「ええ、今思い返してみれば、あの子には人と変わったところがあったかもしれません。はい、まりかのことです。
十一、二年前のことですか… まりかが小学校に入る前なんですが、うちの人… ええ、夫の博人です。
で、夫が運転する車でドライブに行ったんですよ。伊豆の温泉まで。山道に入ったときですか… 夫がハンドル操作を誤って、あ、刑事さん、わかります?
そうなんです、崖下に転落していたかも知れなかったんですよ、ガードレールに思いきり擦りつけて、すごかったんですよ。
でも… ガードレールには何の傷もついていなかったんです。ええ、車を止めて、はい、もちろん降りて確認したんですよ。傷が…なかったんですよ。
私も夫も驚いて… まりかは笑っていました。よくわかってなかったんでしょうね・ええ、そちらが言う… 超能力ですか?今話したことじゃ、全然関係ありませんよね。車には傷がついていましたし。
私たち… 私も、夫も、まりかにそんな力があるなんて…信じられません。今…今思えば… そうですよ、そんな事、誰にだってあるじゃありませんか。
思い込めば、思い当たることの一つや二つ… あ?私、今、今って言い過ぎですね… ええ… でも… 未だに信じられないんです。
そりゃ、最近のテロ事件だって目茶苦茶ですよ?でも…それは世間のことでしょ?国のことでしょ?
信じられないってよりは… 信じたくないのかも知れませんけど…まりかは… まりかは普通の子です。超能力… ですけれど普通の子なんです。
学校に通って、最近私たちとも話さなくなって… どこでもいる子ですよ。
特別だとすれば、それは私達にとってだけです… まりかは… 私の子供ですから… はい… ごめんなさい…。」
神崎永美の調書から抜粋(テープ起こし・内閣特務捜査室)
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