懐かしい人と街で偶然再会した。
彼の名は江藤賢也(えとうけんや)。
私が新人看護師として勤務した精神科病棟で出会った患者だった。
彼は母親との不仲が原因で強制的に入院させられたと話していた。
それを示す通り、メンタルテストの結果は常に良好、
主治医たちも彼には何の異常も見受けられないと同情していた。
そんな彼に私は救われた。
私よりもつらい境遇にいるのにいつも笑顔で明るくて
時には「ここ、僕の方が長いから」と他の患者のお世話を手伝ってくれたり。
不慣れだったうえに、肉体的にも精神的にもハードな仕事で
何度も折れそうになった私の心を賢也くんに支えられたのだ。
その後、突然の配置転換でお礼も言えずに私は彼とお別れした。
そんな彼を街で見かけたのだ。
私はやっとあの時の感謝を伝えられると胸を躍らせた。
無事に退院し社会復帰した彼は、あの頃と変わらず明るくて優しくて。
その魅力に、患者としてではなく一人の男性として惹かれ始めていた。
でもそれが、全ての間違いだったのだ――
『親愛なるタナトス』シリーズ第六弾。
それは、静かな狂気を孕んだ愛の物語。
■キャラクター
江藤 賢也(えとう けんや)
26歳(道路局勤務/事故で休職中)
幼い頃に両親が離婚、母と折り合いが悪く、
賢也だけ祖父母の営む農場に引き取られ育った。
農場で事故が起き祖父母が他界、
その事が原因で精神を病んだと母親に判断され
多感な時期に7年間精神科に入院していた。
身長が198cmと大柄であるため、
自身の体躯が人を威圧しないよう心掛けていた結果、
話好きで陽気な性格になる。
現在は農場でひとり暮らし。
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