議に関して公的な意見参加の機会について、市民社会の代表者が法案を検討し意見を述べる機会があるかどうかを含め、その詳細を提供してください。

 

要請があれば、国際法秩序と適合するように、日本の現在審議中の法案及びその他の既存の法律を改善するために、日本政府を支援するための専門知識と助言を提供することを慎んでお請け致します。

 

最後に、法案に関して既に立法過程が相当進んでいることに照らして、これは即時の公衆の注意を必要とする事項だと考えます。したがって、閣下の政府に対し、この書簡が一般に公開され、プライバシーに関する権の特別報告者のマンデートのウェブサイトに掲載されること、また私の懸念を説明し、問題となっている点を明らかにするために閣下の政府と連絡を取ってきたことを明らかにするプレスリリースを準備していますことをお知らせいたします。

 

閣下の政府の回答も、上記ウェブサイトに掲載され、人権理事会の検討のために提出される報告書に掲載いたします。

 

閣下に最大の敬意を表します。

 

ジョセフ・ケナタッチ

プライバシーに関する権利の特別報告者

 

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