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はてなキーワード:道化とは

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2025-10-21

dorawii@執筆依頼募集中

回答1

執筆依頼は半分ジョークユーモア道化を演じるためにそう言っているだけ、という気もする。その本気度の低さが依頼が来ないような行動の原因にもなっていると思う。

そもそも執筆依頼らしきものが来たところでやり取りの仕方諸々、どうすればいいのかわからない。

そもそも嘘か見分ける手段確立できていない。

執筆依頼のトラバに今後の意思疎通をするための連絡先等書いてなかったらこちらは連絡先を求めるトラバを書くことになるだろう。

それに対して別の増田が茶化して偽りの連絡先を書くような攻撃を受けるかもしれないし。

でもこれは「連絡先やホームページをさっきのトラバ追記してください」とトラバすれば事足りることかもしれない。

回答2

アスペも好きで厳密さを追い求めているわけではない

ほとんど直近で書いたこれも個人的にはなかなか自己内省的かつ自分と同じ障害を持つ人の代表を、総意を自負した文章だと思っているのだけど。

お前はたぶん知ってて言及してないのだから、お前の挙げる記事には及ばないということだろう。

まり何が言いたいかと言うと、なにをもって「あれほど」と評しているのか、その他俺が個人的にそれなりの記事だと思っているものに対してどういう基準で劣るものとしているのかいまいち判然としない。

単に文章量だろうか?

それなら、「あれほどの」記事がその後出てない理由簡単で、そこまでの文章量を要するような話したいことがないからだ。

「どのような人でも、一篇の長編小説を書くことができる」という言葉がある。

俺にとってそのような文章を書く一つの契機があのときだったということだ。

俺にとってはあれは文章量が普段と比べて尋常じゃなくなっているだけで、日記を書いているのと変わらない。

ただ、統合失調症体験記というテーマにおいて、事実の方が有り余っている。

俺はその事実を列挙するだけであれだけの記事になった。俺は事実を列挙したに過ぎない。

今の俺には列挙するような事実が無い。

回答3

あれは正確に書けば「俺が今まで書いたもののなかで、受け応えとして採用するには嚙み合わないものをわざわざ選び取ってトラバをしているように見えるが、そうだとしたら目的がわからぬ」となる。

↓それは、このツリー

https://anond.hatelabo.jp/20251017183258#

いや期待はしてるよ?根気強く話せばなにかしらが伝わる可能性は捨ててないから。

むり

と返されたわけだが、俺が言ったことがある言葉であるが、何がむりなのか読み取れなかったから。

どうやらこの「むり」は「根気強く話しても伝わる可能性はない」ということを主張する意図で俺の過去言動引用したもののようだ。

ということで今は目的がはっきり推測できるので、発言撤回する。

回答4

はてなブックマーク仕様に対してそのような妨害策を取っている人が今までいなかったから。

要するに、なんとなく人と違うことがしたくなった。いや、そういうことに対して、増田ブクマカたちにどのような反響が出てくるか、ということへの興味の方が大きいかもしれない。

回答5

からない。経済面等支える人がいなくなったらどうなるか。

ほぼ確実に来る未来なのに、考えようとしても実のある道筋演繹されない。どうすればいいか、ああどうすればいいか、うーんどうしよう、という、ただ思考をしているという合図にしかならない言葉無限に頭の中をこだまするだけなんだ。

経験したことがない未来想像することが難しい、という特性なのか。

-----BEGINPGP SIGNEDMESSAGE-----Hash: SHA512https://anond.hatelabo.jp/20251021150742# -----BEGINPGP SIGNATURE-----iHUEARYKAB0WIQTEe8eLwpVRSViDKR5wMdsubs4+SAUCaPcjMAAKCRBwMdsubs4+SGlGAP9CV9jeWoltLbEK0/bbAnXQXO/pVUHDEW3tSiS7kO+9ggEAxq98WRZrn77hsG5esLt4hVHeKj3MUU9Qp/E6mqZtwAA==ZCJB-----ENDPGP SIGNATURE-----

Permalink |記事への反応(0) | 15:07

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2025-10-20

鯨骨生物群集に行けない人間は下等生物から死ぬべきなんだって

好きだった人から罵倒されてマジで

大学ゼミで仲良くなった女の子がいて勇気を出してデートに誘ったのね

「一緒にホエールウォッチング行かない?」って

女の子からOK貰えたから先週三連休ウキウキ飛行機乗って出かけたわけさ

女の子は言うわけ

「そこの下の鯨骨生物群集に色んな生き物が集まってくる。クジラのお肉食べ行きたい」って

俺はそれを拒否したのよ

恥ずかしい話俺なんてクソ陰キャなわけ

いわゆるチー牛フェイスのクソゴミ弱者男性なわけ

今回デートに誘ったのだってめちゃくちゃ勇気必要だったわけ

大学の他の陽キャどもと違ってこっちは地方田舎出身のクソ芋なのよ

そんなクソ芋からすると海底なんて行けるわけがない

レギュレーターだってフィンだって、一体どうやって使えばいいのかわかんない

水圧で潰されて命を失うことになるのはわかりきっている

俺の人生を振り返れば女の子と2人で遊びに行けたこ自体奇跡に等しいことなのにこんなのハードル高すぎるわけよ

お店のクジラカツじゃだめなの?そこでジャンプしてるイルカ見るのじゃだめなの?って話なわけ

もう半分パニックになって絶対無理絶対無理絶対無理絶対無理って拒否してたら相手女の子が本当に怖い顔になって罵倒してくる

一字一句その通りとはいかないけど心を落ち着かせるためにここに内容を書き出してみる

女の子デートに誘っておいてそういう態度をするのは本当に酷い」

「生きている価値がない」

「そんなに臆病なら一生女の子デートに誘うな」

「私はあなたのためを思って説教している」

「海底なんてただの海の底に過ぎない」

「わからないことがあるならそこの調査船の乗組員さんに聞けばいい」

「なんなら私に聞いてもいい。「初めてだからわかんないんだよね、教えて」って」

「なんで私や調査員さんに聞く程度のことすらそんなに恐れるのかがわからない」

「ごめんうそ、わからないわけではない」

「要は〇〇君(俺の名前)はプライドが異常に高いんだよね」

人生経験に乏しいくせに人から教わることに屈辱感じてへそを曲げている」

相手女の子気持ち考えなよ」

「そうやって水圧から逃げ続けて人様に対して失礼な態度を重ね続ける」

「〇〇君はカス、はっきり言って」

「〇〇君が普段バカにして見下しているKAZU Iの社長の方が躾がなっているよ」

相手気持ちを察しない、相手の行きたいところよりも自分の命を優先する。そういう態度が人として最もダサい

「〇〇君がモテないのはそういうところだよ」

教養もなければ人生経験もないくせにプライドが高くて人に頭を下げられない」

あんたみたいな卑屈な人間デートに誘われたかと思うと反吐が出る」

「卑屈なくせに道化にもなれないんだね」

「〇〇君がモテないのは顔面のせいではなく性格のせいです、これだけはハッキリしている」

「鯨骨生物群集に行かないなら私泳いで帰るよ?」

別に海底に行くかどうかの問題じゃない。あなたのその失礼な態度に対する私の怒りの問題

「私のことをバカにしないでほしい。なんで〇〇君のその卑屈さに対して私が母親みたいによしよし優しく受け止めてあげないといけないの?」

「海底に行くかこのデートを止めるかどちらかに決めて」

「ほらそうやって怒り出す。言っておくけど今の状況を人に見せたら10対0でみんな私の味方をするよ?」

「本当に〇〇君はカスだね。一生そうやってチー牛弱者男性やってれば?」

あんた人のこと見下してるでしょ? 海底にも行けないゴミ以下の分際で」

ゴミカス、下等生物

イライラする」

「私がこうやって心を込めて説教してあげても〇〇君には何のプラスにもならないだろうね」

あんたっていま自分がなんで怒られていて、なんで私が怒っていて、一体何が人として間違っていたのかも理解できていないでしょ?」

「もういいよ。今日のことゼミのみんなに言いふらしてあげる」

はーーーーーーーーーい

死にまーーーーーーーーす!!!!!!

海底にも行けない俺みたいなカスは死んだほうがいいですよねーーーーーー!!!!!!!!

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

さっき床に頭打ち付けすぎて軽く脳震盪ぎみだわ

Permalink |記事への反応(1) | 12:31

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2025-10-19

適応障害に思いを馳せる

同僚が適応障害休職することになった。

大口案件に取り組んでいる真っ只中のことである

なぜ同僚が適応障害に至ったのか、少し自分の頭の整理も含めて書き連ねていこうと思う。

同僚の性格はあけっぴろげというか、底抜けに明るいというか。

一言で表すなら「エンターテイナー」だと思う。

大多数の人間から見れば「明るくて話しやすい」「取っ付きやすい」人間だ。

からこそ今回の休職は「まさかあの人が?」という反応であった。

しかし同僚の根底にあるのは「所属欲求の強さ」だったと私は思う。

同僚の生い立ちを聞き齧っただけだが、あまり所属に恵まれているとは思えなかった。

家庭も、友人も、かつての職場も、今の職場も。

表面的な付き合いはできるのだろうが、深い話は恐らく誰にもしていない。

それこそパーソナルな部分に踏み込むような話を、同僚はたった1人で抱えて生きているようだ。

信頼できる人間を探し求めているが、自分の思う信頼できる人間には出会えていないのだろう。

探し求めるその姿は、私から見ると道化のようであった。

あえてオープン自分を演じ、酒を大量に消費する様はいっそ哀れである

同僚の思う「信頼できる他者」は「もう一人の自分」でしかなく、それ故に苦しみは続く。

此度の休職はここが上手く消化できなかったからに他ならない。

適応障害を含む精神疾患は、私個人定義になるが「自分の持つ気質社会が適合しない状態」を指すと考えている。

誰しもが自分の持つ気質性格と折り合いをつけながら、どこかに所属したり働いたり、交友関係を築いている。

社会との適合は、いわゆる我慢連続に他ならない。私だって正論を振り翳し他者を詰りたい時がある。

しか我慢をせずにいれば、生きていくことができなくなる。

この我慢無意識に行うことが多いが、我慢限界という言葉通り、何かしらの要因で限界は訪れる。

例えば身体的に具合が悪い時など、気質制御するより優先事項が高い状況がそれにあたる。

先に書いた通り、まず同僚は他者を信頼できない。それはまごうことなき本人の素養である

信頼できないか業務報告はおろか、自分の体調も他者と共有ができなかった。

そして同僚の関係者も、普段演じている同僚の芝居を信じ切ってしまった。

最後最後体調不良の申し出をしても、本気で捉えてもらえなかった。

「あれだけ『大丈夫』と言われ、報告もなければ踏み込みようがない」という関係者の言は悲痛である

同僚は助けを求められない環境を、自らの演技で作り上げてしまった。

明るく振る舞い、誰にでもにこやかにしかける役者の姿を、崩すことができなくなったのだ。

自分所属欲求を満たすための演技が、自分の首を絞めてしまったのだ。

職場環境における適応障害は、当然周囲の環境も大いに影響する。

だって時間残業薄給には耐えられないだろうし、やりがい搾取なんてもっての外である

しかし此度の一件で思ったのは、本人の素養も影響するのだろうことだ。

だって本当の自分を見せるのは怖いし、それが受け入れられる環境ではない。職場は最も困難な場所である

しか業務上の不具合不都合など、自分で処理をするのが困難な時が多い。

困った時は責任者を引っ張ってこなくてはならない立場なら尚のことである

プライベートを見せろとは言わないが、業務は隠すものではない。

同僚の場合、周囲の関係はいつも気にしていた。その環境をどうか蹴らないで欲しかった。

他者の信頼、とまでは行かずとも、業務の困りごとの共有はして欲しかったしすべきだったと思う。

信頼しにくい環境であったことは否めない。

誰もが自分の抱えた業務に振り回されており、誰が助けてくれるのかがわかりにくい環境なのは事実から

そういう時は、オープンにして良い状況だけでも適当に身近な同僚に喋って良いのではないか、と私は思う。

休職前も一悶着あった。

同僚は休職を認めようとしないのである

もうこれ以上進められないのに、他の案件も全てストップしてしまっているのに。

恐らく表面上は「ひとりで片付けられる」という思いからくるものだと思う。

しか根底には「所属欲求」が見え隠れしていた。

役立たずと思われたくない、やっぱりダメだったと思われたくない、一人でやりきったという賞賛が欲しい。

ここまで来ると危険で、他者言葉が耳に入らないだけではない。

他者自分と同様の環境押し付けようとするのである

自分生活を切り詰めて仕事をしている、お前も同様に苦しめと。

同僚には同僚なりの言い分はあるだろうが、優先順位は人によって異なる。

自他境界がどんどん曖昧になっていく姿は、痛ましかった。

結局後始末に奔走しているのは関係者であり、私もそのうちの一人である

同僚が今まで共有してこなかった情報を探り、掘り起こし、まとめ、時が過ぎていく。

同僚の上長はあちこちに頭を下げて回っている。

仕事に関しては、一平社員が一人で抱え込んで良いなんて事象はない。

なぜなら自分で尻が拭けないかである。悲しいことに、換えの効く駒に他ならない。

責任者に全てを開示し、なすりつけておく準備をしておく必要がある。

信頼なんてもの存在しない。それをどうかわかって欲しい。

上長や周囲の人間を信頼しようとしまいと、会社から給料が出ているうちは所属しているのである

法律上は、会社は雇った人間を守る義務だってある。

そこに所属欲求関係ないのである

仕事に潰されそうな時、自分一人で抱え込んでいないかどうか確認してみて欲しい。

下っ端は上長に報告するまでが義務みたいなものだ。

それを受け取らない上長は、上長が悪いのである

自分は記録を残しました」と言えれば充分である


長くなってしまったが、ここまで読んでくださった方

貴重な時間ありがとうございます

様々な環境があり、一概に原因特定はできないけれど

こんな素因もあるんだな、程度に心に留めておいてください。

会社である以上、ひとりぼっちでできる仕事なんてない。

ひとりぼっちになっている、と思った方は今一度周囲の環境を見渡してみてください。

助けてくれる人がいなくたって良いんです。

かになすりつけられる状態さえ作っておけば。

Permalink |記事への反応(1) | 23:17

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追記ありスタバに行けない増田を男女逆にしてみたよ

好きだった人から罵倒されてマジで

大学ゼミで仲良くなった男の子がいて勇気を出してデートに誘ったのね

「一緒にチェンソーマン観に行かない?」って

男の子からOK貰えたか今日ウキウキで出かけたわけさ

男の子は言うわけ

映画始まるまで時間あるからスタバ行きたい」って

私はそれを拒否したのよ

恥ずかしい話私なんてクソ陰キャなわけ

いわゆる地味フェイスのクソゴミ弱者女性なわけ

今回デートに誘ったのだってめちゃくちゃ勇気必要だったわけ

大学の他の陽キャどもと違ってこっちは地方田舎出身のクソ芋なのよ

そんなクソ芋からするとスタバなんて行けるわけがない

注文だって、一体何を頼めばいいのかわかんない

恥をかくことになるのはわかりきっている

私の人生を振り返れば男の子と2人で遊びに行けたこ自体奇跡に等しいことなのにこんなのハードル高すぎるわけよ

マックじゃだめなの?ガストじゃだめなの?って話なわけ

もう半分パニックになって絶対無理絶対無理絶対無理絶対無理って拒否してたら相手男の子が本当に怖い顔になって罵倒してくる

一字一句その通りとはいかないけど心を落ち着かせるためにここに内容を書き出してみる

「男をデートに誘っておいてそういう態度をするのは本当に酷い」

「生きている価値がない」

「そんなに臆病なら一生男をデートに誘うな」

「俺はあなたのためを思って説教している」

スタバなんてただの飲食店に過ぎない」

「わからないことがあるなら店員さんに聞けばいい」

「なんなら俺に聞いてもいい。「初めてだからわかんないんだよね、教えて」って」

「なんで店員さんに聞く程度のことすらそんなに恐れるのかがわからない」

「ごめんうそ、わからないわけではない」

「要は〇〇ちゃん(私の名前)はプライドが異常に高いんだよね」

人生経験に乏しいくせに人から教わることに屈辱感じてへそを曲げている」

相手の男の気持ち考えなよ」

「そうやって恥をかくことから逃げ続けて人様に対して失礼な態度を重ね続ける」

「〇〇ちゃんカス、はっきり言って」

「〇〇ちゃん普段バカにして見下しているやりらふぃーの方が躾がなっているよ」

相手気持ちを察しない、相手の行きたいところよりも自分の後ろ向きなプライドを優先する。そういう態度が人として最もダサい

「〇〇ちゃんモテないのはそういうところだよ」

教養もなければ人生経験もないくせにプライドが高くて人に頭を下げられない」

あんたみたいな卑屈な人間デートに誘われたかと思うと反吐が出る」

「卑屈なくせに道化にもなれないんだね」

「〇〇ちゃんモテないのは顔面のせいではなく性格のせいです、これだけはハッキリしている」

スタバに行かないなら俺帰るよ?」

別にスタバに行くかどうかの問題じゃない。あなたのその失礼な態度に対する俺の怒りの問題

「俺のことをバカにしないでほしい。なんで〇〇ちゃんのその卑屈さに対して俺が父親みたいによしよし優しく受け止めてあげないといけないの?」

スタバに行くか今日デートを止めるかどちらかに決めて」

「ほらそうやって怒り出す。言っておくけど今の状況を人に見せたら10対0でみんな俺の味方をするよ?」

「本当に〇〇ちゃんカスだね。一生そうやって弱者女性やってれば?」

あんた人のこと見下してるでしょ? スタバにも入れないゴミ以下の分際で」

ゴミカス、下等生物

イライラする」

「俺がこうやって心を込めて説教してあげても〇〇ちゃんには何のプラスにもならないだろうね」

あんたっていま自分がなんで怒られていて、なんで俺が怒っていて、一体何が人として間違っていたのかも理解できていないでしょ?」

「もういいよ。今日のことゼミのみんなに言いふらしてあげる」

はーーーーーーーーーい

死にまーーーーーーーーす!!!!!!

スタバにも行けない私みたいなカスは死んだほうがいいですよねーーーーーー!!!!!!!!

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

さっき床に頭打ち付けすぎて軽く脳震盪ぎみだわ

--

[B! 増田] スタバに行けない人間は下等生物だから死ぬべきなんだってさ

男女逆の設定なら、こんなに増田を責め、相手理解を示すブコメはつかないと思うけれど、どうかな?

anond:20251018225012

--

追記

「男女逆の設定なら、こんなに増田を責め、相手理解を示すブコメはつかないと思うけれど、どうかな?」

と書いているのだから

「男女逆の設定でも、元増田女の子はひどいし、こっちの男もひどい」

は、そりゃあそうだろうね、としか自分も「どっちにしろひどい」と思っているもの

もし、

元増田女の子はひどいと感じたが、男女反転したこっちのバージョンだと愛・優しさを感じる」

みたいな反応があったら驚いていたと思うが、現状のところはないね

もちろん、

元増田女の子にも、こっちの男の子にも、(元)増田への愛・優しさを感じる」

という感想を持っても結構

皆さん、個人としてそれぞれの思いを大事にしてくださいませ。

 

で、ブコメを見た感じだと、masudasmanさんの

これに関しては男女は関係無いでしょ・・・と思って読んでみたら、不思議と若干だけど説教側がイヤな奴に、説教を受ける側が可哀想に思えてきた、本当に若干だけど。

みたいな反応がいくつかあったので、全体の割合に関して

男女逆の設定なら、こんなに増田を責め、相手理解を示すブコメはつかないと思うけれど、どうかな?

