それは二学期の始業式の日に起こった事件だった。
私立アミティーエ学園に通う二年生の長瀬準一(ながせじゅんいち)は、
高台にある夕陽丘公園(ゆうひがおかこうえん)から、色鮮やかな夕焼けに染まる空と街並みを眺めるのが大好きだった。
その日の夕方も公園に立ち寄っていると、そこに金持ち風の少女とその父親とおぼしき男性が、口論をしながら現れる。
少女は優姫(ゆうひ)という名で、どうやら無理やり婚約者と引き合わされるのを嫌い、父親に反抗しているようだった。
その時だった。
突然少女が準一の腕を引っ張ったかと思うと、見ず知らずの準一のことを恋人だと言い出し父親に婚約の解消を訴える。
しかし父親は当然その不自然な状況に勘付き、本当に恋人ならキスくらいできるのだろうと切り出す。
とまどう少女をよそに、割り切った準一は思うが早いか一気に少女に唇を重ねる。
行為の重大さはともかくこの場はこれで乗り切れる、そう思った準一だった。
しかしそれは甘過ぎる考えであった。直後、その父親から衝撃の事実を告げられる。
「その、長瀬準一君こそが、優姫の婚約者その人だぞ」
自分の知らない間に、互いの親同士の間で進んでいた婚約話。
まさかいきなりキスをした相手が自分の許婚で、しかもその当人には嫌われる始末。
それなのに、準一の父親の
“学年が代わるまで共に過ごし、それでも恋愛感情が芽生えなければ婚約の解消を認める”
という強引な提案をなりゆきで承諾。
そして微妙な関係のまま準一とその妹、湊(みなと)の暮らす家に優姫も同居する事になる。
それまで穏やかだった準一の生活は、その日を境に大きな変化を迎えることになるのだった……
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