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< anond:20251009022631 |ミソキネシア発狂 >

2025-10-09

俺はね、ネトウヨだけどね、パヨクとチューしました

俺は、自他ともに認めるネトウヨだ。

インターネット掲示板SNSが主戦場スマホを握りしめ、「あいつらは間違ってる」「この国を守らなきゃ」と、日々、キーボードを叩いている。使う言葉は、少々荒っぽいかもしれない。論調は、極端だと批判されることもある。だが、俺にしてみれば、これは愛国心であり、歴史認識に対する譲れない信念だ。街宣車のような派手さはないが、俺たちの戦いは、確かにこの国の論壇の片隅で続いている。

そんな俺の日常に、ある日、爆弾が落ちてきた。それがサキだ。

サキとは、ある社会問題テーマにした小さなデモに参加した際に出会った。俺は「反対意見」を述べるために、彼女は「賛成意見」を主張するために、それぞれ別の陣営にいた。デモと言っても、大層なものではない。しかし、彼女プラカードに書かれたスローガンを見た瞬間、俺の頭に血が上った。「反日だ!」「売国奴が!」、反射的にそう叫んでいた。

すると、デコ出しのショートカット、丸メガネ彼女サキが、こちらへまっすぐ歩いてきた。

「あのさ、ネトウヨさん?」

俺の胸倉を掴むか、罵声を浴びせるかと思ったが、彼女は意外なことを言った。

「その売国奴って言葉定義曖昧すぎない? 具体的にどの条文、どの歴史的事実が、私たち売国行為に駆り立てていると、あなたは考えているの?」

その冷静さ、そして言葉の選び方に、俺は面食らった。議論を吹っ掛けてくる相手は多いが、こんな風に対話を求めてくる人間は初めてだった。まるで、こちらが感情的になるのを、静かに待っていたかのようだ。

その日、デモが終わった後、俺たちはなぜかファミレスにいた。

彼女自己紹介を聞いて、俺は思わずコーヒーを吹きそうになった。サキは、学生運動崩れの父を持つ、筋金入りのパヨクだという。環境問題マイノリティ権利憲法九条彼女の関心は、俺が日頃、ネットで叩き潰そうとしている「敵」そのものだった。

あんたの言ってることは、理想論すぎるんだよ」「現実を見ろ、この国は」「歴史を美化しすぎだ」

あなたの言う愛国心は、排他的ナショナリズムの裏返しじゃない?」「理想を追わなきゃ、社会なんて変わらないでしょ」「過去の過ちを直視しなきゃ、未来はない」

ファミレスドリンクバーで、俺たちは数時間にわたって激論を交わした。俺たちの主張は、まるで北極南極絶対に交わることはない。それでも、不思議不快ではなかった。ネット匿名空間と違い、目の前にいる人間は、逃げも隠れもしない。自分言葉責任を持っている。

その夜以来、俺たちは定期的に会うようになった。最初議論のためだ。お互いの陣営の主張を「論破」するのが目的だった。しかし、回数を重ねるうちに、議論の焦点は少しずつズレていった。

ある日、俺が「安倍政治功罪」について熱弁していると、サキは突然、「ねえ、そのパーカー、どこで買ったの?デザイン可愛いね」と言った。

また別の日、彼女が「格差社会是正」について統計データを見せながら語っていると、俺は「その丸メガネ、似合ってるな。変えた?」と口走っていた。

俺たちが話すのは、政治思想だけじゃなくなった。好きな漫画、行きたいライブ最近観た猫動画思想ベールを剥いだその下には、ただの「人間」がいた。俺と同じように、悩み、笑い、美味しいものを食べたいと思っている、ごく普通女の子が。

そして、俺は気付いた。俺たちが激しく憎み合っていたのは、「パヨク」という概念であり、「ネトウヨ」というレッテルだったのだ。目の前のサキという人間ではない。

彼女といると、ネットで「敵」を叩いている時の高揚感とは違う、じんわりとした温かい感情が湧いてくる。俺の信念は揺るがない。彼女理想も変わらないだろう。だが、信念とは別に感情は動く。

事件が起こったのは、雨の日だった。

いつものように、俺たちは大学キャンパス近くのカフェにいた。俺は、歴史認識問題について、つい熱くなって大声を出してしまった。

「だから!あの戦争は!」

ちょっと、静かにしてよ!周りの迷惑でしょ!」

サキは怒って、立ち上がった。俺もムッとして、席を立った。

「わかったよ、もういい!あんたとは話にならない!」

「こっちのセリフよ!あんたの頭の固さはコンクリートわ!

俺はカフェを飛び出した。雨が強くなっていた。数メートル歩いたところで、背後からサキが走って追いかけてくるのが見えた。

ちょっと!傘も持たずにどこ行くのよ!」

サキは、自分の持っていた大きなビニール傘を、俺の頭上にさしかけた。顔が、異常に近かった。お互い、呼吸が荒い。雨の匂いコーヒーの残り香、そして、彼女シャンプー匂い

次の瞬間、俺は理性を失った。

「…あんたが、可愛いのが悪いんだろ」

そんな馬鹿げたセリフを吐いていた。

サキは、丸メガネの奥の目を丸くした。そして、一瞬だけ、フッと笑った。それは、議論に勝った時の勝ち誇った笑いではなく、ただの、困ったような、でも嬉しそうな笑顔だった。

「…知ってる。だからあんたもいつもムキになるんでしょ」

俺は、もう何も考えられなかった。ネトウヨだとか、パヨクだとか、愛国心だとか、左翼思想だとか、そんなものは、土砂降りの雨の音でかき消されていた。ただ、目の前に、惹かれている人間がいる。

俺は、サキの顎に手を添えた。

サキは目を閉じた。

そして俺は、パヨクとチューしました。

ビニール傘の下、雨音だけが響いていた。塩辛いような、甘いような、不思議な味だった。唇が離れた後、サキメガネの曇りを拭きながら、ぼそっと言った。

「…これで、私たちの間の非核三原則崩壊ね」

俺は、柄にもなく笑った。

「ああ。これからは、思想のぶつかり合いじゃなくて、唇のぶつかり合いで行こうぜ」

ネトウヨの俺と、パヨクサキ。俺たちの物語は、このチューを機に、また新しいフェーズへと進むのだろう。それは、「主義主張を超えた、ただの恋愛」なのか、それとも、「究極の異文化交流」なのか。

一つだけ確かなのは、俺は今、世界で一番、論破しがいのある相手と恋に落ちたということだ。

Permalink |記事への反応(1) | 03:01

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