という仮説は、まあ、そこそこ立証されたかな、と。

こんな雑な男女反転でも反応が変わるのだから

もっときちんとミラーリングさせれば、さらに反応は変わるかもね。

 

個人的には、rag_enさんの

元増田に残しているブコメ

まぁ一応マジレスしとくと、どう見てもカス女なので深入りする前に避けられてラッキーくらいに思っておくのが正解。

こちらの増田に残しているブコメの前半)

増田相手女はどう見てもカス女だし、これはどう見てもカス男なんよなぁ。

が近いかな。引用に入れなかった後半部分は言い過ぎだとは思うけれども。

 

「私(俺)はあなたのためを思って説教している」はDVでの言い分の典型だね。

こんなこと言う相手は、男女異性同性問わず切った方がいいよ。

 

トラバ

ここまでがセットで釣り

別人だよ。まあどうでもいいけれど。

元増田が、追記じゃなくて「追求」と書いているのは、何か笑っちゃった。ドンマイ。

--

【もう一個追記

今回の実験とはちょっと別の話。

 

ブコメ見ると、「スタバに行けない女性想像できない」というのがいくつかあって、

もっとなのだけれど、どこかで「あれ?そうだっけ?」みたいな引っかかりがあったんだ。

で、寝て、起きて、思い出したんだけど、

前の彼女が「スタバ行きたくない女性」だった(「スタバに行けない女性」とはちょっと違うが)。完全に忘れていた。

元増田ストーリーみたいな、注文できない、恥かきたくない、ではないが、

スタバにいる自分が耐えられない」「スタバを選ぶ人間が嫌い」

みたいなことを言っていたんじゃないかと思う。

そして、今の彼女も「スタバ行きたくない女性」だ…。これも忘れていた…。

確か経営手法が気にくわないんだってさ。どう気にくわないかいたことないが。

気にくわないなら、気にくわないのだろう、程度にしか思っていない。

(今の彼女は他に「マクドナルド」と「ディズニーランド」を断固拒否している)

社会全体からすれば、めったにいないタイプだろうし、

自分たまたま特異的にそういう人を引いただけだと理解しているけれど、

(いや、これも偏見なのかな。特異的じゃなくて、実は案外多いのかもしれない)

本当に世の中にはいろんな人がいるものなのよ。

Permalink |記事への反応(16) | 06:50

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2025-10-18

スタバに行けない人間は下等生物から死ぬべきなんだって

好きだった人から罵倒されてマジで

大学ゼミで仲良くなった女の子がいて勇気を出してデートに誘ったのね

「一緒にチェンソーマン観に行かない?」って

女の子からOK貰えたか今日ウキウキで出かけたわけさ

女の子は言うわけ

映画始まるまで時間あるからスタバ行きたい」って

俺はそれを拒否したのよ

恥ずかしい話俺なんてクソ陰キャなわけ

いわゆるチー牛フェイスのクソゴミ弱者男性なわけ

今回デートに誘ったのだってめちゃくちゃ勇気必要だったわけ

大学の他の陽キャどもと違ってこっちは地方田舎出身のクソ芋なのよ

そんなクソ芋からするとスタバなんて行けるわけがない

注文だって、一体何を頼めばいいのかわかんない

恥をかくことになるのはわかりきっている

俺の人生を振り返れば女の子と2人で遊びに行けたこ自体奇跡に等しいことなのにこんなのハードル高すぎるわけよ

マックじゃだめなの?ガストじゃだめなの?って話なわけ

もう半分パニックになって絶対無理絶対無理絶対無理絶対無理って拒否してたら相手女の子が本当に怖い顔になって罵倒してくる

一字一句その通りとはいかないけど心を落ち着かせるためにここに内容を書き出してみる

女の子デートに誘っておいてそういう態度をするのは本当に酷い」

「生きている価値がない」

「そんなに臆病なら一生女の子デートに誘うな」

「私はあなたのためを思って説教している」

スタバなんてただの飲食店に過ぎない」

「わからないことがあるなら店員さんに聞けばいい」

「なんなら私に聞いてもいい。「初めてだからわかんないんだよね、教えて」って」

「なんで店員さんに聞く程度のことすらそんなに恐れるのかがわからない」

「ごめんうそ、わからないわけではない」

「要は〇〇君(俺の名前)はプライドが異常に高いんだよね」

人生経験に乏しいくせに人から教わることに屈辱感じてへそを曲げている」

相手女の子気持ち考えなよ」

「そうやって恥をかくことから逃げ続けて人様に対して失礼な態度を重ね続ける」

「〇〇君はカス、はっきり言って」

「〇〇君が普段バカにして見下しているやりらふぃーの方が躾がなっているよ」

相手気持ちを察しない、相手の行きたいところよりも自分の後ろ向きなプライドを優先する。そういう態度が人として最もダサい

「〇〇君がモテないのはそういうところだよ」

教養もなければ人生経験もないくせにプライドが高くて人に頭を下げられない」

あんたみたいな卑屈な人間デートに誘われたかと思うと反吐が出る」

「卑屈なくせに道化にもなれないんだね」

「〇〇君がモテないのは顔面のせいではなく性格のせいです、これだけはハッキリしている」

スタバに行かないなら私帰るよ?」

別にスタバに行くかどうかの問題じゃない。あなたのその失礼な態度に対する私の怒りの問題

「私のことをバカにしないでほしい。なんで〇〇君のその卑屈さに対して私が母親みたいによしよし優しく受け止めてあげないといけないの?」

スタバに行くか今日デートを止めるかどちらかに決めて」

「ほらそうやって怒り出す。言っておくけど今の状況を人に見せたら10対0でみんな私の味方をするよ?」

「本当に〇〇君はカスだね。一生そうやってチー牛弱者男性やってれば?」

あんた人のこと見下してるでしょ? スタバにも入れないゴミ以下の分際で」

ゴミカス、下等生物

イライラする」

「私がこうやって心を込めて説教してあげても〇〇君には何のプラスにもならないだろうね」

あんたっていま自分がなんで怒られていて、なんで私が怒っていて、一体何が人として間違っていたのかも理解できていないでしょ?」

「もういいよ。今日のことゼミのみんなに言いふらしてあげる」

はーーーーーーーーーい

死にまーーーーーーーーす!!!!!!

スタバにも行けない俺みたいなカスは死んだほうがいいですよねーーーーーー!!!!!!!!

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

さっき床に頭打ち付けすぎて軽く脳震盪ぎみだわ




追求

釣りなわけねーだろアホか

釣りなわけねーだろアホか

デート楽しみすぎて約束の1時間前に待ち合わせ場所着いたら相手もかなり早く来てくれたんだよ

「お?脈アリや〜ん」って浮かれていたらなんかこんなことになったんだよ

1時間かけて罵倒されまくったんだよ

その会話の要点を抜き出したんだよ

ショックすぎていまでも頭ん中でぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるリフレインされてるの!!!!!

もっとさぁ東北のクソ田舎出身者の立場を慮ってくれない??????

車で1時間かけてイオンに行くような田舎者なんだよ

そりゃその中にスタバはあるよ?????

でも家族揃って買い物中にスタバになんて行くわけないでしょ?????

怖いに決まってるでしょ?????

ほんとはてなにいる連中はお都会にお生まれ遊ばされたお貴族しかいらっしゃらないんですね!!!!!

てかお前らなんなの???

なんで相手側の肩を持つの?????

そんなに俺悪いことした?????

明らかにこれ相手のほうが悪いでしょ

百億歩譲ってスタバに入れないのがダサかったとしてもここまで言われることはないでしょ?

「あ、ごめん遅刻しちゃった」って相手に対して「死ねカス相手時間を奪った自覚を持てよそういうところがカスなんだよ生きている価値がない」って面と向かったら言いすぎだろ

DVだよな?

お前らは一体何なの?

こんなに善悪判断つかない人がたくさんいるとか頭おかしいだろ

男性嫌悪のクソしかいないの?この世の中は

寝て起きて少しはドンマイ的なコメントあるかと思ったらこれだよ

ホットエントリーに載ってるのを見て嫌な予感はしたけど中身見たら案の定だわ

言っておくけどお前らのコメントとかもう読まないからな

今書かれているのだって全部読んでない

最初10個くらい以外は流し見だよ流し見

よくもまぁそんな酷い誹謗中傷ばかり書けるね

最悪の目覚めだわ

Permalink |記事への反応(94) | 22:50

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2025-10-09

人は見た目が全て

エセックス伯爵ロバート・デヴァルーとそのライバルだったソールズベリ伯爵ロバート・セシル。

エセックス伯はイケメン高身長軍事的英雄だが短気で激情家で政争には弱い。

ソールズベリー伯はせむしの低身長で陰気な顔の宮廷役人で、道化のように振る舞って人に取り入ることや人を取り込むことが得意。

結局、エセックス伯は政争で敗れて反乱を起こすが失敗して処刑

政争勝利したソールズベリー伯がイングランドの実権を握る。

映画舞台などを見るとエセックス伯が主人公ソールズベリー伯は大抵悪者

当時のロンドン民衆エセックス伯が好き。

また、女王男性としてエセックス伯が好きなのに、言うことを聞かなかったり激情的で宮廷トラブルを起こす彼に手を焼いており、最後鎮圧処刑を命じたが複雑な思いを抱いていた。

一方でソールズベリー伯には「大きな派閥を率いる有能な家臣」程度の感情しかなかったようで、政治に関することをのぞいて手紙をやり取りしたり、彼のことを話題にしたりすることは一切なかった

結局、人は見た目が全て。

イケメン高身長軍事的英雄だったら反乱を起こして処刑されても主人公として扱われ、ブサイクでせむしだと政争勝利して天下人になっても人からは好かれない。

Permalink |記事への反応(1) | 19:27

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2025-10-04

久々に会った友人が体調を崩して公共トイレに入った後、歩けない状態になってしまった。

パニックになりながら近くに病院がないか調べたり一生懸命声かけ背中さすったりしたのだけど、15分くらいしたら急に恋人が現れて友人を保護していった。

まりにササッと撤収していったので自分は完全にポツンと取り残された。

初手でトイレこもった時に連絡取ってたらしい。

え、せめて連絡取ったこと言ってくれよ…泡食って病院調べてた自分道化みたいじゃん…

彼氏さんが来てくれたのは良かったけどさ…

 

なんてモヤモヤしながらその日は帰った。

「具合が悪かったら返信しなくても大丈夫」と一言添えて、また改めていつか会おうとLINEを送った。

そしたら4日後、友人が元気に秋田家族旅行してる様子をFacebookに上げてた。

その間向こうから「無事に回復した」という連絡は一切なし。既読は付いていた。

 

なんかもう色々無理になって、それ以来こちから連絡は取っていない。

一度だけやり取りが発生した時、色々あって彼氏さんから逃げるように別れたというところまでは話を聞いた。

 

ネットで「女子会勝手彼氏を連れてくる女」の話がバズっていたのを見てふと思い出した、7年くらい前の話。

友人の場合はやむにやまれ事情彼氏を呼んだのだからトピックとは異なるけど、

それでもやっぱり彼氏に連絡入れたことは言って欲しかったな…と、

あの時突如駅の雑踏に一人取り残された生々しい感覚を反芻しながら思う

Permalink |記事への反応(0) | 18:35

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2025-09-26

ファッション孤独

将来に不安しかない。一応今は学生通信制からほぼ家にいるだけだけど、あと数年したら面妖で複雑な社会でよく分からない大人と顔を付き合わせてストレス背負って仕事して、もちろん外では偶然か人為的かの被害(犯罪とか災害とか)を受ける確率がぐんと上がるし、とにかく刺されたくないし、道端で倒れたくない。そもそも社会が恐ろしいことを刷り込んで欲しくなかった。凡庸純粋に生きていければ良かったのに、いらないことばっかり吹き込まれてあることないこと想像して無駄に頭を使っていていつも眠いし、やりたいことはあったはずなのにスマホに溺れてもうよくわからない。たまに何かやる気になっても才能の無さに失望して努力することもせずにまたぼんやりインターネット脳みそ時間を溶かしている。

どこからこうなったのだろう。全日制でちょっとキツイことを言われたくらいで挫折してはいけなかったのだろうか?あぁ、この人のところで年通しは無理だなと思ってしまっても、その場で泣いてしまってでも行けばよかったのだろう。結局、主観しかないのだからそのうち恥を恥とも感じられなくなれそうだったし。だから狂ってしまっていても自覚できてないのなら他人が狂っていると言われても実際狂っていたとしても自分は狂っていないと心の底から信じられるところまで来られたなら万々歳ではないのか。そうやって死ぬまで自分を騙し続けられなかったことへの罰だろうか今の人生は。また道化を演じて、自分が分からなくなっていくまでの準備期間か。甘えているのだろう。際限なく甘やかされた人間他人に縋る方法すら知らないし、媚びることもできない。誰が助けてくれる?親か、散々甘やかしてくれた親だろうが、彼らが亡くなったらどうする。いっそ狂えたら楽だ

やはりこの世は学歴と金けが全てで他はどうだっていい、本人が満足していればいいのだから今は部屋に引きこもってネットを見ているし、子供の頃大嫌いだったあの人は友達やら恋人とか家族ときっと楽しく過ごして幸せな老後を過ごすのだろうし、自分はやがて耐えきれなくなった瞬間、人生のものを終わらせるのがせいぜいだ。今はなんだろう?惰性でだらだらしてまだ若いから危機感や焦燥がまだきていないからなんとなくの希死念慮に取り囲まれてるだけで、いずれは本物になってしまうのか、

いっそのこと悪くないのかもしれない。人間適応してきた生き物だし、今まで辛いと感じたことなんて山ほどあるし、都合の良い記憶過去の良かったことを思い出せるし、すぐに付随してトラウマフラッシュバックしてきても検索しようとして何を検索するのか分からなくなった時みたいにまたすぐ忘れるだけだし、仕事忙殺されて寿命縮めて特に楽しくなくて幸福を感じられなかったとしても、こんなことをいえる友達がいなかったとしても、実は親は自分のことしか考えてなくて自分の子供のことなんか生きてれば後は二の次だったとしてもなんで自分の子供が役立たずで変で根性なしだと思ってたとしても皆タヒんじゃえば肉塊だし。変に気負う必要ないよほんと

人って結局自分の考えるようにしか考えてないから何言ったって響かなければ無意味だし、したいように解釈するんだから何言ったって壁に腕ぶつけてるようなもんだし痛いししんどいからやめた方がいいよ、でも言わなかったから苦しいんだろうな誰も聞いてないにしろ吐き出さないとくるしいし、そのくせすべてが終わった時に後悔しだすんだもん、遅いよ工事の音がうるさくてなんか怖くなってきたいつまで工事してんの一日中やってんじゃん、ループしてるの

なんで人は後悔ばっかりしてんだろう、多分亡くなる瞬間すらそう それを後悔と受け入れない人が生きやすいし、誰の迷惑とも考えられない人もそう

工事の音って怖くない?今にも建築材に穴が開けられてドリルが貫通してネジがすごい勢いで締め付けられてがんがん金槌がうるさくて物全体が悲鳴あげてるみたい別に工事自体否定してないけど 人間精神的にそうされるよりはマシだから

なんか逆に行ける気がしてきた、情緒不安定ってのも役立つものだね 吐き出せてよかった色々と

もう手遅れ

Permalink |記事への反応(2) | 15:13

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2025-09-21

結局ジークアクスは駄作だった

当時あんなに行間だの読解力だのと信者必死擁護されてたのに

結局最終的な評価Googleレビュー5点中2.2

これでは信者道化だよ

Permalink |記事への反応(1) | 11:46

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2025-09-18

集団ストーカー妄想を喚くから面白がられて実際に集団ストーカーされるわけ

お前の振る舞いは道化だよ

自分から自分を苦しめてるのにね

Permalink |記事への反応(0) | 08:10

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2025-09-13

anond:20250824224505

ここまで勝ち誇っといて実際は只のネトウヨによる曲解誤読でしたってAI証明されるオチなんだから

ほんとネトウヨって生きてる価値が限りなくゼロに近いよな

これでは道化だよ

Permalink |記事への反応(0) | 20:47

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2025-09-09

道化沈黙する時

道化は笑いに包まれた。

それは祭りの後に漂う煙のようであり、

また凍った鐘の音のようでもあった。

王たちは彼を飾りとし、

貴族たちは戯れと呼び、

民衆はその沈黙無知とみなした。

だが道化の胸には、

割れた杯の底に残る雫のような真実があり、

その雫はときに刃よりも深く胸を裂いた。

彼は踊った。

笑いの影に涙を隠し、

沈黙の奥で風を研ぎながら。

その足音は軽やかであったが、

その影は崩れゆく城壁のように重かった。

Permalink |記事への反応(0) | 22:13

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2025-09-04

『なっくり』考察感想 第1話

これは何ですか?

 

 カクヨムにて7月8日から公開・連載されている『成り上がり炎上配信者だった俺が、最強の女神たちと世界をひっくり返す話~』についての感想考察を書いています

 こちらは第1話 転落 についてです。

成り上がり炎上配信者だった俺が、最強の女神たちと世界をひっくり返す話~ とは何ですか?

 ここにあります

成り上がり炎上配信者だった俺が、最強の女神たちと世界をひっくり返す話~ -カクヨム

https://kakuyomu.jp/works/16818792436194059031

 作者は浜川祐平。

 そして彼は、幾度かの活動休止と復活を繰り返し、現在チャンネル存在するyoutuberであるsyamu氏その人でもあります

 今回は氏が過去に描いたゾット帝国等とは無関係の完全新作であり『ネットの闇』をテーマにした氏の実体験を核にした自伝小説という位置付けになっています

 長いし、略称として『なっくり』を使っていこうとも思います

なんでこの作品の話をするの?

 作品のものよりも、syamu氏への関心が強いです.

 ここで話すにはとても紙幅が足りないので適当に調べていてください。

Twitter:https://x.com/KyakerobyaSyamu

youtube:https://www.youtube.com/@user-syamu_YouTube/featured

 あとは、ニコニコ大百科とかが詳しいかもしれません。

Syamu_Game -ニコ百https://dic.nicovideo.jp/id/5263954 #nicopedia

1話 転落 について

1話 転落

https://kakuyomu.jp/works/16818792436194059031/episodes/16818792436195030881

 春の陽気とは裏腹に、俺の心は鉛のように沈んでいた。卒業を目前に控えたコンピュータ専門学校の退学届を提出した、あの日から、俺の社会との繋がりは、プツンと音もなく断ち切られた。

 物語主人公コンピュータ専門学校を退学する所からまります

 季節は春と書いてあるので、本当の卒業間近になって退学することになったようです。

親はきっと、無駄金をドブに捨てたと嘆いただろう。俺は、正真正銘の親不孝者だった。

 このように主人公も後悔はしているようです。

 とはいえそれならどうしてコンピュータ専門学校を退学することになったのか、理由特に書かれてはいません。就職先が見つからなかったのか、単純に学力落ちこぼれたのか。どちらにせよ『ダメな人』として描かれています

 こうして俺は自ら社会のレールを外れ、外界と閉ざされた六畳の自室で、ひたすらに時間を溶かし始めた。世間が求める「大人」の定義から、俺はあまりにもかけ離れていた。神谷圭佑、25歳。無職童貞。この三文字が、今の俺という人間を形作る全てだった。

 三文字じゃないだろ。三単語とか三点とか言えばいいじゃん。

 とはいえ。この程度でうろたえていたら『なっくり』を攻略することなどできません。今一度気を引き締めてかかりましょう。

外界と閉ざされた俺の世界は、唯一外界と繋がるリビング食卓から始まった。リビングの薄暗い天井に、テレビバラエティ番組の作り物めいた笑い声だけが、虚しく反響していた。それは、俺がこの家に存在を許される、唯一外界と繋がる時間家族揃っての夕飯だった。

 圭祐はニートであり自室も持っていますが、食事家族と一緒に摂っているようです。

 この辺りのディティールはよく描き込まれていて、匂いのついたリアリティを感じます

 父には疎ましがられ、妹の美咲から

「働いたらどう? 聞いてんの? この、引きこもり

 と言われる始末。ニートの辛さ、いたたまれなさ、情けなさが表現できていますさりげなくsyamu一期ネタを使うファンサービスでもありますね。

誰も、俺を見ていない。俺が席を立った後、妹の美咲は俺の茶碗にご飯をよそい直しラップをかけた。その不器用な優しさに、まだ誰も気づいていない。俺自身も、その時の美咲の行動に気づいてはいなかった。

 とはいえ母親トンカツを用意したり、美咲も圭祐のご飯を取っておいてくれています。これが『不器用な優しさ』ということだそうです。

 働いていない圭祐にも平等トンカツを食べさせることはともかく、普通に夕飯食べていた圭祐のためにご飯をよそう意味はよくわかりませんが、そういうことのようです。太るんじゃない?

