ひとつのサイコセラピーのようなお話だった。両親を事故でいっぺんに亡くした青年の止まったままの時間が、水墨画と出会うことで少しずつ動き始める。両親がいないことを青年はだれにもあまり話したがらなかった。悲しみを言葉にしてしまうと、それがあまりにも心から乖離したものになってしまうことがわかっているからだった。深い喪失から救われるためには、言葉のいらない絵を描くことが必要だった。絵を描くことは自分を描くことであると、静かに教えられた、否、気づかされた。漫画の絵を想像するくらい、きれいで凛としている小説だった。ラノベっぽさもあった。水墨画という渋みのある文化がテーマであるだけに、ギャップがあるが、そのギャップは昨今ではめずらしくない。登場人物がまさにアニメキャラのようであったから、もっと奥行のある描き方だとさらによかったように思う。