『国際政治 恐怖と希望(中公新書)』(高坂正堯/中央公論新社) 近年、国際情勢はますます緊張感が増している。中東における混乱、ヨーロッパに広がる難民問題……日本の周辺だけ見ても、中国の覇権主義や北朝鮮の核ミサイル問題など、世の中の動きは目まぐるしく変化を続けている状況だ。そんな混乱をどのように解決するべきなのか、平和を実現する方法はどこにあるのか、多くの人々が自らの立場で考えている。だが、有史以来あまたの人々が希求してきた平和な世界は未だに訪れていない。その理由や原因を真剣に見つめることこそ、戦争と平和の現実を知る一歩となる。 『国際政治 恐怖と希望(中公新書)』(高坂正堯/中央公論新社)では、国際政治を「複雑怪奇なもの」だと語る。あまりにも多くの情報と思惑に支配されるため、その実態を完全に理解することは不可能なのだ。にもかかわらず、平和を望む人々の声は、常に問題を単純化しようとする。戦争

戦後70年経った今、あらためて戦争の現実・悲惨さを問う小説『遠い約束』が2017年7月29日(土)に発売された。 18年間上演されてきた舞台『遠い約束~おじいさんのタイムカプセル~』を書籍化した同書。叔父をブーゲンビル島で亡くしている著者・室積光が、戦争体験者や遺族を実際に訪ね歩くことでわかった戦中日本の「現実」をベースに作った物語となっている。 初演から今にいたるまで、取材で戦前の生活に関する新たな情報が入る度にその部分を書き換え、より「リアル」に当時の現実を描くものへと改稿。たとえば小説の中に登場する特攻隊の郷土訪問飛行は、室積が戦友会など戦争体験者を訪ねることで新たに知った情報だった。 <あらすじ> 1933年、校庭の桜の根元に埋めた「私の将来」と題した作文。親友だった5人は、50年後に開封することを約束する。しかし、その誓いは無残にも戦争によって踏みにじられる。1人生き残った林健一

『PTAという国家装置』(岩竹美加子/青弓社)PTAの存在意義が疑問視されている。「ボランティア活動のはずなのに義務的責任を負わされるのは、なぜ」「そもそもPTAに加入した覚えはない」など、さまざまな反発の声が各地で起こっている。 なぜ、PTAの諸問題は解決しないのか。国家視点でPTAの存在を捉え考察している『PTAという国家装置』(岩竹美加子/青弓社)は、今、日本の「戦前への回帰」が危惧されるなかで、PTAという組織の危うさを訴える。PTA(本書は公立小学校PTAについて論じている)は、社会教育組織としても地域組織としても、日本最大の規模を持つ。それほどの巨大な存在であるにもかかわらず、「見えにくい」組織だ。つまり、PTAは学校や地域に対して従属的に位置づけられていて、外部から「見えにくい」のが一つめ、そして、PTA会員の側からはPTAが国家組織であることと、その巨大な組織の末端であ

『「逃げるな、火を消せ!」 戦時下トンデモ「防空法」』(大前治/合同出版) 突然ですが皆さん、最後に避難訓練に参加したのは、いつでしょうか? 近年は自治体や職場などでも、大規模な防災訓練を実施するところが増えてきましたよね。緊急時にはまず、自分の命を守る行動を取らなければなりません。机の下に潜る・火の始末をするなど、状況によって優先すべきことは変わってきますが、そんな時にもし、自分の身の安全を捨てて、国のために行動しろと言われたら…? 実は日本にも、そんな時代があったんです。 『「逃げるな、火を消せ!」 戦時下トンデモ「防空法」』(大前治/合同出版)は、1937年3月に帝国議会で可決成立した「防空法」について、豊富な資料とともに読み解いた書籍です。「防空」とは本来、空からの物理攻撃に対する策として国家が担う活動のこと(軍防空)をいうのですが、この防空法が定める「防空」とは、市民が担う防空体

『強制収容所のバイオリニスト―ビルケナウ女性音楽隊員の回想』(ヘレナ・ドゥニチ=ニヴィンスカ:著、田村和子:訳/新日本出版社) 第二次世界大戦の終戦から70年以上の時が過ぎ、当時を知る存命の証人たちの言葉は重みを増しつつある。そこには現代人が想像もできないような真実の響きがあるからだ。 『強制収容所のバイオリニスト―ビルケナウ女性音楽隊員の回想』(ヘレナ・ドゥニチ=ニヴィンスカ:著、田村和子:訳/新日本出版社)は、戦時中アウシュビッツ・ビルケナウに強制収容されていた女性が齢98にして出版した回想録の日本語翻訳である。過酷な現実に打ちひしがれながらも、生きることをあきらめなかった人々の姿は数字やデータでは分からないことを教えてくれる。 著者のヘレナ・ドゥニチ=ニヴィンスカは1915年、ウィーンで生まれた。やがてポーランドのルヴフ市に移住し10歳からバイオリンを習い始めた彼女は、厳しくも温かい

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