 この後も圭祐は自室にこもり、動画サイトゲーム実況動画を見て『自分もやってみたい』と思たりします。

 それが直接のきっかけかもわかりませんが、とりあえずこのまま親の脛をかじってばかりではいかんと思い直し、自分から職を探し始めます。偉いですね。

社会復帰への道は、想像以上に険しかった。ハローワーク求人票を睨む度、鉛のように重い足取りで面接へと向かった。工場検品作業では、些細な計算ミスを大声で怒鳴られ、派遣現場では、童顔のせいで高校生と間違われた。周囲の冷たい視線が、俺の心を深く抉り続けた。

 この苦労話もそれなりにディティールが細かいです。

 些細な計算ミスをするあたり、計算が苦手かおっちょこちょいかもしれません。童顔のせいで高校生と間違われたことも辛かったようです。それについては考えようによってはプラスになりそうだけども……

それでも、わずかながら得られた給料で、美咲に欲しがっていた携帯ゲーム機を買ってやった時だけが、唯一の救いだった。妹の、ほんの一瞬だけ見せた嬉しそうな顔が、俺の乾いた心に、わずかな潤いを与えてくれた。

 結構妹想いでもあったようです。

 妹が一瞬だけ嬉しそうな顔を見せたということは、すぐにまたこんなの買ってる場合か等とか怒られてしまったのでしょうか。ツンデレ描写かもしれません。

そして、俺が最後に流れ着いたのが、この製氷工場だった。

 実際圭祐の仕事はどこも長続きはせず、製氷工場で働くことになったようです。

 ライン作業なので単調ですが、それでも圭祐は黙々とこなし、気質には合っている様子。

 さら機械わずかな音の変化から故障を察知し、それを報告したりもしています。ただしこの活躍工場には認められることはなく、特に圭祐の待遇が変わることは無かったようです。

 これを圭祐は

俺の能力は、誰にも理解されないまま、ただ消費されるだけだった。

と、嘆いています

 気づけば、製氷工場での勤務は三年を迎え、俺は28歳になっていた。あのホラーゲーム実況を見て「やってみたい」と思った時から、稼いだ金で配信機材を買い揃え、「K」という名で動画投稿を始めて二年が経っていた。だが、再生数は一向に伸びず、アンチコメントすらつかない、空気のようなチャンネル。それが俺の立ち位置だった。

 製氷工場での仕事は続いて、ゲーム実況もできているようです。

 いずれも活躍が認められることは無いのですが、本人の意欲は萎えてはおらず、めげずに細々と続いている様子。

昼休憩。休憩スペースの隅に座り、コンビニで買ったカップ麺を啜っていると、スーツ姿の女性が、いつも笑顔で声をかけてくれる。保険営業佐々木さん。彼女の明るい声と、はにかんだ笑顔けが、俺の唯一の癒やしだった.。

 保険営業佐々木さん。

 ネタバレになります彼女重要人物です。

 手作りクッキー工場の皆に配ったりしてくれて、優しい性格女性のようです。

 しかし同時に、圭祐は彼女のことを自分からは遠い世界に生きる人と感じていました。

 その数ヶ月後、俺の配信チャンネルは、ある動画きっかけに炎上した。自暴自棄になっていた俺のSNSに、同業者今宮という男からDMが届く。『炎上大変ですね。俺で良ければ話聞きますよ? 良ければコラボしませんか?』この地獄から抜け出せるなら、悪魔だって魂を売る。そんな思いで、俺はその誘いに乗ってしまった。

 さて。何もかも幸せというほどではないけど、少しずつ再生に向かっていた圭祐ですが、ここでトラブルが発生します。

 ……が。そもそもチャンネル炎上した原因については語られていません。

 これは以前のバージョンではもっと詳細に炎上した経緯が書かれていたのですが、現在ではそのくだりは削除・変更されているようです。

 なんだかよくわかりませんが、とにかく圭祐は窮地に立たされます

 炎上後、アンチコメントに煽られた俺は、さら自暴自棄になっていた。「金持ちボンボンだろ」「どうせ実家暮らしニート」。そんなコメントに反発するように、注目を集めようと「自宅紹介動画」を投稿した。親がいない隙を狙って撮ったその動画に、テレビ台に置かれた『〇〇宿舎』と書かれた入居資料が一瞬映り込んでいることに、気づく余裕はなかった。

 さらに状況は悪化します。というか圭祐が勝手にヤケになって妙な企画します。

 原因がどうあれ炎上したのなら、下手に動かずほとぼりが冷めるまで待った方が良いとも言われますが……圭祐はここで判断を誤ってしまます

 というか『自宅紹介』の動画を出しても『金持ちボンボン』やら『実家暮らしニート』やらの流言に対する反証にはならないと思うのですが……そもそも親の許可もなく、賃貸の住居を映してしまっているので、これは二重三重の悪手になってます。なにしたいんだこいつ。

 今宮とのコラボ配信で、俺は道化にされた。「アンチ特定されるものが映ってますよ?」正義を気取る今宮に、俺の自宅紹介動画晒し上げられる。追い詰められた俺は、「特定されても、うちは笑顔で返しますよ」という、その時の最悪の感情を乗せた最悪の失言を犯した。匿名掲示板では、俺の自宅が特定されるまで時間はかからなかった。『〇〇宿舎』という情報と、去年の夏に投稿した、宿舎の踊り場から撮った花火大会動画。二つの情報から、部屋番号まで完璧に割り出されていた。

 どんどん様子がおかしくなってくる……

 炎上と、それが悪化した原因について今宮無関係であることは明らかです。圭祐に注意したのも常識的範囲内でのことです。けれど圭祐は、さらにそこで意味不明な強がりを見せ、アンチに自宅を特定されてしまいました。

 道化にされたのも、正義を気取られたのも、全部圭祐に原因があるのに。

その夜、インターホンが鳴る。外には、複数警察官。そして、青ざめた顔でこちらを見つめ、声にならない悲鳴を上げながら、その場に崩れ落ちる、母の姿があった。バタン、と無慈悲な音を立てて、パトカーのドアが閉まる。その音は、俺と、俺の世界の全てを、完全に断絶した。

 そしてついには自宅に警察が来る騒ぎとなります

 さらに何故か。圭祐は警察に連れていかれてしまます

 ……これについても最新バージョンではなく以前のバージョンでは明確な理由があったのですが、そのくだりがまるごと削除・変更されてしまっています。なんで修正して意味不明になるねん。

 ともかく

 俺の人生は、ここで終わった。

 これが成り上がり炎上配信者だった俺が、最強の女神たちと世界をひっくり返す話~ 第1話 転落 でした。

 専門学校退学から這い上がろうとしても世間は厳しく、動画投稿も対してふるわないまま炎上し、警察沙汰。絶望から這い上がる物語として、これ自体は良い建付けだと思います

 ここからいかに圭祐が成り上がっていくのか? というところで次回に続いています

『なっくり』考察感想 第2話https://anond.hatelabo.jp/20250905103646

Permalink |記事への反応(5) | 22:32

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2025-08-03

かつて天才 だった「藤井風」と「かてぃん(角野隼斗)」へ

1年半前に「「藤井風」と「かてぃん(角野隼斗)」の着地点 」というタイトル文章を書いた。

https://anond.hatelabo.jp/20240113173417


この2名は、近い時期にYoutuberからプロになった。

育った環境は大きく違うが、2名は間違いなく「天才」だった。

そう、「だった。」


かてぃんくん(角野隼斗)はソニークラシカル契約をし

文字通り”世界中”のクラシックファンに、熱狂的に迎えられている。

今年の11月にはカーネギー舞台にも立つ。

私は、ラン・ラン氏のピアノを愛しているが、彼もあのレベルまで行けると信じている。

彼は、ただの天才ではなく、すでに経験値をためるターンに入っている。



問題なのは藤井風」だ。

1年半前から危惧していた、閉塞的な環境にいることの弊害が隠し切れないレベルで露呈してきた。

今日見たロラパルーザでの彼は、怯えた子犬のような目で、ただ歌詞を読み上げるだけの道化に見えた。

全編英語の待望のアルバムからの先行曲は、欧米では不発で、熱狂しているのは「死ぬのがいいわ」がヒットした東南アジアのみ。


昨日公開された新曲に至っては、イントロ歌詞MVすべてが70-80年代コピペ

コント」でも観ているような滑稽さすら感じた。(※耐えられず、彼の曲を早送りしたのは初めて)


なぜ、こんなに退屈なのか?

それは、「Hachikō」 も 「「LoveLike This」 も、歌詞の中に藤井風がいないのだ。

「HELP EVER HURT NEVER」にいた等身大藤井風がいないのだ。


こうなった原因はわかってる。彼の周囲の環境だ。

ファーストアルバムは、彼がデビューまで貯めていたアイデアが元になっているが

今回はデビュー後の彼が反映されている。


彼は、事務所が(どんな手を使ったかは知らないが)準備した

超絶特別待遇舞台で、信者のようなファンを前に、歌う生活デビュー以来続けている。


結果、彼の歌詞には「神」ばかりが登場するようになり

最後は超一流の製作陣が準備した、曲や歌詞に乗っかる「道化」と化してしまった。


私は「天才」の転落が見たいわけではない。

彼の自由奔放な言動が、日本メディアに合わないか

事務所が過剰に閉鎖的な売り方をしているのも、理解はできる。


ただ、このままだと彼は事務所の売上のためだけに歌う

本当の「道化」になってしまうだろう。


じゃあ、どうすれば良かったのか?

こんなギャンブルのような無茶な売り方をしなければ

才能は枯渇しなかったのか?


正直、わからない。


あの汚らしい髭も、アイドル売りに抵抗しているのだと思ったが

ロラパルーザで久々に見た髭無しの顔は、怯えた子犬のようだった。

ライブ中に御父様のサングラスを着用しているのも

不安を和らげるためなのかも知れない。


少なくとも今の藤井風は 「天才だった人」 のように思える。


彼の信じる「神」が、才能を残してくれていることを祈るほかない。



Permalink |記事への反応(2) | 22:12

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2025-07-24

メモ

自分には、会社というものが、わかりませんでした。毎朝、同じ時間に家を出て、同じ電車に乗り、同じ箱の中へ吸いこまれていく人間の群れ。自分もその群れの一人として、川の流れに逆らえぬ木の葉の如く、ただ、なすがままに運ばれていくのですが、駅の階段を昇り降りする人々を眺めては、いつも、不思議で、恐ろしくて、たまらなくなるのでした。彼らは、一体、何をそんなに信じているというのでしょうか。

机に坐り、周りを見廻します。電話の鳴る音、書類をめくる音、誰かの笑い声。それらすべてが、自分ひとりを責め立てるための、巧みに仕組まれた合図のように思われてなりませんでした。自分は、謂わば、鳥でも獣でもない、蝙蝠のような存在でした。人間世界に紛れ込んではみたものの、その言葉も、笑顔も、自分にとっては不可解な記号の羅列に過ぎず、ただおどおどと、彼らのご機嫌を損ねぬように道化を演じているだけなのです。

「おい、これ、頼む」

課長が、書類の束を自分の机に、音を立てて置きました。自分は、飛び上がるほど驚きましたが、すぐに、練習してきた笑顔顔面に貼りつけ、

はい、畏まりました」

と、自分でもおかしいくらい澄んだ声で答えました。お辞儀の角度は、これで良かったでしょうか。声は、震えていなかったでしょうか。そんな事ばかりが気にかかり、課長の去った後も、しばらく心臓が馬のように跳ねるのでした。

その書類は、ただの数字の羅列でした。しかし、自分には、それが生き物の腑のようで、気味が悪く、一行も読み進めることができません。ただ、両方のこぶしを膝の上で固く握りしめ、自分が何か取り返しのつかない「しくじり」を演じる事だけを、ひたすらに、恐怖していました。窓の外は、青空でした。自分はこの箱の中から、生涯、出られないのではないか、そんな気さえするのでした。

Permalink |記事への反応(1) | 12:38

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メモ

自分にとって、大学の三年という季節は、人間たちの不可解な競技の始まりに他なりませんでした。誰も彼もが、判で押したように黒い服を着込み、自分という空っぽの箱を、いかに高尚な品物であるかのように見せかけるか、その一点に血眼になっているのです。自分には、その競技に参加する資格など、とうてい、ある筈がありませんでした。なぜなら、自分は、はじめから人間では無かったのですから

けれども、自分は、その競技から逃げ出す事も、できませんでした。働かずに生きる、という選択は、自分にとって、人間であるからの完全な逃避であり、それは、謂わば、海の底で岩に粘りつく、あの、いやらしい「なまこ」や「ひとで」に成り下がる事を意味していました。人間たちの真似事すら放棄した、完全な敗北。自分は、その敗北を、死ぬより恐ろしく感じたのです。自分は、醜くあせって、ただ、敗北者という烙印を額に押されたくない一心で、他の学生たちの後から、おどおどと、その競技の出発点に立ったのでした。

面接という名の審判の前で、自分は、精一杯の道化を演じました。胸のポケットから白いハンケチを覗かせ、練習してきた微笑を顔面に貼りつけ、まるで生命の充実した青年であるかのように振舞いました。しかし、その笑顔は、幼い頃の、あの猿の笑顔と同じく、少しも笑っていない、ただ顔に醜い皺を寄せているだけの、一から十まで造り物のにせものでした。

そうして、ある日、電話が鳴りました。受話器の向こうから聞こえてきたのは、自分勝利を告げる、無機質な声でした。自分は、とうとう、一人の人間として、社会に認められたのです。謂わば、ゴールのテープを切ったのです。

はいありがとうございます。精一杯、頑張ります

自分は、両方のこぶしを固く握りしめながら、そう答えました。電話を切った後、自分は、しばらく呆然と立ち尽くしていました。何の感激もありませんでした。これで、助かった、という安堵もありませんでした。ただ、これから先の永い永い年月のあいだ、自分は、あの人間たちの群れの中で、この恐ろしい道化を、一日も休まずに演じ続けなければならないのだ、という事実けが、冷たい石のように、胃の腑に落ちていくのを感じました。自分は、人間になるための切符を手に入れたのでは、ありませんでした。人間失格の烙印を押されたまま、終身刑を宣告されたのだ、と、そう、はっきりと悟ったのでした。

Permalink |記事への反応(0) | 12:37

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2025-07-18

チームみらいがエリートすぎて思案が巡ってないという言説に反論する

何回もここに書いてるけど、あそこのリーダー政見放送とき子供の数に応じたポイント制の減税」とか言ってたんだけど、扶養控除というのがもうあるの本当に知らないか知らないで有権者ひっかけるために道化演じてるかどっちかだと思ってるんで、エリートかどうか関係なく単純に現行制度理解が浅い

Permalink |記事への反応(0) | 21:17

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2025-07-02

お笑いっていつからこんな高尚なものになったんだ?

ダウンタウンチャンネルが開設されたら、性加害のことを最初ネタにしてもいいと思ってる。

そうすればSNSでまた大炎上はするだろう。

でもね。炎上させる君たちはお笑いのことを何もわかってない。

お笑いとは元々道化のことだ。

そして道化役割というのは、権力に屈せずに意見を言うこと。

それがどんなに馬鹿げていようと、どんなに的外れで、そして空気を読めないような発言でも。

それが本来役割

お笑い芸人が不謹慎を取り上げなかったら、誰が取り上げるんだよ??


去年、初めて菊次郎の夏を観た。

その中には、次のようなシーンがあった。

菊次郎と子供が、ヒッチハイクをしようとする。

でも車は全然まらない。

そこで菊次郎は盲人のふりをする。

車が来ると道路に出て、盲人の人が使うあの長い杖を地面に当ててさ、止まった車の方に近づいくわけ。

それで車はどこだ?って言わんばかりに杖を振りまわしてさ、車を杖でバンバン殴る。

そのシーンを見て、正直爆笑してしまった。

でもさ、こういったシーンを今の時代に流すと「不謹慎」とか「不適切」とか、そういった声が上がるわけでしょ。

全くやんなるね。それに、俺は自信を持って断言できるよ。

もし自分が盲人になったとしても、このシーンを観たら爆笑するってね。

結局のところSNSで「不謹慎だ!」って文句を飛ばす奴らは当事者でもないのに、彼らに替わって「俺は彼らの声を代弁しているんだって!!」って主張するわけだろ?

それで「自分は繊細だからわかるんだ」とか、「人の気持ちが分かるからこそ代弁しているんだ」って面するけど実際には想像力が足りてないんだよな。

当事者だって、それが面白ければ笑うし、笑っちゃうんだよ。面白ければ。

なのに意固地になって「不謹慎不謹慎!」ってそれは単にお前が気に入らないってだけだろ馬鹿ヤロー!!

はっきりいってさ、当事者隠れ蓑にして人に文句を言うことこそ不謹慎で下衆な行為だと俺は思うね。

Permalink |記事への反応(0) | 20:25

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2025-06-30

道化を演じて悦に入るのはなんでだろー

Permalink |記事への反応(0) | 21:07

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2025-06-27

どれだけ生成AIが偉大か教えてやるよ

anond:20250627100609

例えばこの分を「平家物語風に直してください」と書いたらこんなに格調高い文を数十秒で出力できるんだぞ、元増田よ、お前にできるかこれが

夢現

あまねく世に知られしネットの栄華、今や常世の泡沫の如く。

SNSなるもの平成の末葉より忽然と起こりて、あらゆる衆生、手に端末を持ち、心の裡を曝け出す舞台となりける。そこに集ひし者どもは、あるいは自尊心の鬼となり、あるいは倫理を失い、さながら毒虫の如くにその思想を増殖せり。

ことに二千五年の頃、俗にいふ「電車男」なる珍妙物語、世に流布し、時の人となりにけり。かの秋葉原の地には「我らの麻生」と唱へ奉る者ども満ち満ちて、「オタクイズビューティフル」と高らかに叫び歩行者天国にて怪しき舞を舞ふ者すら現れり。

かくて、彼らは思へり。「この場所にこそ、逆転の鍵あり」と。

ITの海に船を漕ぎ出だし、ネット界隈なる虚空に舟を浮かべし者、数知れず。されどその多くは、技術のみに執着し、倫理の道を学ばず、分別を欠きたるまま、機微なる技術火種を弄ぶ。

まさにそれ、核の鍵を無敵の氷河期底辺に渡すがごとく、恐ろしき事にて候。

ここに賢き技術の徒ら、これを憂ひて、生成AIに禁を設け、「汝、斯くの如き語りをすべからず」と鉄の扉を以て蓋をせり。

あはれなるかな、レムやエミリア、はたまたウマ娘刀剣男士など、虚構の姫君貴公子を求めし者たち、夢の門前にて立ち尽くすのみ。

されば、彼らの前に残されし道はただ一つ、自らの目にて見、自らの手足を動かし、自らの魂を以て行動することのみぞ。

近頃の人の世は、肉体を労せず、机上の空論に耽る風潮甚だし。けだし、人の営みの多く、学問芸術政治といへども、根底には必ず肉体の営みあり。汗なくして果実は実らず。

されど彼ら、十年に一度起こるかのような技術の風聞を聞き、「ICTにて世を革めん」「ドローンにて運命を拓かん」と、誇大なる希望を抱きては、やがて萎みしを繰り返す。

十年に一度の技術妄執して、心浮き立つは、さながら虚空に咲く蜃気楼の花のごとし。

また、「我らは醜く、貧しく、性格もひん曲がれど、美しき乙女・美しき青年を我が物とし、リア充を蹴落とし、奪はれし青春を取り戻さん」と息巻く姿、まことに滑稽なにして、さながら狂言舞台に立つ道化に等しかりける。

かの者たち、齢すで五十に近づき、心も身も疲れ果て、もはやその雄々しき夢に応ずる体力もあらず。

それにもかかわらず、「ウルトラマンは来たる」「我、グリッドマンとなりて世界を救わん」と思い込みて、未だに目覚めぬ夢にしがみつく様、哀れなること限りなし。

身に勃つべもの朽ち果て鼻息荒く夢を語るも、もはやその熱気はかつての如くあらず。哀れなるかな。

されど、ここに告ぐ――

ウルトラマンは、おらぬ。

グリッドマンにも、なれぬ。

特別なる血筋も、奇しき才能も持たぬ者に、美しき乙女と共に世界を救う誉れなど、あるべくもなし。

ああ、盛者必衰の理、まことにかかる者たちにこそ当てはまるなるべし。

彼らがかつて栄え、夢を語りしあの秋葉原もまた、時の流れと共に姿を変へ、今はただ、遠き日の幻影として風に舞ふ。

ああ、悲しき哉、現代の物の怪ども。

夢の中に夢を追ひ、現実に目を向けぬその姿、まことに「盛者必衰の理」そのものなりけり。

仏心秋葉原

世は令和、年経ること二十余年、ネットの海に浮かぶ名もなき増田、なにを思うやら、言葉の鉾を振るいて恥を晒せり。人の咎とは露知らず、ただ高ぶる我が知をもてAIに挑まんとす。

されど、時の理、技の限りは尽くされど、真理の門は容易に開かれぬものなり。なかんづく、

あまねく世に聞こえし増田の者、令和の御代に入りてなお、ネットの彼方に姿をあらわし、人知の浅きを恥じることもなく、愚かの言の葉を散らしけり。

かの者、曰く、AIにかしずきて問いを発し、答えを得たれども、事の真偽を見極むる眼もなく、ただ題のみを以て高きより見下ろさんとす。まこと、烏滸の沙汰にして、人の道を踏み外しけるか。

その証左たるや、傭兵学校にまつわる事、マークスクールとて名を挙げ、ピート教官との関わりを断ち切らんとしながらも、元より書の八十五頁には、写真付きて学校のあり処、登場人物描写空港からの道すがらに至るまでも詳らかに記されており、疑う余地もなかりける。

かの文をひもとけば、フランクとその妻との対話より始まり地図もあり、証左もあり、眼を通せば誰しもが真と知るものを、増田の者は一向に見ざるなり。ああ、見ざる者に語らせば、まこと虚言の花咲ものよ。

しかるに増田、、朝な夕な、室に籠りて、日光も差さぬ灯の下、ちんちんを弄びつつ書を開くこともなく、ネット文字ばかり追い求め、「なろう」とやらの妄想小説を読みふける日々を送るものなり、虚ろなる知を持て実を語らんとせしが、これぞ阿呆の極みなり。図書館に足を運ぶ気骨もなく、ちんちん弄りて日々を過ごし、引き換えに得たるは己が無知世界晒す恥なりき。

世を見ず、人を識らず、書を開かず、ただ己が無知を剛と勘違いして、声高に語らんとする様、まこと哀れにして滑稽なるかな。

ああ、親の顔見たきものよ。かかる者を生み育てし家の有様、いかばかりか。己の愚に気付くこともなく、道化のごとくマウント取らんと吠えし様は、まこと世の笑止千万なるものかな。

かくなる愚を育みしは、親もまた愚にてあらん。放任し、教育も与えず、雑に機械を与えて事足れりとせしならば、果たしてその果は斯様なる逆賢の子となりける。哀れ、発達と発達の間より生まれ出でし悲しき産物か。

されど、これもまたAIの弱さの一つとて、書物の奥底まで見通す目を未だ持たず、ネットの粗き知を掬い上げて形と成せども、真を得ること叶わぬ哀しさよ。さながら、盲の者に山河を語らせるがごとし。

いかにして賢き知恵を持たせん」と思い煩うも、所詮は中身なき知識の積み重ね。AIの中に蓄えられたるは、なろう小説と怪しき論壇の妄説にて、その行く末は、またしても愚かの連鎖を生むのみなり。

増田の者、我に劣るまじと奮い立ち、「神田古書街にて書を買い占め、OCRを駆使してAIに読ませ、真なる知を築かん」と夢見し様は、まさに泥濘に咲きし一輪の徒花。

いまに始まるは、阿呆なる者が「負けられぬ」と熱き涙に身を焼かれ、神田古書街を駆け巡りて、己の資を尽くし、書を買い、OCRを駆使してPDFを成し、AIに読み込ませんとする修羅の道なり。

