11月11日~12日、労働弁護団総会@北九州に行ってきました。
記念講演は、九州大学教授の野田進先生による「非正規労働者の不利益取扱いの禁止」。
パート法8条、9条と労働契約法20条に現れている、「均衡待遇」「均等待遇」「不合理な相違の禁止」の各概念についての関係をご解説いただき、若干頭が整理されました。
講演後、長澤運輸事件高裁判決について宮里弁護士が報告をしました。大変感銘を受ける内容でしたので、概要をご紹介します。
「定年後再雇用になると賃金が下がるということが『社会的に一般的になっている』というところまでいい。それはそうだ。しかし、『社会的に容認されている』とは何事か。一般に広がっている社会的な格差を是正するためにできたのが労働契約法20条のはずである。それを、『社会的に容認されている』から合理性を認めるというのでは、『それをいっちゃあお終いよ』である。『社会的事実』を『社会的容認』に直結させ、『法的容認』につなげていくのでは、司法の意味はない。一方、会社側の最大の主張であった、『定年後再雇用には20条は適用されない』という主張は排斥された。定年後再雇用であっても、労契法20条の合理性が検証されなければいけないという点は高裁でも維持させた。最高裁での勝利を目指す。」
「そうだ!」と合いの手を入れたくなるような歯切れのよい報告でした。高裁判決の理屈を突き詰めれば、社会に蔓延する非正規労働者に対する差別を労契法20条によって是正することはできないということになりかねません。
講演のあとは、2日目にもわたって女性活躍推進法や過労死防止対策推進法の活用、長時間労働是正のための取り組み、金銭解決制度についての情勢、同一労働同一賃金に関する労働弁護団の立法提言についての議論、労働審判の支部拡大や運用、ワークルール教育推進法制定とワークルール教育実践などについて盛りだくさんの報告と討議がされました。地元からも、北九州市営バス待機時間訴訟事件、ツクイマタハラ事件などの闘いの報告がされました。労働組合からの報告もあり、九州ではナショナルセンターを超えた共同が力強く進んでいる様子です。
全体として、安倍政権の働き方改革に対し、こちらの側から立法や規制を求める運動を強める必要性が共有されたと思います。
最後は、恒例の労働弁護団賞。一つ目は、ワタミ過労死事件で全面的勝利和解を勝ち取った弁護団です。玉木一成弁護士からは、①経営者個人の責任を認めさせたこと、②三六協定の是正など今後の改善を約束させたこと、③遺族だけではなくほかの労働者にも残業代を払わせるなどの影響を与えることができたこと、という三つの意義があったとお話されました。
労働弁護団賞二つ目は、合併に伴い退職金がゼロになる同意書に労働者がサインさせられたという事件で、労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しなければ、その変更についての同意があるとは認められないとの判断を示した山梨県民信用組合事件最高裁判決を勝ち取った弁護団に授与されました。弁護団の加藤啓二弁護士の第一声は、「すさまじい賞状ですね」(労働弁護団賞の賞状は、ものすごく小さい字で判決の意義や弁護団賞を授与する理由が書かれているのです)。加藤弁護士は、最高裁判決までの道のりについてユーモアを交えて語ったあと、「教訓は、あきらめないこと」と言うと会場はわっと沸きました。
来年の60周年記念総会の開催地は東京の浅草です。東京支部長を務める当事務所の井上幸夫弁護士が閉会挨拶をしました。
総会終了後は、徳住会長、大阪の豊川先生、事務局のメンバーと郷土料理を食べた後、数人で小倉城へ。戦国時代にはさほど興味のない私はだれよりも早くサラッと一周してしまいました。
巌流島のたたかいで、宮本武蔵は佐々木小次郎の刀より長い木刀を用意していたから勝った、ということを学びました。何事も事前準備が大事ということですね。(今泉)
2016年11月1日、今野弁護士、今泉弁護士、長谷川弁護士が担当している日本商業新聞社マタハラ事件で、労働審判手続において会社が300万円の解決金を支払う内容の調停が成立しました。
この事件は、記者として働いていた女性が、育児休業満了時に、終業時間を従前の17時から18時半に延長することに同意を迫られ、保育園のお迎えの時間に間に合わないため同意できない旨を伝えると、同意しなければ辞めてもらうしかないとして退職勧奨を受け、約1年半におよぶ自宅待機を強いられた事件です。この自宅待機期間中、会社は給与額の6割弱しか支払わなかったため、賃金差額及び慰謝料等を求め、労働審判を申し立てました。
労働審判委員会(民事第19部・西村康一郎裁判官)は、本件が雇用機会均等法9条3項に違反するマタニティ・ハラスメントにあたることを認め、会社が賃金差額及び慰謝料として300万円の解決金を支払う内容で調停が成立しました。
声明を下記に記します。(長谷川)
日本商業新聞社マタハラ事件解決にあたっての声明
1 本件は、日本商業新聞社の女性記者である石島聡子が、2013年10月より1年の育休取得後に復職する際、会社から終業時間を従前の午後5時から午後6時半に延長することについての同意を求められた上、同意できなければ退職することを要求されたというマタニティ・ハラスメント事件である。
石島記者は、保育園のお迎えの関係から、終業時間をせめて午後6時にすることを求めたものの、会社は応じず、復職を拒否した上、自宅待機としてその間の給与を6割弱しか支給しなかった。自宅待機期間は2014年10月から2016年1月までの1年4カ月にもわたったが、その間の新聞通信合同ユニオンによる団体交渉や代理人交渉の結果、従前の労働条件での復職が実現した。
