東京の病院に収容されている青年・村井研二が、自らが遭遇した恐怖の体験を語り始めた。
ある日、豪華なヨットで海に繰り出した村井たち7人の若い男女が嵐に遭って難破し、無人島に漂着した。そこは、カビと不気味なキノコに覆われた孤島であった。波打ち際で唯一見つかった難破船には、少数の食料や未知のキノコ「マタンゴ」の標本が残されていたものの生存者はおらず、「船員が日々消えていく」と書かれた日誌や、「キノコを食べるな」という警告が残っていた。また、船内の鏡はすべて割られていた。
7人は当初こそ協力していたが、まもなく食料と女性を奪い合って対立する飢餓と不和の極限状態が訪れ、皆の心はバラバラになっていく。また、島の奥からは等身大のキノコに似た不気味な怪物が出没し始め、1人、また1人と禁断のキノコに手を出していく。
唯一キノコに手を出さず怪物の魔手からも逃れ、ヨットで島を脱出した村井は幸運にも救助され、こうして病院へ収容されることとなったが、そこは精神病院の鉄格子の中だった。難を逃れたはずが狂人として隔離されてしまった村井は、「戻ってきてきちがいにされるなら、自分もキノコを食べて恋人と島で暮らしたほうが幸せだった」と後悔し、窓から平和な東京の町を眺めて悲観に暮れながら鉄格子の方を振り返る。病院関係者たちの好奇と畏怖の注目を集める村井の顔には、彼が島で見たマタンゴが生え始めていた。
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