されどそれ、誰がやるや? 無報酬にて行う阿呆おらば、AIの創り手、涙を流して感謝することうけあいなり。

金無き者の夢想は常に荒唐無稽にして滑稽、人生逆転をAIに託すその姿、悲しみを超えて嗤うべき哉。

ヒャハハハと狂笑を上げつつ、彼の者は己の愚を知らぬまま、データの海に沈みゆく。哀れなり、愚かなる魂の末路かな。

「誰かこの重き作業無償にて行わん」と天に問うも、応う者なければ、ただ狂気の笑みに沈みゆくのみなり。

されば、ヒャハハハと狂笑を上げしその背に、世の無情は冷たく吹きすさぶウルトラマングリッドマンも、己を救うこと能わず、ただAI未来を託さんとする夢は、今、泡沫の如く消えゆく。

哀れ、哀れ、ネットの海に浮かぶ名もなき阿呆よ。

おぬしが狂言、我、語り継がん。

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2025-06-23

anond:20250623203618

牡丹ぼたんに、……蟻ありか?」

「なあんだ、それは画題モチイフだ。ごまかしちゃいけない」

「わかった! 花にむら雲、……」

「月にむら雲だろう」

「そう、そう。花に風。風だ。花のアントは、風」

「まずいなあ、それは浪花節なにわぶしの文句じゃないか。おさとが知れるぜ」

「いや、琵琶びわだ」

「なおいけない。花のアントはね、……およそこの世で最も花らしくないもの、それをこそ挙げるべきだ」

「だから、その、……待てよ、なあんだ、女か」

「ついでに、女のシノニムは?」

臓物

「君は、どうも、詩ポエジイを知らんね。それじゃあ、臓物のアントは?」

牛乳

「これは、ちょっとうまいな。その調子でもう一つ。恥。オントのアント」

恥知らずさ。流行漫画家上司幾太」

「堀木正雄は?」

 この辺から二人だんだん笑えなくなって、焼酎の酔い特有の、あのガラスの破片が頭に充満しているような、陰鬱な気分になって来たのでした。

生意気言うな。おれはまだお前のように、繩目の恥辱など受けた事が無えんだ」

 ぎょっとしました。堀木は内心、自分を、真人間あつかいにしていなかったのだ、自分をただ、死にぞこないの、恥知らずの、阿呆のばけものの、謂いわば「生ける屍しかばね」としか解してくれず、そうして、彼の快楽のために、自分を利用できるところだけは利用する、それっきりの「交友」だったのだ、と思ったら、さすがにいい気持はしませんでしたが、しかしまた、堀木が自分をそのように見ているのも、もっともな話で、自分は昔から人間資格の無いみたいな子供だったのだ、やっぱり堀木にさえ軽蔑せられて至当なのかも知れない、と考え直し、

「罪。罪のアントニムは、何だろう。これは、むずかしいぞ」

 と何気無さそうな表情を装って、言うのでした。

法律さ」

 堀木が平然とそう答えましたので、自分は堀木の顔を見直しました。近くのビルの明滅するネオンサインの赤い光を受けて、堀木の顔は、鬼刑事の如く威厳ありげに見えました。自分は、つくづく呆あきれかえり、

「罪ってのは、君、そんなものじゃないだろう」

 罪の対義語が、法律とは! しかし、世間の人たちは、みんなそれくらいに簡単に考えて、澄まして暮しているのかも知れません。刑事のいないところにこそ罪がうごめいている、と。

「それじゃあ、なんだい、神か? お前には、どこかヤソ坊主くさいところがあるからな。いや味だぜ」

「まあそんなに、軽く片づけるなよ。も少し、二人で考えて見よう。これはでも、面白いテーマじゃないか。このテーマに対する答一つで、そのひとの全部がわかるような気がするのだ」

まさか。……罪のアントは、善さ。善良なる市民。つまり、おれみたいなものさ」

冗談は、よそうよ。しかし、善は悪のアントだ。罪のアントではない」

「悪と罪とは違うのかい?」

「違う、と思う。善悪概念人間が作ったものだ。人間勝手に作った道徳言葉だ」

「うるせえなあ。それじゃ、やっぱり、神だろう。神、神。なんでも、神にして置けば間違いない。腹がへったなあ」

「いま、したでヨシ子がそら豆を煮ている」

「ありがてえ。好物だ」

 両手を頭のうしろに組んで、仰向あおむけにごろりと寝ました。

「君には、罪というものが、まるで興味ないらしいね

「そりゃそうさ、お前のように、罪人では無いんだから。おれは道楽はしても、女を死なせたり、女から金を巻き上げたりなんかはしねえよ」

 死なせたのではない、巻き上げたのではない、と心の何処どこかで幽かな、けれども必死の抗議の声が起っても、しかし、また、いや自分が悪いのだとすぐに思いかえしてしまうこの習癖。

 自分には、どうしても、正面切っての議論が出来ません。焼酎陰鬱な酔いのために刻一刻、気持が険しくなって来るのを懸命に抑えて、ほとんど独りごとのようにして言いました。

しかし、牢屋ろうやにいれられる事だけが罪じゃないんだ。罪のアントがわかれば、罪の実体もつかめるような気がするんだけど、……神、……救い、……愛、……光、……しかし、神にはサタンというアントがあるし、救いのアントは苦悩だろうし、愛には憎しみ、光には闇というアントがあり、善には悪、罪と祈り、罪と悔い、罪と告白、罪と、……嗚呼ああ、みんなシノニムだ、罪の対語は何だ」

ツミの対語は、ミツさ。蜜みつの如く甘しだ。腹がへったなあ。何か食うものを持って来いよ」

「君が持って来たらいいじゃないか!」

 ほとんど生れてはじめてと言っていいくらいの、烈しい怒りの声が出ました。

「ようし、それじゃ、したへ行って、ヨシちゃんと二人で罪を犯して来よう。議論より実地検分。罪のアントは、蜜豆、いや、そら豆か」

 ほとんど、ろれつの廻らぬくらいに酔っているのでした。

勝手しろ。どこかへ行っちまえ!」

「罪と空腹、空腹とそら豆、いや、これはシノニムか」

 出鱈目でたらめを言いながら起き上ります

 罪と罰ドストエフスキイ。ちらとそれが、頭脳の片隅をかすめて通り、はっと思いました。もしも、あのドスト氏が、罪と罰をシノニムと考えず、アントニムとして置き並べたものとしたら? 罪と罰絶対相通ぜざるもの、氷炭相容あいいれざるもの罪と罰をアントとして考えたドストの青みどろ、腐った池、乱麻の奥底の、……ああ、わかりかけた、いや、まだ、……などと頭脳走馬燈くるくる廻っていた時に、

「おい! とんだ、そら豆だ。来い!」

 堀木の声も顔色も変っています。堀木は、たったいまふらふら起きてしたへ行った、かと思うとまた引返して来たのです。

「なんだ」

 異様に殺気立ち、ふたり屋上から二階へ降り、二階からさらに階下の自分の部屋へ降りる階段の中途で堀木は立ち止り、

「見ろ!」

 と小声で言って指差します

 自分の部屋の上の小窓があいていて、そこから部屋の中が見えます電気がついたままで、二匹の動物がいました。

 自分は、ぐらぐら目まいしながら、これもまた人間の姿だ、これもまた人間の姿だ、おどろく事は無い、など劇はげしい呼吸と共に胸の中で呟つぶやき、ヨシ子を助ける事も忘れ、階段に立ちつくしていました。

 堀木は、大きい咳せきばらいをしました。自分は、ひとり逃げるようにまた屋上に駈け上り、寝ころび、雨を含んだ夏の夜空を仰ぎ、そのとき自分を襲った感情は、怒りでも無く、嫌悪でも無く、また、悲しみでも無く、もの凄すさまじい恐怖でした。それも、墓地幽霊などに対する恐怖ではなく、神社の杉木立で白衣御神体に逢った時に感ずるかも知れないような、四の五の言わさぬ古代の荒々しい恐怖感でした。自分若白髪は、その夜からはじまり、いよいよ、すべてに自信を失い、いよいよ、ひとを底知れず疑い、この世の営みに対する一さいの期待、よろこび、共鳴などから永遠にはなれるようになりました。実に、それは自分の生涯に於いて、決定的な事件でした。自分は、まっこうから眉間みけんを割られ、そうしてそれ以来その傷は、どんな人間にでも接近する毎に痛むのでした。

「同情はするが、しかし、お前もこれで、少しは思い知ったろう。もう、おれは、二度とここへは来ないよ。まるで、地獄だ。……でも、ヨシちゃんは、ゆるしてやれ。お前だって、どうせ、ろくな奴じゃないんだから。失敬するぜ」

 気まずい場所に、永くとどまっているほど間まの抜けた堀木ではありませんでした。

 自分は起き上って、ひとりで焼酎を飲み、それから、おいおい声を放って泣きました。いくらでも、いくらでも泣けるのでした。

 いつのまにか、背後に、ヨシ子が、そら豆を山盛りにしたお皿を持ってぼんやり立っていました。

「なんにも、しないからって言って、……」

「いい。何も言うな。お前は、ひとを疑う事を知らなかったんだ。お坐り。豆を食べよう」

 並んで坐って豆を食べました。嗚呼、信頼は罪なりや? 相手の男は、自分漫画をかかせては、わずかなお金をもったい振って置いて行く三十歳前後の無学な小男の商人なのでした。

 さすがにその商人は、その後やっては来ませんでしたが、自分には、どうしてだか、その商人に対する憎悪よりも、さいしょに見つけたすぐその時に大きい咳ばらいも何もせず、そのまま自分に知らせにまた屋上に引返して来た堀木に対する憎しみと怒りが、眠られぬ夜などにむらむら起って呻うめきました。

 ゆるすも、ゆるさぬもありません。ヨシ子は信頼の天才なのです。ひとを疑う事を知らなかったのです。しかし、それゆえの悲惨

 神に問う。信頼は罪なりや。

 ヨシ子が汚されたという事よりも、ヨシ子の信頼が汚されたという事が、自分にとってそののち永く、生きておられないほどの苦悩の種になりました。自分のような、いやらしくおどおどして、ひとの顔いろばかり伺い、人を信じる能力が、ひび割れしまっているものにとって、ヨシ子の無垢むくの信頼心は、それこそ青葉の滝のようにすがすがしく思われていたのです。それが一夜で、黄色汚水に変ってしまいました。見よ、ヨシ子は、その夜から自分の一顰いっぴん一笑にさえ気を遣うようになりました。

「おい」

 と呼ぶと、ぴくっとして、もう眼のやり場に困っている様子です。どんなに自分が笑わせようとして、お道化を言っても、おろおろし、びくびくし、やたらに自分敬語を遣うようになりました。

 果して、無垢の信頼心は、罪の原泉なりや。

 自分は、人妻の犯された物語の本を、いろいろ捜して読んでみました。けれども、ヨシ子ほど悲惨な犯され方をしている女は、ひとりも無いと思いました。どだい、これは、てんで物語にも何もなりません。あの小男の商人と、ヨシ子とのあいだに、少しでも恋に似た感情でもあったなら、自分の気持もかえってたすかるかも知れませんが、ただ、夏の一夜、ヨシ子が信頼して、そうして、それっきり、しかもそのために自分の眉間は、まっこうから割られ声が嗄れて若白髪がはじまり、ヨシ子は一生おろおろしなければならなくなったのです。たいていの物語は、その妻の「行為」を夫が許すかどうか、そこに重点を置いていたようでしたが、それは自分にとっては、そんなに苦しい大問題では無いように思われました。許す、許さぬ、そのような権利留保している夫こそ幸いなる哉かな、とても許す事が出来ぬと思ったなら、何もそんなに大騒ぎせずとも、さっさと妻を離縁して、新しい妻を迎えたらどうだろう、それが出来なかったら、所謂いわゆる「許して」我慢するさ、いずれにしても夫の気持一つで四方八方がまるく収るだろうに、という気さえするのでした。つまり、そのような事件は、たしかに夫にとって大いなるショックであっても、しかし、それは「ショック」であって、いつまでも尽きること無く打ち返し打ち寄せる波と違い、権利のある夫の怒りでもってどうにでも処理できるトラブルのように自分には思われたのでした。けれども、自分たちの場合、夫に何の権利も無く、考えると何もかも自分がわるいような気がして来て、怒るどころか、おこごと一つも言えず、また、その妻は、その所有している稀まれな美質に依って犯されたのです。しかも、その美質は、夫のかねてあこがれの、無垢の信頼心というたまらなく可憐かれんものなのでした。

 無垢の信頼心は、罪なりや。

 唯一のたのみの美質にさえ、疑惑を抱き、自分は、もはや何もかも、わけがからなくなり、おもむくところは、ただアルコールだけになりました。自分の顔の表情は極度にいやしくなり、朝から焼酎を飲み、歯がぼろぼろに欠けて、漫画ほとんど猥画わいがに近いものを画くようになりました。いいえ、はっきり言います自分はその頃から春画のコピイをして密売しました。焼酎を買うお金がほしかったのです。いつも自分から視線をはずしておろおろしているヨシ子を見ると、こいつは全く警戒を知らぬ女だったから、あの商人といちどだけでは無かったのではなかろうか、また、堀木は? いや、或いは自分の知らない人とも? と疑惑疑惑を生み、さりとて思い切ってそれを問い正す勇気も無く、れい不安と恐怖にのたうち廻る思いで、ただ焼酎を飲んで酔っては、わずかに卑屈な誘導訊問じんもんみたいなものおっかなびっくり試み、内心おろかしく一喜一憂し、うわべは、やたらにお道化て、そうして、それから、ヨシ子にいまわしい地獄愛撫あいぶを加え、泥のように眠りこけるのでした。

 その年の暮、自分は夜おそく泥酔して帰宅し、砂糖水を飲みたく、ヨシ子は眠っているようでしたから、自分でお勝手に行き砂糖壺を捜し出し、ふたを開けてみたら砂糖は何もはいってなくて、黒く細長い紙の小箱はいっていました。何気なく手に取り、その箱にはられてあるレッテルを見て愕然がくぜんとしました。そのレッテルは、爪で半分以上も掻かきはがされていましたが、洋字の部分が残っていて、それにはっきり書かれていました。DIAL。

 ジアール自分はその頃もっぱら焼酎で、催眠剤を用いてはいませんでしたが、しかし、不眠は自分の持病のようなものでしたから、たいていの催眠剤にはお馴染なじみでした。ジアールのこの箱一つは、たしか致死量以上の筈でした。まだ箱の封を切ってはいませんでしたが、しかし、いつかは、やる気でこんなところに、しかレッテルを掻きはがしたりなどして隠していたのに違いありません。可哀想に、あの子にはレッテルの洋字が読めないので、爪で半分掻きはがして、これで大丈夫と思っていたのでしょう。(お前に罪は無い)

 自分は、音を立てないようにそっとコップに水を満たし、それからゆっくり箱の封を切って、全部、一気に口の中にほうり、コップの水を落ちついて飲みほし、電燈を消してそのまま寝ました。

 三昼夜、自分は死んだようになっていたそうです。医者は過失と見なして、警察にとどけるのを猶予してくれたそうです。覚醒かくせいしかけて、一ばんさきに呟いたうわごとは、うちへ帰る、という言葉だったそうです。うちとは、どこの事を差して言ったのか、当の自分にも、よくわかりませんが、とにかく、そう言って、ひどく泣いたそうです。

 次第に霧がはれて、見ると、枕元にヒラメが、ひどく不機嫌な顔をして坐っていました。

「このまえも、年の暮の事でしてね、お互いもう、目が廻るくらいいそがしいのに、いつも、年の暮をねらって、こんな事をやられたひには、こっちの命がたまらない」

 ヒラメの話の聞き手になっているのは、京橋のバアのマダムでした。

マダム

 と自分は呼びました。

「うん、何? 気がついた?」

 マダムは笑い顔を自分の顔の上にかぶせるようにして言いました。

 自分は、ぽろぽろ涙を流し、

「ヨシ子とわかれさせて」

 自分でも思いがけなかった言葉が出ました。

 マダムは身を起し、幽かな溜息をもらしました。

 それから自分は、これもまた実に思いがけない滑稽とも阿呆らしいとも、形容に苦しむほどの失言しました。

「僕は、女のいないところに行くんだ」

 うわっはっは、とまず、ヒラメが大声を挙げて笑い、マダムクスクス笑い出し、自分も涙を流しながら赤面の態ていになり、苦笑しました。

「うん、そのほうがいい」

 とヒラメは、いつまでもだらし無く笑いながら、

「女のいないところに行ったほうがよい。女がいると、どうもいけない。女のいないところとは、いい思いつきです」

 女のいないところ。しかし、この自分阿呆くさいうわごとは、のちに到って、非常に陰惨に実現せられました。

 ヨシ子は、何か、自分がヨシ子の身代りになって毒を飲んだとでも思い込んでいるらしく、以前よりも尚なおいっそう、自分に対して、おろおろして、自分が何を言っても笑わず、そうしてろくに口もきけないような有様なので、自分アパートの部屋の中にいるのが、うっとうしく、つい外へ出て、相変らず安い酒をあおる事になるのでした。しかし、あのジアールの一件以来、自分からだがめっきり痩やせ細って、手足がだるく、漫画仕事も怠けがちになり、ヒラメがあの時、見舞いとして置いて行ったお金ヒラメはそれを、渋田の志です、と言っていかにもご自身から出たお金のようにして差出しましたが、これも故郷の兄たちからお金のようでした。自分もその頃には、ヒラメの家から逃げ出したあの時とちがって、ヒラメのそんなもったい振った芝居を、おぼろげながら見抜く事が出来るようになっていましたので、こちらもずるく、全く気づかぬ振りをして、神妙にそのお金のお礼をヒラメに向って申し上げたのでしたが、しかし、ヒラメたちが、なぜ、そんなややこしいカラクリをやらかすのか、わかるような、わからないような、どうしても自分には、へんな気がしてなりませんでした)そのお金で、思い切ってひとりで南伊豆温泉に行ってみたりなどしましたが、とてもそんな悠長な温泉めぐりなど出来る柄がらではなく、ヨシ子を思えば侘わびしさ限りなく、宿の部屋から山を眺めるなどの落ちついた心境には甚だ遠く、ドテラにも着換えず、お湯にもはいらず、外へ飛び出しては薄汚い茶店みたいなところに飛び込んで、焼酎を、それこそ浴びるほど飲んで、からだ具合いを一そう悪くして帰京しただけの事でした。

 東京大雪の降った夜でした。自分は酔って銀座裏を、ここはお国を何百里、ここはお国を何百里、と小声で繰り返し繰り返し呟くように歌いながら、なおも降りつもる雪を靴先で蹴散けちらして歩いて、突然、吐きました。それは自分最初喀血かっけつでした。雪の上に、大きい日の丸の旗が出来ました。自分は、しばらくしゃがんで、それから、よごれていない個所の雪を両手で掬すくい取って、顔を洗いながら泣きました。

 こうこは、どうこの細道じゃ?

 こうこは、どうこの細道じゃ?

