『Ein Leben ist zu wenig(一度生きるだけでは十分でない)』は東ドイツ出身の左翼党政治家グレゴール・ギジの自叙伝である。いつも決まり文句しか出てこない並の政治家と異なり、著者は発言が個性的で、党派を超えた関心を集めるメディアの寵児だ。読み進むうちに、共産主義時代の東ドイツと、統一ドイツという二つの体制を生きた著者の自負心が、行間からにじみ出てくる。 ユダヤ人で共産党員だったギジの両親は、ナチを逃れてフランスに滞在するが、戦争が本格化すると党の命令でベルリンに戻り抵抗を継続。ギジは1948年に誕生、翌年に東西ドイツという分断国家が成立した。ギジにとって、ドイツ民主共和国(東独)は両親が命がけで建国に携わった国であり、父親は東独で文化相をつとめた。ギジが19歳でドイツ社会主義統一党(SED)に入党し、東独社会主義を正しいと確信していたのも当然であった。 法学を専攻したギジは
詩情とウイット、美しい表現ふんだんに 短期間に数冊の本を読むために三刀流でいくことがある。外出時は電子ブック、散歩のときはオーディオブック、机に向かったときは紙の本。オーディオブックでは著者の出身地に合わせて朗読役を採用することがあり、とろりと甘いアイリッシュ、日本の東北訛りに若干似つつキリリと勇ましいスコティッシュ、ピンピンはねあがるイースト・ロンドンのアクセント、となかなか楽しい。粒よりの小説が多い今回はすばらしい朗読にめぐまれた月でもあり、ここで取りあげる作品にもアイルランド人俳優によるなめらかなバターのような朗読が用意されていた。 ベルファスト出身75歳のベテラン作家、バーナード・マクラヴァーティーが11年ぶりに発表した『MidwinterBreak』。タイトルは「冬至の休暇」とも「(人生の)真冬の破局」とも読め、内容を簡潔に表わす。70代の夫婦、ステラとジェリーが旅に出る。子や
北朝鮮の脅威に緊張の高まる中、国際情勢をモチーフにした小説『米中戦争』の1、2巻がベストテンにランクインした。作家の金辰明(キム・ジンミョン)は、愛国心を心地よく刺激して定評がある。 世界銀行の調査員キムは、韓国の陸軍士官学校出身のエリート。非凡な推理力で、巨額の資金の動きを追うためウィーンに飛ぶ。捜査の過程で出会ったFBIの要員アイリーンはドイツ系の大富豪の娘。先代からロシアと太いパイプを持っている。彼女はキムに、ロシアがらみの国際的な陰謀を耳打ちする。 キムが心ひかれるのは、青瓦台(韓国大統領官邸)に招かれたドイツ生まれの韓国美人チェ・イジ博士。半島を取り巻く大国の利害とひずみを、数学の方程式で解こうと試みる。チェとキムがコーヒーショップで頭を突き合わせている様子は、まるで健全な中学生のよう。燃える愛国心は、色恋にも勝るのか。 作家は、昨今の国際情勢を特有の奇想天外な想像力で解き、壮大
『レオナルド・ダ・ヴィンチ』は、イタリアルネサンスの頂点に位置する巨匠の伝記。著者のウォルター・アイザックソンは、スティーブ・ジョブズやアインシュタインなどの伝記で知られるベストセラー作家。ダ・ヴィンチが残した7200ページ以上のノートや、科学技術を駆使した絵画の解析、修復作業などの情報に基づき書かれた、壮大なスケールの伝記となっている。 ダ・ヴィンチが科学の先駆者でもあったことは広く知られている。ノートに記された膨大な数の地図、新兵器、幾何学、解剖学、地質学、植物学、天文学に関わるデッサン図、日記や覚書からは、科学に対する彼の旺盛な好奇心が窺える。裕福な家庭の非嫡出子で、正規の教育を受けたことはない。絵画以外はすべて独学だった。完璧主義者で、未完成の作品が多かった。前払い金を受け取っていても、納得のいかない作品は完成させなかった。 この本は、ダ・ヴィンチに関して誰も知らなかった新事実が記
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