四方を砂漠に囲まれた熱砂の国――シャナーサ王国
名君と名高い王“ライザール・シャナーサ”の統べる国の一角に、その店はあった。
《ショーサロン・カマル》
《妖美な夢》が見られると有名な其の店では、様々な思惑を持った男たちで夜な夜な賑わっていた。
ある者は一夜の夢を見る為に
ある者は己の私欲と野望を満たす為に
――ある者は、嬌艶の美女と名高いカマルいちの踊り子――“舞妖妃”まいようひを一目見る為に。
ただし、美しい花には“毒”がある。
甘美な香りに夢中になっているうちに、致死量を超えてしまうような猛毒が。
“舞妖妃”にはもう一つの顔があった。
それは“密偵”スパイだ。
美しい花は今日も依頼を受け、密愛の罠に獲物を嵌めていく。
――ある年の7月。
シャナーサ王国で『世界次世代指導者会議』が開かれることになり
思いもよらない依頼が“舞妖妃”の元に舞い込んでくる事となる。
贅の限りを尽くしたヒラール宮殿を舞台に、
《9日間》の凄絶なスパイミッションが幕を開けようとしていた。
「殿下、ご自分の気持ちに素直になられてはいかがですか?」
「さあ、私の目を見て。身も心も、私は全て貴方のモノ――」
蛇のように絡まり逢った毒牙は解けるのか。
今宵、ライラ一夜の宮殿で、魅惑のムスクが香り色づく――
第二夜 アジアン・ナイト
鱗帝国の皇太子――“鱗 皇驪”
鱗帝国の太子――“鱗 希驪”
広大な領土を有する鱗帝国の跡継ぎの二人は、腹違いの兄弟だった。
皇太子・皇驪は穏やかで人徳が厚く、その弟・希驪は誰とでも親しくなれる気安さがあった。
二人は皇太子の妃候補と共に、『世界次世代指導者会議』へ出席すべくシャナーサ王国へやってくる。
――会議開始前日の昼。
たまたま訪れたシャナーサ王国の市場で、
皇驪は愛読書『白蛇伝』の主人公”白娘子”を象ったかのような女性と出会ってしまう。
「そなたは、白娘子! ようやく会えた。私の運命の人――」
――その日の夜。
運命的な出会いにより骨抜きになってしまった兄が
会議で失態を犯すのではと心配した弟・希驪は、単身『白娘子』を探しに行く。
たどり着いたのは、《ショーサロン・カマル》
店主に声をかけられ、あれよあれよのうちに“舞妖妃”に依頼をすることに。
「……こう兄のことを誘惑して、その後手酷くフッてやってよ。
あの『白娘子』信者に、現実を見せてやりたいんだ。
純愛なんてこの世にはないんだっていう現実を、ね」
女の愛し方が奇異なターゲットと、女の愛し方が軽薄なクライアントとのアジアン・トライアングル
寵愛の遊戯に耽けるのは誰か――
more...大家将 蛇香のライラ ~Allure of MUSK~ 第二夜 アジアン・ナイト 标注为