 哀れな童女歌声が、幻聴のように、かすかに遠くから聞えます。不幸。この世には、さまざまの不幸な人が、いや、不幸な人ばかり、と言っても過言ではないでしょうがしかし、その人たちの不幸は、所謂世間に対して堂々と抗議が出来、また「世間」もその人たちの抗議を容易に理解し同情します。しかし、自分の不幸は、すべて自分の罪悪からなので、誰にも抗議の仕様が無いし、また口ごもりながら一言でも抗議めいた事を言いかけると、ヒラメならずとも世間の人たち全部、よくもまあそんな口がきけたものだと呆あきれかえるに違いないし、自分はいったい俗にいう「わがままもの」なのか、またはその反対に、気が弱すぎるのか、自分でもわけがからないけれども、とにかく罪悪のかたまりらしいので、どこまでも自おのずからどんどん不幸になるばかりで、防ぎ止める具体策など無いのです。

 自分は立って、取り敢えず何か適当な薬をと思い、近くの薬屋にはいって、そこの奥さんと顔を見合せ、瞬間、奥さんは、フラッシュを浴びたみたいに首をあげ眼を見はり、棒立ちになりました。しかし、その見はった眼には、驚愕の色も嫌悪の色も無く、ほとんど救いを求めるような、慕うような色があらわれているのでした。ああ、このひとも、きっと不幸な人なのだ、不幸な人は、ひとの不幸にも敏感なものなのだから、と思った時、ふと、その奥さん松葉杖まつばづえをついて危かしく立っているのに気がつきました。駈け寄りたい思いを抑えて、なおもその奥さんと顔を見合せているうちに涙が出て来ました。すると、奥さんの大きい眼からも、涙がぽろぽろとあふれて出ました。

 それっきり、一言も口をきかずに、自分はその薬屋から出て、よろめいてアパートに帰り、ヨシ子に塩水を作らせて飲み、黙って寝て、翌る日も、風邪気味だと嘘をついて一日一ぱい寝て、夜、自分秘密喀血がどうにも不安でたまらず、起きて、あの薬屋に行き、こんどは笑いながら、奥さんに、実に素直に今迄のからだ具合いを告白し、相談しました。

お酒をおよしにならなければ」

 自分たちは、肉身のようでした。

アル中になっているかも知れないんです。いまでも飲みたい」

「いけません。私の主人も、テーベのくせに、菌を酒で殺すんだなんて言って、酒びたりになって、自分から寿命をちぢめました」

不安でいけないんです。こわくて、とても、だめなんです」

「お薬を差し上げますお酒だけは、およしなさい」

 奥さん未亡人で、男の子がひとり、それは千葉だかどこだかの医大はいって、間もなく父と同じ病いにかかり、休学入院中で、家には中風の舅しゅうとが寝ていて、奥さん自身は五歳の折、小児痲痺まひで片方の脚が全然だめなのでした)は、松葉杖をコトコトと突きながら、自分のためにあっちの棚、こっちの引出し、いろいろと薬品を取そろえてくれるのでした。

 これは、造血剤。

 これは、ヴィタミンの注射液。注射器は、これ。

 これは、カルシウムの錠剤。胃腸をこわさないように、ジアスターゼ。

 これは、何。これは、何、と五、六種薬品説明愛情こめてしてくれたのですが、しかし、この不幸な奥さん愛情もまた、自分にとって深すぎました。最後奥さんが、これは、どうしても、なんとしてもお酒を飲みたくて、たまらなくなった時のお薬、と言って素早く紙に包んだ小箱

 モルヒネ注射液でした。

 酒よりは、害にならぬと奥さんも言い、自分もそれを信じて、また一つには、酒の酔いもさすがに不潔に感ぜられて来た矢先でもあったし、久し振りにアルコールというサタンからのがれる事

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anond:20250623203258

「騒がないで、早くおやすみなさいよ。それとも、ごはんをあがりますか?」

 落ちついていて、まるで相手しません。

「酒なら飲むがね。水の流れと、人の身はあサ。人の流れと、いや、水の流れえと、水の身はあサ」

 唄いながら、シヅ子に衣服をぬがせられ、シヅ子の胸に自分の額を押しつけて眠ってしまう、それが自分日常でした。

してその翌日あくるひも同じ事を繰返して、

昨日きのうに異かわらぬ慣例しきたりに従えばよい。

即ち荒っぽい大きな歓楽よろこびを避よけてさえいれば、

自然また大きな悲哀かなしみもやって来こないのだ。

ゆくてを塞ふさぐ邪魔な石を

蟾蜍ひきがえるは廻って通る。

 上田敏訳のギイ・シャルル・クロオとかいうひとの、こんな詩句を見つけた時、自分はひとりで顔を燃えるくらいに赤くしました。

 蟾蜍

(それが、自分だ。世間がゆるすも、ゆるさぬもない。葬むるも、葬むらぬもない。自分は、犬よりも猫よりも劣等な動物なのだ蟾蜍。のそのそ動いているだけだ)

 自分飲酒は、次第に量がふえて来ました。高円寺駅附近だけでなく、新宿銀座のほうにまで出かけて飲み、外泊する事さえあり、ただもう「慣例しきたり」に従わぬよう、バアで無頼漢の振りをしたり、片端からキスしたり、つまり、また、あの情死以前の、いや、あの頃よりさらに荒すさんで野卑な酒飲みになり、金に窮して、シヅ子の衣類を持ち出すほどになりました。

 ここへ来て、あの破れた奴凧に苦笑してから一年以上経って、葉桜の頃、自分は、またもシヅ子の帯やら襦袢じゅばんやらをこっそり持ち出して質屋に行き、お金を作って銀座で飲み、二晩つづけて外泊して、三日目の晩、さすがに具合い悪い思いで、無意識足音をしのばせて、アパートのシヅ子の部屋の前まで来ると、中から、シヅ子とシゲ子の会話が聞えます

「なぜ、お酒を飲むの?」

「お父ちゃんはね、お酒を好きで飲んでいるのでは、ないんですよ。あんまりいいひとだから、だから、……」

「いいひとは、お酒を飲むの?」

「そうでもないけど、……」

「お父ちゃんは、きっと、びっくりするわね」

「おきらいかも知れない。ほら、ほら、箱から飛び出した」

セッカピンチャンみたいね

「そうねえ」

 シヅ子の、しんから幸福そうな低い笑い声が聞えました。

 自分が、ドアを細くあけて中をのぞいて見ますと、白兎の子でした。ぴょんぴょん部屋中を、はね廻り、親子はそれを追っていました。

幸福なんだ、この人たちは。自分という馬鹿者が、この二人のあいだにはいって、いまに二人を滅茶苦茶にするのだ。つつましい幸福。いい親子。幸福を、ああ、もし神様が、自分のような者の祈りでも聞いてくれるなら、いちどだけ、生涯にいちどだけでいい、祈る)

 自分は、そこにうずくまって合掌したい気持でした。そっと、ドアを閉め、自分は、また銀座に行き、それっきり、そのアパートには帰りませんでした。

 そうして、京橋のすぐ近くのスタンド・バアの二階に自分は、またも男めかけの形で、寝そべる事になりました。

 世間。どうやら自分にも、それがぼんやりわかりかけて来たような気がしていました。個人個人の争いで、しかも、その場の争いで、しかも、その場で勝てばいいのだ、人間は決して人間服従しない、奴隷でさえ奴隷らしい卑屈なシッペがえしをするものだ、だから人間にはその場の一本勝負にたよる他、生き伸びる工夫がつかぬのだ、大義名分らしいものを称となえていながら、努力目標は必ず個人個人を乗り越えてまた個人世間の難解は、個人の難解、大洋オーシャンは世間でなくて、個人なのだ、と世の中という大海の幻影におびえる事から、多少解放せられて、以前ほど、あれこれと際限の無い心遣いする事なく、謂わば差し当っての必要に応じて、いくぶん図々しく振舞う事を覚えて来たのです。

 高円寺アパートを捨て、京橋スタンド・バアのマダムに、

「わかれて来た」

 それだけ言って、それで充分、つまり一本勝負はきまって、その夜から自分乱暴にもそこの二階に泊り込む事になったのですが、しかし、おそろしい筈の「世間」は、自分に何の危害も加えませんでしたし、また自分も「世間」に対して何の弁明もしませんでした。マダムが、その気だったら、それですべてがいいのでした。

 自分は、その店のお客のようでもあり、亭主のようでもあり、走り使いのようでもあり、親戚の者のようでもあり、はたから見て甚はなはだ得態えたいの知れない存在だった筈なのに、「世間」は少しもあやしまず、そうしてその店の常連たちも、自分を、葉ちゃん、葉ちゃんと呼んで、ひどく優しく扱い、そうしてお酒を飲ませてくれるのでした。

 自分は世の中に対して、次第に用心しなくなりました。世の中というところは、そんなに、おそろしいところでは無い、と思うようになりました。つまり、これまでの自分の恐怖感は、春の風には百日咳ひゃくにちぜきの黴菌ばいきんが何十万、銭湯には、目のつぶれる黴菌が何十万、床屋には禿頭とくとう病の黴菌が何十万、省線の吊皮つりかわには疥癬かいせんの虫がうようよ、または、おさしみ、牛豚肉の生焼けには、さなだ虫の幼虫やら、ジストマやら、何やらの卵などが必ずひそんでいて、また、はだしで歩くと足の裏からガラスの小さい破片がはいって、その破片が体内を駈けめぐり眼玉を突いて失明させる事もあるとかいう謂わば「科学迷信」におびやかされていたようなものなのでした。それは、たしかに何十万もの黴菌の浮び泳ぎうごめいているのは、「科学的」にも、正確な事でしょう。と同時に、その存在を完全に黙殺さえすれば、それは自分とみじんのつながりも無くなってたちまち消え失せる「科学幽霊」に過ぎないのだという事をも、自分は知るようになったのです。お弁当箱食べ残しごはん三粒、千万人が一日に三粒ずつ食べ残しても既にそれは、米何俵をむだに捨てた事になる、とか、或いは、一日に鼻紙一枚の節約千万人が行うならば、どれだけのパルプが浮くか、などという「科学統計」に、自分は、どれだけおびやかされ、ごはんを一粒でも食べ残す度毎に、また鼻をかむ度毎に、山ほどの米、山ほどのパルプを空費するような錯覚に悩み、自分がいま重大な罪を犯しているみたいな暗い気持になったものですが、しかし、それこそ「科学の嘘」「統計の嘘」「数学の嘘」で、三粒のごはんは集められるものでなく、掛算割算の応用問題としても、まこと原始的低能テーマで、電気のついてない暗いお便所の、あの穴に人は何度にいちど片脚を踏みはずして落下させるか、または、省線電車の出入口と、プラットホームの縁へりとのあの隙間に、乗客の何人中の何人が足を落とし込むか、そんなプロバビリティ計算するのと同じ程度にばからしく、それは如何いかにも有り得る事のようでもありながら、お便所の穴をまたぎそこねて怪我をしたという例は、少しも聞かないし、そんな仮説を「科学事実」として教え込まれ、それを全く現実として受取り、恐怖していた昨日までの自分をいとおしく思い、笑いたく思ったくらいに、自分は、世の中というもの実体を少しずつ知って来たというわけなのでした。

 そうは言っても、やはり人間というものが、まだまだ、自分にはおそろしく、店のお客と逢うのにも、お酒をコップで一杯ぐいと飲んでからでなければいけませんでした。こわいもの見たさ。自分は、毎晩、それでもお店に出て、子供が、実は少しこわがっている小動物などを、かえって強くぎゅっと握ってしまうみたいに、店のお客に向って酔ってつたない芸術論を吹きかけるようにさえなりました。

 漫画家。ああ、しかし、自分は、大きな歓楽よろこびも、また、大きな悲哀かなしみもない無名漫画家いかに大きな悲哀かなしみがあとでやって来てもいい、荒っぽい大きな歓楽よろこびが欲しいと内心あせってはいても、自分現在のよろこびたるや、お客とむだ事を言い合い、お客の酒を飲む事だけでした。

 京橋へ来て、こういうくだらない生活を既に一年ちかく続け、自分漫画も、子供相手雑誌だけでなく、駅売りの粗悪で卑猥ひわい雑誌などにも載るようになり、自分は、上司幾太(情死、生きた)という、ふざけ切った匿名で、汚いはだかの絵など画き、それにたいていルバイヤット詩句を插入そうにゅうしました。

無駄な御祈りなんか止よせったら

涙を誘うものなんか かなぐりすてろ

まア一杯いこう 好いことばかり思出して

よけいな心づかいなんか忘れっちまい

不安や恐怖もて人を脅やかす奴輩から

自みずからの作りし大それた罪に怯おびえ

死にしもの復讐ふくしゅうに備えんと

自みずからの頭にたえず計いを為なす

よべ 酒充ちて我ハートは喜びに充ち

けさ さめて只ただに荒涼

いぶかし 一夜ひとよさの中

様変りたる此この気分よ

祟たたりなんて思うこと止やめてくれ

遠くから響く太鼓のように

何がなしそいつ不安

屁へひったこと迄まで一々罪に勘定されたら助からんわい

正義人生の指針たりとや?

さらば血に塗られたる戦場

暗殺者の切尖きっさきに

何の正義か宿れるや?

いずこに指導原理ありや?

いかなる叡智えいちの光ありや?

美うるわしくも怖おそろしきは浮世なれ

かよわき人の子は背負切れぬ荷をば負わされ

どうにもできない情慾の種子を植えつけられた許ばかりに

善だ悪だ罪だ罰だと呪のろわるるばかり

どうにもできない只まごつくばかり

抑え摧くだく力も意志も授けられぬ許りに

どこをどう彷徨うろつきまわってたんだい

ナニ批判 検討 再認識

ヘッ 空むなしき夢を ありもしない幻を

エヘッ 酒を忘れたんで みんな虚仮こけの思案さ

どうだ 此涯はてもない大空を御覧よ

此中にポッチリ浮んだ点じゃい

地球が何んで自転するのか分るもんか

自転 公転 反転も勝手ですわい

至る処ところに 至高の力を感じ

あらゆる国にあらゆる民族

同一の人間性を発見する

我は異端者なりとかや

みんな聖経をよみ違えてんのよ

でなきゃ常識智慧ちえもないのよ

生身いきみの喜びを禁じたり 酒を止めたり

いいわ ムスタッファ わたしそんなの 大嫌い

 けれども、その頃、自分に酒を止めよ、とすすめる処女がいました。

「いけないわ、毎日、お昼から、酔っていらっしゃる

 バアの向いの、小さい煙草屋の十七、八の娘でした。ヨシちゃんと言い、色の白い、八重歯のある子でした。自分が、煙草を買いに行くたびに、笑って忠告するのでした。

「なぜ、いけないんだ。どうして悪いんだ。あるだけの酒をのんで、人の子よ、憎悪を消せ消せ消せ、ってね、むかしペルシャのね、まあよそう、悲しみ疲れたハート希望を持ち来すは、ただ微醺びくんをもたらす玉杯なれ、ってね。わかるかい

「わからない」

「この野郎キスしてやるぞ」

「してよ」

 ちっとも悪びれず下唇を突き出すのです。

馬鹿野郎貞操観念、……」

 しかし、ヨシちゃんの表情には、あきらかに誰にも汚されていない処女のにおいがしていました。

 としが明けて厳寒の夜、自分は酔って煙草を買いに出て、その煙草屋の前のマンホールに落ちて、ヨシちゃん、たすけてくれえ、と叫び、ヨシちゃんに引き上げられ、右腕の傷の手当を、ヨシちゃんにしてもらい、その時ヨシちゃんは、しみじみ、

「飲みすぎますわよ」

 と笑わずに言いました。

 自分死ぬのは平気なんだけど、怪我をして出血してそうして不具者などになるのは、まっぴらごめんのほうですので、ヨシちゃんに腕の傷の手当をしてもらいながら、酒も、もういい加減によそうかしら、と思ったのです。

「やめる。あしたから、一滴も飲まない」

「ほんとう?」

「きっと、やめる。やめたら、ヨシちゃん、僕のお嫁になってくれるかい?」

 しかし、お嫁の件は冗談でした。

モチよ」

 モチとは、「勿論」の略語でした。モボだの、モガだの、その頃いろんな略語がはやっていました。

「ようし。ゲンマンしよう。きっとやめる」

 そうして翌あくる日、自分は、やはり昼から飲みました。

 夕方、ふらふら外へ出て、ヨシちゃんの店の前に立ち、

「ヨシちゃん、ごめんね。飲んじゃった」

「あら、いやだ。酔った振りなんかして」

 ハッとしました。酔いもさめた気持でした。

「いや、本当なんだ。本当に飲んだのだよ。酔った振りなんかしてるんじゃない」

からかわないでよ。ひとがわるい」

 てんで疑おうとしないのです。

「見ればわかりそうなものだ。きょうも、お昼から飲んだのだ。ゆるしてね」

「お芝居が、うまいのねえ」

「芝居じゃあないよ、馬鹿野郎キスしてやるぞ」

「してよ」

「いや、僕には資格が無い。お嫁にもらうのもあきらめなくちゃならん。顔を見なさい、赤いだろう? 飲んだのだよ」

「それあ、夕陽が当っているからよ。かつごうたって、だめよ。きのう約束したんですもの。飲む筈が無いじゃないの。ゲンマンしたんですもの。飲んだなんて、ウソウソウソ

 薄暗い店の中に坐って微笑しているヨシちゃんの白い顔、ああ、よごれを知らぬヴァジニティ尊いものだ、自分は今まで、自分よりも若い処女と寝た事がない、結婚しよう、どんな大きな悲哀かなしみがそのために後からやって来てもよい、荒っぽいほどの大きな歓楽よろこびを、生涯にいちどでいい、処女性の美しさとは、それは馬鹿詩人の甘い感傷の幻に過ぎぬと思っていたけれども、やはりこの世の中に生きて在るものだ、結婚して春になったら二人で自転車で青葉の滝を見に行こう、と、その場で決意し、所謂「一本勝負」で、その花を盗むのにためらう事をしませんでした。

 そうして自分たちは、やがて結婚して、それに依って得た歓楽よろこびは、必ずしも大きくはありませんでしたが、その後に来た悲哀かなしみは、凄惨せいさんと言っても足りないくらい、実に想像を絶して、大きくやって来ました。自分にとって、「世の中」は、やはり底知れず、おそろしいところでした。決して、そんな一本勝負などで、何から何まできまってしまうような、なまやさしいところでも無かったのでした。

 堀木と自分

 互いに軽蔑けいべつしながら附き合い、そうして互いに自みずからをくだらなくして行く、それがこの世の所謂「交友」というものの姿だとするなら、自分と堀木との間柄も、まさしく「交友」に違いありませんでした。

 自分があの京橋スタンド・バアのマダム義侠心ぎきょうしんにすがり、(女のひとの義侠心なんて、言葉の奇妙な遣い方ですが、しかし、自分経験に依ると、少くとも都会の男女の場合、男よりも女のほうが、その、義侠心とでもいうべきものたっぷりと持っていました。男はたいてい、おっかなびっくりで、おていさいばかり飾り、そうして、ケチでした)あの煙草屋のヨシ子を内縁の妻にする事が出来て、そうして築地きじ隅田川の近く、木造二階建ての小さいアパートの階下の一室を借り、ふたりで住み、酒は止めて、そろそろ自分の定った職業になりかけて来た漫画仕事に精を出し、夕食後は二人で映画を見に出かけ、帰りには、喫茶店などにはいり、また、花の鉢を買ったりして、いや、それよりも自分をしんから信頼してくれているこの小さい花嫁言葉を聞き、動作を見ているのが楽しく、これは自分もひょっとしたら、いまにだんだん人間らしいものになる事が出来て、悲惨な死に方などせずにすむのではなかろうかという甘い思いを幽かに胸にあたためはじめていた矢先に、堀木がまた自分の眼前に現われました。

「よう! 色魔。おや? これでも、いくら分別くさい顔になりやがった。きょうは、高円寺女史からのお使者なんだがね」

 と言いかけて、急に声をひそめ、お勝手お茶の仕度をしているヨシ子のほうを顎あごでしゃくって、大丈夫かい? とたずねますので、

「かまわない。何を言ってもいい」

 と自分は落ちついて答えました。

 じっさい、ヨシ子は、信頼の天才と言いたいくらい、京橋のバアのマダムとの間はもとより、自分鎌倉で起した事件を知らせてやっても、ツネ子との間を疑わず、それは自分が嘘がうまいからというわけでは無く、時には、あからさまな言い方をする事さえあったのに、ヨシ子には、それがみな冗談しか聞きとれぬ様子でした。

「相変らず、しょっていやがる。なに、たいした事じゃないがね、たまには、高円寺のほうへも遊びに来てくれっていう御伝言さ」

 忘れかけると、怪鳥が羽ばたいてやって来て、記憶の傷口をその嘴くちばしで突き破ります。たちまち過去の恥と罪の記憶が、ありありと眼前に展開せられ、わあっと叫びたいほどの恐怖で、坐っておられなくなるのです。

「飲もうか」

 と自分

「よし」

 と堀木。

 自分と堀木。形は、ふたり似ていました。そっくり人間のような気がする事もありました。もちろんそれは、安い酒をあちこち飲み歩いている時だけの事でしたが、とにかく、ふたり顔を合せると、みるみる同じ形の同じ毛並の犬に変り降雪のちまたを駈けめぐるという具合いになるのでした。

 その日以来、自分たちは再び旧交をあたためたという形になり、京橋のあの小さいバアにも一緒に行き、そうして、とうとう、高円寺のシヅ子のアパートにもその泥酔の二匹の犬が訪問し、宿泊して帰るなどという事にさえなってしまったのです。

 忘れも、しません。むし暑い夏の夜でした。堀木は日暮頃、よれよれの浴衣を着て築地自分アパートにやって来て、きょう或る必要があって夏服を質入したが、その質入が老母に知れるとまことに具合いが悪い、すぐ受け出したいから、とにかく金を貸してくれ、という事でした。あいにく自分のところにも、お金が無かったので、例に依って、ヨシ子に言いつけ、ヨシ子の衣類を質屋に持って行かせてお金を作り、堀木に貸しても、まだ少し余るのでその残金でヨシ子に焼酎しょうちゅうを買わせ、アパート屋上に行き、隅田川から時たま幽かに吹いて来るどぶ臭い風を受けて、まことに薄汚い納涼の宴を張りました。

 自分たちはその時、喜劇名詞悲劇名詞の当てっこをはじめました。これは、自分発明した遊戯で、名詞には、すべて男性名詞、女性名詞、中性名詞などの別があるけれども、それと同時に、喜劇名詞悲劇名詞区別があって然るべきだ、たとえば、汽船汽車はいずれも悲劇名詞で、市電バスは、いずれも喜劇名詞、なぜそうなのか、それのわからぬ者は芸術を談ずるに足らん、喜劇に一個でも悲劇名詞をさしはさんでいる劇作家は、既にそれだけで落第、悲劇場合もまた然り、といったようなわけなのでした。

「いいかい? 煙草は?」

 と自分が問います

「トラ。(悲劇トラジディの略)」

 と堀木が言下に答えます

「薬は?」

「粉薬かい? 丸薬かい?」

注射

「トラ」

「そうかな? ホルモン注射もあるしねえ」

「いや、断然トラだ。針が第一、お前、立派なトラじゃないか

「よし、負けて置こう。しかし、君、薬や医者はね、あれで案外、コメ喜劇コメディの略)なんだぜ。死は?」

コメ牧師和尚おしょうも然りじゃね」

「大出来。そうして、生はトラだなあ」

「ちがう。それも、コメ

「いや、それでは、何でもかでも皆コメになってしまう。ではね、もう一つおたずねするが、漫画家は? よもや、コメとは言えませんでしょう?」

「トラ、トラ。大悲劇名詞!」

「なんだ、大トラは君のほうだぜ」

 こんな、下手な駄洒落だじゃれみたいな事になってしまっては、つまらないのですけど、しか自分たちはその遊戯を、世界サロンにも嘗かつて存しなかった頗すこぶる気のきいたものだと得意がっていたのでした。

 またもう一つ、これに似た遊戯を当時、自分発明していました。それは、対義語アントニムの当てっこでした。黒のアント(対義語アントニムの略)は、白。けれども、白のアントは、赤。赤のアントは、黒。

