これは私のお話ではなく、彼女のお話である。
役者に満ちたこの世界において、誰もが主役を張ろうと小狡(こずる)く立ち回るが、まったく意図せざるうちに彼女はその夜の主役であった。そのことに当の本人は気づかなかった。今もまだ気づいていまい。
これは彼女が酒精に浸った夜の旅路を威風堂々歩き抜いた記録であり、また、ついに主役の座を手にできずに路傍の石ころに甘んじた私の苦渋の記録でもある。読者諸賢におかれては、彼女の可愛さと私の間抜けぶりを二つながら熟読玩(がん)味(み)し、杏仁(あんにん)豆腐(どうふ)の味にも似た人生の妙味を、心ゆくまで味わわれるがよろしかろう。
願わくは彼女に声援を。
私は太平洋の海水がラムであればよいのにと思うぐらいラムを愛しております。