約30年間、営業職として働いてきた。よくぞここまでやってこられたと思う。営業職に就いた当初は、「この仕事を続けられるのはせいぜい半年くらいが限界じゃないか」と絶望していたからだ。あの頃を思い出すと、煙草の香りのする真夏の喫茶店でごちそうになったコーヒーゼリーの味が鮮やかによみがえる。 平成8年(1996年)、大学を卒業した僕は東京で営業マンになった。営業部は、30代後半以上の個性豊かなオッサンばかりが在籍していた。20代後半から30代前半の人材が欠けていたのは、仕事がキツくて離脱者が相次いだからだと後で知った。研修で「電話の応対」や「名刺交換のルール」は教わったけれど、案件の見つけ方、商談の進め方、といった営業の仕事は誰も教えてくれなかった。今ならネットや動画で調べられるが、そういうものはまだなかった。ネットに接続できない携帯電話がようやく普及しはじめた、そういう時代だ。 夏になった。僕は