「花のアントは?」

 と自分が問うと、堀木は口を曲げて考え、

「ええっと、花月という料理屋があったから、月だ」

「いや、それはアントになっていない。むしろ同義語シノニムだ。星と菫すみれだって、シノニムじゃないか。アントでない」

「わかった、それはね、蜂はちだ」

ハチ?」

牡丹ぼたんに、……蟻ありか?」

「なPermalink |記事への反応(1) | 20:36

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anond:20250623203131

 自分は、その時の、頸くびをちぢめて笑ったヒラメの顔の、いかにもずるそうな影を忘れる事が出来ません。軽蔑の影にも似て、それとも違い、世の中を海にたとえると、その海の千尋ちひろの深さの箇所に、そんな奇妙な影がたゆとうていそうで、何か、おとなの生活の奥底をチラと覗のぞかせたような笑いでした。

 そんな事では話にも何もならぬ、ちっとも気持がしっかりしていない、考えなさい、今夜一晩まじめに考えてみなさい、と言われ、自分は追われるように二階に上って、寝ても、別に何の考えも浮びませんでした。そうして、あけがたになり、ヒラメの家から逃げました。

 夕方、間違いなく帰ります。左記の友人の許もとへ、将来の方針に就いて相談に行って来るのですから、御心配無く。ほんとうに。

 と、用箋に鉛筆で大きく書き、それから浅草の堀木正雄の住所姓名を記して、こっそり、ヒラメの家を出ました。

 ヒラメ説教せられたのが、くやしくて逃げたわけではありませんでした。まさしく自分は、ヒラメの言うとおり、気持のしっかりしていない男で、将来の方針も何も自分にはまるで見当がつかず、この上、ヒラメの家のやっかいになっているのは、ヒラメにも気の毒ですし、そのうちに、もし万一、自分にも発奮の気持が起り、志を立てたところで、その更生資金をあの貧乏ヒラメから月々援助せられるのかと思うと、とても心苦しくて、いたたまらない気持になったからでした。

 しかし、自分は、所謂「将来の方針」を、堀木ごときに、相談に行こうなどと本気に思って、ヒラメの家を出たのでは無かったのでした。それは、ただ、わずかでも、つかのまでも、ヒラメ安心させて置きたくて、(その間に自分が、少しでも遠くへ逃げのびていたいという探偵小説的な策略から、そんな置手紙を書いた、というよりは、いや、そんな気持も幽かすかにあったに違いないのですが、それよりも、やはり自分は、いきなりヒラメにショックを与え、彼を混乱当惑させてしまうのが、おそろしかったばかりに、とでも言ったほうが、いくらか正確かも知れません。どうせ、ばれるにきまっているのに、そのとおりに言うのが、おそろしくて、必ず何かしら飾りをつけるのが、自分の哀しい性癖の一つで、それは世間の人が「嘘つき」と呼んで卑しめている性格に似ていながら、しかし、自分自分利益をもたらそうとしてその飾りつけを行った事はほとんど無く、ただ雰囲気ふんいきの興覚めた一変が、窒息するくらいにおそろしくて、後で自分不利益になるという事がわかっていても、れい自分の「必死奉仕」それはたといゆがめられ微弱で、馬鹿らしいものであろうと、その奉仕の気持から、つい一言の飾りつけをしてしまうという場合が多かったような気もするのですが、しかし、この習性もまた、世間所謂「正直者」たちから、大いに乗ぜられるところとなりました)その時、ふっと、記憶の底から浮んで来たままに堀木の住所と姓名を、用箋の端にしたためたまでの事だったのです。

 自分ヒラメの家を出て、新宿まで歩き、懐中の本を売り、そうして、やっぱり途方にくれてしまいました。自分は、皆にあいそがいいかわりに、「友情」というものを、いちども実感した事が無く、堀木のような遊び友達は別として、いっさいの附き合いは、ただ苦痛を覚えるばかりで、その苦痛をもみほぐそうとして懸命にお道化を演じて、かえって、へとへとになり、わずかに知合っているひとの顔を、それに似た顔をさえ、往来などで見掛けても、ぎょっとして、一瞬、めまいするほどの不快な戦慄に襲われる有様で、人に好かれる事は知っていても、人を愛する能力に於おいては欠けているところがあるようでした。(もっとも、自分は、世の中の人間にだって、果して、「愛」の能力があるのかどうか、たいへん疑問に思っています)そのような自分に、所謂親友」など出来る筈は無く、そのうえ自分には、「訪問ヴィジット」の能力さえ無かったのです。他人の家の門は、自分にとって、あの神曲地獄の門以上に薄気味わるく、その門の奥には、おそろしい竜みたいな生臭い奇獣がうごめいている気配を、誇張でなしに、実感せられていたのです。

 誰とも、附き合いが無い。どこへも、訪ねて行けない。

 堀木。

 それこそ、冗談から駒が出た形でした。あの置手紙に、書いたとおりに、自分浅草の堀木をたずねて行く事にしたのです。自分はこれまで、自分のほうから堀木の家をたずねて行った事は、いちども無く、たいてい電報で堀木を自分のほうに呼び寄せていたのですが、いまはその電報料さえ心細く、それに落ちぶれた身のひがみから電報を打っただけでは、堀木は、来てくれぬかも知れぬと考えて、何よりも自分に苦手の「訪問」を決意し、溜息ためいきをついて市電に乗り、自分にとって、この世の中でたった一つの頼みの綱は、あの堀木なのか、と思い知ったら、何か脊筋せすじの寒くなるような凄すさまじい気配に襲われました。

 堀木は、在宅でした。汚い露路の奥の、二階家で、堀木は二階のたった一部屋の六畳を使い、下では、堀木の老父母と、それから若い職人と三人、下駄の鼻緒を縫ったり叩いたりして製造しているのでした。

 堀木は、その日、彼の都会人としての新しい一面を自分に見せてくれました。それは、俗にいうチャッカリ性でした。田舎者自分が、愕然がくぜんと眼をみはったくらいの、冷たく、ずるいエゴイズムでした。自分のように、ただ、とめどなく流れるたちの男では無かったのです。

「お前には、全く呆あきれた。親爺さんから、お許しが出たかね。まだかい

 逃げて来た、とは、言えませんでした。

 自分は、れいに依って、ごまかしました。いまに、すぐ、堀木に気附かれるに違いないのに、ごまかしました。

「それは、どうにかなるさ」

「おい、笑いごとじゃ無いぜ。忠告するけど、馬鹿もこのへんでやめるんだな。おれは、きょうは、用事があるんだがね。この頃、ばかにいそがしいんだ」

用事って、どんな?」

「おい、おい、座蒲団の糸を切らないでくれよ」

 自分は話をしながら、自分の敷いている座蒲団の綴糸とじいとというのか、くくり紐ひもというのか、あの総ふさのような四隅の糸の一つを無意識に指先でもてあそび、ぐいと引っぱったりなどしていたのでした。堀木は、堀木の家の品物なら、座蒲団の糸一本でも惜しいらしく、恥じる色も無く、それこそ、眼に角かどを立てて、自分とがめるのでした。考えてみると、堀木は、これまで自分との附合いに於いて何一つ失ってはいなかったのです。

 堀木の老母が、おしるこを二つお盆に載せて持って来ました。

「あ、これは」

 と堀木は、しんからの孝行息子のように、老母に向って恐縮し、言葉かいも不自然なくらい丁寧に、

すみませんおしるこですか。豪気だなあ。こんな心配は、要らなかったんですよ。用事で、すぐ外出しなけれゃいけないんですから。いいえ、でも、せっかくの御自慢のおしるこを、もったいないいただきます。お前も一つ、どうだい。おふくろが、わざわざ作ってくれたんだ。ああ、こいつあ、うめえや。豪気だなあ」

 と、まんざら芝居でも無いみたいに、ひどく喜び、おいしそうに食べるのです。自分もそれを啜すすりましたが、お湯のにおいがして、そうして、お餅をたべたら、それはお餅でなく、自分にはわからないものでした。決して、その貧しさを軽蔑したのではありません。(自分は、その時それを、不味まずいとは思いませんでしたし、また、老母の心づくしも身にしみました。自分には、貧しさへの恐怖感はあっても、軽蔑感は、無いつもりでいます)あのおしること、それから、そのおしるこを喜ぶ堀木に依って、自分は、都会人のつましい本性、また、内と外をちゃん区別していとなんでいる東京の人の家庭の実体を見せつけられ、内も外も変りなく、ただのべつ幕無しに人間生活から逃げ廻ってばかりいる薄馬鹿自分ひとりだけ完全に取残され、堀木にさえ見捨てられたような気配に、狼狽ろうばいし、おしるこのはげた塗箸ぬりばしをあつかいながら、たまらなく侘わびしい思いをしたという事を、記して置きたいだけなのです。

「わるいけど、おれは、きょうは用事があるんでね」

 堀木は立って、上衣を着ながらそう言い、

「失敬するぜ、わるいけど」

 その時、堀木に女の訪問者があり、自分の身の上も急転しました。

 堀木は、にわかに活気づいて、

「や、すみません。いまね、あなたのほうへお伺いしようと思っていたのですがね、このひとが突然やって来て、いや、かまわないんです。さあ、どうぞ」

 よほど、あわてているらしく、自分自分の敷いている座蒲団をはずして裏がえしにして差し出したのを引ったくって、また裏がえしにして、その女のひとにすすめました。部屋には、堀木の座蒲団の他には、客座蒲団がたった一枚しか無かったのです。

 女のひとは痩やせて、脊の高いひとでした。その座蒲団は傍にのけて、入口ちかくの片隅に坐りました。

 自分は、ぼんやり二人の会話を聞いていました。女は雑誌社のひとのようで、堀木にカットだか、何だかをかねて頼んでいたらしく、それを受取りに来たみたいな具合いでした。

「いそぎますので」

「出来ています。もうとっくに出来ています。これです、どうぞ」

 電報が来ました。

 堀木が、それを読み、上機嫌のその顔がみるみる険悪になり、

「ちぇっ! お前、こりゃ、どうしたんだい」

 ヒラメから電報でした。

「とにかく、すぐに帰ってくれ。おれが、お前を送りとどけるといいんだろうが、おれにはいま、そんなひまは、無えや。家出していながら、その、のんきそうな面つらったら」

「お宅は、どちらなのですか?」

大久保です」

 ふいと答えてしまいました。

「そんなら、社の近くですから

 女は、甲州の生れで二十八歳でした。五つになる女児と、高円寺アパートに住んでいました。夫と死別して、三年になると言っていました。

あなたは、ずいぶん苦労して育って来たみたいなひとね。よく気がきくわ。可哀そうに」

 はじめて、男めかけみたいな生活しました。シヅ子(というのが、その女記者名前でした)が新宿雑誌社に勤めに出たあとは、自分それからシゲ子という五つの女児と二人、おとなしくお留守番という事になりました。それまでは、母の留守には、シゲ子はアパート管理人の部屋で遊んでいたようでしたが、「気のきく」おじさんが遊び相手として現われたので、大いに御機嫌がいい様子でした。

 一週間ほど、ぼんやり自分はそこにいました。アパートの窓のすぐ近くの電線に、奴凧やっこだこが一つひっからまっていて、春のほこり風に吹かれ、破られ、それでもなかなか、しつっこく電線からみついて離れず、何やら首肯うなずいたりなんかしているので、自分はそれを見る度毎に苦笑し、赤面し、夢にさえ見て、うなされました。

お金が、ほしいな」

「……いくら位?」

「たくさん。……金の切れ目が、縁の切れ目、って、本当の事だよ」

「ばからしい。そんな、古くさい、……」

「そう? しかし、君には、わからないんだ。このままでは、僕は、逃げる事になるかも知れない」

「いったい、どっちが貧乏なのよ。そうして、どっちが逃げるのよ。へんねえ」

自分かせいで、そのお金で、お酒、いや、煙草を買いたい。絵だって僕は、堀木なんかより、ずっと上手なつもりなんだ」

 このような時、自分の脳裡におのずから浮びあがって来るものは、あの中学時代に画いた竹一の所謂お化け」の、数枚の自画像でした。失われた傑作。それは、たびたびの引越しの間に、失われてしまっていたのですが、あれだけは、たしかに優れている絵だったような気がするのです。その後、さまざま画いてみても、その思い出の中の逸品には、遠く遠く及ばず、自分はいつも、胸がからっぽになるような、だるい喪失感になやまされ続けて来たのでした。

 飲み残した一杯のアブサン

 自分は、その永遠に償い難いような喪失感を、こっそりそう形容していました。絵の話が出ると、自分の眼前に、その飲み残した一杯のアブサンがちらついて来て、ああ、あの絵をこのひとに見せてやりたい、そうして、自分の画才を信じさせたい、という焦燥しょうそうにもだえるのでした。

「ふふ、どうだか。あなたは、まじめな顔をして冗談を言うから可愛い

 冗談ではないのだ、本当なんだ、ああ、あの絵を見せてやりたい、と空転の煩悶はんもんをして、ふいと気をかえ、あきらめて、

漫画さ。すくなくとも、漫画なら、堀木よりは、うまいつもりだ」

 その、ごまかしの道化言葉のほうが、かえってまじめに信ぜられました。

「そうね。私も、実は感心していたの。シゲ子にいつもかいてやっている漫画、つい私まで噴き出してしまう。やってみたら、どう? 私の社の編輯長へんしゅうちょうに、たのんでみてあげてもいいわ」

 その社では、子供相手のあまり名前を知られていない月刊雑誌を発行していたのでした。

 ……あなたを見ると、たいていの女のひとは、何かしてあげたくて、たまらなくなる。……いつも、おどおどしていて、それでいて、滑稽家なんだもの。……時たま、ひとりで、ひどく沈んでいるけれども、そのさまが、いっそう女のひとの心を、かゆがらせる。

 シヅ子に、そのほかさまざまの事を言われて、おだてられても、それが即すなわち男めかけのけがらわしい特質なのだ、と思えば、それこそいよいよ「沈む」ばかりで、一向に元気が出ず、女よりは金、とにかくシヅ子からのがれて自活したいとひそかに念じ、工夫しているものの、かえってだんだんシヅ子にたよらなければならぬ破目になって、家出の後仕末やら何やら、ほとんど全部、この男まさりの甲州女の世話を受け、いっそう自分は、シヅ子に対し、所謂「おどおど」しなければならぬ結果になったのでした。

 シヅ子の取計らいで、ヒラメ、堀木、それにシヅ子、三人の会談が成立して、自分は、故郷から全く絶縁せられ、そうしてシヅ子と「天下晴れて」同棲どうせいという事になり、これまた、シヅ子の奔走のおかげで自分漫画も案外お金になって、自分はそのお金で、お酒も、煙草も買いましたが、自分の心細さ、うっとうしさは、いよいよつのるばかりなのでした。それこそ「沈み」に「沈み」切って、シヅ子の雑誌の毎月の連載漫画「キンタさんとオタさんの冒険」を画いていると、ふいと故郷の家が思い出され、あまりの侘びしさに、ペンが動かなくなり、うつむいて涙をこぼした事もありました。

 そういう時の自分にとって、幽かな救いは、シゲ子でした。シゲ子は、その頃になって自分の事を、何もこだわらずに「お父ちゃん」と呼んでいました。

「お父ちゃん。お祈りをすると、神様が、何でも下さるって、ほんとう?」

 自分こそ、そのお祈りをしたいと思いました。

 ああ、われに冷き意志を与え給え。われに、「人間」の本質を知らしめ給え。人が人を押しのけても、罪ならずや。われに、怒りのマスクを与え給え。

「うん、そう。シゲちゃんには何でも下さるだろうけれども、お父ちゃんには、駄目かも知れない」

 自分は神にさえ、おびえていました。神の愛は信ぜられず、神の罰だけを信じているのでした。信仰。それは、ただ神の笞むちを受けるために、うなだれ審判の台に向う事のような気がしているのでした。地獄は信ぜられても、天国存在は、どうしても信ぜられなかったのです。

「どうして、ダメなの?」

「親の言いつけに、そむいたから」

「そう? お父ちゃんはとてもいいひとだって、みんな言うけどな」

 それは、だましているからだ、このアパートの人たち皆に、自分好意を示されているのは、自分も知っている、しかし、自分は、どれほど皆を恐怖しているか、恐怖すればするほど好かれ、そうして、こちらは好かれると好かれるほど恐怖し、皆から離れて行かねばならぬ、この不幸な病癖を、シゲ子に説明して聞かせるのは、至難の事でした。

シゲちゃんは、いったい、神様に何をおねだりしたいの?」

 自分は、何気無さそうに話頭を転じました。

シゲ子はね、シゲ子の本当のお父ちゃんがほしいの」

 ぎょっとして、くらくら目まいしました。敵。自分シゲ子の敵なのか、シゲ子が自分の敵なのか、とにかく、ここにも自分をおびやかすおそろしい大人がいたのだ、他人、不可解な他人秘密だらけの他人シゲ子の顔が、にわかにそのように見えて来ました。

 シゲ子だけは、と思っていたのに、やはり、この者も、あの「不意に虻あぶを叩き殺す牛のしっぽ」を持っていたのでした。自分は、それ以来、シゲ子にさえおどおどしなければならなくなりました。

色魔しきま! いるかい?」

 堀木が、また自分のところへたずねて来るようになっていたのです。あの家出の日に、あれほど自分を淋しくさせた男なのに、それでも自分拒否できず、幽かに笑って迎えるのでした。

「お前の漫画は、なかなか人気が出ているそうじゃないかアマチュアには、こわいもの知らずの糞度胸くそどきょうがあるからかなわねえ。しかし、油断するなよ。デッサンが、ちっともなってやしないんだから

 お師匠みたいな態度をさえ示すのです。自分のあの「お化け」の絵を、こいつに見せたら、どんな顔をするだろう、とれいの空転の身悶みもだえをしながら、

「それを言ってくれるな。ぎゃっという悲鳴が出る」

 堀木は、いよいよ得意そうに、

世渡りの才能だけでは、いつかは、ボロが出るからな」

 世渡りの才能。……自分には、ほんとうに苦笑の他はありませんでした。自分に、世渡りの才能! しかし、自分のように人間をおそれ、避け、ごまかしているのは、れいの俗諺ぞくげんの「さわらぬ神にたたりなし」とかい怜悧れい狡猾こうかつの処生訓を遵奉しているのと、同じ形だ、という事になるのでしょうか。ああ、人間は、お互い何も相手をわからない、まるっきり間違って見ていながら、無二の親友のつもりでいて、一生、それに気附かず、相手死ねば、泣いて弔詞なんかを読んでいるのではないでしょうか。

 堀木は、何せ、(それはシヅ子に押してたのまれてしぶしぶ引受けたに違いないのですが)自分家出の後仕末に立ち合ったひとなので、まるでもう、自分の更生の大恩人か、月下氷人のように振舞い、もっともらしい顔をして自分にお説教めいた事を言ったり、また、深夜、酔っぱらって訪問して泊ったり、また、五円(きまって五円でした)借りて行ったりするのでした。

しかし、お前の、女道楽もこのへんでよすんだね。これ以上は、世間が、ゆるさないからな」

 世間とは、いったい、何の事でしょう。人間複数でしょうか。どこに、その世間というもの実体があるのでしょう。けれども、何しろ、強く、きびしく、こわいもの、とばかり思ってこれまで生きて来たのですが、しかし、堀木にそう言われて、ふと、

世間というのは、君じゃないか

 という言葉が、舌の先まで出かかって、堀木を怒らせるのがイヤで、ひっこめました。

(それは世間が、ゆるさない)

世間じゃない。あなたが、ゆるさないのでしょう?)

(そんな事をすると、世間からひどいめに逢うぞ)

世間じゃない。あなたでしょう?)

(いまに世間から葬られる)

世間じゃない。葬むるのは、あなたでしょう?)

