この研究では、私たちの体の中にある「STING(スティング)」というタンパク質が、遺伝子の安定性を保つ上で非常に重要な新しい役割を担っていることが明らかになりました [1-3]。
STINGは、もともと**ウイルスなどの異物のDNAを感知し、免疫反応を引き起こす役割**があることで知られています [1, 4]。特に、インターフェロン(IFN)という物質の産生を促し、炎症反応に関わります [1, 5]。しかし、STINGにはインターフェロン産生とは関係ない、別の機能もたくさんあることが最近分かってきています [1, 6]。
私たちのゲノム(全遺伝情報)の中には、「LINE-1(ラインワン)」という**「動く遺伝子(レトロトランスポゾン)」**が存在します [1, 7]。これはヒトのゲノムの約17%を占めており、そのうち80〜100個が活発に動き回る能力を持っています [8]。LINE-1がゲノム内でランダムに場所を移動(転移)すると、遺伝子が破壊されたり、DNAに損傷を与えたり、染色体が不安定になったりして、**がんや自己免疫疾患などの様々な病気の原因となる**ことがあります [1, 7, 9,10]。特にLINE-1のORF1pというタンパク質が高いレベルで発現していることは、多くのがん(乳がん、卵巣がん、膵臓がんなど)の特徴でもあります [10]。
###STINGの新しい役割:LINE-1の動きを止める仕組み
この研究の最も重要な発見は、STINGがこの厄介なLINE-1の動きを抑える新たなメカニズムを持っているということです [1-3]。
そのメカニズムは以下の通りです。
さらに驚くべきは、このSTINGによるLINE-1抑制の仕組みが、**一般的なSTINGの機能(cGASというセンサーやインターフェロンの産生)とは独立して機能している**という点です [1, 2,17-19]。
具体的には:
STINGがORF1pを分解するには、いくつかの重要な条件があります [24]。
### まとめと今後の展望
この研究は、STINGが私たちのゲノムの安定性を維持するために、**LINE-1という動く遺伝子をリソソームで分解するという、これまでの知られていなかった重要な役割**を果たしていることを示しています [1,31]。この機能は、STINGのより一般的な免疫応答とは異なる、**太古から生命に保存されてきた防御機構**である可能性が高いと考えられます [19, 27]。
STINGがLINE-1を抑制することで、DNA損傷や染色体不安定性を防ぎ、**がんや自己免疫疾患の発生を抑える**のに役立っている可能性があります [10, 32,33]。これは、これらの病気の治療法を開発する上で新たなターゲットとなるかもしれません。