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< ■ |anond:20251002180408 >

2025-10-02

田舎町の学校では、ほとんどの生徒が、何か当然のことのように男女で付き合っていた。

放課後教室や帰り道、並んで歩くカップル、窓辺で顔を寄せ合って話す姿——そんな光景がいつの間にか、日常に溶け込んでいた。

誰かが告白して、ふたりで下校する後ろ姿。休み時間には、机をくっつけたカップルたちがささやき合っている。教室の隅々まで、「これがふつう」という空気が染み込んでいた。

その空気に、私自身も自然に引きずられていった。

「まだ誰とも付き合っていないの?」と友達に聞かれるたび、「そろそろ誰かと付き合う時期なのかもしれない」と、ぼんやり思い始めていた。

そんな時、仲の良かった男の子から告白された。

断る理由特に見当たらなかった。

別に特別な想いがあったわけじゃない。強烈に惹かれたわけでもない。

ただ、みんなが当たり前に付き合っているから、私もそろそろ、という曖昧な気分だけが背中を押した。

そこから時間は、流れ作業のようだった。

お互いよく知らないまま、交際が始まった。

付き合いだしても特に変化はなく、みんなと同じように、カップル体裁で彼の隣に座り、放課後は一緒に帰る。その日々は調和的で、無風のまま過ぎ去る。

田舎町に漂っていた「そろそろ次のステップ」という空気も、肌にまとわりつく友達同士で「もうした?」という言葉冗談まじりに交わされるたび、無意識のうちに「じゃあ、次は自分も」と刷り込まれていった。

ある日、放課後に誘われて彼の家へ行った。静かな部屋。鳥の声が、遠くで小さく響いていた。

ふたり向き合ってベッドに座り、言葉が途切れたあと、ぎこちなく手を伸ばされた。最初キス。お互いのシャツを外し合って、服が肩から落ちていき、ただ「まだなの?」という視線や、「みんなもしてるよ」という空気に流されるまま、ベッドへ滑り落ちていった。

行為のものは、淡々と進んだ。終わったあと、窓から差し込む夕焼けが壁を赤く染めるなかで、ふたりは無言で並んで座っていた。

そのとき自分気持ちはうまく掴めなかった。ただ、漠然とした寂しさだけがかに胸の底に残っているのを感じていた。

あのときの私は、「みんなと同じでいたい」という気持ちだけで大事な一線を越えた。

あのとき自分の本当の気持ちは、今でもよくわからない。

都会の大学に進学してから田舎町で「流されて始まり、流されて終わった」交際をふと思い出すようになった。新しい暮らし、友人たちと話した様々な話題恋愛初体験話題自然に出る。でも、みんなは「自分気持ち大事」とはっきり言う。

「あのとき自分はどうしたかったのか」と心の奥で問うが、明確な答えはない。ただ、流されるままにした過去への、言葉しづらい寂しさが残っている。

本当に自分で選んだのか、相手のことをちゃんと知りたかったのかも、分からない。ただ、合わせるように、安心を探すように、あの時の交際初体験も流れに任せていたのだろう。

今なら、もう少し自分大事にしたいと思える。「自分で選ぶこと」の意味を、都会でたくさんの人と触れ合いながら覚えはじめている。

あの少し曖昧夕焼け記憶も、大切な一部なのだと思えている。

Permalink |記事への反応(0) | 19:55

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