年の瀬の街は浮き足立っていた。
会社の忘年会は、盛り上がらなければならない空気に包まれている。
お酒を注ぎ、上司の顔色を窺い、無理に笑顔をつくる。
「楽しんでいます」という演技をやめたら、
すぐに場からはじかれてしまいそうな息苦しさ。
そんな場では、若い女の子と話すことばかり考えていた。
それが一番、気を使わずに済む逃げ場だった。
でも、心の底からはちっとも楽しくなかった。
一次会で、俺は「これで帰ります」とそっと抜け出した。
冷たい夜風にあたりながら、とぼとぼ歩き始める。
手のひらも耳もかじかむほどの寒さだったが、
その冷え込みさえ、さっきまでの空気よりずっと心地よかった。
2時間ほど歩いた先に「ラーメン」の赤い看板が見えた。
迷わず暖簾をくぐり、ネギ味噌ラーメンとチャーハンを頼んだ。
湯気が立ちのぼる丼を前に、箸を動かした瞬間、
熱々の味噌の香りが体を内側から溶かしていく。
ああ、これだ。俺が求めていたのは。
その瞬間、涙が溢れてきた。
忘年会の笑い声よりも、この一杯のラーメンの方が、
ずっと俺を満たしてくれた。
食べ終わると、また寒い夜道を1時間歩き、ネカフェで眠った。
安いソファと蛍光灯の明かりの下だったが、
心は不思議と穏やかで、静かな幸福感があった。
あの夜のラーメンは、ただの食事ではなかった。
それは俺にとって、
「誰にも合わせず、自分を取り戻す時間」の味だった。
Permalink |記事への反応(1) | 20:41
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年末にもう一回書き込め 斎藤工がどうとかは言わんから