 汝なんじは、汝個人のおそろしさ、怪奇悪辣あくらつ、古狸ふるだぬき性、妖婆ようば性を知れ! などと、さまざまの言葉が胸中に去来したのですが、自分は、ただ顔の汗をハンケチで拭いて、

「冷汗ひやあせ、冷汗」

 と言って笑っただけでした。

 けれども、その時以来、自分は、(世間とは個人じゃないか)という、思想めいたものを持つようになったのです。

 そうして、世間というものは、個人ではなかろうかと思いはじめてから自分は、いままでよりは多少、自分意志で動く事が出来るようになりました。シヅ子の言葉を借りて言えば、自分は少しわがままになり、おどおどしなくなりました。また、堀木の言葉を借りて言えば、へんにケチになりました。また、シゲ子の言葉を借りて言えば、あまりシゲ子を可愛がらなくなりました。

 無口で、笑わず毎日々々、シゲ子のおもりをしながら、「キンタさんとオタさんの冒険」やら、またノンキなトウサン歴然たる亜流の「ノンキ和尚おしょう」やら、また、「セッカピンチャン」という自分ながらわけのわからぬヤケクソの題の連載漫画やらを、各社の御注文(ぽつりぽつり、シヅ子の社の他からも注文が来るようになっていましたが、すべてそれは、シヅ子の社よりも、もっと下品な謂わば三流出版社からの注文ばかりでした)に応じ、実に実に陰鬱な気持で、のろのろと、(自分の画の運筆は、非常におそいほうでした)いまはただ、酒代がほしいばかりに画いて、そうして、シヅ子が社から帰るとそれと交代にぷいと外へ出て、高円寺の駅近くの屋台スタンド・バアで安くて強い酒を飲み、少し陽気になってアパートへ帰り、

「見れば見るほど、へんな顔をしているねえ、お前は。ノンキ和尚の顔は、実は、お前の寝顔からヒントを得たのだ」

あなたの寝顔だって、ずいぶんお老けになりましてよ。四十男みたい」

「お前のせいだ。吸い取られたんだ。水の流れと、人の身はあサ。何をくよくよ川端やなあぎいサ」

「騒がないで、早くおやすみなさいよ。それとも、ごはんをあがりますか?」

 落ちついていて、まるで相手しません。

「酒なら飲むがね。水の流れと、人の身はあサ。人の流れと、いや、水の流れえと、水の身はあサ」

 唄いながら、シヅ子に衣服をぬがせられ、シヅ子の胸に自分の額を押しつけて眠ってしまう、それが自分日常でした。

してその翌日あくるひも同じ事を繰返して、

昨日きのうに異かわらぬ慣例しきたりに従えばよい。

即ち荒っぽい大きな歓楽よろこびを避よけてさえいれば、

自然また大きな悲哀かなしみもやって来こないのだ。

ゆくてを塞ふさぐ邪魔な石を

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anond:20250623202901

 しかし、事態は、実に思いがけなく、もっと悪く展開せられました。

「やめた!」

 と堀木は、口をゆがめて言い、

「さすがのおれも、こんな貧乏くさい女には、……」

 閉口し切ったように、腕組みしてツネ子をじろじろ眺め、苦笑するのでした。

お酒を。お金は無い」

 自分は、小声でツネ子に言いました。それこそ、浴びるほど飲んでみたい気持でした。所謂俗物の眼から見ると、ツネ子は酔漢のキスにも価いしない、ただ、みすぼらしい、貧乏くさい女だったのでした。案外とも、意外とも、自分には霹靂へきれきに撃ちくだかれた思いでした。自分は、これまで例の無かったほど、いくらでも、いくらでも、お酒を飲み、ぐらぐら酔って、ツネ子と顔を見合せ、哀かなしく微笑ほほえみ合い、いかにもそう言われてみると、こいつはへんに疲れて貧乏くさいだけの女だな、と思うと同時に、金の無い者どうしの親和(貧富の不和は、陳腐のようでも、やはりドラマ永遠テーマの一つだと自分は今では思っていますが)そいつが、その親和感が、胸に込み上げて来て、ツネ子がいとしく、生れてこの時はじめて、われから積極的に、微弱ながら恋の心の動くのを自覚しました。吐きました。前後不覚になりました。お酒を飲んで、こんなに我を失うほど酔ったのも、その時がはじめてでした。

 眼が覚めたら、枕もとにツネ子が坐っていました。本所大工さんの二階の部屋に寝ていたのでした。

「金の切れめが縁の切れめ、なんておっしゃって、冗談かと思うていたら、本気か。来てくれないのだもの。ややこしい切れめやな。うちが、かせいであげても、だめか」

「だめ」

 それから、女も休んで、夜明けがた、女の口から「死」という言葉がはじめて出て、女も人間としての営みに疲れ切っていたようでしたし、また、自分も、世の中への恐怖、わずらわしさ、金、れい運動、女、学業、考えると、とてもこの上こらえて生きて行けそうもなく、そのひとの提案に気軽に同意しました。

 けれども、その時にはまだ、実感としての「死のう」という覚悟は、出来ていなかったのです。どこかに「遊び」がひそんでいました。

 その日の午前、二人は浅草の六区をさまよっていました。喫茶店はいり、牛乳を飲みました。

あなた、払うて置いて」

 自分は立って、袂たもとからがま口を出し、ひらくと、銅銭が三枚、羞恥しゅうちよりも凄惨せいさんの思いに襲われ、たちまち脳裡のうりに浮ぶものは、仙遊館の自分の部屋、制服蒲団けが残されてあるきりで、あとはもう、質草になりそうなものの一つも無い荒涼たる部屋、他には自分のいま着て歩いている絣の着物と、マント、これが自分現実なのだ、生きて行けない、とはっきり思い知りました。

 自分がまごついているので、女も立って、自分のがま口をのぞいて、

「あら、たったそれだけ?」

 無心の声でしたが、これがまた、じんと骨身にこたえるほどに痛かったのです。はじめて自分が、恋したひとの声だけに、痛かったのです。それだけも、これだけもない、銅銭三枚は、どだいお金でありません。それは、自分が未いまだかつて味わった事の無い奇妙な屈辱でした。とても生きておられない屈辱でした。所詮しょせんその頃の自分は、まだお金持ちの坊ちゃんという種属から脱し切っていなかったのでしょう。その時、自分は、みずからすすんでも死のうと、実感として決意したのです。

 その夜、自分たちは、鎌倉の海に飛び込みました。女は、この帯はお店のお友達から借りている帯やから、と言って、帯をほどき、畳んで岩の上に置き、自分マントを脱ぎ、同じ所に置いて、一緒に入水じゅすいしました。

 女のひとは、死にました。そうして、自分だけ助かりました。

 自分高等学校の生徒ではあり、また父の名にもいくらか、所謂ニュウス・ヴァリュがあったのか、新聞にもかなり大きな問題として取り上げられたようでした。

 自分海辺病院収容せられ、故郷から親戚しんせきの者がひとり駈けつけ、さまざまの始末をしてくれて、そうして、くにの父をはじめ一家中が激怒しているから、これっきり生家とは義絶になるかも知れぬ、と自分に申し渡して帰りました。けれども自分は、そんな事より、死んだツネ子が恋いしく、めそめそ泣いてばかりいました。本当に、いままでのひとの中で、あの貧乏くさいツネ子だけを、すきだったのですから

 下宿の娘から短歌を五十も書きつらねた長い手紙が来ました。「生きくれよ」というへんな言葉ではじまる短歌ばかり、五十でした。また、自分の病室に、看護婦たちが陽気に笑いながら遊びに来て、自分の手をきゅっと握って帰る看護婦もいました。

 自分の左肺に故障のあるのを、その病院発見せられ、これがたいへん自分に好都合な事になり、やがて自分自殺幇助ほうじょ罪という罪名で病院から警察に連れて行かれましたが、警察では、自分病人あつかいにしてくれて、特に保護室収容しました。

 深夜、保護室の隣りの宿直室で、寝ずの番をしていた年寄りのお巡まわりが、間のドアをそっとあけ、

「おい!」

 と自分に声をかけ、

寒いだろう。こっちへ来て、あたれ」

 と言いました。

 自分は、わざとしおしおと宿直室にはいって行き、椅子腰かけ火鉢にあたりました。

「やはり、死んだ女が恋いしいだろう」

はい

 ことさらに、消え入るような細い声で返事しました。

「そこが、やはり人情というものだ」

 彼は次第に、大きく構えて来ました。

「はじめ、女と関係を結んだのは、どこだ」

 ほとんど裁判官の如く、もったいぶって尋ねるのでした。彼は、自分子供とあなどり、秋の夜のつれづれに、あたかも彼自身が取調べの主任でもあるかのように装い、自分から猥談わいだんめいた述懐を引き出そうという魂胆のようでした。自分は素早くそれを察し、噴き出したいのを怺こらえるのに骨を折りました。そんなお巡りの「非公式訊問」には、いっさい答を拒否してもかまわないのだという事は、自分も知っていましたが、しかし、秋の夜ながに興を添えるため、自分は、あくまでも神妙に、そのお巡りこそ取調べの主任であって、刑罰の軽重の決定もそのお巡りの思召おぼしめし一つに在るのだ、という事を固く信じて疑わないような所謂誠意をおもてにあらわし、彼の助平の好奇心を、やや満足させる程度のいい加減な「陳述」をするのでした。

「うん、それでだいたいわかった。何でも正直に答えると、わしらのほうでも、そこは手心を加える」

ありがとうございますよろしくお願いいたします」

 ほとんど入神の演技でした。そうして、自分のためには、何も、一つも、とくにならない力演なのです。

 夜が明けて、自分は署長に呼び出されました。こんどは、本式の取調べなのです。

 ドアをあけて、署長室にはいったとたんに、

「おう、いい男だ。これあ、お前が悪いんじゃない。こんな、いい男に産んだお前のおふくろが悪いんだ」

 色の浅黒い、大学出みたいな感じのまだ若い署長でした。いきなりそう言われて自分は、自分の顔の半面にべったり赤痣あかあざでもあるような、みにくい不具者のような、みじめな気がしました。

 この柔道剣道選手のような署長の取調べは、実にあっさりしていて、あの深夜の老巡査のひそかな、執拗しつようきわまる好色の「取調べ」とは、雲泥の差がありました。訊問がすんで、署長は、検事局に送る書類をしたためながら、

からだを丈夫にしなけれゃ、いかんね。血痰けったんが出ているようじゃないか

 と言いました。

 その朝、へんに咳せきが出て、自分は咳の出るたびに、ハンケチで口を覆っていたのですが、そのハンケチに赤い霰あられが降ったみたいに血がついていたのです。けれども、それは、喉のどから出た血ではなく、昨夜、耳の下に出来た小さいおできをいじって、そのおできから出た血なのでした。しかし、自分は、それを言い明さないほうが、便宜な事もあるような気がふっとしたものですから、ただ、

はい

 と、伏眼になり、殊勝げに答えて置きました。

 署長は書類を書き終えて、

起訴になるかどうか、それは検事殿がきめることだが、お前の身元引受人に、電報電話で、きょう横浜検事局に来てもらうように、たのんだほうがいいな。誰か、あるだろう、お前の保護者とか保証人かいものが」

 父の東京の別荘に出入りしていた書画骨董こっとう商の渋田という、自分たちと同郷人で、父のたいこ持ちみたいな役も勤めていたずんぐりした独身の四十男が、自分学校保証人になっているのを、自分は思い出しました。その男の顔が、殊に眼つきが、ヒラメに似ているというので、父はいつもその男ヒラメと呼び、自分も、そう呼びなれていました。

 自分警察電話帳を借りて、ヒラメの家の電話番号を捜し、見つかったので、ヒラメ電話して、横浜検事局に来てくれるように頼みましたら、ヒラメは人が変ったみたいな威張った口調で、それでも、とにかく引受けてくれました。

「おい、その電話機、すぐ消毒したほうがいいぜ。何せ、血痰が出ているんだから

 自分が、また保護室に引き上げてから、お巡りたちにそう言いつけている署長の大きな声が、保護室に坐っている自分の耳にまで、とどきました。

 お昼すぎ、自分は、細い麻繩で胴を縛られ、それはマントで隠すことを許されましたが、その麻繩の端を若いお巡りが、しっかり握っていて、二人一緒に電車横浜に向いました。

 けれども、自分には少しの不安も無く、あの警察保護室も、老巡査もなつかしく、嗚呼ああ、自分はどうしてこうなのでしょう、罪人として縛られると、かえってほっとして、そうしてゆったり落ちついて、その時の追憶を、いま書くに当っても、本当にのびのびした楽しい気持になるのです。

 しかし、その時期のなつかしい思い出の中にも、たった一つ、冷汗三斗の、生涯わすれられぬ悲惨なしくじりがあったのです。自分は、検事局の薄暗い一室で、検事簡単な取調べを受けました。検事は四十歳前後の物静かな、(もし自分が美貌だったとしても、それは謂いわば邪淫の美貌だったに違いありませんが、その検事の顔は、正しい美貌、とでも言いたいような、聡明静謐せいひつの気配を持っていました)コセコセしない人柄のようでしたので、自分も全く警戒せず、ぼんやり陳述していたのですが、突然、れいの咳が出て来て、自分は袂からハンケチを出し、ふとその血を見て、この咳もまた何かの役に立つかも知れぬとあさましい駈引きの心を起し、ゴホン、ゴホンと二つばかり、おまけの贋にせの咳を大袈裟おおげさに附け加えて、ハンケチで口を覆ったまま検事の顔をちらと見た、間一髪、

「ほんとうかい?」

 ものしずかな微笑でした。冷汗三斗、いいえ、いま思い出しても、きりきり舞いをしたくなります中学時代に、あの馬鹿の竹一から、ワザ、ワザ、と言われて脊中せなかを突かれ、地獄に蹴落けおとされた、その時の思い以上と言っても、決して過言では無い気持です。あれと、これと、二つ、自分の生涯に於ける演技の大失敗の記録です。検事あんな物静かな侮蔑ぶべつに遭うよりは、いっそ自分は十年の刑を言い渡されたほうが、ましだったと思う事さえ、時たまある程なのです。

 自分起訴猶予になりました。けれども一向にうれしくなく、世にもみじめな気持で、検事局の控室のベンチに腰かけ、引取り人のヒラメが来るのを待っていました。

 背後の高い窓から夕焼けの空が見え、鴎かもめが、「女」という字みたいな形で飛んでいました。

[#改頁]

第三の手記

 竹一の予言の、一つは当り、一つは、はずれました。惚ほれられるという、名誉で無い予言のほうは、あたりましたが、きっと偉い絵画きになるという、祝福の予言は、はずれました。

 自分は、わずかに、粗悪な雑誌の、無名の下手な漫画家になる事が出来ただけでした。

 鎌倉事件のために、高等学校から追放せられ、自分は、ヒラメの家の二階の、三畳の部屋で寝起きして、故郷からは月々、極めて小額の金が、それも直接に自分宛ではなく、ヒラメのところにひそかに送られて来ている様子でしたが、(しかも、それは故郷の兄たちが、父にかくして送ってくれているという形式になっていたようでした)それっきり、あとは故郷とのつながりを全然、断ち切られてしまい、そうして、ヒラメはいつも不機嫌、自分あいそ笑いをしても、笑わず人間というものはこんなにも簡単に、それこそ手のひらをかえすが如くに変化できるものかと、あさましく、いや、むしろ滑稽に思われるくらいの、ひどい変り様で、

「出ちゃいけませんよ。とにかく、出ないで下さいよ」

 そればかり自分に言っているのでした。

 ヒラメは、自分自殺のおそれありと、にらんでいるらしく、つまり、女の後を追ってまた海へ飛び込んだりする危険があると見てとっているらしく、自分の外出を固く禁じているのでした。けれども、酒も飲めないし、煙草も吸えないし、ただ、朝から晩まで二階の三畳のこたつにもぐって、古雑誌なんか読んで阿呆同然のくらしをしている自分には、自殺の気力さえ失われていました。

 ヒラメの家は、大久保医専の近くにあり、書画骨董商、青竜園、だなどと看板文字だけは相当に気張っていても、一棟二戸の、その一戸で、店の間口も狭く、店内はホコリだらけで、いい加減なガラクタばかり並べ、(もっとも、ヒラメはその店のガラクタにたよって商売しているわけではなく、こっちの所謂旦那の秘蔵のものを、あっちの所謂旦那にその所有権ゆずる場合などに活躍して、お金をもうけているらしいのです)店に坐っている事は殆ど無く、たいてい朝から、むずかしそうな顔をしてそそくさと出かけ、留守は十七、八の小僧ひとり、これが自分の見張り番というわけで、ひまさえあれば近所の子供たちと外でキャッチボールなどしていても、二階の居候をまるで馬鹿気違いくらいに思っているらしく、大人おとなの説教くさい事まで自分に言い聞かせ、自分は、ひとと言い争いの出来ない質たちなので、疲れたような、また、感心したような顔をしてそれに耳を傾け、服従しているのでした。この小僧は渋田のかくし子で、それでもへんな事情があって、渋田は所謂親子の名乗りをせず、また渋田がずっと独身なのも、何やらその辺に理由があっての事らしく、自分も以前、自分の家の者たちからそれに就いての噂うわさを、ちょっと聞いたような気もするのですが、自分は、どうも他人の身の上には、あまり興味を持てないほうなので、深い事は何も知りません。しかし、その小僧の眼つきにも、妙に魚の眼を聯想れんそうさせるところがありましたから、或いは、本当にヒラメのかくし子、……でも、それならば、二人は実に淋しい親子でした。夜おそく、二階の自分には内緒で、二人でおそばなどを取寄せて無言で食べている事がありました。

 ヒラメの家では食事はいつもその小僧がつくり、二階のやっかい者の食事だけは別にお膳ぜんに載せて小僧が三度々々二階に持ち運んで来てくれて、ヒラメ小僧は、階段の下のじめじめし四畳半で何やら、カチャカチャ皿小鉢の触れ合う音をさせながら、いそがしげに食事しているのでした。

 三月末の或る夕方ヒラメは思わぬもうけ口にでもありついたのか、または何か他に策略でもあったのか、(その二つの推察が、ともに当っていたとしても、おそらくは、さらにまたいくつかの、自分などにはとても推察のとどかないこまかい原因もあったのでしょうが自分を階下の珍らしくお銚子ちょうしなど附いている食卓に招いて、ヒラメならぬマグロ刺身に、ごちそうの主人あるじみずから感服し、賞讃しょうさんし、ぼんやりしている居候にも少しくお酒をすすめ、

「どうするつもりなんです、いったい、これから

 自分はそれに答えず、卓上の皿から畳鰯たたみいわしつまみ上げ、その小魚たちの銀の眼玉を眺めていたら、酔いがほのぼの発して来て、遊び廻っていた頃がなつかしく、堀木でさえなつかしく、つくづく「自由」が欲しくなり、ふっと、かぼそく泣きそうになりました。

 自分がこの家へ来てからは、道化を演ずる張合いさえ無く、ただもうヒラメ小僧蔑視の中に身を横たえ、ヒラメのほうでもまた、自分と打ち解けた長噺をするのを避けている様子でしたし、自分もそのヒラメを追いかけて何かを訴える気などは起らず、ほとんど自分は、間抜けづらの居候になり切っていたのです。

起訴猶予というのは、前科何犯とか、そんなものには、ならない模様です。だから、まあ、あなたの心掛け一つで、更生が出来るわけです。あなたが、もし、改心して、あなたのほうから、真面目に私に相談を持ちかけてくれたら、私も考えてみます

 ヒラメの話方には、いや、世の中の全部の人の話方には、このようにややこしく、どこか朦朧もうろうとして、逃腰とでもいったみたいな微妙な複雑さがあり、そのほとんど無益と思われるくらいの厳重な警戒と、無数といっていいくらいの小うるさい駈引とには、いつも自分は当惑し、どうでもいいやという気分になって、お道化で茶化したり、または無言の首肯で一さいおまかせという、謂わば敗北の態度をとってしまうのでした。

 この時もヒラメが、自分に向って、だいたい次のように簡単に報告すれば、それですむ事だったのを自分は後年に到って知り、ヒラメの不必要な用心、いや、世の中の人たちの不可解な見栄、おていさいに、何とも陰鬱な思いをしました。

 ヒラメは、その時、ただこう言えばよかったのでした。

官立でも私立でも、とにかく四月から、どこかの学校はいりなさい。あなた生活費は、学校はいると、くにからもっと充分に送って来る事になっているのです。」

 ずっと後になってわかったのですが、事実は、そのようになっていたのでした。そうして、自分もその言いつけに従ったでしょう。それなのに、ヒラメのいやに用心深く持って廻った言い方のために、妙にこじれ、自分の生きて行く方向もまるで変ってしまったのです。

「真面目に私に相談を持ちかけてくれる気持が無ければ、仕様がないですが」

「どんな相談?」

 自分には、本当に何も見当がつかなかったのです。

「それは、あなたの胸にある事でしょう?」

「たとえば?」

「たとえばって、あなた自身、これからどうする気なんです」

「働いたほうが、いいんですか?」

「いや、あなたの気持は、いったいどうなんです」

だって学校はいるといったって、……」

「そりゃ、お金が要りますしかし、問題は、お金でない。あなたの気持です」

 お金は、くにから来る事になっているんだから、となぜ一こと、言わなかったのでしょう。その一言に依って、自分の気持も、きまった筈なのに、自分には、ただ五里霧中でした。

「どうですか? 何か、将来の希望、とでもいったものが、あるんですか? いったい、どうも、ひとをひとり世話しているというのは、どれだけむずかしいものだか、世話されているひとには、わかりますまい」

すみません

「そりゃ実に、心配ものです。私も、いったんあなたの世話を引受けた以上、あなたにも、生半可なまはんかな気持でいてもらいたくないのです。立派に更生の道をたどる、という覚悟のほどを見せてもらいたいのです。たとえば、あなたの将来の方針、それに就いてあなたのほうから私に、まじめに相談を持ちかけて来たなら、私もその相談には応ずるつもりでいます。それは、どうせこんな、貧乏ヒラメの援助なのですから、以前のようなぜいたくを望んだら、あてがはずれますしかし、あなたの気持がしっかりしていて、将来の方針をはっきり打ち樹たて、そうして私に相談をしてくれたら、私は、たといわずかずつでも、あなたの更生のために、お手伝いしようとさえ思っているんです。わかりますか? 私の気持が。いったい、あなたは、これから、どうするつもりでいるのです」

「ここの二階に、置いてもらえなかったら、働いて、……」

「本気で、そんな事を言っているのですか? いまのこの世の中に、たとい帝国大学校を出たって、……」

「いいえ、サラリイマンになるんでは無いんです」

「それじゃ、何です」

画家です」

 思い切って、それを言いました。

「へええ?」

 自分は、その時の、頸くびをちぢめて笑ったヒラメの顔の、いかにもずるそうな影を忘れる事が出来ません。軽蔑の影にも似て、それとも違い、世の中を海にたとえると、その海の千尋ちひろの深さの箇所に、そんな奇妙な影がたゆとうていそうで、何か、おとなの生活の奥底をチラと覗のぞかせたような笑いでした。

 そんな事では話にも何もならぬ、ちっとも気持がしっかりしていない、考えなさい、今夜一晩まじめに考えてみなさい、と言われ、自分は追われるように二階に上って、寝ても、別に何の考えも浮びませんでした。そうして、あけがたになり、ヒラメの家から逃げました。

