ある谷間に、小さき村があった。
その村は長らく静けさを友とし、祭りの日を
心の支えとしてきた。
やがて遠き都の使者が来たりて言う。
「ここを、新たなる人々の学び舎とせよ。
彼らは海を越えて来たり、この地を母のように
慕うだろう」
村人たちは初め、頷いた。
「我らの炉を分け合い、歌を聞かせよう。
そうすれば互いに豊かになるに違いない」
しかし時が経つにつれ、囁きは重さを
帯びていった。
なぜ決めるのは遠き都で、我らの声は
届かぬのか」
訪れた者らもまた胸を曇らせた。
「なぜ我らは歓迎されぬのか。
なのか」
こうして村は裂け目を抱え、
炉の火はともに囲むより、互いを隔てる
灯となった。
夜の帳の中、老人はぽつりとつぶやいた。
「家は貸し借りできても、郷は貸し借りできぬ。
都が忘れているのは、そのただ一つの理だ」