
先日友人と会った。お互い20代だったころは3ヶ月に1回会うくらいの頻度だったけれど、ここ数年は年に1回会うか会わないかくらいに落ち着いている。
9月に出産予定のため、それまでに一度会いたいなと思って約束をした。約2年ぶり。前回は彼女の地元まで行ったので、今回は身重なこともありこちらの地元の都内で会うことになった。
駅で待ち合わせカフェに向かう。久々に会った彼女は何も変わっていなかった。ノーメイク、セミロングの黒髪、ベージュのコットンパンツ、ゆるめのパーカー。動物の柄が書かれたサブバッグ、スニーカー。
学生時代も、大人になって少しお洒落な店で会えるようになってからもいつも彼女はノーメイクだった。もう少しお洒落をしたら垢ぬけるのにと思いながらも、彼女のことが好きだったからそのまま何も言わずにいた。というのも、以前社会人になってから私がリップを買いにデパコスに立ち寄ったとき、「高いね。こんなのにお金出せないよ。無駄じゃない」と言っていたし、メイクに興味はないというスタンスだったからだ。それ以来ふたりで会う時は雑貨屋やカフェ以外あまり立ち寄らないようにしている。
ファッションとコスメ以外に私たちにはたくさん話題があったし、外見なんてどうでもよいと思っていた。少なくとも先日会った日までは。
カフェで話しながら少しずつ違和感、ずれのようなものを感じ始めた。話す話題は変わらない。お互いの仕事の話、最近観たドラマの話、など。彼女は何も変わっていないのだ。学生時代のサークルや授業の話が仕事に取ってかわっただけで基本的な共通の話題は変わらない。
私たちの生活レベルは同じくらいで、仕事をバリバリしている人よりは低く、平均よりは高いお給料をもらっていて、安定している。会社の住宅補助を使えば、ひとり暮らしをしても遊びに使うお金と月3万の貯金ができる。それくらいだ。適度に自炊と外食を織り交ぜて、ボーナスで年に一回旅行に行ったり、何か自分へ記念になるものを買えるくらい。それくらいのお給料で結婚しておらず、実家暮らしならお金は大いに余裕がある。実家に生活費を納めている話も聞いたことがないから、スキンケアやコスメ、服飾にお金を使えないはずはない。これまでは気にならなかったのに、どうも彼女の身なりがちぐはぐに見えてしかたない。
肌は当然20代のころとは違うし、眉は少しは整えてはいるもののぼさぼさ。リップを塗っていないから血色があまりよくない。
2年の間に会ってきた同年代の友達の顔を思い浮かべる。こうではなかった。思い返せばここ数年よく会う子は自分と同じように家庭を持っている子ばかりだった。子育てが忙しい子も仕事にまい進している子もいて、みんなそれぞれ忙しけれど、会う時は身ぎれいにしていた。
目の前に私たちが重ねてきた年月があった。明るいカフェの光に耐えられるすっぴん時代は終わりを告げていたのだ。きっと、もうとうに。
別に好きな恰好をすれば良いし、すっぴんが好きならすっぴんでも良い。メイク至上主義でもないし、私だって人に何か言えるほどお洒落ではない。でも何となくこの場所では浮いている。身だしなみってこういうことか。初めて私はそう思った。
自分がとんでもなく嫌な奴に思えて、話題に集中しようと最近はまっているドラマの話とかを振ってみる。
「〇〇が好きなんだ~」と私が言うと、「それ見てない」「ややこしいの好きだね笑」と言われる。ふたりが共通して観ているものは話が広がったけれど、私が単独で観ているものに関しては冷たい反応だった。それでもいつもの感じが少し戻ってきたように思った。日本の某アイドルグループにはまっている話も昔からイケメンの好きな彼女らしい。
会話の仕方が子どもっぽいとか、相手のことを褒めたら褒めかえすとか、そういう部分で物足りなさを感じるようになってしまった。仕事の話をすれば「頑張っているね!」と褒め、バッグの柄がかわいかったので褒めた。彼女からリプライは無く、引き続き自分の話をするか私から話題が出てくるのを待っている。学生時代から嘘がつけない子だった。お世辞を言わない子だったから、それが楽だった。なのに今はゲスト体質、という言葉が脳裏に浮かんでしまっている。
こんな詰まんないやつになってしまってごめんよと思いながら相槌を打つ。打ちながら年相応、いやスキンケアをしていないからか年相応より少しくすんだ肌を見る。よーく見ると少しだけチークが塗ってあるように見えた。
「今日、少しメイクしているんだね。キラキラしていて良いね。そのチークどこの?」と聞いてみる。
「これ?プチプラのだよ。普段はすっぴん。会社では学生に見えるねって言われるんだ」とにこにこしながら言う彼女に罪はない。
私に会うからいつもよりお洒落してきてくれたのだ。それを意地悪く小姑みたいに責める方が悪い。
気が付けばなんだかんだと話し込み窓の外は夕暮れになっていた。駅直結のタワーマンションがオレンジ色に光っている。
「あそこは高いよ」と私が言う。
あの物件は、利便性の高さからファミリータイプなら億はくだらない。それでも現実的な話が出たのがうれしくて、何となく彼女が身近にいる気がして、質問を重ねた。
「今物件見たりしているの?」
「ううん、実家を出るつもりはないよ。家事しなくて良いから楽だし。ずっといるつもり」」
にこにこと彼女は話す。「住みたいなあ。駅近くて良いなあ」とひとりごとみたいに呟きながら。生まれたら赤ちゃんに会わせてよ、と無邪気に話す彼女の横顔が夕焼けに光って、白髪が数本透けてみえた。
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