しかし、復職はしたものの、石島記者は社長から中小企業退職金共済の掛け金の減額に同意するよう求められたり、一部同僚から無視されたりする職場環境に耐え切れず、2016年8月に退職に至ったものである。
2 石島記者は、2016年8月18日、自宅待機期間中の未払い賃金とマタニティ・ハラスメントによる慰謝料を求めて東京地方裁判所に労働審判を申し立てた。
9月30日に開かれた第1回労働審判期日において、労働審判委員会(民事第19部・西村康一郎裁判官)は本件が産休・育休取得を理由とした不利益取扱いにあたることを認めた上で、解決金支払いによる和解を双方に促し、11月1日、会社が解決金300万円を支払う内容での和解が成立した。
3 産休・育休取得を契機とした不利益取り扱い、いわゆるマタニティ・ハラスメントは明白な違法行為である(雇用機会均等法9条3項、育児・介護休業法10条、平成26年10月23日最高裁判決、厚労省通達平成27年1月23日雇児発0123第1号等参照)。
しかし、そのことが十分に企業経営者や従業員に認識されず、本件のようなマタニティ・ハラスメントが横行しているのが日本の現状である。
私たちは、本件のようなマタニティ・ハラスメントを根絶し、子どもを産み育てながら安心して働き続けることができる社会を作るために引き続き力を合わせていく決意である。
2016年11月1日
日本新聞労働組合連合
新聞通信合同ユニオン
石島聡子
代理人弁護士 今野久子/今泉義竜/長谷川悠美
公務執行妨害をでっち上げられて逮捕・勾留された二本松進さんらが東京都・国を相手に国家賠償を請求した事件で、11月1日、東京地裁に続き、東京高裁も警察官らの違法行為を認める判断をしました。
東京高裁では、控訴した東京都は高橋警察官及び渡辺警察官の供述について、「総じて、不自然・不合理な変遷又は齟齬などと評価されるようなものではない」「当時の現場の切迫性を考慮すれば、せいぜい当該暴行の具体的な態様、詳細な状況に関する記憶が鮮明でないといった程度の評価がされ得るにとどまる」などと強弁をしてきました。東京高裁は東京都の主張を一蹴し、高橋警察官らの供述が不自然で信用できないということを改めて判断しました。また、暴行がなかったとする目撃証人の陳述の信用性も認めました。もっとも、地裁と同様、警察署の組織的関与や検察官の関与は不問にした点では不満が残るところです。
審理の展開からは、原審が維持される流れだろうとは予想していましたが、どんでん返しがあるのが高裁。判決言い渡しは緊張しましたが、地裁判決が維持されてホッとしたというのが率直なところです。
以下に声明を引用します。(今泉)
2016年11月1日
築地公務執行妨害でっち上げ国賠請求控訴事件判決についての声明
1 事案の概要
本件は、新宿区で鮨店を経営する二本松進氏が、中央区築地市場路上において仕入中、築地警察署交通課の婦人警官2名(高𣘺眞知子、渡邊すみ子)から、不当な「駐車違反」の取締りを受け反論したところ、突然「公務執行妨害、傷害」をでっち上げられて逮捕され、19日間にわたって勾留された事件である(事件自体は不起訴処分で終了)。
二本松進氏は、妻月恵氏とともに、不当逮捕と長期の勾留で被った精神的苦痛等について、国、東京都を相手に国家賠償裁判を2009年10月に東京地裁に提訴した。
2 訴訟における争点
本件における最大の争点は、築地市場にいつものように月恵氏の運転で仕入れに行った二本松進氏に対し、高槗・渡邊両警察官が「適正な公務」を行ったのか、その「公務」の執行を妨害する「暴行」を二本松進氏が振るったのかどうかという点であった。
6年の長期にわたる審理を経て、東京地裁は、「暴行のいずれについても、明確さに欠ける部分のほか、看過することのできない変遷または齟齬があったり、仮にその証拠関係のとおりであったとすればそれ自体が不自然であったり疑問が生じる部分を多く含んでいる」などと判断、警察官らの証言の信用性を否定し、東京都に対し、二本松進氏に240万円を支払うよう命じた(平成28年3月18日)。
これに対し、東京都が不服として控訴をしたのが本件である。なお、原告側も、月恵氏の慰謝料請求等が認められなかったことから控訴を提起した。
3 高裁判決の概要
2016年11月1日、東京高裁は、地裁判決を基本的に維持した。その上、高橋警察官が、暴行を受けた部位について「胸」から「切符かばんや腕」に変遷したことについて、不自然で信用できないと改めて判断するとともに、暴行がなかった旨の目撃者らの陳述書について、「陳述の信用性を疑わせる具体的な事情」がないとして、目撃者の陳述の信用性を肯定し、東京都に改めて金240万円の賠償を命じた。一方、妻である二本松月恵氏の慰謝料、二本松進氏の経営する会社の被った損害についてまでは認めなかった。
4 最後に
不当な捜査に抗議しただけで公務執行妨害をでっち上げられるという事例は実は少なくないが、それが正義に基づいて断罪される事例は少ない。警察官による違法・不当な取締り、恣意的な権力濫用により多くの被害者が泣き寝入りを強いられているのが現実である。今回、警察官による不正を断罪した裁判所の判断は大きい。警察権力の濫用は、冤罪の温床である。悪質な権力犯罪を許さないため、私たちは国民救援会とともに引き続き力を尽くす決意である。
原告 二本松進
原告代理人弁護士 今泉義竜/小部正治
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電話 03-3355-0611 FAX 03-3357-5742