修女也挺惨的
返答は、返答は……今も易々とは帰ってこない。
だが、リザは玲愛を見つめている。今度は逃げずに、正面から、震える瞳に向けられたまま揺るがない。
逸らすことは簡単だろう。危うい均衡で立っている玲愛を壊すのも簡単だろう。
どれだけ気丈に振舞おうと、しょせん彼女はまだ子供だ。曲がりなりにも地獄を見知っているリザからすれば、文字通り赤子同然に捻られるはず。
なぜなら、子供殺しこそリザ・ブレンナーの真骨頂。他の追随を許さない。
だけど……
「そうね……」
少しだけ、本当に少しだけ彼女は照れたような顔をして。
「ええ。これでなかなか、楽しかったわよ」
満面の笑みを浮かべるとワインを飲み干し、そしてグラスを叩き壊した。
「――カイン!」
同時に、裂帛の気合いを乗せた大音声。それに呼応するかのごとく、地震のような轟音と共に教会全体が激震する。壁と床に亀裂が走り、天井が崩落して瓦礫の雨が降り注いだ。
「ちょ――」
「安心なさい。別に不吉なものじゃないわ」
いきなりの異変に当惑する玲愛とは対照的に、女帝のごとき傲岸さでリザは虚空を見上げていた。まるでその空の向こう、見えない何かに宣戦を布告するように。
「仮にも尼僧服を着ているなら、か。そうね、本当にその通り。
私の子供達が安らかに眠れるよう、原因を取り除かなければいけないか」
肩にまわされた手は力強く、そしてどこまでも柔らかい。玲愛の視界に映ったのは、凛々しいけれど暖かな、母親としての顔だった。
その包容力。その慈愛。わけも分からず泣きたくなる。
ああ、きっと、これで安心。
「大丈夫よ、玲愛。私達が守ってあげる」
その言葉も、その意味も、一人称が複数形になっていることも――
「そうでしょう、ヴァレリア。私も今、目が覚めたわ」
嬉しくて面映くて、万軍を得たに等しい安堵が込み上げてくる。
「ええ、そうですね。もはやこうなっては後に退けぬ」