
はてなキーワード:認知意味論とは
本稿は、任天堂のキャラクター「デデデ大王」の名前において繰り返される三音節「デデデ」が持つ意味論的・認知的意義について、George Lakoffの認知意味論をもとに検討するものである。特に、音象徴・プロトタイプ効果・繰り返しによるカテゴリー化の効果を取り上げ、「名前の意味は何を喚起するのか」を考察する。結果として、「デデデ」は単なるナンセンスな響きではなく、繰り返しの中にキャラクター性を示す象徴的機能を持つことが示唆される。
本稿は増田が2025年6月15日および16日の両日を利用して独自に執筆したものであり、その著作権は筆者本人に帰属する。
「デデデの大王」は、ゲーム『星のカービィ』シリーズに登場するキャラクターであり、名前の構造は極めて特徴的である。「デ・デ・デ」という音の繰り返しは日本語話者にとって非語彙的であるにもかかわらず、一定のキャラクター性を直感的に伝える。このような名前がいかにして意味を形成しているのかを明らかにするために、本稿ではレイコフの認知意味論を枠組みとしつつ、「繰り返し音」の認知的・意味的機能を分析する。
レイコフの認知意味論は、言語の意味を辞書的定義によらず、人間の認知構造や経験的スキーマと結びつけて捉えるアプローチである。代表的な理論に、以下がある:
•プロトタイプ理論:カテゴリーの中心的な例(プロトタイプ)を基に意味を構成する。
•フレーム意味論:語の意味は、それが位置づけられる知識の枠組(フレーム)によって決定される。
•概念メタファー理論:抽象的な意味も、身体的・経験的な領域からの比喩により理解される。
言語音には、感情や物理的特性を喚起する象徴的効果(例:「ポチャ」「ズドン」)がある。また繰り返しは、幼児語や感嘆詞などでしばしば使われ、親しみや滑稽さを喚起する。
破裂音[d]と母音[e]の組み合わせは、日本語において強さや鈍さを想起させる音素であり、「デブ」「ドスン」「ドテ」など重量感を示す語彙と共通する。このため、「デデデ」は聴覚的に「重さ」「鈍さ」「滑稽さ」を自然に連想させる。
三回の反復は、言語認知において特異な効果をもたらす。二回では反復と認識されにくいが、三回以上で「パターン」として認知され、プロトタイプ的な「ふざけた名」「コミカルな人格」の中心像を形成する。たとえば、「ドドド」や「バババ」などと同様、「デデデ」は“過剰性”を表し、そのキャラクターの非日常性や権威の滑稽さ(王でありながら間抜け)を示す。
「デデデの大王」という構文は、「大王」という威厳ある語と、「デデデ」という非語彙的な三重音との間に強いコントラストを作る。フレーム意味論的に見ると、王族・支配者フレームに対して、「デデデ」という名はそれを滑稽化・解体する音韻的装置となっている。
「滑稽さ=繰り返し」「強さ=重い音」という音象徴的比喩により、デデデ大王というキャラクターは「力強くて偉そうだが、どこか憎めない存在」という複合的なメタファーを体現していると考えられる。これは、レイコフが言う「メタファーは我々の思考そのものを形作る」という命題に対応する。
「デデデ」という名称は、非語彙的なナンセンス音でありながら、音象徴・繰り返し・フレーム破壊・メタファー効果など複数の認知的機構を通して、キャラクターの核を象徴する強い意味を生成している。これはレイコフが提唱した、語の意味が辞書的定義によらず、体験的スキーマや認知的プロトタイプによって形成されることの好例といえる。
「デデデの大王」の三文字は、単なる語感の選定ではなく、認知的にはキャラクターの“意味”を作り出す中核装置となっている。言語の意味は「意味内容」だけでなく「響きそのもの」や「反復の形式」によっても形作られる。これはレイコフが主張する「意味は身体化されている(Embodied)」という概念とも合致する。今後は他のキャラクター名との比較を通じ、繰り返し音の文化的・意味論的傾向をより広く探ることが求められる。
参考文献
• Lakoff,George. (1987). Women,Fire, and Dangerous Things: WhatCategories Reveal about the Mind. University ofChicago Press.
• Johnson,Mark & Lakoff,George. (1980). Metaphors WeLiveBy. University ofChicago Press.