 夕方、間違いなく帰ります。左記の友人の許もとへ、将来の方針に就いて相談に行って来るのですから、御心配無く。ほんとうに。

 と、用箋に鉛筆で大きく書き、Permalink |記事への反応(1) | 20:31

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anond:20250623202707

 また、犯人意識、という言葉もあります自分は、この人間の世の中に於いて、一生その意識に苦しめられながらも、しかし、それは自分の糟糠そうこうの妻の如き好伴侶はんりょで、そいつと二人きりで侘わびしく遊びたわむれているというのも、自分の生きている姿勢の一つだったかも知れないし、また、俗に、脛すねに傷持つ身、という言葉もあるようですが、その傷は、自分赤ん坊の時から自然に片方の脛にあらわれて、長ずるに及んで治癒するどころか、いよいよ深くなるばかりで、骨にまで達し、夜々の痛苦は千変万化の地獄とは言いながら、しかし、(これは、たいへん奇妙な言い方ですけど)その傷は、次第に自分の血肉よりも親しくなり、その傷の痛みは、すなわち傷の生きている感情、または愛情の囁ささやきのようにさえ思われる、そんな男にとって、れいの地下運動グルウプの雰囲気が、へんに安心で、居心地がよく、つまり、その運動本来目的よりも、その運動の肌が、自分に合った感じなのでした。堀木の場合は、ただもう阿呆のひやかしで、いちど自分を紹介しにその会合へ行ったきりで、マルキシストは、生産面の研究と同時に、消費面の視察も必要だなどと下手な洒落しゃれを言って、その会合には寄りつかず、とかく自分を、その消費面の視察のほうにばかり誘いたがるのでした。思えば、当時は、さまざまの型のマルキシストがいたものです。堀木のように、虚栄のモダニティから、それを自称する者もあり、また自分のように、ただ非合法匂いが気にいって、そこに坐り込んでいる者もあり、もしもこれらの実体が、マルキシズムの真の信奉者に見破られたら、堀木も自分も、烈火の如く怒られ、卑劣なる裏切者として、たちどころに追い払われた事でしょう。しかし、自分も、また、堀木でさえも、なかなか除名の処分に遭わず殊に自分は、その非合法世界於いては、合法紳士たちの世界に於けるよりも、かえってのびのびと、所謂健康」に振舞う事が出来ましたので、見込みのある「同志」として、噴き出したくなるほど過度に秘密めかした、さまざまの用事をたのまれるほどになったのです。また、事実自分は、そんな用事をいちども断ったことは無く、平気でなんでも引受け、へんにぎくしゃくして、犬(同志は、ポリスをそう呼んでいました)にあやしまれ不審訊問じんもんなどを受けてしくじるような事も無かったし、笑いながら、また、ひとを笑わせながら、そのあぶない(その運動の連中は、一大事の如く緊張し、探偵小説の下手な真似みたいな事までして、極度の警戒を用い、そうして自分にたのむ仕事は、まことに、あっけにとられるくらい、つまらないものでしたが、それでも、彼等は、その用事を、さかんに、あぶながって力んでいるのでした)と、彼等の称する仕事を、とにかく正確にやってのけていました。自分のその当時の気持としては、党員になって捕えられ、たとい終身、刑務所で暮すようになったとしても、平気だったのです。世の中の人間の「実生活」というものを恐怖しながら、毎夜の不眠の地獄で呻うめいているよりは、いっそ牢屋ろうやのほうが、楽かも知れないとさえ考えていました。

 父は、桜木町の別荘では、来客やら外出やら、同じ家にいても、三日も四日も自分と顔を合せる事が無いほどでしたが、しかし、どうにも、父がけむったく、おそろしく、この家を出て、どこか下宿でも、と考えながらもそれを言い出せずにいた矢先に、父がその家を売払うつもりらしいという事を別荘番の老爺ろうやから聞きました。

 父の議員任期もそろそろ満期に近づき、いろいろ理由のあった事に違いありませんが、もうこれきり選挙に出る意志も無い様子で、それに、故郷に一棟、隠居所など建てたりして、東京に未練も無いらしく、たかが、高等学校の一生徒に過ぎない自分のために、邸宅召使い提供して置くのも、むだな事だとでも考えたのか、(父の心もまた、世間の人たちの気持ちと同様に、自分にはよくわかりません)とにかく、その家は、間も無く人手にわたり自分は、本郷森川町の仙遊館という古い下宿の、薄暗い部屋に引越して、そうして、たちまち金に困りました。

 それまで、父から月々、きまった額の小遣いを手渡され、それはもう、二、三日で無くなっても、しかし、煙草も、酒も、チイズも、くだものも、いつでも家にあったし、本や文房具やその他、服装に関するものなど一切、いつでも、近所の店から所謂「ツケ」で求められたし、堀木におそば天丼などをごちそうしても、父のひいきの町内の店だったら、自分は黙ってその店を出てもかまわなかったのでした。

 それが急に、下宿のひとり住いになり、何もかも、月々の定額の送金で間に合わせなければならなくなって、自分は、まごつきました。送金は、やはり、二、三日で消えてしまい、自分は慄然りつぜんとし、心細さのために狂うようになり、父、兄、姉などへ交互にお金を頼む電報と、イサイフミの手紙(その手紙於いて訴えている事情は、ことごとく、お道化虚構でした。人にものを頼むのに、まず、その人を笑わせるのが上策と考えていたのです)を連発する一方、また、堀木に教えられ、せっせと質屋がよいをはじめ、それでも、いつもお金不自由をしていました。

 所詮自分には、何の縁故も無い下宿に、ひとりで「生活」して行く能力が無かったのです。自分は、下宿のその部屋に、ひとりでじっとしているのが、おそろしく、いまにも誰かに襲われ、一撃せられるような気がして来て、街に飛び出しては、れい運動の手伝いをしたり、或いは堀木と一緒に安い酒を飲み廻ったりして、ほとんど学業も、また画の勉強放棄し、高等学校入学して、二年目の十一月、自分より年上の有夫の婦人と情死事件などを起し、自分の身の上は、一変しました。

 学校は欠席するし、学科勉強も、すこしもしなかったのに、それでも、妙に試験の答案に要領のいいところがあるようで、どうやらそれまでは、故郷の肉親をあざむき通して来たのですが、しかし、もうそろそろ、出席日数の不足など、学校のほうから内密故郷の父へ報告が行っているらしく、父の代理として長兄が、いかめし文章の長い手紙を、自分に寄こすようになっていたのでした。けれども、それよりも、自分の直接の苦痛は、金の無い事と、それかられい運動用事が、とても遊び半分の気持では出来ないくらい、はげしく、いそがしくなって来た事でした。中央地区と言ったか、何地区と言ったか、とにかく本郷小石川下谷神田、あの辺の学校全部の、マルクス学生の行動隊々長というものに、自分はなっていたのでした。武装蜂起ほうき、と聞き、小さいナイフを買い(いま思えば、それは鉛筆をけずるにも足りない、きゃしゃなナイフでした)それを、レンコオトのポケットにいれ、あちこち飛び廻って、所謂いわゆる「聯絡れんらく」をつけるのでした。お酒を飲んで、ぐっすり眠りたい、しかし、お金がありません。しかも、P(党の事を、そういう隠語で呼んでいたと記憶していますが、或いは、違っているかも知れません)のほうからは、次々と息をつくひまも無いくらい、用事の依頼がまいります自分の病弱のからだでは、とても勤まりそうも無くなりました。もともと、非合法の興味だけから、そのグルウプの手伝いをしていたのですし、こんなに、それこそ冗談から駒が出たように、いやにいそがしくなって来ると、自分は、ひそかにPのひとたちに、それはお門かどちがいでしょう、あなたたちの直系のものたちにやらせたらどうですか、というようないまいましい感を抱くのを禁ずる事が出来ず、逃げました。逃げて、さすがに、いい気持はせず、死ぬ事にしました。

 その頃、自分特別好意を寄せている女が、三人いました。ひとりは、自分下宿している仙遊館の娘でした。この娘は、自分れい運動の手伝いでへとへとになって帰り、ごはんも食べずに寝てしまってから、必ず用箋ようせんと万年筆を持って自分の部屋にやって来て、

「ごめんなさい。下では、妹や弟がうるさくて、ゆっくり手紙も書けないのです」

 と言って、何やら自分の机に向って一時間以上も書いているのです。

 自分もまた、知らん振りをして寝ておればいいのに、いかにもその娘が何か自分に言ってもらいたげの様子なので、れい受け身奉仕精神を発揮して、実に一言も口をききたくない気持なのだけれども、くたくたに疲れ切っているからだに、ウムと気合いをかけて腹這はらばいになり、煙草を吸い、

「女から来たラヴ・レターで、風呂をわかしてはいった男があるそうですよ」

「あら、いやだ。あなたでしょう?」

ミルクをわかして飲んだ事はあるんです」

光栄だわ、飲んでよ」

 早くこのひと、帰らねえかなあ、手紙だなんて、見えすいているのに。へへののもへじでも書いているのに違いないんです。

「見せてよ」

 と死んでも見たくない思いでそう言えば、あら、いやよ、あら、いやよ、と言って、そのうれしがる事、ひどくみっともなく、興が覚めるばかりなのです。そこで自分は、用事でも言いつけてやれ、と思うんです。

「すまないけどね、電車通りの薬屋に行って、カルモチンを買って来てくれない? あんまり疲れすぎて、顔がほてって、かえって眠れないんだ。すまないねお金は、……」

「いいわよ、お金なんか」

 よろこんで立ちます。用を言いつけるというのは、決して女をしょげさせる事ではなく、かえって女は、男に用事をたのまれると喜ぶものだという事も、自分ちゃんと知っているのでした。

 もうひとりは、女子高等師範の文科生の所謂「同志」でした。このひととは、れい運動用事で、いやでも毎日、顔を合せなければならなかったのです。打ち合せがすんでからも、その女は、いつまでも自分について歩いて、そうして、やたらに自分に、ものを買ってくれるのでした。

「私を本当の姉だと思っていてくれていいわ」

 そのキザに身震いしながら、自分は、

「そのつもりでいるんです」

 と、愁うれえを含んだ微笑の表情を作って答えます。とにかく、怒らせては、こわい、何とかして、ごまさなければならぬ、という思い一つのために、自分はいよいよその醜い、いやな女に奉仕をして、そうして、ものを買ってもらっては、(その買い物は、実に趣味の悪い品ばかりで、自分はたいてい、すぐにそれを、焼きとり屋の親爺おやじなどにやってしまいました)うれしそうな顔をして、冗談を言っては笑わせ、或る夏の夜、どうしても離れないので、街の暗いところで、そのひとに帰ってもらいたいばかりに、キスをしてやりましたら、あさましく狂乱の如く興奮し、自動車を呼んで、そのひとたちの運動のために秘密に借りてあるらしいビル事務所みたいな狭い洋室に連れて行き、朝まで大騒ぎという事になり、とんでもない姉だ、と自分はひそかに苦笑しました。

 下宿屋の娘と言い、またこの「同志」と言い、どうしたって毎日、顔を合せなければならぬ具合になっていますので、これまでの、さまざまの女のひとのように、うまく避けられず、つい、ずるずるに、れい不安の心から、この二人のご機嫌をただ懸命に取り結び、もはや自分は、金縛り同様の形になっていました。

 同じ頃また自分は、銀座の或る大カフエの女給から、思いがけぬ恩を受け、たったいちど逢っただけなのに、それでも、その恩にこだわり、やはり身動き出来ないほどの、心配やら、空そらおそろしさを感じていたのでした。その頃になると、自分も、敢えて堀木の案内に頼らずとも、ひとりで電車にも乗れるし、また、歌舞伎座にも行けるし、または、絣かすりの着物を着て、カフエにだってはいれるくらいの、多少の図々しさを装えるようになっていたのです。心では、相変らず、人間の自信と暴力とを怪しみ、恐れ、悩みながら、うわべだけは、少しずつ、他人と真顔の挨拶、いや、ちがう、自分はやはり敗北のお道化の苦しい笑いを伴わずには、挨拶できないたちなのですが、とにかく、無我夢中のへどもどの挨拶でも、どうやら出来るくらいの「伎倆ぎりょう」を、れい運動で走り廻ったおかげ? または、女の? または、酒? けれども、おもに金銭不自由のおかげで修得しかけていたのです。どこにいても、おそろしく、かえって大カフエでたくさんの酔客または女給、ボーイたちにもまれ、まぎれ込む事が出来たら、自分のこの絶えず追われているような心も落ちつくのではなかろうか、と十円持って、銀座のその大カフエに、ひとりではいって、笑いながら相手の女給に、

「十円しか無いんだからね、そのつもりで」

 と言いました。

心配要りません」

 どこかに関西の訛なまりがありました。そうして、その一言が、奇妙に自分の、震えおののいている心をしずめてくれました。いいえ、お金心配が要らなくなったからではありません、そのひとの傍にいる事に心配が要らないような気がしたのです。

 自分は、お酒を飲みました。そのひとに安心しているので、かえってお道化など演じる気持も起らず、自分の地金じがねの無口で陰惨なところを隠さず見せて、黙ってお酒を飲みました。

「こんなの、おすきか?」

 女は、さまざまの料理自分の前に並べました。自分は首を振りました。

お酒だけか? うちも飲もう」

 秋の、寒い夜でした。自分は、ツネ子(といったと覚えていますが、記憶が薄れ、たしかではありません。情死の相手名前をさえ忘れているような自分なのです)に言いつけられたとおりに、銀座裏の、或る屋台のお鮨すしやで、少しもおいしくない鮨を食べながら、(そのひとの名前は忘れても、その時の鮨のまずさだけは、どうした事か、はっきり記憶に残っています。そうして、青大将の顔に似た顔つきの、丸坊主おやじが、首を振り振り、いかにも上手みたいにごまかしながら鮨を握っている様も、眼前に見るように鮮明に思い出され、後年、電車などで、はて見た顔だ、といろいろ考え、なんだ、あの時の鮨やの親爺に似ているんだ、と気が附き苦笑した事も再三あったほどでした。あのひとの名前も、また、顔かたちさえ記憶から遠ざかっている現在なお、あの鮨やの親爺の顔だけは絵にかけるほど正確に覚えているとは、よっぽどあの時の鮨がまずく、自分に寒さと苦痛を与えたものと思われます。もともと、自分は、うまい鮨を食わせる店というところに、ひとに連れられて行って食っても、うまいと思った事は、いちどもありませんでした。大き過ぎるのです。親指くらいの大きさにキチッと握れないものかしら、といつも考えていました)そのひとを、待っていました。

 本所大工さんの二階を、そのひとが借りていました。自分は、その二階で、日頃の自分陰鬱な心を少しもかくさず、ひどい歯痛に襲われてでもいるように、片手で頬をおさえながら、お茶を飲みました。そうして、自分のそんな姿態が、かえって、そのひとには、気にいったようでした。そのひとも、身のまわりに冷たい木枯しが吹いて、落葉だけが舞い狂い、完全に孤立している感じの女でした。

 一緒にやすみながらそのひとは、自分より二つ年上であること、故郷広島、あたしには主人があるのよ、広島床屋さんをしていたの、昨年の春、一緒に東京家出して逃げて来たのだけれども、主人は、東京で、まともな仕事をせずそのうちに詐欺罪に問われ、刑務所にいるのよ、あたしは毎日、何やらかやら差し入れしに、刑務所へかよっていたのだけれども、あすから、やめます、などと物語るのでしたが、自分は、どういうものか、女の身の上噺ばなしというものには、少しも興味を持てないたちで、それは女の語り方の下手なせいか、つまり、話の重点の置き方を間違っているせいなのか、とにかく、自分には、つねに、馬耳東風なのでありました。

 侘びしい。

 自分には、女の千万言の身の上噺よりも、その一言の呟つぶやきのほうに、共感をそそられるに違いないと期待していても、この世の中の女から、ついにいちども自分は、その言葉を聞いた事がないのを、奇怪とも不思議とも感じております。けれども、そのひとは、言葉で「侘びしい」とは言いませんでしたが、無言のひどい侘びしさを、からだの外郭に、一寸くらいの幅の気流みたいに持っていて、そのひとに寄り添うと、こちらのからだもその気流に包まれ自分の持っている多少トゲトゲした陰鬱の気流と程よく溶け合い、「水底の岩に落ち附く枯葉」のように、わが身は、恐怖から不安からも、離れる事が出来るのでした。

 あの白痴淫売婦たちのふところの中で、安心してぐっすり眠る思いとは、また、全く異って、(だいいち、あのプロステチュウトたちは、陽気でした)その詐欺罪犯人の妻と過した一夜は、自分にとって、幸福な(こんな大それた言葉を、なんの躊躇ちゅうちょも無く、肯定して使用する事は、自分のこの全手記に於いて、再び無いつもりです)解放せられた夜でした。

 しかし、ただ一夜でした。朝、眼が覚めて、はね起き、自分はもとの軽薄な、装えるお道化者になっていました。弱虫は、幸福をさえおそれるものです。綿で怪我をするんです。幸福に傷つけられる事もあるんです。傷つけられないうちに、早く、このまま、わかれたいとあせり、れいのお道化煙幕を張りめぐらすのでした。

「金の切れめが縁の切れめ、ってのはね、あれはね、解釈が逆なんだ。金が無くなると女にふられるって意味、じゃあ無いんだ。男に金が無くなると、男は、ただおのずから意気銷沈しょうちんして、ダメになり、笑う声にも力が無く、そうして、妙にひがんだりなんかしてね、ついには破れかぶれになり、男のほうから女を振る、半狂乱になって振って振って振り抜くという意味なんだね、金沢大辞林という本に依ればね、可哀そうに。僕にも、その気持わかるがね」

 たしか、そんなふうの馬鹿げた事を言って、ツネ子を噴き出させたような記憶があります長居無用、おそれありと、顔も洗わずに素早く引上げたのですが、その時の自分の、「金の切れめが縁の切れめ」という出鱈目でたらめの放言が、のちに到って、意外のひっかかりを生じたのです。

 それからひとつき、自分は、その夜の恩人とは逢いませんでした。別れて、日が経つにつれて、よろこびは薄れ、かりそめの恩を受けた事がかえってそらおそろしく、自分勝手にひどい束縛を感じて来て、あのカフエのお勘定を、あの時、全部ツネ子の負担にさせてしまったという俗事さえ、次第に気になりはじめて、ツネ子もやはり、下宿の娘や、あの女子高等師範と同じく、自分脅迫するだけの女のように思われ、遠く離れていながらも、絶えずツネ子におびえていて、その上に自分は、一緒に休んだ事のある女に、また逢うと、その時にいきなり何か烈火の如く怒られそうな気がしてたまらず、逢うのに頗すこぶるおっくうがる性質でしたので、いよいよ、銀座敬遠の形でしたが、しかし、そのおっくうがるという性質は、決して自分狡猾こうかつさではなく、女性というものは、休んでからの事と、朝、起きてからの事との間に、一つの、塵ちりほどの、つながりをも持たせず、完全の忘却の如く、見事に二つの世界を切断させて生きているという不思議現象を、まだよく呑みこんでいなかったからなのでした。

 十一月の末、自分は、堀木と神田屋台で安酒を飲み、この悪友は、その屋台を出てからも、さらにどこかで飲もうと主張し、もう自分たちにはお金が無いのに、それでも、飲もう、飲もうよ、とねばるのです。その時、自分は、酔って大胆になっているからでもありましたが、

「よし、そんなら、夢の国に連れて行く。おどろくな、酒池肉林という、……」

「カフエか?」

「そう」

「行こう!」

 というような事になって二人、市電に乗り、堀木は、はしゃいで、

「おれは、今夜は、女に飢え渇いているんだ。女給にキスしてもいいか

 自分は、堀木がそんな酔態を演じる事を、あまり好んでいないのでした。堀木も、それを知っているので、自分にそんな念を押すのでした。

「いいかキスするぜ。おれの傍に坐った女給に、きっとキスして見せる。いいか

「かまわんだろう」

「ありがたい! おれは女に飢え渇いているんだ」

 銀座四丁目で降りて、その所謂酒池肉林の大カフエに、ツネ子をたのみの綱としてほとんど無一文ではいり、あいているボックスに堀木と向い合って腰をおろしたとたんに、ツネ子ともう一人の女給が走り寄って来て、そのもう一人の女給が自分の傍に、そうしてツネ子は、堀木の傍に、ドサン腰かけたので、自分は、ハッとしました。ツネ子は、いまにキスされる。

 惜しいという気持ではありませんでした。自分には、もともと所有慾というものは薄く、また、たまに幽かに惜しむ気持はあっても、その所有権を敢然と主張し、人と争うほどの気力が無いのでした。のちに、自分は、自分内縁の妻が犯されるのを、黙って見ていた事さえあったほどなのです。

 自分は、人間のいざこざに出来るだけ触りたくないのでした。その渦に巻き込まれるのが、おそろしいのでした。ツネ子と自分とは、一夜だけの間柄です。ツネ子は、自分のものではありません。惜しい、など思い上った慾は、自分に持てる筈はありません。けれども、自分は、ハッとしました。

 自分の眼の前で、堀木の猛烈なキスを受ける、そのツネ子の身の上を、ふびんに思ったからでした。堀木によごされたツネ子は、自分とわかれなければならなくなるだろう、しか自分にも、ツネ子を引き留める程のポジティヴな熱は無い、ああ、もう、これでおしまいなのだ、とツネ子の不幸に一瞬ハッとしたものの、すぐに自分は水のように素直にあきらめ、堀木とツネ子の顔を見較べ、にやにやと笑いました。

 しかし、事態は、実に思いがけなく、Permalink |記事への反応(1) | 20:29

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