Movatterモバイル変換


[0]ホーム

URL:


はてラボはてな匿名ダイアリー
ようこそ ゲスト さんログインユーザー登録
< 50代の自分が小さい頃... |anond:20250829101645 >

2025-08-29

忘年会ラーメン

年の瀬の街は浮き足立っていた。

会社忘年会は、盛り上がらなければならない空気に包まれている。

お酒を注ぎ、上司の顔色を窺い、無理に笑顔をつくる。

「楽しんでいます」という演技をやめたら、

すぐに場からはじかれてしまいそうな息苦しさ。

そんな場では、若い女の子と話すことばかり考えていた。

それが一番、気を使わずに済む逃げ場だった。

でも、心の底からはちっとも楽しくなかった。

一次会で、俺は「これで帰ります」とそっと抜け出した。

冷たい夜風にあたりながら、とぼとぼ歩き始める。

手のひらも耳もかじかむほどの寒さだったが、

その冷え込みさえ、さっきまでの空気よりずっと心地よかった。

2時間ほど歩いた先に「ラーメン」の赤い看板が見えた。

わず暖簾をくぐり、ネギ味噌ラーメンチャーハンを頼んだ。

湯気が立ちのぼる丼を前に、箸を動かした瞬間、

熱々の味噌香りが体を内側から溶かしていく。

ああ、これだ。俺が求めていたのは。

その瞬間、涙が溢れてきた。

忘年会の笑い声よりも、この一杯のラーメンの方が、

ずっと俺を満たしてくれた。

食べ終わると、また寒い夜道を1時間歩き、ネカフェで眠った。

安いソファ蛍光灯の明かりの下だったが、

心は不思議と穏やかで、静かな幸福感があった。

あの夜のラーメンは、ただの食事ではなかった。

それは俺にとって、

「誰にも合わせず、自分を取り戻す時間」の味だった。

Permalink |記事への反応(1) | 20:41

このエントリーをはてなブックマークに追加ツイートシェア

記事への反応 -

記事への反応(ブックマークコメント)

全てのコメントを見る

人気エントリ

注目エントリ

ログインユーザー登録
ようこそ ゲスト さん
Copyright (C) 2001-2025 hatena. All Rights Reserved.

[8]ページ先頭

©2009-2025 Movatter.jp